【写真】エモーショナル・オレンジズ
リリースされたばかりの待望のデビューアルバム『Orenjii』はより洗練された、オルタナティブR&B、ソウル、ファンクなどをミックスしたサウンドが詰まっている。これまでもヴィンス・ステイプルズ、ビッグ・ピッグ、チャンネル・トレス、キアナ・レデ、ベッキー・G、ティーケイ・マイザといったさまざまな国のアーティストとコラボし、新たな扉を開いてきたエモーショナル・オレンジズだが、今作も再びコラボしたベッキー・Gをはじめ、NCTのジェヒョン、ジェシー・レイエズ、アイザイア・フォールズ、Anysiaが参加し、鮮やかさを加えている。GREENROOM FESTIVAL出演のために来日した二人に聞いた。
―一昨日のGREENROOM FESTIVALでのライブはどうでしたか?
アザド・ナフィシー:これまで自分たちが出たフェスの中でも最高にクールなフェスでした。ステージからの眺めが素晴らしかった。海沿いなのでたくさんの人が乗っている船が見えました。小さな子供を連れた3世代の家族が音楽と食事を楽しんでいる姿が目に入って、すごく良いフェスだと思いました。
―おふたりのとてもフレンドリーでナチュラルなパフォーマンスにどんどんオーディエンスが引き込まれていましたよね。
アザド:僕たちもそう感じました。たくさん人はいたけれど、とても親密な雰囲気に包まれたライブでしたね。
―ヴァリさんは「岐阜農林」と書かれた日本の高校のユニフォームを着てましたが、なぜあの服を選んだんでしょう?
ヴァリ・ポーター:農業が好きだから(笑)。
アザド:(笑)。
ヴァリ:LAのヴィンテージショップで見つけてとてもクールだなと思ってネットで調べたら岐阜の農業高校の野球チームのユニフォームでした。さらに魅力的に感じたのでチョイスしました。
―他の出演者のライブは見ましたか?
アザド:ライブ前は取材があって、ライブ後は「Only A Friend」のMV撮影があったので見られなかったんですよね。
―MVはどこで撮影したんですか?
アザド:渋谷のスクランブル交差点や宮下公園、新宿のゴールデン街、あと渋谷にあるCÉ LA VI TOKYOというクラブやピザ屋、リムジンでも撮影しました。とても楽しかったです。今回のMVのコンセプトは僕たちふたりがデートをして、とても楽しい夜を過ごしているところをずっとパパラッチが追いかけてくるんだけど、結局二人はただの友達だったっていうストーリーです。今まさに編集している最中ですね。
―そもそもお二人が影響を受けたアーティストというと?
ヴァリ:お互い2組ずつ挙げてみますね。
アザド:僕はゴリラズとダフト・パンク。
ヴァリ:フランク・オーシャンは二人とも大好きなアーティストです。曲でいうと特に「Pyramids」が好き。美学が貫かれている世界観、歌詞、歌、たくさんの影響を受けてます。シャーデーは女性の魂を具現化しているアーティストだと思います。感情の起伏を表現した歌が素晴らしいですよね。私も歌う時は感情の起伏を表現することを意識しています。
アザド:ダフト・パンクはとても未来的なグループでした。カニエ・ウェスト(現Ye)とのコラボが印象的だけど、ずっと前からサウンドやアートワーク、すべてにおいてパイオニアだと思ってます。ゴリラズはとてもオーセンティックなグループだと思う。ロックをはじめ、さまざまなジャンルを掛け合わせて、ゴリラズだけの音楽性を生み出しているところが素晴らしい。
―リリースされたばかりのデビューアルバム『Orenjii』のインスピレーションになったアーティストはいますか?
アザド:特定のアーティストはいません。『Orenjii』にはこれまで自分たちが辿ってきたすべての旅や環境、どんなつながりを築き上げてきたか、そういうことがすべて詰まっています。EPシリーズをリリースしてツアーを周り、さまざまな世界を見る中で次に自分たちがやりたいことが見えてきました。愛や迷い、そこからまた何かを見出していくような旅でした。東京やソウルで制作をした曲も入っていて、そこでの美しい経験が新たなインスピレーションにもなりました。
―東京とソウルでも制作したのはどうしてだったんでしょう?
アザド:ふたりとも日本のアニメやファッションが好きで、欧米のファッションに影響を与えたNIGO®もリスペクトしています。日本の文化に魅せられて育ってきたんですよね。日本は服のデザインも建築も食べ物も素晴らしいです。あと、アートに対して情熱も時間も注ぎ、自らの人生をコミットしていく文化に共感します。
ヴァリ:ソウルはどこよりも私たちを歓迎してくれた都市なんです。最初にソウルでライブをした時、オーディエンスのオープンな愛に驚きました。みんなが歌詞を覚えて歌ってくれたんです。2回目のソウルでのライブは1回目を超えるクレイジーな歓迎ムードでした。ソウルは私たちの活動に強いインスピレーションを与えてくれる場所です。もちろんこれまで訪れたさまざまな場所から受けた影響や文化が混ざり合った作品になっていると思います。
アザド:日本はエモーショナル・オレンジを結成した時から「大好きな国だから早くライブをしに行きたい」と思っていた国でした。一方韓国は自然とつながりができ、関係性が築かれていった国です。韓国でのライブは8000枚くらいチケットが売れますし、皆さんの愛に応えたいという気持ちによってどんどん距離が近くなっていった。2つの国に対して特別な引力を感じています。
『Orenjii』が描く音の宇宙──R&Bの枠組みを解き放つ旅
―『Orenjii』には「通常なら一緒に存在しない、あるいは補完的とみなされない世界を融合させ、新しい感覚を生み出したかった」という想いがあったそうですね。
アザド:ひとつの宇宙みたいなアルバムだと思ってます。
ヴァリ:世界を旅する中でいろいろなものを見てきたことで生まれた楽曲が聞いてくれた人の一部になってもらったらいいなっていう思いのもと、アルバム全体の世界観を作っていきました。曲だけでなくアートワークも含めてですね。失恋や別れ、新たな愛を見つけること、すべての経験が詰まったエモーショナル・オレンジズがスタートしてからの6年間が凝縮されたアルバムです。
―サウンドメイクの面ではどんなところにこだわりましたか?
アザド:自分たちがこれまで足を踏み入れたことのない実験的なサウンドを作ることに挑戦しました。これまでの自分たちに背中を押されたところがあったんです。「Call It Off(feat. JAEHYUN)」も新たな挑戦をしたサウンドですし、グルーヴィーな曲は作ったことはありますが、「Out The Blue」のようにここまでシンプルでダウンテンポな曲は初めて作りました。
ヴァリ:前に出したEPの『The Juicebox』は全曲フィーチャリングゲストがいた作品でしたが、ちょっとやり過ぎたかなと思って、今回はその曲がどんな曲か、誰とコラボレーションするとその曲にどんな良い影響をもたらしてくれるかっていうことをじっくり考えた上でコラボレーションを進めていった、という点がこれまでと異なります。
―アルバムからの1stシングル「CANDY GUM (feat.Jessie Reyez/Becky G)」は2000年代前半のヒップホップのテイストが色濃いファンキーな楽曲ですが、どういう風に生まれていったんでしょう?
アザド:まず、ベースとドラムとリフのアイディアから始まって、ジェシー・レイズとコラボレーションすることが決まった段階でまた新しいアイデアが浮かんでいきました。2000年代に3人の女性が赤裸々にリアルを歌うような曲が多くあったと思うんですが、そういうことをやったらいいんじゃないかと思った。そこで『The Juicebox』で共演したベッキー・Gのことが浮かんで声をかけました。
―NCTのジェヒョンをフィーチャリングした「Call It Off feat. JAEHYUN」はジェヒョンの「Flamin'Hot Lemon」の制作がきっかけでコラボすることになったそうですが、どうしてコラボしようと思ったんでしょう?
アザド:ジェヒョンにはシンパシーを感じています。
ヴァリ:彼の声はバターみたいで溶けるように滑らかで魅力的ですよね。
―失恋や別れが描かれながらも、基本的にはポジティブな愛が描かれているアルバムになっていますよね。
ヴァリ:何かを意識してそういうアルバムができたというよりは、今の自分たちが反映された結果、自然とそういうアルバムになりました。失恋や悲しみがありながらも、今自分たちのいる場所は幸せなんだと思います。アーティストとしても人生においても何が大切かっていうことがだんだんつかめてきてバランスが取れるようになってきたからこそ、ポジティブなアルバムが生まれたのだと思います。

Photo by KIMMOONDOG for Rolling Stone Korea
個から調和へ 二人が見つけた”エゴを超える音楽”
―自分たちの想いや考えを音楽に昇華することは大切なことだと思うんですが、その面で以前より成長できたと思うことはありますか?
アザド:自分たちのストーリーを音楽で伝えることはもちろん大事ですが、リスナーが曲に自分のことを見出すことができるのかも重要です。そのためにリスナーが曲に入り込める余白を作るようにしています。リスナーの経験と重なるような曲が名曲のひとつの定義だと思っています。普遍的なストーリーを体現したような曲が作れるようになりたいですね。
ヴァリ:私はボーカル面で成長したと思います。昔はレコーディングブースに入っても自分の歌に対して迷いがあったり、しっくりこなくて時間がかかってしまっていたんですが、今作ではブースに入った瞬間にどう歌うべきかが完璧にわかって、10分で録れてしまうこともありました。自分の歌が何をもたらすかということも含めて自分の歌を理解できるようになったんですよね。アザドの歌も、「That Girl」を歌った瞬間にスタジオのみんなが「WAO!」という反応をして聞きほれてしまったり、とても自信に満ちていて素晴らしい歌になっています。ふたりとも自分たちの歌がどういう強みがあるのか理解できたことで自信がつきましたね。
―多くのアーティストはそういう境地に辿り着くために練習をすると思うんですが、何をすれば向上できると思っていますか?
ヴァリ:まずは勉強や練習をして歌や曲作りについて理解して、次のステップはそれを全部忘れるんです。基礎が身に付いたら自分らしくあることが重要なんですよね。自分のアートに正直であるために、他のものは振り払わなきゃいけない。とても大変なことですが、やるべきだと思っています。もうひとつ大事なことは、アザドと一緒にエモーショナル・オレンジズを始めてから学んだことなんですが、曲を作る上では自分のエゴを出すことより調和することが大切です。
アザド:チームワークが大事だよね。スポーツのチームだってチームワークが大事だからね。一人で点を取っているわけじゃなく、チームとして何が求められてるか、何が作り出せるかっていうことを大切にしないとね。
ヴァリ:そう。チームワークだね。
―今の目標や夢はありますか?
アザド:「Rolling Stone」の表紙です。
ヴァリ:YEAH! あと日本でアリーナツアーをやりたい。
アザド:ブルーノ・マーズは東京ドーム7デイズをやってたけど1日だけでもやりたいですね。6年間活動してきて、こうやって「Rolling Stone Japan」に取材してもらったり、昨夏に「Rolling Stone Korea」の表紙をやらせてもらったり、少しずつ目標が叶えられていってるので、その歩みを続けていくことが目標ですね。
―日本で広く知られるようになるのは日本のアーティストとコラボすると効果がありそうですが、興味があるアーティストはいますか?
アザド:実は今その準備をしてるんです(笑)。まだ名前は出せないので楽しみにしていてください。

Photo by KIMMOONDOG for Rolling Stone Korea

『Orenjii』
エモーショナル・オレンジズ
Avant Garden
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