卓越したミュージシャンシップとお茶目なショーマンシップ、オフビートなユーモア、音楽オタクの心をくすぐるマニアックな小ネタ、シリコンバレーもびっくりのアントレプレナーシップとDIY精神、そして、キュートな人柄とチャーミングな音楽で世界を虜にした稀代のファンク・バンド、ヴルフペックが遂に日本にやってくる。それもフジロックのヘッドライナーだ。
手作り感満載のYouTube動画で音楽ファンを賑わせたかと思えば、あれよあれよとマディソン・スクエア・ガーデンを満員にする人気者となった彼らである。私個人としても、かねてから大ファンだったうえに、昨年の9月、LA滞在中にたまたま最新アルバム『Clarity of Cal』のライブ・レコーディングに立ち会えたこともあり、思い入れは半端ではない。そんな彼らをフジロックで観られる日が来るだなんて。
今回お話ししてくれたのは、バンドのエース・プレイヤーで当代きってのベース・ヒーロー、ジョー・ダート。そして、今年6月に自身のバンドでも来日を控えているコリー・ウォン。フジロックやヴルフペックの活動についてたっぷりと語ってもらった。

左からジョー・ダート、コリー・ウォン(Photo by Maryn Haertel)
フジロック出演の真意
―待望の初来日、とても嬉しく思っています。前々から来日公演のオファーはあったと聞きました。海外公演はハードルが高いのでしょうか?
コリー:しかるべきタイミングが来るのを待ってたんだ。メンバーの多くは他のプロジェクトもあるしね。
ジョー:僕はヴルフペックの初期の頃から日本でプレイしたいと思ってた。というのも、日本の音楽ファンはサイド・プロジェクトも含め、どんなことも聴き逃すまいと聴いてくれるので有名だからね。活動初期に日本のファンからメッセージを貰うようになったし、日本盤CDを出したりもした。初ライブがフェスというのもよかったと思ってる。大勢の観客がいるというのと、いろんなアーティストが出演しているから、面白いコラボレーションにつながる可能性もある。日本での初ライブにはピッタリだ。
―初来日にしてフジロックという日本で一番大きなフェスのヘッドライナーです。
ジョー:僕はフジロックの評判をずっと聞いてきた。ウッドストックとかボナルーと並ぶレジェンド級のフェスの一つとね。だから死ぬまでに一度は出たいと思っていた。幸い僕はこれまでもアメリカやヨーロッパで大きなフェスに出演する機会があった。だからフェスという舞台にも慣れている。今年は他にもマディソン・スクエア・ガーデンやレッドロックス野外劇場に出演する予定で、自分達にとって大きな舞台でのライブをやる年なんだと思う。
コリー:今年は(ヴルフペックとして)3本しかライブをやらない。何をやって、何をやらないかは慎重に選択している。たしかに前から日本公演のオファーは貰っていた。日本に限らずオファーはもらう。タイミングが合うもの、将来的にやりたいもの、いろいろ。それに、メンバー各自がいろんなフェスを経験してるから、内偵もできる。
僕も数年前にコリー・ウォンとしてフジロックに出演した。その時に、「これは実にいいフェスだ。山の中の美しい自然に囲まれた会場もいい。特別な空間だ」と思ったのを覚えている。大きなフェスというのは、ともすると大きな敷地にステージを何箇所か組んで終わり、ということが多い。でもフジロックはもっと内容にこだわりを感じるし、会場もそう。自分のステージから森の中を歩いて、食べ物テントのあるエリアに辿りついた。なんてクールな配置なんだと思ったよ。あとは、何かテーマに沿った感じのステージがあったり、河原で遊ぶ人たちもいたりした。大きなフェスなんだけど、小さなフェスにも感じられる。
2019年のマディソン・スクエア・ガーデン公演(フル映像)
2024年のフランス公演(フル映像)
―ステージ上ではみなさん仲が良さそうですが、他のバンドに比べると一緒にいる時間自体は多くないそうですね。それがグッドバイブスの秘訣だったりしますか?
ジョー:そうだと思う。リーダーのジャックは、皆がフレッシュな気持ちを持ち続けることにこだわっている。だからスタジオでも曲のリハをする回数や、テイクの数を抑えたりする。最終的にレコードに収録される曲というのは、30分とか1時間程度しか合わせてなくて、せいぜい3テイクしか録ってない。ライブも同じで、メンバーが住んでるところがバラバラで、違うプロジェクトで忙しいから、毎回ライブは僕たちにとって再会の場になる。頻繁にバンドとして演奏するわけじゃないけど、一緒になった時は、ステージが喜びで溢れてて、その場で生まれる自発性がある。お客さんにもそれは伝わってるんじゃないかな。
コリー:あと言えるのは、同じバンドのメンバーである以前に、みんな友だち同士なんだってこと。お互いのことを心から気にかけている。
リーダーのジャック・ストラットンはVulfmon名義でソロ活動も行なっている
『Clarity Of Cal』制作秘話
―最新作『Clarity of Cal』のライブとレコーディングを一緒に行なってアルバムを制作するという発想はヴルフペックらしいと思いました。このアイディアはどこから生まれたのでしょうか?
コリー:実は、フィアレス・フライヤーズ(コリー、ジョー、ネイト・スミス、スナーキー・パピーのマーク・レッティエリによる4人組バンド)の『The Fearless Flyers IV』(2024年)でこのアイディアは実証済みだったんだ。元々はニューヨークのBlue Noteでフライヤーズとして数本ライブをやって、それからスタジオに入ってアルバムをレコーディングする予定だったんだけど、プロデューサーのジャック(・ストラットン)が「公演が終わったら家に帰れるように、ライブでそのままレコーディングしないか」と言い出したんだ。Blue Noteの音響はバッチリだし、どうせスタジオでレコーディングする時だってみんなで同じ部屋で演奏して録るだけなんだからって。アルバム制作という点でも、いつもと違うプレッシャーがあって面白い試みだった。
ジョー:ヴルフペックでは常にスタジオでもみんなが同じ部屋にいて、ヘッドホンをつけず、バンドとしてプレイしてレコーディングしてきた。ステージに立った時も、同期を一切使わず、サポート・ミュージシャンを使うこともなく、メンバーがお互いをサポートしながらプレイする。テンポにしても、感覚にしても、その夜、感じたまま演奏する。その精神をレコードにするのもクールだと思う。各楽器のサウンドを直に繋いで録音すれば、スタジオで録るのと違いはないとジャックはわかっていたんだ。アルバムを聴けば歓声が聞こえてくる。でも思ってるほど入ってはいない。クリーンな音で録れてるし、ライブならではの熱量も感じられる。演奏するバンドの緊張と興奮が入り混じった空気も伝わってくる。レコード用にいいテイクを録らなきゃってのと、お客さんに喜んでもらえる演奏をしないとって思いが共存しているから、挑みがいもあった。

『Clarity Of Cal』のライブ・レコーディングが行われたLAのヴェニュー「Hollywood Palladium」。同作には鳥居が訪れた昨年9月24日の公演も収録されている(Photo by Maryn Haertel)

本記事のライブ写真もすべて昨年9月、Hollywood Palladiumにて撮影(Photo by Maryn Haertel)
―みなさんそれぞれ曲を提供していますが、ジャックさんから「良い曲があったら共有して?」と募集がかかるのでしょうか?
コリー:いい質問だ。ジャックはアルバムのヴィジョンを持っていて、その核となる数曲に取り掛かっていた。自分で書いたものもあれば、ジェイコブ・ジェフリーズ、ジョーイ・ドーシック、セオらと一緒に取り組んでたものもあった。例えば、セオが「Tender Defender」という曲を書いてきたら、ジャックが「その曲をアルバムでやろう」と言ったり。ジャックは他にもアイディアを膨らませていて、アルバム向けに書き下ろしたものもあった。あと、僕たちにリクエストを出すこともあった。例えば、ウッディ・ゴスがDropboxで共有してくれたデモに、僕が「このパートに違うメロディを思いついた」って反応すると、ウッディが「ちょうどよかったよ。そこに何を重ねたらいいかわからなくて困ってたんだ」と言ってくれて。それを二人で形にしたんだ。あと、『Wongs Café』(コリーの2022年作)に「Memories」という曲があって、バンドでは一度もやったことがなかった。ジャックからのリクエストに「それなら、この曲はまだバンドでやっていないからどうかな」と返すと、「いいね! バンドでやって、コリーが書いた曲としてアルバムに入れよう」ってなった。
そんな感じでいろんなアイディアが集まってきて、最後にジャックが整理してまとめてくれた。「この11曲を演ろう」ってね。中にはボイス・メモもあったし、もう少し作り込んだものもあった。そこから1日半かけて、バンドで一緒に合わせた。各自がしっかり準備してきてるから、自分が何を演奏するかは把握できているし、他のメンバーがどんなことをやるのかも予測がついている。全員で合わせる段階になったら、互いにどの部分を演奏するか、曲の展開や盛り上げ方、曲のセクションごとの支柱をどこに置くか、どうやったら曲としてのまとまりができるかを確認する。そうやって、実際レコーディングする前に2、3回全員で通してみたのが凄く役立った。リハーサルで合わせてる最中に「うーん、こうしよう」って、その場で決めていくこともあった。全員が演奏しながら細かい修正を加えたりするんだ。君も観たというHollywood Palladiumでプレイした頃には、修正しなくて済むようになった。「ほぼ形になったな。後は集中して最高の演奏をすればいいだけだ」と思えるようになった。ジョーはどうやって準備するの? ベースだとまた違うのかな。
ジョー:僕が曲を覚える時は、大抵の場合、自分一人で繰り返しプレイする。みんなと合わせる段階になったら、考えなくても自然と演奏できるようにね。レコーディングしたり演奏してる時、思考は敵だと思ってる。他のミュージシャンが出す音に反応することだけに意識を向けることが大事で、余計なことを考えたり、自分のパートは何だったっけとか、コード進行は何だったか思い出そうとしたらダメなんだ。
今回の制作に関して言うと、それぞれの曲にフィーチャリングで入っているシンガーの個性も意識している。どの曲も少しずつ雰囲気が違う。だから、例えばジョーイが歌っている時は、他の曲とは違う弾き方をする。セオの曲もそう。で、コリーやウッディが書いたインストの曲になると、今度はヴルフペック本来のインスト演奏になるから、もう少し思いきり演奏できる。そんな感じで、曲のソングライターやフィーチャーされてるシンガー、演奏家に寄せる感じで、曲ごとにどう演奏するかアプローチを変えるんだ。
―『Clarity of Cal』のサウンドに関して、コリーさんは「ミックスはアース・ウィンド&ファイアー(以下、EW&F)、マスタリングはジャミロクワイ」という方向性や、「New Beastly」のカウベルにリバーブをかけるというアイディアを発案したそうですね。ヴルフペックでもブレイン的な役割を一部担っているのでしょうか?
コリー:メンバーそれぞれサウンドやトーンについて思っていることがある。みんな情熱を持ってやってるし、こだわりも強い。だから、場合によっては、僕なりのアイディアを出すんだ。ジャックもいくつかアイディアがあって、僕に「このサウンドはどうするのがいいと思う?」と聞いてきた。EW&Fに関しては、ぶっちゃけ全体を通して一番参考になると思ったんだ。ジャミロクワイに関しても似たようなスタイルの音楽だけど、マスタリングの部分でよりパンチが利いてて、音が前面に出ている。ミックスをしてもらう音源をノアムに送った時に、「EW&Fの作品だと思ってミックスしてくれていいけど、最終的にマスターバスでモダンな音になるようにしてくれ。ジャミロクワイみたいに」と伝えたんだ。同じモダン・サウンドでもデュア・リパとかじゃなくてね。それだと全然違うものになってしまう。具体的なバンド名を出すことで、ミックスやマスタリングをしてくれる人が、アルバムの意図を理解しやすくなる。
ディープな音楽愛がもたらす珠玉の演奏
―ライブの定番曲「Dean Town」では、観客がベースラインをシンガロングするのがお馴染みになっています。LAでもコリーさんの来日公演でも大合唱が起こっていました。フジロックでもきっと盛り上がるはずです。ヴルフペックはファンダムも活発ですよね。動画のコメントもウィットが利いていたり。ご本人たちとしては、そうした状況をどう捉えていますか?
ジョー:これだけ音楽に長けたファンベースに恵まれることは滅多にない。バンド初期の頃から感じていたのは、ライブを観に来る観客のうちミュージシャンの割合が普通より大きいこと。観客に手拍子を促すパートや、セオが「Back Pocket」で3声のハーモニーをやったりしながら、それだけ音楽の才能をもった人たちが大勢集まってくることに驚かされる。
「Dean Town」に関しては、シンガロングしてもらおうという意図はまったくなかったんだ。なのに、ヴルフペックを好きになってくれたベーシストやミュージシャンがライブに来るようになって、気づいたら「Dean Town」はベースラインをみんなで歌うレアな曲になっていた。「Seven Nation Army」(ザ・ホワイト・ストライプス)とか「Another One Bites the Dust」(クイーン)のような、アイコニックなベースラインがフックになってる曲がこれまでもあったようにね。僕たちも楽しんでるよ。あの曲は観客が参加してくれるから演奏していても楽しいし、ネット上でも、いろんな人がヴルフペックの曲の素晴らしいカバーを投稿してくれている。原曲とは違う楽器を使って、すごくクールなアレンジをしていたり、ソロに独自の解釈を加えたりしていて面白い。ファンの情熱という点で言ったら、僕たちは本当に恵まれてると思う。何よりポジティブで、ライブで会ってもいい人たちばかりだ。
コリー:みんな本当に創造性が豊かだし、君が言うように、ウィットに富んだコメントも面白い。ファンダムが一つのコミュニティみたいになっていて、クリエイティブな人々を惹きつけているのが面白い。いろんなカバーもそうだよね。僕のバンドで「Dean Town」をやった話をしてくれたけど、僕だってみんなと同じようにカバーしてみたかったんだ。ホーン・セクションもいる僕のファンク・ビッグバンドで「Dean Town」をやったらどうなるかと思って。あとは繰り返しのない難しいメロディだからこそ、多くのファンにとって「自分はメロディを全部わかってる」と胸を張れる曲なんだろうね。
「Dean Town」のベースラインを観客が合唱
―私(鳥居)は、デヴィッド・T・ウォーカーやチャック・レイニー等の参加作品を検索しては、レコード屋で見つけたら買う……そんな青春時代を送っていました。ヴルフペックを知り、自分と趣味が似たような人たちが最高の音楽をやっていて、どんどん成功していくという姿に力をもらいました。そういう人は多いと思います。普段、メンバー間でディープな音楽トークをすることはありますか?
コリー:もちろん。ていうか、スティーリー・ダンのどの曲で誰が何を弾いてるかを知ってることが大前提になってるくらいだ。「『Peg』でドラムを叩いてるのはバーナード・パーディじゃなくてリック・マロッタだ」とか言っちゃうレベルでね(笑)。そんなのばっかりさ。数年前は、イーグルスを「イーグルス」と呼ぶべきか「ザ・イーグルス」と呼ぶべきかで、数カ月にわたって大議論になった。それくらいディープな音楽オタク談義になる(笑)。
ジョー:凝り性の人間が揃ってるのは確かだね。ジャックは、僕からすると最も優れたファンク・ミュージックの歴史学者の一人でもある。知り合ってまだ間もない頃、彼はFunkletというプロジェクトに取り組んでいて、偉大なファンクのドラム・グルーヴをすべて記録していた。ジェームス・ジェマーソンのベースラインを映像化したYouTube動画もアップしている。生き字引ともいえる知識をジャックは持っていて、それがバンドの活動にも反映されている。
若い頃に影響を受けたものは、メンバー同士かなり被っているものも多い。コリーがスティーリー・ダンの話をしたけど、ほとんどのメンバーが大きな影響を受けている。他にもモータウンやミーターズ、プリンス、EW&Fをはじめ、ディスコとか、若い頃に聴いていたものも共通してる。育った場所は違うけど、ヴルフペックをやるうえで、同じような音楽がインスピレーションのもとになっているんだ。



Photo by Maryn Haertel
―お互いのプレイで「あれはマニアックだったな」とか、印象的なエピソードがあれば教えてください。
ジョー:ジャックは耳がものすごく良くて、僕がステージで即興プレイしたソロも聞き逃さない。僕が何も考えずにプレイしたソロを持ち出して、「これをもとに曲を作ろう!」と言ってくるんだ。「Lost My Treble Long Ago」は、僕がソロで弾いたリフがきっかけで生まれた曲だ。メンバーそれぞれの才能や個性を理解し、それをどうやって曲の中で最大限に引き出すか。その点で、ジャックはプロデューサーとしてのセンスが際立っている。
それから、バンドのメンバーが特定のサウンドを”チャネリング”できるのもすごいと思う。たとえばセオは、ポール・マッカートニーになりきったかのように、「ビートルズにこんな曲があったかもしれない」と思わせるような楽曲を書いてきたことがある。「Lonely Town」がまさにそれで、特有の表現やニュアンスを見事にとらえているんだ。
「Lonely Town」「Lost My Treble Long Ago」を収録した2018年作『Hill Climber』。日本盤ライナーノーツを鳥居が執筆
コリー:以前、Brooklyn Bowlでバーナード・パーディと共演したとき、事前に彼には音楽を送っていなくて、ジャックはパーディの直感を引き出そうと考えていた。だから毎回、ジャックはパーディのところに行って、「(リズムを口ずさむ)1, 2, 3, 4」と言うんだ。僕たちは曲を知っているけど、パーディは知らない。ジャックのカウントに、パーディの耳が反応して、本能のまま叩き始める。あの公演では、まさに”純然たる”バーナード・パーディを見ることができた。途中、彼がジョーイの曲で叩いていたとき、「待てよ、彼はこの曲にビートが余分にあるのを知らないはずだ。なんでわかったんだ?」と思った。どういうわけか、本能的にそのフレーズに余分なパートがあることを察知していたんだ。あれは信じられなかったね。
もう一つの例は、クリス・シーリーと一緒にNPRの番組『Live From Here』に出演することになって、リハーサルをやったときのこと。「Dean Town」のアコースティック・バージョンをクリスと一緒に演奏することにしたんだ。合わせてみたら、まるで魔法の粉が振りかけられたかのように感じた。現場で作業していたスタッフも、みんな思わず手を止めて、僕たちの演奏に感動して見入っていた。「何が起きてるんだ?」っていう表情でね。でも翌日本番で演奏してみたら、リハのときのような魔法は起きなかった。「本番でやるべきことを、リハでやっちまった!」っていう瞬間だった。でも、あの場にいたみんなが間違いなく、その魔法を体感できていたと思う。あれは本当に、経験できてよかったと思ってる(笑)。
バーナード・パーディとの共演映像(2016年9月)。ジョーイ・ドーシックの楽曲「Game Winner」は09:26~
クリス・シーリー(マンドリン奏者、パンチ・ブラザーズ)との『Live From Here』共演映像
DIYなバンド活動、山下達郎やVaundyへの共感
―ヴルフペックはレーベルに所属せず、DIYで活動していますよね。従来のやり方にとらわれず、音楽とビジネスを両立させながら自由に活動する、そのアントレプレナー的な姿勢に啓発されたミュージシャンも多いはずです。
ジョー:ジャックのやることすべてが、インディーならではのDIY精神に根ざしている。彼は既存のやり方に挑むことを恐れない。何をやるにも「第一原理思考」、「そもそも、なぜこれはこういうやり方なんだ?」と疑問を投げかける。それが、このバンドのすべてを物語っている。音の出し方、ライブのやり方、ワークライフバランスに至るまでね。
燃え尽き症候群に陥るバンドは多い。2~3年活動して人気が出て、ファンベースが確立されたらラッキーだ。そうなると、その勢いのままツアー三昧の日々を送ったり、短い間隔で作品を出したくなる。でも、ジャックはすごく慎重なんだ。「慎重」というのが鍵で、自分たちのペースで物事を進めることができている。レコーディングは年に1回集まって、その間はみんなでアイディアを出し合う、という具合にね。
僕たちはちょうど、音楽業界に頼らずとも音楽を発信できる時代に世に出た。業界はまだ存在するけど、僕たちが始めた頃には、レコード契約は必ずしも必要じゃなくなっていたし、ツアーの在り方も変わって、自分で音楽を届けられるようになっていた。だから、ジャックもバンドも、その機会をうまく活用している。「こういうふうにやらないとダメだ」という外からのプレッシャーもない。僕たちはすごく恵まれている。熱心で忠誠心の高いファンが今も増え続けていて、そうした人たちのおかげで生計を立てることができている。そして何より、無駄を省いて、思慮深く活動できている。音楽的にも金銭的にも理にかなっていなければ、無理にやる必要はない。そうやって優先順位をつけられる立場にいられるというのは、組織としてラッキーなことだと思う。

Photo by Maryn Haertel
コリー:現在の音楽業界で素晴らしいのは、入り口のハードルが低いということ。若いアーティストにとっては、その気になればいつでも、自分たちの音楽を世に出すことができる。かつての門番的な人たちの許可がなくてもいいんだ。
それに、いまは世界規模で考えられる時代にもなった。僕とジョーはアメリカの中西部出身だけど、僕が育ったミネソタの街では、昔はアメリカの主要都市の音楽シーンに自分の音楽を届けられるかどうかすらわからなかった。でも、今はそれがずっと容易になった。ただその一方で、雑音も多い。その雑音を突き破れるかどうかが鍵だ。でも、独自のサウンドがあって、自分の才能で特別で唯一無二なことができるなら、これまでになく、世界中の人たちに音楽を届けやすい時代だと思う。

Photo by Maryn Haertel
―今年のフジロックでは、山下達郎さんとヴルフペックが同じ2日目に出演することも話題を呼んでいます。
コリー:タツローは正真正銘のレジェンドだよね。『PACIFIC』はすごくお気に入りのアルバムだ。(シティポップという)ジャンルの黎明期から、その音楽を体現していたなんて本当に稀有なことで、彼のアーティストとしての在り方には心からインスパイアされている。
―前日の金曜には、コリーさんが「トドメの一撃 feat. Cory Wong」でコラボしたVaundyが出演します。
コリー:彼とは連絡を取り合ってるよ! 何らかの形でまた今後共演できたらいいなと思ってる。2年前に日本に行った時につるんだんだけど、創造性豊かな才能あふれるミュージシャンで、スタッフも最高だ。彼は面白い曲のアイディアをたくさん持っていて、僕のギターのファンでもあったから、彼のアイディアをもとに好きなように弾かせてくれた。すごく楽しい共演だったし、また一緒にやろうって話もしたよ。彼は最高だね。
―コリーさんは一足早く6月に来日されますね。どんなライブになる予定ですか?
コリー:10人編成のバンドを連れていく予定だ。ビッグバンドでお届けするファンク・ライブだね。ヴルフペックの仲間のアントワン・スタンレーも参加する予定だ。彼とは何度も一緒にライブをやってるけど、ずっと日本に来たがっていて、今回が日本での初ライブになる。「日本に行くって聞いたんだけど、俺も一緒に行かせてくれよ!」と言ってきたから「いいよ!」ってね。ということで、彼が歌で登場する予定だ。ずっと取り組んでる新曲も披露する予定だから、期待しててくれよ!
―今日はありがとうございました!
ジョー:僕たちを取り上げてくれてありがとう。日本に行くのを物凄く楽しみにしてるよ。
コリー:フジロックで会おう!


Photo by Maryn Haertel

Cory Wong featuring Antwaun Stanley来日公演
2025年6月17日(火)大阪・なんばHatch
2025年6月18日(水)愛知・DIAMOND HALL
2025年6月20日(金)東京・豊洲PIT
2025年6月21日(土)東京・豊洲PIT *SOLD OUT
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4378
アントワン・スタンレーが参加したコリーのフルライブ映像

FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※ヴルフペックは7月26日(土)出演
公式サイト:https://fujirockfestival.com

鳥居真道(とりい まさみち:写真中央上)
1987年生まれ。トリプルファイヤーのギタリスト、多くの楽曲で作曲も担当。最新アルバムは2024年発表の『EXTRA』。今年4月には「相席屋に行きたい」のCorneliusリミックスをリリース。7月20日(日)にはBillboard Live TOKYOでのワンマンライブを開催。mei eharaなど他アーティストのレコーディング/ライブ参加、楽曲提供、音楽に関する執筆、選曲家としての活動も行なっている。
※トリプルファイヤーは7月25日(金)、mei eharaは7月26日(土)にフジロック出演
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