アンディがソロキャリアで成功する以前から友人たちで結成され活動していたこのバンドは、2018年にANTI- Recordsからの初作にしてセルフタイトル作となる『Foxwarren』を発表。
しかし、最新作『2』でフォックスウォーレンは前作で提示したアイデンティティを脱ぎ捨て、ヒップホップやミュージックコンクレートの影響を多分に受けたであろうサンプリングという手法でもって新たな姿へと生まれ変わっている。メンバーはアンディの他、ダリル・キシック(Darryl Kissick)とエイヴリー・キシック(Avery Kissick)の兄弟に、ダラス・ブライソン(Dallas Bryson)、そして2019年のツアー以降正式に加入した(アンディのツアー・バンドのメンバーでもある)コリン・ネイリス(Colin Nealis)。今回はアンディとダリルの2人にバンドの結成秘話から遡って、その変化、そしてそれを可能にしたフォックスウォーレンというバンドについて、Zoomを通して話を聞いた。
親友の集まったバンド、フォックスウォーレン
ーまずはフォックスウォーレンというバンド結成の経緯から教えていただけますか?
ダリル:2007年か2008年頃だったと思うんだけれど、僕らは同じ音楽シーンにいたから、ぼんやりお互いのことを認識していたんだ。おそらく1、2回は会ったことがあったんじゃないかな。その後なんとなく流れで一緒に演奏してみたんだ。そこで僕が兄弟のエイヴリーをドラムに誘い、アンディは昔から彼が一緒に音楽をやっていた友人のダラスを誘って、しばらくは4人組だった。で、その後僕らのツアーに参加してくれていたコリンが2019年の夏のツアー後にバンドに加わったんだ。
ーでは、幼馴染の4人組が原型というわけではなかったんですね。
アンディ:そこまでではなかったね。でも、ダリルのことは彼がリリースしている音楽を通して知っていたし、実はエイヴリーにも前に会ったことはあった。
ーフォックスウォーレンにマルチインストゥルメンタリストであるコリンさんを迎え入れたことは自然な選択でしたか?
アンディ:彼はツアーで僕らのライブサウンドにものすごく貢献してくれたからね。
ダリル:素晴らしいミュージシャンだし、良い友人でもあるんだ。彼はバンドに本当に多くのことをもたらしてくれている。コリンは音楽的知識がかなり豊富なんだよ。
ーそれぞれの生活やソロキャリアがある中で、フォックスウォーレンというバンドの存在はどのようなものなのでしょうか?
アンディ:MySpaceでメッセージを送ってバンドを始めてから、活動を通して、僕たちはお互いを知り親友になった。それは僕たちにとってすごく重要なことなんだ。友人が集まって一緒に音楽を作るというのはすごく心地いい。前回集まった時も、リハーサルそっちのけでお互いの近況を報告する時間があったくらいだよ。だからこのプロジェクトに関しては、友情が基盤になっているというのが大きいと思う。
ーAnti-からのデビュー作にして前作の『Foxwarren』はそんな友人関係をベースにしたバンドに大きな成果をもたらしたのではないかと思います。
ダリル:バンドを始めた頃はカナダのサスカチュワンに住んで音楽を作っていただけで、どうやって自分たちの音楽を世に送り出そうかなんて考えてもいなかった。でも、アンディがソロ活動で道を開いてくれて、そのおかげで僕らの扉も開かれたんだ。自分たちが作った作品がリスナーを見つけ、作品が生きがいを見つける過程はすごくエキサイティングだったね。
変化を求めて新たな制作スタイルへ
ーここからは新作『2』について伺います。事前にいただいた資料には「2018年秋にスタジオ入りし、すぐにでも続編となる数曲を録音する計画を立てた。しかし、少し時間を置いて改めて聴き返すと、それらの楽曲にはどこか物足りなさが残っていた」とあります。どのような部分に物足りなさを感じていたのでしょうか?
アンディ:僕たちはとにかく、これまでとは違うものを作りたかったんだと思う。でも、2018年にスタジオに入った際に作ったものを後から聴いてみると、これまでとあまり変わっていなかったんだ。アルバムを作る前、僕たちは全然違うアイディアを持っていたんだけど、プロセスを終えて出てきた音が思っていたものとは違ってね。
僕たちは今回ライブレコードを作りたかったし、ロックンロールの伝統に沿って、ライブで即興演奏をレコーディングして、クラシックロックの音色をもっと取り入れたいと思っていた。
僕たちは違う方向への一歩を踏み出したいと思っていた。セルフタイトルのアルバムはゆっくりとしたペースでノイズや様々な要素を探求した作品だったから、今回はそれとは別の何かを探求したかったんだ。だから、レコーディングした音を聴いて、それが僕たちが求めているものではない、正しい方向ではないことはすぐにわかった。レコーディングしたものを全てをボツにしたわけではないけどね。「Strange」はあのセッションから生まれたものだし、曲の中には結果的にアルバムで幕間として使われたものもあるし。
ーそのときの録音の素材が新作の収録曲の原型になった部分もあるんですね。
ダリル:小さな端切れが曲の中で新しい曲の要素になったりはしたよ。
アンディ:「Serious」のオルガンなんかはそうだね。オリジナルのレコーディングからサンプルして使ったんだ。
ダリル:そうだった。
ー新作『2』はメンバー5人が4つの州にまたがる自宅スタジオから、楽曲のアイディアやメロディの断片、リズムパターンなどを共有フォルダにアップロードし、それらをトロントにいるアンディがサンプラーに取り込んで、楽曲として再構築していったと伺いました。このような制作方法にシフトした理由を教えてください。
ダリル:以前は4人が同じ街に住んでいたし、そのうち3人は同じ家に住んでいたから一緒に作業する方が楽だったんだ。でも今回は、皆バラバラに住んでいたからそういうわけにはいかなかった。
ーでは、意識的にあえてというよりは自然の流れでそうなったと。
アンディ:意識的ではあったよ。やはりパンデミックがあったからね。あの時期に皆でメールを送り合っていて、このままもしかしたら勢いを取り戻して前に進めるかもしれないと思ってね。で、そこから僕が提案して週に一回のZoomで会議を始め、リモートでどうやって進めていくかを話し合ったんだ。

Photo by Landon Johnson
ー毎週Zoomで会議を行っていたとのことですが、そのときの会話で印象に残っているものはありますか?
アンディ:どうしてそれが出てきたのかはよく覚えてないんだけど、エイブリーが「カーステレオから鳴り響くようなクールなサウンドのレコードを作りたい」って言い出したんだよね。それって僕らが作ろうとしているものの完璧なイメージだったんだ。大胆で、ある種のムードがあって、それを広めて共有したくなるような、そんなイメージだよ。
ー『2』には前作ともまた違った、あたたかさ、ローファイさが宿っているように感じました。サンプリングされた素材の影響もあるのでしょうか?
アンディ:それは(素材の)クオリティの悪さからきてるんだと思う(笑)。サンプリングしたものの中には、クオリティの良くないMP3のようなものもあったからね。良くも悪くも、今回は忠実さにはこだわっていなかったんだよ。
アルバムのミックスはニール・H・ポーグが担当してくれたんだけれど、彼は本当に素晴らしいミキサーなんだ。彼がそういうサウンドが得意だから、その影響もあると思う。
『2』に影響を与えたヒップホップ作品、バンドにとって最高の瞬間
ーこのような制作方法はヒップホップやミュージック・コンクレート的な発想にも通づると思うのですが、ヒップホップやミュージック・コンクレート的な発想を持ち、なおかつフォークやロックの要素も感じるお気に入りの作品はありますか?
ダリル:大ファンというわけではないんだけど、僕はベックの『Mellow Gold』(1994年)や『Odelay』(1996年)などはそれをうまく駆使していると思う。でも、今回のアルバムに関しては参考にした作品はなかった。あ、これはアンディに説明してもらった方がいいと思うけど、アンディと僕が間奏のアイディアを出し合っていたとき、アンディがGZAの『Liquid Swords』(1995年)のようなものをイメージしていると話していたんだ。
アンディ:そうそう。2020年にサンプラーを買ったんだけど、このアルバムを作り始めたのもちょうどその頃だった。自分の音楽の好みとして、ヒップホップは中心に来るものではないんだけれど、たくさん聴いてはいるんだ。今や誰でも聴く音楽のレパートリーに必ず少しはヒップホップが入っているんじゃないかと思うけどね。で、僕はずっとGZAの『Liquid Swords』のようなサウンドに興味を持っていて。あのアルバムは僕のお気に入りのレコードの一つなんだ。ダリルと一緒に住んでいた頃、ウータン・クランをよく聴いていたからね。でも、あのブーンバップの要素が何なのかずっと謎だったんだけど、サンプラーを手に入れたら、それが全て解き明かされたような感覚だったんだ。もちろんそれ以上のものもたくさんあるけれど、音を入れ、切り刻み、耳に返ってくる音が、僕が生活の一部としてずっと聴いてきたあのサウンドであることに気がついた感じだよ。うまく説明できないんだけどね。
ーそれらの他にも『2』に影響を与えた作品はありますか?
ダリル:自分が好きな昔のアーティストで、アルバムのサウンドが全て異なるアーティストたちがいるんだけど、彼らは同じことを繰り返さず、アルバムごとにサウンドに変化を加えている。僕はその精神自体が重要だと思うし、そこに影響を受けていると思う。例えば、スフィアン・スティーヴンスは『Michigan』(2003年)と『Illinois』(2005年)で一躍有名になったけれど、その2枚は優しいフォークポップの雰囲気だった。でも、その後の『The Age of Adz』(2010年)では、爆音や荒々しい電子音楽やグリッチサウンドに大胆に方向転換したよね。そういった新しいことに挑戦するという意欲が素晴らしいと僕は思うんだ。アンディと僕が共通して好きなアーティストは、スフィアンはもちろん、ビートルズやウィルコ。そして彼らは皆その精神を持っていると思う。だから僕にとっては、サンプリングの音そのものよりも、新しいことに挑戦するという意欲の方が重要なんだ。
スフィアン・スティーヴンス『The Age of Adz』収録曲「Too Much」
ーとはいえ、「Listen2me」をはじめ、会話のサンプルが非常に印象的な使われ方をしているのも事実です。それらはどのような基準で選んでいきましたか?
ダリル:物語とまではいかないけど、今回のレコードではアルバムのテーマのようなものを考えていたんだ。そしてそれを伝えることができる会話を探さなければならなかった。だからかなり苦労したよ。
アンディ:求めていたキーワードみたいなものがあって、それを探していったんだ。
ーサンプリングした会話で特にお気に入りの箇所はありますか?
アンディ:あるけど、結局使われなかったものがほとんどなんだ。というのも、元々はこれはジョークから始まったから、ジョークにできる面白いものがたくさんあってさ。でも、実際に使ったものの中から選ぶとすれば「Listen2me」で使われているもの。あれは、探し出すのに本当に長い時間がかかったからね。
ーリリックには使用されるサンプルが決まってから書かれた部分もあるのでしょうか?
アンディ:歌詞のほとんどは先に完成していて、サンプルはそのあとだったと思う。コンセプトは何か、それをどうやって解釈できるかを考えながらジグソーパズルのように組み合わせていったんだ。
ーアンディさんがソロ作品とフォックスウォーレン作品のリリックで意識を変えている部分などはありますか?
アンディ:大抵の場合は、ソロプロジェクトでは物語性を重視したストーリーテリングを心がけている。そしてフォックスウォーレンでは、その要素をできるだけ排除するようにしているんだ。それにフォックスウォーレンでは、皆で一緒に歌詞を書くことが多い。セルフタイトルのアルバムの歌詞のほとんどは、実際にメモパッドを回しあって、それぞれが一行ずつ追加していく形で歌詞を描いたしね。でも、今回のアルバムでは一人で書いたものが多くなった。でも基本的に曲の方向性は、より描写に基づいた物語のようなもので、明確な展開やクライマックスがある物語ではない。例えば、「Yvonne」は、最初にダリルが曲のアイディアを書き、僕が歌詞をつけて曲にしたものなんだけれど、僕はその曲のキャラクター”Yvonne”を年配の女性としてイメージして、背景にカモメが飛んでいるようなシーンを想像し、その流れでそれがすごくビーチっぽい感じになった。そして、僕たちはWhatsAppのグループチャットで二番の歌詞をどうするか話し合ったんだけど、誰かが「彼女が金属探知機を持っている」というアイディアを提案してきてね。それがきっかけで自然と進んでいって、他の曲もこの方向で仕上げようという流れになった。つまり、頭の中に具体的なイメージはあるけれど、それを直接的に表現するのではなく、間接的に表現する歌詞を書いたんだ。
ー今後ツアーも予定しています。制作方法をシフトした『2』の曲はライブで演奏するときのことを制作中に考慮していたのでしょうか?
アンディ:今回は自由な創造性を重視して制限は設けないことにしたんだ。もし演奏することを考えながらレコードを制作していたら、今回のレコードはこんな風にはならなかったと思う。それを考えずに、野心的で、誇りに思うことができ、創造的に満たされるものを作って、後からそれをどうやってステージに持っていくかを学ぶことを試みる方が、自分たちができる可能性を薄めてしまうよりも良いと思うんだ。自分たちが表現したいものを妥協したくはないからね。
ーつまりライブのスタイルにも変化があると。
アンディ:僕たちは今、どうやってステージ上でアルバムを演奏できるかを模索しているところなんだ。誰がどの部分を担当できるか、とかね。スタイル自体は、結局のところは前回のアルバムとそんなに変わらないとは思う。ただ、レコードをどう表現するか、ステージでそれをどう訳すかを正確に決めないといけない。一度それがわかれば、きっと楽しいパフォーマンスになると思うよ。
4人組時代のライブ映像
ー今作での来日公演はまだ予定していないと思うのですが、楽しみにしています。最後にバンドを続けることの魅力、あるいは難しさについて教えてください。
ダリル:僕にとっては、友達でいるということが何より大事なんだ。歳を重ねると、人と疎遠になることは簡単なこと。だからこそ、友人たちとの絆は大切だと思う。そしてクリエイティブな面では、自分よりもずっと自分のやっていることを理解している人たちとコラボレーションできるのは素晴らしいことだと思う。自分より優れた人たちと一緒に仕事をするのは本当に楽しいし、彼らは自分がより良いミュージシャンになるよう課題を与えてくれる。それはすごく良いことだよね。
アンディ:活動をしながら親しい友人たちとも時間を過ごすことができて、一緒に旅行に行って楽しむことができるのは素晴らしいことだよ。でもやっぱり一番は、演奏が始まった瞬間、彼らとなら大丈夫と思えること。皆で一緒に音楽を演奏している時の感覚ほど最高のものはない。それは暗黙の了解みたいなもので、お互いがシンクロしているのはアメイジングな体験なんだ。

フォックスウォーレン
『2』
発売中
再生・購入:https://foxwarren.ffm.to/two