待望のニューアルバム『Never Enough』は、米ボルチモアのバンドが常識をゆっくりと押し広げていく記録だ。

【ライブ写真ギャラリー】Turnstile、東京・ZEPP DiverCity公演(全7点)

Turnstile(ターンスタイル)の新作『NEVER ENOUGH』は、2021年の大ヒット作『Glow On』の続編として大きな期待を集めていた。
けれどこのアルバムは、単に曲を並べたものではない。印象的な音の断片を集めた、静かなギャラリーのようでもある。聴き手は、それぞれの音に身を委ねながら、自由に歩き回ることができる。今回はフロントマンのブレンダン・イェーツが自らを”アートディレクター”と呼んでいて、それが作品の佇まいにも表れている。バンドはジャンルという境界線をさらに曖昧にしながら、新しい表現を探している。

Turnstileはこれまでも型にはまることを拒んできた。『Glow On』ではサンバやファンクを自然に取り入れ、伝統的なハードコアの枠を軽やかに越えていた。今作もその延長線上にある。たとえば、映画『ビルとテッド』に出てくる未来の世界。銀のスーツに身を包んだ人たちがギターを奏でる――そんな突飛な風景が、ふと頭に浮かぶ。

冒頭のタイトル曲「NEVER ENOUGH」は、音が少しずつ階段をのぼっていくような感触がある。サイケなシンセが広がり、パット・マックローリーのギターが重なり、デヴ・ハインズがチェロを鳴らし、ダニエル・ファンのドラムが追いかけてくる。
そのまま流れ込む「Sole」は、今作のなかでも特に激しい曲だ。「Dull」はハイパーポップの仕掛け人A.G.クックのプロデュースで、スパーリングのような緊張感がある。「Sunshower」は、嵐の中で声を上げるような、めまいを誘う一曲だ。

「Ceiling」は、カチカチと時計の音で始まる内省的な曲。「Seein Stars」は80年代の香りがあり、夜のクラブで流れていそうな浮遊感がある。デヴ・ハインズとヘイリー・ウィリアムスの声がかすかに混ざっているが、それと気づく人は多くないかもしれない。そして「Birds」は、どこかヒッチコックの映画を思わせる。最後の「Magic Man」は、ガーゼのように軽やかな一曲。ミュージシャンとして生きること――世界をさまよいながらも、世界には世界の意思がある――そんな感覚がふわりと残る。

このアルバムは、何度聴いても新しい表情を見せてくれる。ふと訪れたくなる、静かな展示室のように。

from Rolling Stone US
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