デビューアルバムの野心的ヴィジョン
約1年前、ライフガードのメンバーたちはある啓示を受けた。地元シカゴで10分におよぶノイズ組曲に取り組み、即興で奏でるカオスな音を何層にも重ねながら、フルアルバムの中核となるような凄まじい音塊を作ろうとしていた。けれど、あるときふと思ったという。「これ、必要ないんじゃないか?」
「ポップな曲はいろいろあったのに、なぜかその真ん中に”もっと苛烈な何か”を入れなきゃいけない気がしてたんだ。たぶん、それがクールだと思い込んでた」と語るのは、18歳のドラマー、アイザック・ローウェンスタイン。「でも、そんなのバカみたいだって気づいた。僕ら、誰のためにそれをやってたんだ?って」
ここ2年ほどで、ライフガードはその妥協なきアート・パンク的なテンションを武器に、注目すべき新星として高く評価されてきた。だが、彼らが興味を持っているのはそれだけではない。ライブで1977年のパワーポップ・クラシック、ザ・ジャムの「In the City」をエネルギッシュにカバーする彼らの姿を観たことがある人なら、それはよくわかるはずだ。「『In the City』をやったのは、ただ僕らがやりたかったから。それで思ったんだ、”こういうの、もっとやろうよ”って」と語るのは、20歳のシンガー/ギタリスト、カイ・スレーター。「ポストパンクって、ともすれば虚無的にメロディを否定しがちだけど、僕らはそこには共感できない。
マタドール・レコーズから6月6日にリリースされた『Ripped and Torn』には、いまだに荒々しい楽器の質感やフィードバックまみれの雰囲気が色濃く残っている。だが今作では、そうした要素が今年屈指のタイトでキャッチーなロックソングたちを際立たせるために機能している。夏のあいだじゅう頭の中を駆け巡るようなフックが、ふんだんに詰め込まれているのだ。「僕にとってライフガードの本質って、3人で一緒に演奏してるときに、自然と踊りたくなるような何かを生み出せてるかどうかなんだ」と語るのは、19歳のベース兼ボーカル、アッシャー・ケース。「今回のレコードでは、それをこれまで以上にしっかり形にできたと思う」

左からアイザック・ローウェンスタイン(Dr)、アッシャー・ケース(Ba, Vo)、カイ・スレーター(Vo, Gt)Photo by Griffin Lotz for Rolling Stone
デビュー・アルバムについて語ろうとZoomにログインしてきたとき、バンドの3人はアイザックの家のキッチンのカウンターにぎゅっと集まっていた。時刻は午後遅く。アイザックとアッシャーが、それぞれ高校とアートスクールを終えて帰宅してから1、2時間ほど経ったころだった。「今日はただのサボりって感じだったけどね」と笑うのは、どこにも在籍していないカイ・スレーター。
『Ripped and Torn』のレコーディングは、2024年の春休みに、わずか5日間という集中モードで行われた。プロデューサーは、ロサンゼルスのノイズ・バンドNo Ageのランディ・ランドール。「5日って、僕らにとってはかなり長い方なんだ」と語るのはカイ。「スタジオにあんなに長くこもったのは初めてだったよ」
本格的にシカゴのパリセード・スタジオに入る前、彼らはランドールと1日だけプリプロを行ったという。
残りの週は、新しい楽曲を一気に形にしつつ、さらにブラッシュアップしていく時間に充てられた。16トラックのテープを使って、ボーカル・ハーモニーを練り込み、アレンジを洗練させていった。「バンドのいちばん純粋な音を、どうやったら抽出できるかって話し合ってたんだ」とカイは語る。「今回はもっとスタイルを明確に打ち出したいと思ってた。でかいロック・サウンドっていうより、もっとヴィンテージで、ダビーで、古いパンクっぽい感じにしたかったんだよね」
その方向性を突き詰めるため、彼らはアルバムをモノラルで録音した。「これは完全に意図的だよ」とカイは念を押す。「エクスポートに失敗したとか、そういうんじゃ全然なくて」
レコーディング期間中、彼らが大きなインスピレーション源としたのは、1970~80年代の先駆的なバンドたち、たとえばバズコックスやワイパーズだった。また、2000年代初頭のダンス・パンク──ラプチャー、ブロック・パーティ、ライアーズといったアクトも参照点になったという。ただし、そうした嗜好はノスタルジー的な流行とはまったく関係なく、自発的に培われたものだと彼らは強調する。
「僕らはもともとそういうのにハマってたんだけど、気づいたらネットが一斉に盛り上がってたんだ」とアイザックは話す。「今ニューヨークじゃ、みんなスキニーネクタイつけて歩いてるしさ。
「ちょっとそういう要素が混ざってるってだけで、僕らは”新しいインディー・スリーズ・バンド”ってわけじゃない」とカイは補足する。
3人の出会いと『HALLOGALLO』について
Zoomインタビューのちょうどそのあたりで、アイザックの母親が帰宅する。「ちょっと待って、ごめん」とドラマーは言いながら、年相応に少しばかり気まずそうな表情を見せる──親が現れたときの、よくあるリアクションだ。
2019年から、ローウェンスタイン家はライフガードだけでなく、同じく卓越したバンドであるホースガールの始動拠点にもなった。ホースガールでは、アイザックの姉ペネロペがギターとボーカルを務めている。兄妹ともに、それ以前から長年にわたりノイズを奏でていた。両親は、アイザックが2歳のころからドラムのレッスンを受けさせていたという。「僕、キッチンで鍋とかフライパンとか叩いてたし、姉がギターのレッスンを受けてる部屋に突入して、そこらじゅう叩きまくってたんだよね」と本人。「それで親が言ったんだ。『この子、腕を使うことさせたほうがいいな』って」
アッシャーもまた、音楽一家の出身だ。父親のブライアン・ケースは、DisappearsやFACSといった高い評価を受けるアート・ロック・バンドで活動してきたミュージシャンである。
一方でカイが音楽に出会ったのは、ずっと遅かった。「僕が楽器を始めたのって、14か15歳くらいのときなんだよね」と彼は言う。「もし音楽的な家庭に育ってたら、逆にやってなかったかも。僕、ほんとに天邪鬼だからさ。子どものころなんて、なおさら。だから、むしろそうじゃなくてよかったって感じ」
3人が出会ったのは、2019年の夏に開催されたティーン向けのオープンマイクイベントだった。当時、アッシャーとアイザックはすでに一緒にジャムをしていたが、ひとつ大きな問題を抱えていた。「ヤバい、バンドを始めたいのに、ギターを弾けてカッコいいやつが全然いないって感じだったんだよね」とアイザックは振り返る。「僕らの趣味に共感してくれるやつなんて皆無だった。他のみんなはツェッペリンにしか興味ない、みたいな」
そのオープンマイクで彼らは、ホースガールの初期編成のゲストとして演奏することになった。

Photo by Griffin Lotz for Rolling Stone
3人編成として体制が固まり、ライフガードがようやくバンドとしての化学反応を掴みはじめた矢先のことだった。翌春、新型コロナウイルスの影響でライブ活動はすべてストップしてしまう。カイはその空白期間を利用して、自作のコピー・ジンを作り始めた。配布手段は、シカゴの公共交通機関(CTA)だ。「電車に乗って、座席の裏とか標識にZINEをテープで貼りつけたりしてたんだ」と彼は語る。「でも、すぐに警察とかに剥がされる。でも、それでも広めたかった。必死だったよ。
カイがそのZINEにつけたタイトルは、ノイ!(Neu!)の楽曲にちなんで『HALLOGALLO』。初期の号では、友人たちの駆け出しバンドについての記事が中心だった。「最初の号に出てたバンドは7つで、メンバー合わせても10人いなかったと思う」とカイは言う。
「たしかさ、自分で自分にインタビューしてたよね? Dwaal Troupeのやつ」とアイザックが突っ込む。
「まあ、基本的にはそうだね」とカイは笑う。「めちゃくちゃ自己陶酔してた。でもそれって大事なことだよ。自分を信じて、それを外に出していかないと」
やがてロックダウンが解除されると、『HALLOGALLO』はシカゴの若手バンドを紹介するDIYフェスへと進化を遂げた。カイが2022年から毎年主催しており、ライフガードと同時期に頭角を現した有望な若手バンドたちにスポットライトを当てている。「ZINEはそのきっかけとして本当に大きな役割を果たした」とアイザックは語る。「あの頃、部屋に閉じ込められたままネットでいろんな音楽に出会って、それを通じて希望を感じたり、”誰かと音楽をやりたい”っていう気持ちを持つようになった新しい世代の子たちが、確かにいたんだよね」
キャリアが着実に進んでいくなかでも、ライフガードは自分たちを形作ってきた「自発性」と「創造的な自由精神」に忠実であり続けている。バンド以外の活動として、アイザックはDonkey Basketballという名義でエレクトロニック・ミュージックを制作しており、カイも昨年、Sharp Pins名義で完璧なギター・ポップの宝石のようなアルバムをリリースしている(つい最近、米北西部のKレーベルとPerennialによってリイシューされたばかりだ)。
「そこではもう、”自分の脳みそを直接テープ・マシンに突っ込んで、何が出てくるか確かめてる”みたいな感じなんだ」とカイは語る。「完全にセラピー的なソロ活動だよ」
来月『Ripped and Torn』が世に放たれるその日、ライフガードはベルリンに滞在している予定だ。そこから、夏のツアーがスタートする。アッシャーとアイザックは、ライブ後にあの有名な超・選民的クラブ、ベルクハインに行ってみようかと冗談を飛ばす。だが、真面目な話として、彼らはヨーロッパに戻れることを本気で楽しみにしている。
「ヨーロッパでは本当にいいライブができたんだ」とアッシャーは語る。「これまでで一番汗だくになったライブだったし、史上最小の会場だった。でも、そういう場所こそが、僕らが一番生き生きできる環境なんだよね」
From Rolling Stone US.

ライフガード
『Ripped and Torn』
デジタル・ストリーミング配信中
CD・LP:2025年6月13日(金)発売
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14902