豪雨の深夜、奇跡のようなライブが生まれた。音楽史に刻まれた瞬間を回想する――。
1969年8月16日、ウッドストックでスライ&ザ・ファミリー・ストーンがステージに立ったとき、状況は決して容易なものではなかった。予定時刻を何時間も過ぎた午前3時30分、会場は激しい雨で泥だらけ。しかも、同じ夜に出演したグレイトフル・デッドを含む複数のバンドが感電する事故に遭っており、機材に触れることすら恐れられていた。

だが先日、COPDとの長い闘病の末に亡くなったスライ・ストーンは、その瞬間こそが自身を証明するチャンスだとわかっていた。彼は2023年の自伝『Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)』でこう綴っている。

スライ&ザ・ファミリー・ストーンの必聴20曲

「飛行機からは観客全体は見えなかったけど、点在する人々が目に入った時点で”この先にもっといる”ことは明らかだった。『なんてこった。これは一体なんなんだ?』って思ったよ。果てしない人の海。こんなに大きな出来事なら、万全に準備しろってことさ」

バンドは1966年の結成以来、ほぼ休みなくライブ活動を続けていた。名盤『Stand!』(「I Want To Take You Higher」「Everyday People」「Stand!」収録)はわずか3ヶ月前にリリースされたばかりで、さらにウッドストックの1カ月前には「Hot Fun in the Summertime」のシングルも発表された――まさに絶頂期だった。

彼らは高揚感あふれる「MLady」でセットをスタートさせ、その熱は曲を重ねるごとに加速した。
映画『ウッドストック』では、10曲に及ぶ灼熱のステージのクライマックスとして「I Want To Take You Higher」が取り上げられている。

ステージ上でスライはこう語りかけた。

「今から一緒に歌いたいんだ。普段なら歌おうとすると、いろんな理由で躊躇する人がいる。多くの場合、隣の人に許可を得ないと”本気を出せない”んだ。でも、ここで起きてることは”みんなで歌おう”ってこと。『一緒に歌うなんて古臭い』って思う人もいるけど、それは”ファッション”じゃない。”感情”なんだ。もし昔よかったなら、今だってきっといいはずだよ」

約50万人のヒッピーたちの心に響く言葉だった。観客は泥の中で踊り、応えた。

「呼びかけ、そして応答。まるで教会のようだった」とスライは回想している。
「その頃には撮影クルーも完全にスタンバイしていた。ホーンセクションは空に向かって鳴り響き、ショーが終わる頃には僕らはびしょ濡れで凍えていた……でも翌日には誰の目にも明らかだった。ウッドストックはとんでもない出来事で、僕らはその中心にいた。多くのバンドに注目が集まったけど、僕らとジミ・ヘンドリックスが突出していた」

スライの言う通りだった。ザ・フーが彼らの直後に出演したが、観客の多くはスライ&ザ・ファミリー・ストーンのステージを「週末最高の瞬間だった」と語っている。(月曜朝のヘンドリックスのステージは、観客の大半がすでに帰った後だったと言われている)

そして何百万人もの人々が、後に公開された映画でスライたちのステージを目にした。

その後のスライは困難な人生を歩んだが、この夜、彼は音楽史に不滅の名を刻んだ。映像として残されたこのパフォーマンスは、ライブ音楽の”力”を象徴する、他に類を見ない記録と言えるだろう。

from Rolling Stone US
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