「こんな音楽、誰が聴くんだ?」1966年、ブライアン・ウィルソンが新たに制作中の楽曲を聴かせた際、ビーチ・ボーイズのメンバーであるマイク・ラヴはこう投げかけた。「犬の耳ぐらいだろ?」バンド仲間からの侮蔑にも、ウィルソンは前向きに応じた。「皮肉なことに、マイクのその皮肉がアルバムタイトルのヒントになったんだ」と彼は語っている。
実際、『Pet Sounds』にはウィルソンの飼い犬バナナを含む犬の鳴き声が”発見された音”として随所に取り入れられている。ビートルズも『Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band』でそれに呼応するような演出を施し、『Pet Sounds』が『Sgt. Pepper』の着想源であったことを示している。これは影響の連鎖を完成させる形となった。というのも、そもそもウィルソンはビートルズの『Rubber Soul』を超えようと考え、『Pet Sounds』の制作に着手したからだ。その鮮やかなオーケストレーション、詩的な野心、洗練された構成、統一されたテーマ性によって、『Pet Sounds』は「アルバムは単なる曲の寄せ集め以上のものになりうる」という発想を生み出し、ある意味で完成させた作品となった。アルバム冒頭の名曲「Wouldnt It Be Nice」でウィルソンが「もっと年を重ねたらどんなにいいだろう」と歌ったとき、そこには高校時代を超えた恋愛の成熟だけでなく、ロックンロールという音楽そのものの成長した新たなアイデンティティが示唆されていた。
ウィルソンは『Pet Sounds』の制作をほぼ単独で進め、他のメンバーは主にボーカル・アレンジの録音にのみ参加した。当初はソロ名義でのリリースも検討され、先行シングル「Caroline, No」はウィルソンの名前で発表された。作詞家トニー・アッシャーと共作したこれらの楽曲は個人的な色彩が濃く、それまでのビーチ・ボーイズのヒット曲とは一線を画していた。
アルバムの中心を成すのは「God Only Knows」だ。ハープシコード、ホーン、鈴、ストリングスが組み合わされ、ウィルソンが後に「盲目でありながら、むしろより多くが見えてくる感覚」と語るような精神性が生み出されている。「目を閉じれば、ある場所や何かが起こっている様子が見えてくるんだ」と彼は言う。その後も多くのアーティストたちが、このウィルソンのビジョンの中に生き続けていくことになる。
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