GACKTが自身の誕生日である7月4日にライブアルバム『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』をリリースする。今作は今年4月に開催された「GACKT PHILHARMONIC 2025」をライブ録音し、音源化した1枚だ。
―4月13日に東京・すみだトリフォニーホールで開催されたロック×オーケストラを融合した「GACKT PHILHARMONIC 2025」をライブ録音し、音源化したアルバム『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』がリリースされます。そもそも、このコンサートはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
GACKT:本当の意味でロックとクラシックオーケストラを融合したコンサートができれば、誰も見たことがない”唯一無二”のモノを作り出せるんじゃないか、と思ったのが1番大きいきっかけだった。12年前に東京フィルハーモニー交響楽団と一緒にやった「華麗なるクラシックの夕べ」は、オーケストラの演奏にボクが乗っかる形でやったんだけど、正直言ってそこでは得るものは少なかった。自分の想像を超える表現に至らなかった。コレだったら別にボクじゃなくても他のアーティストでもできるし、自分がやる必要はないと思って辞めた。ボクがやりたいのはそういうことじゃないって。
─GACKTさんのやりたいこと、というのは?
GACKT:GACKTにしかできないクオリティ・世界観・表現方法をファンのみんなに届けるのが、やっぱりボクのやるべきことだと。ファンの人たちは、いろんな想像を持って会場に足を運ぶわけだよね? 心構えがある。それを”予想”と言うのであれば、その予想を遥かに超えるものを届けないと意味がない。それがボクが創るべき表現。
─融合できていないのは、何が原因なんでしょう?
GACKT:その原因は双方にあって。オーケストラ側はバンドに寄らないし、バンド側もオーケストラ側に寄らない、という問題点がある。つまり隔たりが大きい。バンドはバンドで自分たちが寄せることを考えてないから、「自分たちのステージなんだから、オマエらが乗っかれ」という考え。オーケストラはオーケストラで乗っかるということに対して、”自分たちのやるべきことをやる”というスタンス。要は、双方が「どうやったら一体となって新しい音楽を作れるか?」という考えを持って取り組んでいない。だから、成立しないし続かない。
「GACKT PHILHARMONIC 2025」
楽曲をオーケストラアレンジしたから、それで成立するのかと言うとそうじゃない。例えばオリジナルの楽曲があったとして、その楽曲がクラシックと親和性が高ければアレンジは成立するけど、すべてがクラシックと親和性が高い曲かと言うとそうではない。オリジナルの曲がクラシックと融合するポテンシャルを持っているのか? そこをシビアに考えるところからスタートするべき。ボクの場合は、自分がクラシックの出なのもあるんだろうけど、クラシックと親和性の高い曲が多い。もちろん全部じゃない。クラシックと親和性の高い曲を選んで、そこからさらに絞って今回の13曲に決めたのが、最初の基本的な流れ。そこから「どうやったらオーケストラに、自分たち(YELLOW FRIED CHICKENz)がアンサンブルとして成立できるのか」を突き詰めて考えることが大きな課題だった。単純に音源として成立させられればOKではなくて、実際に生でステージを観に来た人達が「こんな演奏を今まで観たことがないし、こんな音楽を聴いたこともない」と思う表現ができなかったら、ボクがやる意味はない。
─それを形にするのは、相当な時間と労力がかかりますね。
GACKT:だからこそ、過去のロックバンドやポップシンガーにしても、オーケストラが入ってうまくいった事例はないし、そのオーケストラライブを何回もやっているのかっていうと、やっていない。それはどうしてか? 答えは融合できていないから。
―1日の公演のために、30日間のリハーサルということですよね?
GACKT:そう。たった1日のライブで30日のリハーサルなんて、普通はありえない。でも本来はそれぐらいやらないと、オーケストラのアンサンブルに合わない。そもそもオーケストラって、抑揚幅がかなり大きい。それに対してバンドの抑揚幅は少ない。バンドって表現では抑揚をつけたりはするけど、出力ではその幅が全然ない。
─物理的にありえないですよね。
GACKT:それをバンド側も理解してないことが、失敗する一番大きな原因。今回のリハーサルで一番最初にやったのは、ライブ本番でPAがレベルを一切触らなくても成立させるだけのモノを、まずはバンド側で作ること。ステージ上にはアンプも生ドラムを置かずにラインでとって、ドラムはエレドラにして、ステージ上ではバンドの音が一切出てない状況でやる。耳の中だけで音が返る状況を成立させて、バンドやオーケストラも含めて、全員がイヤモニ対応でやる。そうなると、オーケストラは自分たちの演奏を邪魔されずに、クオリティの高いアンサンブルを成立させられる。そして、今度はどうやってボクらがオーケストラの演奏に、アンサンブルとして寄せていけるか。音量の上げ下げを問題にするのではなくて、”聴こえない音だから上げる”という発想ではなくて、一定の出力でも聴こえる音を探す作業を最初にスタジオに入り、すべての音作りを細かくやった。オーケストラというのは、低周域から高周域の幅がかなり広い帯域の中でも、全部の帯域は埋まってはいないんだよ。
──幅は広いけど音に隙間がある。
GACKT:そう、少しずつスポットがある。その埋まってないスポットがどこかを調べて、そのスポットで抜ける音をまずはドラムから作っていく。しかも「ドラム」というまとまった考えではなくて、スネア、バスドラ、タム、フロアタム、シンバル、ハイハットなど、全部の音を一音ずつ作っていく。抜ける音でなおかつ、より自分達が求めている音に近づけていく。そのあとに今度はベースを作って、ギターを作って……という工程を13曲分すべてやる。そこから始まった。今度はオーケストラの要求にバンドがどこまで寄せていけるのか? 通常、基本的にバンドの出力調整はすべてPA任せでやってるわけだよ。それをPAを使わないで1曲ずつイントロ・Aメロ・Bメロ・サビ・ソロ・Bメロ・サビ・アウトロと細かいセクションに全部分けていって、そのセクションごとで同じ音色だったとしても、一つずつの音色の出力を全部細かく設定する。それをテックに覚えてもらって、踏み返してもらうことをして、それをまた13曲分やると。
──先ほどリハーサルに30日間かけたことに驚きましたが、むしろそれだけの作業を30日に収めたことに驚きました。
GACKT:嫌になるほど地道な作業だよ。
──最初からそれぐらいの工程を踏まなければ、GACKTさんの目指している形にならないと思われたのか、やってみてそれが必要だと思ったのかだとどうですか?
GACKT:最初から思っていた。
―だからこそ”トライアル”として挑戦された。
GACKT:これがうまくいけばツアーの開催も考えるし、だけどうまくいかない可能性もかなり高い。そんな状況で「やってみよう」とトライしたんだけど、音に関しては想像以上の出来になったから、リハーサルを1カ月やっただけはあるな、とは思ったよ。ただ、作業量があまりにも多すぎて、気が狂いそうにはなったけど(笑)。
「GACKT PHILHARMONIC 2025」
─当日は2公演のどちらもチケットが即完しました。この結果をどのように受け止められましたか?
GACKT:やはり期待が大きかったんだと思う。ボクの楽曲がかなりクラシック寄りなアプローチをしてることはファンのみんなも理解してるし、そこにオーケストラが乗ったらどれだけすごいことになるんだろう、という”リアル”を感じてみたかったんだと思う。その期待も感じてるからなおさら失敗するわけにいかなかった。実際は、観に来た人達の想像を遥かに超えたんじゃないかな。それは演奏も演出も含めてね。ボクらがオーケストラに歩み寄っている分、オーケストラの人たちにもボクの世界を表現する上で、限りなく歩み寄ってほしいという想いもあった。それで立奏だったり、マスクをつけたり、何かの儀式やミサの中にファンの人たちが間違って飛び込んでしまった、という世界観にしたいと最初から話をしていて。それにそぐわないオーケストラ奏者は全員外して、一緒に新しい表現を作りたい人たちだけで構成したから、なんとか上手くいった感じはする。最初はなかなか難しかったけどね。「座りながらの演奏じゃないと……」みたいな声が出ると、「そう言う人は外してくれ」って、どんどんメンバーを変えていって。そんなことをすると、オーケストラの人たちから嫌われるよ(笑)。
─ふふふ。そもそも立ちながら演奏なんてやったことないですしね。
GACKT:1時間半も立奏で演奏するなんて、オーケストラの人たちからしたら「何を言ってるんだ」って話だよ。でも、それが面白いわけで。例えばゴスペルのコンサートを観に行くと、大人数が歌っているだけなのに、とてつもない立奏のパワーを放っている。それはオーケストラにも絶対に通じる。座って演奏することが当然だと思っているクラシックのファンの人たちが観に来たら、当然ビックリするよ。こんな世界があるんだ、って。知らない人達からすると、凄まじい世界観だと思う。もちろんロックの人たちは、そこまでクラシックに触れてないから、「実際にオーケストラがフィルの上で一緒に演奏すると、こんなすごいことになるんだ」とみんな思ってくれるんじゃないかな。
「GACKT PHILHARMONIC 2025」
──新体験ですよね。
GACKT:そう感じてもらうことが、ボクが一番望んでいるゴール。それによってロックをやってる人やロックにしか興味のない人が、クラシックに興味を持ってくれれば、橋渡しもできるし、音楽シーンも活性化する。同じくクラシックにしか興味のない人たちが、ボクをきっかけにロックに触れて「ロックってすごいんだな」と思ってもらえれば、それも橋渡しになる。そういうことが、今のボクの年齢やキャリアだとやらなきゃいけない事の一つだと思う。ボクは音楽に育ててもらったから、音楽に恩返しをしなきゃいけない立場だと思ってるんだよ。そういう意味では、今回の試みは悪くないのかなって。
―今おっしゃた通り、本コンサートはGACKTさん個人の挑戦に留まらず、表現の可能性や音楽の市場を広げていくお気持ちも大きかったかと思います。
GACKT:音楽マーケットはどこが基盤になるのかと言うと、マーケットの拡大スピードだよね。いかに楽器を演奏したいと思う人たちが増えるか、だと思う。その数が増えれば音楽シーンは絶対に盛り上がる。だって、音楽を聴きたい人の数が減ってるわけじゃないから。音楽マーケットの拡大は、楽器を演奏したい人の数に比例しているんだよ。楽器を演奏したい人が増えれば、その分音楽マーケットは栄える。「こんな音楽が好きだから」だけではなくて、「その楽器が好き」だったらいろんなライブを観に行ったり、いろんな音楽に触れてみようとする機会が増える。そしてプレイヤーが増えるということは、楽器屋も増えるわけで。楽器屋が増えるってことは、音楽市場はより活発的になる。そうすれば経済が回る。経済を回さないと市場は拡大しない。
―点と点を繋いで線を作る、という発想ですね。
GACKT:今一番の問題は、プレイヤーがあまりにも少なくなっているということ。全国の吹奏楽にしてもそう。学校の吹奏楽部がどれだけ減ったのかってことなんだ。そこには少子化の問題もある。でも、それ以上に楽器をやりたいと思ってる人達の数が圧倒的に減ったことが、一番大きな理由。そうすると、マーケットは縮小せざるを得ない。弾ける人たちを見るから、それが憧れになる。そうじゃないと、歌ってる人にしか興味がなくなっちゃうでしょ。そしたらバンドなんて必要なくなる。その悪循環がかなり進行している。
―「日本のプロフェッショナル・ オーケストラ年鑑 2021」を読むと、約147億円程度あった演奏会による収入が63億円程度にまで落ち込んだ、と書かれています。最新の「オーケストラ年鑑2024」でも、まだまだ回復していないことが報告されている。演奏者の収入が落ちると演奏会の機会も減るし、奏者の人口も減っていく。そこはクラシックにとっても大きな課題なのかなと。
GACKT:だと思うよ。コロナの影響もあるし、そもそもクラシックって年配層のお客さんが大きなシェアを占めている。にもかかわらず、今は年配層の観客が会場から遠のいている。でも、それを若い人が補うだけのポテンシャルはある。若い層がもっとクラシックにも興味を持ってもらえるような橋渡しができれば、少しは手助けができる。ボクはクラシックにも育ててもらったし、ロックにも育ててもらった。音楽そのものが自分の人生を彩ってくれたから、自分のできることはやっていきたい。そういう意味で今回の試みは、1つのきっかけになってくれれば、という想いがあった。ただ、成立させられるのかはやってみないと分からない。まずは1回成立させるところまで持って行ってから、次の大きいことを考えようと。
―大きいこと、というのは?
GACKT:「クラシックとロックが合わされば、こういうことができる」と証明できれば、今回一緒にやったフィルを全国に連れて行くのではなく、各地域ごとのフィルとも一緒にやれる。そうすると、そのフィルを支えている人たちの底上げができる。で、ボクらはそれぞれのフィルの人たちに繋げることもできる。これって活性化に繋がるんだよ。それを担う人は誰かを考えると、ボクしかいないよなって。ボクがきっかけで、後追いでやりたいと思ってくれる人や、アーティストが生まれたら、それはそれで面白い市場ができる。ボクはこれ以上、音楽市場が衰退するのを黙って見てられない。もちろんレコード会社にも、大きな問題はあると思うけど。
─レコード会社が抱える音楽市場衰退の問題とは?
GACKT:2000年からプロデューサー時代に突入し、生産性を重視する傾向に入ってしまったことで、マーケット縮小のきっかけを作ったのは否めない事実。バンドを作り上げるのと、プロデューサーがメンバーを選出してグループを作るのを比べて、どちらが時間のかかる作業かって言うと、圧倒的にバンドの方が時間がかかる。バンドって音楽を始めたタイミングで、周りには異常な数のライバルバンドがいて。そのライバルたちと対バンをして、どんどん勝ち抜きになってくい。その中で消えていくバンドの方が圧倒的に多い。でも、そこで勝ち抜いていくからこそ、音楽市場には多くのプレイヤーが存在している。それを飛び越えて、いきなり売れるものを作ろうとするから、無理が生じる。土台がスポッとなくなってしまえば、プレイヤーの人口は大幅に減る。それこそ、ボクは2000年ぐらいから「このままでは絶対に崩壊する」と言っていたこと。
―必要なはずの工程を飛ばして、世に出てしまうわけですね。
GACKT:その後、デジタルミュージックが主流になっていった。生産性や量産性のことだけを考えれば、バンドよりDTMの方が創ることもステージもカネはかからないし、リハーサルも短い時間でできる。スタジオだって踊れるスタジオをメインでやれば、基本的に音が出せなくても大した問題にならない。利益率的に考えたらDTMを中心に音楽をやる方が、音楽業界は儲かる。ただ、それは結果として音楽マーケットの縮小に繋がることを、レコード会社の人たちはきちんと認識するべき。何より20年経ってそのツケが今、回ってきてる。
─四半世紀前から危惧されていたことが、どんどん進んでいる感じはありますよね。
GACKT:まあ、進んでいってるというか「なるべくしてなった」というだけのこと。だって、2000年まで存在していた日本のレコーディングスタジオが、今どれくらい減ったと思う? えらい数だよ。かなりの縮小率だ。しかもスタジオとして持っていた不動産は、スタジオ用に作っているから売ろうとしても買い手がいない。
―他の用途で使えないし、工事をするにしてもお金がかかるから、わざわざ買わないですよね。
GACKT:音楽をやっている人たちからすると、本当にやってられないよね。そうやって自分たちの首を絞めているのは、レコード会社にも大きな問題がある。クオリティよりも生産性を求めてしまうと、結果として大きな代償が自分たちにのしかかってくる。そのことを当時のレコード会社の人達は、分かった上でそうしていたんじゃないかな。
―苦しい状況になると分かっていながら、ですか?
GACKT:レコード会社の人たちもみんな年を食っているし、15年も経ったらいなくなってる人もいっぱいいるから、あまり先のことを考えなくてよかった。今レコード会社にいる人たちは、そのツケを食らってしんどい想いをしているんじゃない?
―GACKTさんの場合、目先のことに囚われない姿勢は楽曲にも表れていますよね。歌詞に関しても、何年経っても曲が古くならないように、流行りの言葉をあえて使わないようにされていますし。消費されない音楽を作り続けることは、初期から意識なさっていたのかなと思います。
GACKT:意識というより、週刊誌的な曲に興味がない。そもそも週刊誌って1回読んだら捨てるよね?
―そうですね。
GACKT:そういうものに興味がないんだよ。”作品”と”商品”って意味が違うと思うから。少なくとも音楽が経済を回す商品になるのは、しょうがないことだと思ってはいる。例えば、CD全盛の時代にボクらがどれだけ作品として作ったものでも、商品として扱われて、CDショップもそれを商品として売るわけで。経済として考えた時に、それはしょうがないことだよ。でも、少なくとも作る側は最初から商品として作っちゃいけないんじゃないか、と思う。それをやると、どんどんクオリティも下がるし、ただただ流行りのモノを作るだけになってしまう。いい言い方をすれば「一時代を作った」って表現になるんだろうけど、ボクはそこに興味がない。それであれば、他のビジネスをやった方が良い。ミリオンセラーが連発したCDバブルの時代ならまだしも、今は商品として音楽を作ることそのものには、あまり利益性がない。それなら他のビジネスをやった方が利益率は高い。音楽を始めた頃からそうだけど、文庫本のような作品を作っていこうという想いのボクと、当時のレコード会社とのジレンマはあった。彼らは「売れる音楽を作って欲しい」という想いがあったから、面倒くさいなとも思っていた。「しょうがないから、1曲だけはこういう曲を……」ということもあったけど、内心は「いちいちうるさいな」と思っていて。
―せめぎ合っていた時代もあった。
GACKT:いろいろあったよ。言いたいことはいっぱいあるけど、でもみんなは仕事としてやってるわけだから。「このジレンマはずっと続くんだろうな」と思いながら「でも、必ずCDが売れなくなるしな」って。「もうすぐ好きなことができる時代が来るな」とか、いろんなこと考えながらやっていた。
―そうしたジレンマの中で、GACKTさんは自身が納得するクオリティの表現を追求されてきました。まさに今回のコンサートもそうだと思うんですけど、実際に形にされてみての手応えはいかがでしたか?
GACKT:トライアルとしてはよかった。自分が思っていた以上のクオリティを出せたから。もっと突き詰めていける気もするし、想いもある。演出的な部分に関して言うと、いろんな規制があったから「もっとこうできるな」「もっとこうした方が面白いな」という構想もある。それは次のツアーを組めたタイミングで表現したい。そもそもボクは、ライブで利益を出したいと思っていないしね。
―アーティストにとっては、ライブも大事なマネタイズだと思いますが、GACKTさんはそうじゃない?
GACKT:ボクの場合は昔からライブにカネをかけて、自分にしかできないことをやっていた。それに当初はレコード会社から、ある程度の制作資金も出してもらえていたでしょ? 時代的にCDも売れていたから。
―先ほど仰った”CDバブル”でしたからね。
GACKT:CDで利益が出せれば、別にライブの売り上げにこだわらなくてもよかった。おそらく他のアーティストも、ライブでそんなに利益が出なくてもCDで利益が出せるから、という考えがあった。でも、今はライブそのものの面白さが失われてきてるのは、ライブで稼ぐことでしか生活ができなくなっているからだよ。ライブに制作費をかけると、収益率が下がってしまって、お金が入ってこない。だからステージにカネをかけられない”もどかしさ”がある。ボクがソロになったのは2000年で、その時点でいずれCDは売れなくなると思っていた。だから別のビジネスをバーッと組み上げて、CDが売れなくても、ライブでカネが入らなくても、自分のやりたいことができればいい状態を作ってきた。
―だからGACKTさんはライブの利益を気にせず、やりたいことがやれていると。
GACKT:赤字になったら続けていけないから、もちろん赤字には絶対しない。ただ、収益性が高いかって言われたらウチはそんな高くない。でも、いいんだよ。自分のやりたいことができてるから。
―表現の質を下げない術としては、めちゃめちゃいい話です。
GACKT:勘違いしてほしくないのは、決して道楽ではなくて、これは使命だと思ってやっている。だって、ボクらが同じ時代に生まれていること自体が奇跡だろ? 同じ時代に生まれて出会うことも奇跡だし、自分の音楽に触れて、しかも足を運ぶことってものすごく確率が低い。そうやって追いかけてくれるファンのみんなに、手抜きをしたステージは届けられない。あと3、40年したらみんないなくなる。同じ時代に生きた証というか出会った証を、ライブで届けている。その想いが次の世代にバトンを渡すきっかけになってくれればいいと思ってやっている。与えられた使命のような感じなんだよ。なんかカッコよく聞こえるけど、それしかない状況から始めたから。自分の存在理由や存在意義を作品に残そう、と思ったところから音楽をやり始めてるから。別に、ボクはカネに困ってないし、カネのためだけにライブをやるとか、そんなのにも興味がない。自分にしかできない世界を作って届けていきたい。そこの表現欲がボクは誰よりも強いから、今もこだわり続けている。
<リリース情報>
GACKT
『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』
2025年7月4日(金)リリース
=収録曲=
1. RETURNER~闇の終焉~
2. 絵夢 ~FOR MY DEAR~
3. CUBE
4. BLUE LAGOON ~深海~
5. REDEMPTION
6. UNTIL THE LAST DAY
7. BIRDCAGE
8. LUST FOR BLOOD
FOUR SEASONS
9. 白露-HAKURO- / 暁月夜 -DAY BREAKERS- / サクラ、散ル…
10. 雪月花 -THE END OF SILENCE-
11. CLAYMORE
12. 君が待っているから
13. LOST ANGELS
Official HP:https://gackt.com/
GACKTは自ら率いるバンド・YELLOW FRIED CHICKENzのメンバーと、グランドフィルハーモニック東京とともに楽曲を披露。ロックとオーケストラを組み合わせた誰も見たことがないステージは、果たしてどのように生まれたのか。そして、GACKTがコンサートに込めた想いとは?
―4月13日に東京・すみだトリフォニーホールで開催されたロック×オーケストラを融合した「GACKT PHILHARMONIC 2025」をライブ録音し、音源化したアルバム『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』がリリースされます。そもそも、このコンサートはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
GACKT:本当の意味でロックとクラシックオーケストラを融合したコンサートができれば、誰も見たことがない”唯一無二”のモノを作り出せるんじゃないか、と思ったのが1番大きいきっかけだった。12年前に東京フィルハーモニー交響楽団と一緒にやった「華麗なるクラシックの夕べ」は、オーケストラの演奏にボクが乗っかる形でやったんだけど、正直言ってそこでは得るものは少なかった。自分の想像を超える表現に至らなかった。コレだったら別にボクじゃなくても他のアーティストでもできるし、自分がやる必要はないと思って辞めた。ボクがやりたいのはそういうことじゃないって。
─GACKTさんのやりたいこと、というのは?
GACKT:GACKTにしかできないクオリティ・世界観・表現方法をファンのみんなに届けるのが、やっぱりボクのやるべきことだと。ファンの人たちは、いろんな想像を持って会場に足を運ぶわけだよね? 心構えがある。それを”予想”と言うのであれば、その予想を遥かに超えるものを届けないと意味がない。それがボクが創るべき表現。
そもそも、過去にも他のアーティストでロックとオーケストラを組み合わせたライブはある。でも、みんな融合できていない。音源では融合してるように聴こえるけど、それはあくまで音源。生じゃない。音源というのは録った素材を、後からミックスして調整するから、それっぽく聴こえるんだけど、実際は生の状況ではほとんど成立してないのが現実。
─融合できていないのは、何が原因なんでしょう?
GACKT:その原因は双方にあって。オーケストラ側はバンドに寄らないし、バンド側もオーケストラ側に寄らない、という問題点がある。つまり隔たりが大きい。バンドはバンドで自分たちが寄せることを考えてないから、「自分たちのステージなんだから、オマエらが乗っかれ」という考え。オーケストラはオーケストラで乗っかるということに対して、”自分たちのやるべきことをやる”というスタンス。要は、双方が「どうやったら一体となって新しい音楽を作れるか?」という考えを持って取り組んでいない。だから、成立しないし続かない。
この間に立つのがアレンジャーだけれども編曲するだけでそもそもそこまで誰も追及しない。

「GACKT PHILHARMONIC 2025」
楽曲をオーケストラアレンジしたから、それで成立するのかと言うとそうじゃない。例えばオリジナルの楽曲があったとして、その楽曲がクラシックと親和性が高ければアレンジは成立するけど、すべてがクラシックと親和性が高い曲かと言うとそうではない。オリジナルの曲がクラシックと融合するポテンシャルを持っているのか? そこをシビアに考えるところからスタートするべき。ボクの場合は、自分がクラシックの出なのもあるんだろうけど、クラシックと親和性の高い曲が多い。もちろん全部じゃない。クラシックと親和性の高い曲を選んで、そこからさらに絞って今回の13曲に決めたのが、最初の基本的な流れ。そこから「どうやったらオーケストラに、自分たち(YELLOW FRIED CHICKENz)がアンサンブルとして成立できるのか」を突き詰めて考えることが大きな課題だった。単純に音源として成立させられればOKではなくて、実際に生でステージを観に来た人達が「こんな演奏を今まで観たことがないし、こんな音楽を聴いたこともない」と思う表現ができなかったら、ボクがやる意味はない。
─それを形にするのは、相当な時間と労力がかかりますね。
GACKT:だからこそ、過去のロックバンドやポップシンガーにしても、オーケストラが入ってうまくいった事例はないし、そのオーケストラライブを何回もやっているのかっていうと、やっていない。それはどうしてか? 答えは融合できていないから。
演奏する本人達が気持ちよくないんだよ。しかも、ファンはそれを如実に感じるし「オリジナルの方が良くない?」となれば本末転倒。何かのイベントとしてやるのならアリかもしれないけど、ツアーでやろうとは思わない。ボクとしても今回のコンサートで、本当の意味でロックとクラシックが融合し、アンサンブルとして成立できれば、今後のツアーを考えられるけど、実際に成立するかどうかはやってみないと分からない。そういうスタートだったから、まずはトライアルとしてやってみようと。やるからには徹底してやろう、という想いが最初からあったから、リハーサルを30日間を設けた。その時点で話がちょっとおかしいでしょ?
―1日の公演のために、30日間のリハーサルということですよね?
GACKT:そう。たった1日のライブで30日のリハーサルなんて、普通はありえない。でも本来はそれぐらいやらないと、オーケストラのアンサンブルに合わない。そもそもオーケストラって、抑揚幅がかなり大きい。それに対してバンドの抑揚幅は少ない。バンドって表現では抑揚をつけたりはするけど、出力ではその幅が全然ない。
実際のライブの演奏で、ギターやベースの音が大きい小さいとなると、PAがそれをフェーダーで上げたり下げたりすることでバランスを取る。でも、そこにオーケストラが入って、リアルの現場でたった1人のPAのエンジニアに、演奏する80人もの音を”誰を上げて誰を下げて”とかを「その場ですぐに対応しろ」と言う方が無理がある。
─物理的にありえないですよね。
GACKT:それをバンド側も理解してないことが、失敗する一番大きな原因。今回のリハーサルで一番最初にやったのは、ライブ本番でPAがレベルを一切触らなくても成立させるだけのモノを、まずはバンド側で作ること。ステージ上にはアンプも生ドラムを置かずにラインでとって、ドラムはエレドラにして、ステージ上ではバンドの音が一切出てない状況でやる。耳の中だけで音が返る状況を成立させて、バンドやオーケストラも含めて、全員がイヤモニ対応でやる。そうなると、オーケストラは自分たちの演奏を邪魔されずに、クオリティの高いアンサンブルを成立させられる。そして、今度はどうやってボクらがオーケストラの演奏に、アンサンブルとして寄せていけるか。音量の上げ下げを問題にするのではなくて、”聴こえない音だから上げる”という発想ではなくて、一定の出力でも聴こえる音を探す作業を最初にスタジオに入り、すべての音作りを細かくやった。オーケストラというのは、低周域から高周域の幅がかなり広い帯域の中でも、全部の帯域は埋まってはいないんだよ。
──幅は広いけど音に隙間がある。
GACKT:そう、少しずつスポットがある。その埋まってないスポットがどこかを調べて、そのスポットで抜ける音をまずはドラムから作っていく。しかも「ドラム」というまとまった考えではなくて、スネア、バスドラ、タム、フロアタム、シンバル、ハイハットなど、全部の音を一音ずつ作っていく。抜ける音でなおかつ、より自分達が求めている音に近づけていく。そのあとに今度はベースを作って、ギターを作って……という工程を13曲分すべてやる。そこから始まった。今度はオーケストラの要求にバンドがどこまで寄せていけるのか? 通常、基本的にバンドの出力調整はすべてPA任せでやってるわけだよ。それをPAを使わないで1曲ずつイントロ・Aメロ・Bメロ・サビ・ソロ・Bメロ・サビ・アウトロと細かいセクションに全部分けていって、そのセクションごとで同じ音色だったとしても、一つずつの音色の出力を全部細かく設定する。それをテックに覚えてもらって、踏み返してもらうことをして、それをまた13曲分やると。
──先ほどリハーサルに30日間かけたことに驚きましたが、むしろそれだけの作業を30日に収めたことに驚きました。
GACKT:嫌になるほど地道な作業だよ。
──最初からそれぐらいの工程を踏まなければ、GACKTさんの目指している形にならないと思われたのか、やってみてそれが必要だと思ったのかだとどうですか?
GACKT:最初から思っていた。
そこまでやらないとアンサンブルとして成立しないだろうな、という仮説を立てて、想像の元で実験のように始めた。だから、今回音源にしてるのは「音源上でいじってバランスを合わせてる」と音楽関係者は思うかもしれないけど、そうじゃない。実際に生で成立している音が、どういうクオリティだったのかを届けたかった。そんな想いで音源化しているから、すごくマニアックな話だけど、これは音楽をやってる人達ですら、ちょっと分からないところもあるんじゃないかな? ましてや一般の方達からしたら「ロックとオーケストラが一緒にやるだけのことで、そんなに難しくないだろ?」と考えると思うんだけど、実際に聴いたらその難しさは簡単に理解できる。「オーケストラは聴こえるけど、バンドの音が聴こえない」とか「バンドの音は聴こえるけど、オーケストラはぐちゃぐちゃになってよく分からない」「ボーカルが聴こえない」とかね。どんどんいろんなフェーダーが大きくなり、最終的には”うるさいだけの音楽”になる。その不快さが結果として表れてしまうから、他の人には継続できない。ボクがやるからには、そこまで追求して誰もできなかったことをやってみたかった。正直、ボクもあくまで仮説を立てて取り組んだから、うまくいくかどうかは、ある種の賭けでもあった。
―だからこそ”トライアル”として挑戦された。
GACKT:これがうまくいけばツアーの開催も考えるし、だけどうまくいかない可能性もかなり高い。そんな状況で「やってみよう」とトライしたんだけど、音に関しては想像以上の出来になったから、リハーサルを1カ月やっただけはあるな、とは思ったよ。ただ、作業量があまりにも多すぎて、気が狂いそうにはなったけど(笑)。

「GACKT PHILHARMONIC 2025」
─当日は2公演のどちらもチケットが即完しました。この結果をどのように受け止められましたか?
GACKT:やはり期待が大きかったんだと思う。ボクの楽曲がかなりクラシック寄りなアプローチをしてることはファンのみんなも理解してるし、そこにオーケストラが乗ったらどれだけすごいことになるんだろう、という”リアル”を感じてみたかったんだと思う。その期待も感じてるからなおさら失敗するわけにいかなかった。実際は、観に来た人達の想像を遥かに超えたんじゃないかな。それは演奏も演出も含めてね。ボクらがオーケストラに歩み寄っている分、オーケストラの人たちにもボクの世界を表現する上で、限りなく歩み寄ってほしいという想いもあった。それで立奏だったり、マスクをつけたり、何かの儀式やミサの中にファンの人たちが間違って飛び込んでしまった、という世界観にしたいと最初から話をしていて。それにそぐわないオーケストラ奏者は全員外して、一緒に新しい表現を作りたい人たちだけで構成したから、なんとか上手くいった感じはする。最初はなかなか難しかったけどね。「座りながらの演奏じゃないと……」みたいな声が出ると、「そう言う人は外してくれ」って、どんどんメンバーを変えていって。そんなことをすると、オーケストラの人たちから嫌われるよ(笑)。
─ふふふ。そもそも立ちながら演奏なんてやったことないですしね。
GACKT:1時間半も立奏で演奏するなんて、オーケストラの人たちからしたら「何を言ってるんだ」って話だよ。でも、それが面白いわけで。例えばゴスペルのコンサートを観に行くと、大人数が歌っているだけなのに、とてつもない立奏のパワーを放っている。それはオーケストラにも絶対に通じる。座って演奏することが当然だと思っているクラシックのファンの人たちが観に来たら、当然ビックリするよ。こんな世界があるんだ、って。知らない人達からすると、凄まじい世界観だと思う。もちろんロックの人たちは、そこまでクラシックに触れてないから、「実際にオーケストラがフィルの上で一緒に演奏すると、こんなすごいことになるんだ」とみんな思ってくれるんじゃないかな。

「GACKT PHILHARMONIC 2025」
──新体験ですよね。
GACKT:そう感じてもらうことが、ボクが一番望んでいるゴール。それによってロックをやってる人やロックにしか興味のない人が、クラシックに興味を持ってくれれば、橋渡しもできるし、音楽シーンも活性化する。同じくクラシックにしか興味のない人たちが、ボクをきっかけにロックに触れて「ロックってすごいんだな」と思ってもらえれば、それも橋渡しになる。そういうことが、今のボクの年齢やキャリアだとやらなきゃいけない事の一つだと思う。ボクは音楽に育ててもらったから、音楽に恩返しをしなきゃいけない立場だと思ってるんだよ。そういう意味では、今回の試みは悪くないのかなって。
―今おっしゃた通り、本コンサートはGACKTさん個人の挑戦に留まらず、表現の可能性や音楽の市場を広げていくお気持ちも大きかったかと思います。
GACKT:音楽マーケットはどこが基盤になるのかと言うと、マーケットの拡大スピードだよね。いかに楽器を演奏したいと思う人たちが増えるか、だと思う。その数が増えれば音楽シーンは絶対に盛り上がる。だって、音楽を聴きたい人の数が減ってるわけじゃないから。音楽マーケットの拡大は、楽器を演奏したい人の数に比例しているんだよ。楽器を演奏したい人が増えれば、その分音楽マーケットは栄える。「こんな音楽が好きだから」だけではなくて、「その楽器が好き」だったらいろんなライブを観に行ったり、いろんな音楽に触れてみようとする機会が増える。そしてプレイヤーが増えるということは、楽器屋も増えるわけで。楽器屋が増えるってことは、音楽市場はより活発的になる。そうすれば経済が回る。経済を回さないと市場は拡大しない。
―点と点を繋いで線を作る、という発想ですね。
GACKT:今一番の問題は、プレイヤーがあまりにも少なくなっているということ。全国の吹奏楽にしてもそう。学校の吹奏楽部がどれだけ減ったのかってことなんだ。そこには少子化の問題もある。でも、それ以上に楽器をやりたいと思ってる人達の数が圧倒的に減ったことが、一番大きな理由。そうすると、マーケットは縮小せざるを得ない。弾ける人たちを見るから、それが憧れになる。そうじゃないと、歌ってる人にしか興味がなくなっちゃうでしょ。そしたらバンドなんて必要なくなる。その悪循環がかなり進行している。
―「日本のプロフェッショナル・ オーケストラ年鑑 2021」を読むと、約147億円程度あった演奏会による収入が63億円程度にまで落ち込んだ、と書かれています。最新の「オーケストラ年鑑2024」でも、まだまだ回復していないことが報告されている。演奏者の収入が落ちると演奏会の機会も減るし、奏者の人口も減っていく。そこはクラシックにとっても大きな課題なのかなと。
GACKT:だと思うよ。コロナの影響もあるし、そもそもクラシックって年配層のお客さんが大きなシェアを占めている。にもかかわらず、今は年配層の観客が会場から遠のいている。でも、それを若い人が補うだけのポテンシャルはある。若い層がもっとクラシックにも興味を持ってもらえるような橋渡しができれば、少しは手助けができる。ボクはクラシックにも育ててもらったし、ロックにも育ててもらった。音楽そのものが自分の人生を彩ってくれたから、自分のできることはやっていきたい。そういう意味で今回の試みは、1つのきっかけになってくれれば、という想いがあった。ただ、成立させられるのかはやってみないと分からない。まずは1回成立させるところまで持って行ってから、次の大きいことを考えようと。
―大きいこと、というのは?
GACKT:「クラシックとロックが合わされば、こういうことができる」と証明できれば、今回一緒にやったフィルを全国に連れて行くのではなく、各地域ごとのフィルとも一緒にやれる。そうすると、そのフィルを支えている人たちの底上げができる。で、ボクらはそれぞれのフィルの人たちに繋げることもできる。これって活性化に繋がるんだよ。それを担う人は誰かを考えると、ボクしかいないよなって。ボクがきっかけで、後追いでやりたいと思ってくれる人や、アーティストが生まれたら、それはそれで面白い市場ができる。ボクはこれ以上、音楽市場が衰退するのを黙って見てられない。もちろんレコード会社にも、大きな問題はあると思うけど。
─レコード会社が抱える音楽市場衰退の問題とは?
GACKT:2000年からプロデューサー時代に突入し、生産性を重視する傾向に入ってしまったことで、マーケット縮小のきっかけを作ったのは否めない事実。バンドを作り上げるのと、プロデューサーがメンバーを選出してグループを作るのを比べて、どちらが時間のかかる作業かって言うと、圧倒的にバンドの方が時間がかかる。バンドって音楽を始めたタイミングで、周りには異常な数のライバルバンドがいて。そのライバルたちと対バンをして、どんどん勝ち抜きになってくい。その中で消えていくバンドの方が圧倒的に多い。でも、そこで勝ち抜いていくからこそ、音楽市場には多くのプレイヤーが存在している。それを飛び越えて、いきなり売れるものを作ろうとするから、無理が生じる。土台がスポッとなくなってしまえば、プレイヤーの人口は大幅に減る。それこそ、ボクは2000年ぐらいから「このままでは絶対に崩壊する」と言っていたこと。
―必要なはずの工程を飛ばして、世に出てしまうわけですね。
GACKT:その後、デジタルミュージックが主流になっていった。生産性や量産性のことだけを考えれば、バンドよりDTMの方が創ることもステージもカネはかからないし、リハーサルも短い時間でできる。スタジオだって踊れるスタジオをメインでやれば、基本的に音が出せなくても大した問題にならない。利益率的に考えたらDTMを中心に音楽をやる方が、音楽業界は儲かる。ただ、それは結果として音楽マーケットの縮小に繋がることを、レコード会社の人たちはきちんと認識するべき。何より20年経ってそのツケが今、回ってきてる。
─四半世紀前から危惧されていたことが、どんどん進んでいる感じはありますよね。
GACKT:まあ、進んでいってるというか「なるべくしてなった」というだけのこと。だって、2000年まで存在していた日本のレコーディングスタジオが、今どれくらい減ったと思う? えらい数だよ。かなりの縮小率だ。しかもスタジオとして持っていた不動産は、スタジオ用に作っているから売ろうとしても買い手がいない。
―他の用途で使えないし、工事をするにしてもお金がかかるから、わざわざ買わないですよね。
GACKT:音楽をやっている人たちからすると、本当にやってられないよね。そうやって自分たちの首を絞めているのは、レコード会社にも大きな問題がある。クオリティよりも生産性を求めてしまうと、結果として大きな代償が自分たちにのしかかってくる。そのことを当時のレコード会社の人達は、分かった上でそうしていたんじゃないかな。
―苦しい状況になると分かっていながら、ですか?
GACKT:レコード会社の人たちもみんな年を食っているし、15年も経ったらいなくなってる人もいっぱいいるから、あまり先のことを考えなくてよかった。今レコード会社にいる人たちは、そのツケを食らってしんどい想いをしているんじゃない?
―GACKTさんの場合、目先のことに囚われない姿勢は楽曲にも表れていますよね。歌詞に関しても、何年経っても曲が古くならないように、流行りの言葉をあえて使わないようにされていますし。消費されない音楽を作り続けることは、初期から意識なさっていたのかなと思います。
GACKT:意識というより、週刊誌的な曲に興味がない。そもそも週刊誌って1回読んだら捨てるよね?
―そうですね。
GACKT:そういうものに興味がないんだよ。”作品”と”商品”って意味が違うと思うから。少なくとも音楽が経済を回す商品になるのは、しょうがないことだと思ってはいる。例えば、CD全盛の時代にボクらがどれだけ作品として作ったものでも、商品として扱われて、CDショップもそれを商品として売るわけで。経済として考えた時に、それはしょうがないことだよ。でも、少なくとも作る側は最初から商品として作っちゃいけないんじゃないか、と思う。それをやると、どんどんクオリティも下がるし、ただただ流行りのモノを作るだけになってしまう。いい言い方をすれば「一時代を作った」って表現になるんだろうけど、ボクはそこに興味がない。それであれば、他のビジネスをやった方が良い。ミリオンセラーが連発したCDバブルの時代ならまだしも、今は商品として音楽を作ることそのものには、あまり利益性がない。それなら他のビジネスをやった方が利益率は高い。音楽を始めた頃からそうだけど、文庫本のような作品を作っていこうという想いのボクと、当時のレコード会社とのジレンマはあった。彼らは「売れる音楽を作って欲しい」という想いがあったから、面倒くさいなとも思っていた。「しょうがないから、1曲だけはこういう曲を……」ということもあったけど、内心は「いちいちうるさいな」と思っていて。
―せめぎ合っていた時代もあった。
GACKT:いろいろあったよ。言いたいことはいっぱいあるけど、でもみんなは仕事としてやってるわけだから。「このジレンマはずっと続くんだろうな」と思いながら「でも、必ずCDが売れなくなるしな」って。「もうすぐ好きなことができる時代が来るな」とか、いろんなこと考えながらやっていた。
―そうしたジレンマの中で、GACKTさんは自身が納得するクオリティの表現を追求されてきました。まさに今回のコンサートもそうだと思うんですけど、実際に形にされてみての手応えはいかがでしたか?
GACKT:トライアルとしてはよかった。自分が思っていた以上のクオリティを出せたから。もっと突き詰めていける気もするし、想いもある。演出的な部分に関して言うと、いろんな規制があったから「もっとこうできるな」「もっとこうした方が面白いな」という構想もある。それは次のツアーを組めたタイミングで表現したい。そもそもボクは、ライブで利益を出したいと思っていないしね。
―アーティストにとっては、ライブも大事なマネタイズだと思いますが、GACKTさんはそうじゃない?
GACKT:ボクの場合は昔からライブにカネをかけて、自分にしかできないことをやっていた。それに当初はレコード会社から、ある程度の制作資金も出してもらえていたでしょ? 時代的にCDも売れていたから。
―先ほど仰った”CDバブル”でしたからね。
GACKT:CDで利益が出せれば、別にライブの売り上げにこだわらなくてもよかった。おそらく他のアーティストも、ライブでそんなに利益が出なくてもCDで利益が出せるから、という考えがあった。でも、今はライブそのものの面白さが失われてきてるのは、ライブで稼ぐことでしか生活ができなくなっているからだよ。ライブに制作費をかけると、収益率が下がってしまって、お金が入ってこない。だからステージにカネをかけられない”もどかしさ”がある。ボクがソロになったのは2000年で、その時点でいずれCDは売れなくなると思っていた。だから別のビジネスをバーッと組み上げて、CDが売れなくても、ライブでカネが入らなくても、自分のやりたいことができればいい状態を作ってきた。
―だからGACKTさんはライブの利益を気にせず、やりたいことがやれていると。
GACKT:赤字になったら続けていけないから、もちろん赤字には絶対しない。ただ、収益性が高いかって言われたらウチはそんな高くない。でも、いいんだよ。自分のやりたいことができてるから。
―表現の質を下げない術としては、めちゃめちゃいい話です。
GACKT:勘違いしてほしくないのは、決して道楽ではなくて、これは使命だと思ってやっている。だって、ボクらが同じ時代に生まれていること自体が奇跡だろ? 同じ時代に生まれて出会うことも奇跡だし、自分の音楽に触れて、しかも足を運ぶことってものすごく確率が低い。そうやって追いかけてくれるファンのみんなに、手抜きをしたステージは届けられない。あと3、40年したらみんないなくなる。同じ時代に生きた証というか出会った証を、ライブで届けている。その想いが次の世代にバトンを渡すきっかけになってくれればいいと思ってやっている。与えられた使命のような感じなんだよ。なんかカッコよく聞こえるけど、それしかない状況から始めたから。自分の存在理由や存在意義を作品に残そう、と思ったところから音楽をやり始めてるから。別に、ボクはカネに困ってないし、カネのためだけにライブをやるとか、そんなのにも興味がない。自分にしかできない世界を作って届けていきたい。そこの表現欲がボクは誰よりも強いから、今もこだわり続けている。
<リリース情報>

GACKT
『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』
2025年7月4日(金)リリース
=収録曲=
1. RETURNER~闇の終焉~
2. 絵夢 ~FOR MY DEAR~
3. CUBE
4. BLUE LAGOON ~深海~
5. REDEMPTION
6. UNTIL THE LAST DAY
7. BIRDCAGE
8. LUST FOR BLOOD
FOUR SEASONS
9. 白露-HAKURO- / 暁月夜 -DAY BREAKERS- / サクラ、散ル…
10. 雪月花 -THE END OF SILENCE-
11. CLAYMORE
12. 君が待っているから
13. LOST ANGELS
Official HP:https://gackt.com/
編集部おすすめ