フジロック出演も決まったリトル・シムズ(Little Simz)の最新アルバム『Lotus』が話題を集めている。UKチャート初登場3位を獲得した本作で、UKラップシーンの頂点に立つカリスマは、「パートナーシップの終焉」という痛みを黄金に生まれ変わらせた。


子どもの頃から、シンビアトゥ・アジカウォは不忠誠に対する耐性が低かった。彼女の高く評価されてきたディスコグラフィには、裏切り者(スネーク)を非難する辛辣なリリックがたびたび登場する。彼女は11歳のとき、姉に連れられてBBCのRadio 1 Xtraでラップした際にすでにこうスピットしていた。〈私はリトル・シムズ、トレンドを作る/嘘つきは嫌い/偽りの友達は大嫌い〉

リトル・シムズとしての本格的なブレイクは、そのずっと後になって訪れた。2018年の『Grey Area』でイギリスの権威あるマーキュリー賞にノミネートされ、さらに2021年の『Sometimes I Might Be Introvert』でついに受賞を果たす。その後に発表した『No Thank You』では、表面上は順調に成功しているように見えた音楽業界を、はるかに暗く消耗的な場所として告発した。

インフロー(Inflo)──アデルやタイラー・ザ・クリエイターからも起用され、リトル・シムズや妻のクレオ・ソルとともに謎めいたコレクティブ「SAULT」を形作ってきた音楽プロデューサーは、シムズによる直近3作のアルバムを手がけてきた。シムズはインフローとのクリエイティブなパートナーシップを公然と誇りにしており、その絆は彼女が9歳の頃から築き始めたものだった。ところが今年3月、ガーディアン紙は彼女がインフロー(本名ディーン・ジョサイア・カヴァー)を提訴したと報じた。訴えによれば、インフローは220万ドル(約3億円)の貸付金の返済を怠ったとされている。その一部は2023年に行われたSAULT唯一のライブ公演の費用に充てられていたという。シムズは、この貸付金が返済されなかったことで納税資金を確保できなくなり、税務上のペナルティも科されたと主張している。


〈なぜ奪うの? なぜ血を流して隠れるの?〉──『Lotus』の冒頭を飾る衝撃的なオープニング曲「Thief」で、シムズはこうラップする。これは彼女にとって6作目のアルバムであり、インフロー抜きでは7年ぶりの作品となる。〈なぜあなたは、自分を傷つけた人間たちのルールブックを手に取り、それを人生の指針にするの?/今ここで抜け出せて私は運が良かった。でも残念。あなたの奥さんが本当に気の毒ね〉。楽曲は90年代のグランジのように荒々しくうねり、シムズはまさに容赦ない。ケンドリック・ラマーが放ったドレイクへの壮絶なディス「Euphoria」にも通じる不気味な威圧感を放っている。

インフローとの決裂が公になり、それを『Lotus』で真正面から扱っていることによって、この作品は彼女のキャリアの中でもひときわ個人的な作品となっている。これまでのどの作品よりも、彼女の肌の中に入り込んで生きているような感覚を聴き手に与えるのだ。「Blood」では、兄妹の喧嘩を描きながら英国のラッパー仲間Wretch 32とマイクリレーを繰り広げる中で、シムズは彼に〈真実を込み入った詩的表現の下に隠すな〉と告げる。これは彼女自身が真実を飾り立てずにさらけ出す姿勢を、メタ的に示している。『Lotus』が優れたアルバムである理由の一つは、「Thief」や「Blood」のような楽曲が居心地の悪さを伴って響くからだ。
それはまるで、高速道路脇の凄惨な事故を目撃しつつも、むしろ生を実感してしまうような感覚に近い。幼い頃からの友情が崩壊したその後、『Lotus』は「本当に成長すること」に伴う痛みと知恵に捧げる、厳粛なオード(頌歌)となっている。

泥の中から咲く──リトル・シムズが描く「再生」と「勝利」

『Lotus』が優れたアルバムであるもう一つの理由は、その豊かな音の層と広がりを持つプロダクションにある。この状況下でアルバムを完成させたこと自体が、痛快な勝利と言えるだろう。「Lonely」では彼女が不安を吐露する。〈ひとりでアルバムを作るのは、あらゆる疑念に立ち向かうこと/いつもは[名前の部分に検閲のビープ音が入る]と一緒に作ってたけど、私ひとりでできるの?〉

だが、新たなプロデューサーであるマイルズ・クリントン・ジェームズのもとで、アルバム全体のインストゥルメンタルは粒立ちが良く、繊細でありながらむき出しの質感をたたえている。「Thief」「Flood」「Young」「Enough」「Lotus」では無骨なロックが鳴り、「Lonely」「Free」ではジャジーなR&Bが展開される。「Peace」はシンプルなアコースティック、「Hallow」は柔らかなオーケストラの嘆き、「Lion」ではヴィンテージ感漂うアフロビート、「Only」では軽やかなボサノヴァが彩りを加える。『Lotus』が楽しげに響くとき、それは自然体であり、重々しく響くときにも決して大仰ではない。このアルバムには、インフロー、クレオ・ソル、そしてほとんどが匿名のコラボレーターによって構成されたSAULTとの過去作に漂っていた、あの軽やかで優しいエッセンスも引き継がれている。しかしその類似点は、シムズ自身がそのサウンドの進化においていかに不可欠な存在だったかを、彼女自らが主張しているようにも感じられる。

リトル・シムズが苦労の末に手にした自己肯定感は、アルバム全体に力強く脈打っている。
彼女の最良のラップの多くは困難を経て花開いた──そもそも「蓮(Lotus)」とは、泥の中から花を咲かせる植物だ。〈私の思考は教科書みたいなもの、誰でも学ぶことができる/卒業証書がなくてもね〉と、彼女は「Blue」でラップする。そこでは貧困、投獄、家族、死といったテーマを思いやりをもって静かだが執拗に見つめるフローが続く。「Free」は特に心を打つ知恵の宝庫だ。愛とは何かを描く巧妙な第1ヴァースと、それを脅かす恐れについて語る第2ヴァースが、繊細な伏線をもって見事に構成されている。

『Lotus』でシムズは、被害者であり生存者としてラップしているが、それと同時に人間という存在がいかに困難に満ちているかについて、加害者に対してさえ共感を寄せている。その苦しみを彼女も認めているのだ。〈あなたが欠点のない人だとは思ってない/でも、根は善良な人だと思ってた〉と、彼女は「Hallow」で吐露する。そして「Thief」でも述べた考えを、ここで改めて強調する──本当に必要なのは、自分の内側での解決なのだと。〈私は自分を許そうとしている/癒されるためにあなたを許す必要はない〉と彼女は歌う。

From Rolling Stone US.

リトル・シムズ『Lotus』徹底解説 友情の決裂を経て、孤高のラッパーが勝ち取った傑作

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リトル・シムズ『Lotus』徹底解説 友情の決裂を経て、孤高のラッパーが勝ち取った傑作

FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※リトル・シムズは7月27日(日)出演
公式サイト:https://fujirockfestival.com
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