【写真ギャラリー】『マリオカート』歴代タイトル進化の軌跡
「ウェルカム・トゥ・マーリオカート!」
これは1996年に発売された『マリオカート64』のスタート画面で、マリオがチープなイタリア訛りで叫ぶおなじみのセリフだ。
誰かに「一番好きなマリオカートはどれ?」と尋ねれば、大抵は自分が子どもの頃に遊んでいた作品を挙げるだろう。スーパーファミコン時代の指が痛くなるほど熱中した初代から、2017年の『マリオカート8 デラックス』の豪華絢爛な内容まで、どの作品にもそれぞれの世代のノスタルジーが詰まっている。マリオカートというゲームは、たとえブラウン管テレビの4人対戦であろうと、通学途中のバスの中でのプレイであろうと、「あと1回だけ」とつい手を伸ばしてしまう中毒性を持っている。
このシリーズも紆余曲折を経てきた。1992年の『スーパーマリオカート』からNINTENDO64版への飛躍的な進化、さらに2003年のゲームキューブ版『ダブルダッシュ!!』への進化を経たあと、シリーズはしばらく大きな進歩を見せることなく足踏みを続けた。もちろん、各ハード世代ごとに性能は少しずつ向上し、携帯機版も据え置き機に追いつくよう進化はしてきたが、「マリオカートとは何か」という根本的な部分に革新をもたらした作品はごくわずかだった。
とはいえ、このシリーズに「駄作」と呼べる作品は実際のところ存在しない。他のマリオ系スピンオフ作品が時に迷走してしまうことがあった一方で(君のことだよ、マリオパーティ)、マリオカートは任天堂の看板レーシングゲームとして、安定して走り続けてきた。
とはいえ、レースである以上、順位はつけなければならない。
12位
『マリオカート ライブ ホームサーキット』
Nintendo Switch(2020年)

©︎Nintendo
マリオカートのカオスっぷりにイライラさせられることはあっても、少なくともゲーム自体が自分を傷つけることはない(兄弟姉妹は別だが)──これまではそうだった。その常識を覆したのが『マリオカート ライブ ホームサーキット』だ。2020年に発売されたこの作品は、プレイヤーのリビングルームをリアルなコースに変えてしまう複合現実型のリモコンカーレースゲームである。
RCカー(購入するセットによってマリオかルイージのどちらかが搭乗している)の上部にカメラが搭載されており、そのカメラの映像がNintendo Switchにリアルタイムで映し出される。その映像の上にバーチャルのキャラクターやアイテム、レースアクションが重ねて表示され、まさに現実とゲームが融合したプレイ体験となる。ゲーム内容としては、メインシリーズほどのボリュームはないものの、マリオカートらしさはしっかり味わえる仕上がりになっている。ただし問題は、RCカーの操作にはかなりのスペース(あるいは物が少ない環境)が必要になる点だ。アイデア自体は面白く、優れた玩具ではあるが、マリオカートのレースが白熱してくるときに、勝利を目前にして犬や親にぶつかって台無しになるのは誰も望んでいないだろう。
11位
『マリオカート ツアー』
Android/iOS(2019年)

©︎Nintendo
長年にわたり、自社IPを自社の携帯機に独占させることでモバイルゲームの収益に背を向けてきた任天堂だったが、2010年代半ばについに方針を転換し、iOS/Android向けに『Pokémon Go』(2016年)などの作品で収益化に乗り出した。そして2019年、ついに『マリオカート ツアー』でレーシングゲーム市場にも参入することになった。
モバイルゲームらしく、『マリオカート ツアー』は元々シンプルなマリオカートをさらに簡略化した内容となっており、操作は基本的にタッチによるハンドル操作のみ。
10位
『マリオカート アドバンス』
ゲームボーイアドバンス(2001年)

©︎Nintendo
マリオカートシリーズは90年代、スーパーファミコンやNINTENDO64でその地位を確立したが、2001年に『マリオカート アドバンス』がゲームボーイアドバンス向けに登場するまでは、家庭用ハード専用のシリーズだった。初代ゲームボーイよりもはるかに高性能だったGBAは、1992年のオリジナル作のピクセルアートを再現するだけでなく、キャラクターや背景のアニメーションをより細かく、滑らかに描き出すことができた。とはいえ、その意欲的な試みに対して、結果は今ひとつだった。
メインシリーズの中でも、『アドバンス』は正直、最もプレイ感が悪い。最初は意外にも直感的に操作できるように感じるのだが、その感触はすぐに打ち消される。というのも、描画距離が短すぎてコース先の状況を把握するのが難しく、とりわけ急カーブではその影響が顕著だからだ。
9位
『マリオカート アーケードグランプリ』/『アーケードグランプリ2』/『アーケードグランプリDX』/『アーケードグランプリVR』
アーケード(2005年~2017年)

©︎Nintendo
任天堂は1980年代にアーケード業界の強豪として名を馳せたが、ファミコンの登場によって家庭用ゲームの雄としての地位を確立していった。そうした経緯もあり、近年の任天堂のアーケード作品はごくわずかだが、マリオカートはその例外となっている──それもそのはず。アーケードこそ、レーシングゲームを最も没入感たっぷりに体験できる場なのだから。傾斜のついたレーシングシート、アクセルペダル、そしてもちろんハンドルを備えた筐体が、特別な体験を提供してくれる。
『マリオカート アーケードグランプリ』(2005年)、『アーケードグランプリ2』(2007年)、『アーケードグランプリDX』(2013年)、『アーケードグランプリVR』(2017年)の計4作にわたり、任天堂はアーケードの雄・バンダイナムコと手を組み、マリオカートをコイン投入型ゲームとして展開した。その出来はというと──まあ、マリオカートそのものだ。各バージョンごとに、フォトブース機能や一人称視点のVRレースといった技術的ギミックは導入されているものの、基本的には本編よりやや簡略化された内容で、例えば周回数を2周に減らすなどテンポを早めた作りになっている。その分、アトラクション的な新鮮さがウリとなっている。2人対戦では隣同士に座ってプレイするが、実のところ一番盛り上がるのは、そもそもこの筐体をどこかで発見できたときだろう。大抵の場合、地元のショッピングモールのゲームセンターなどで偶然見かける程度だからだ。
8位
『スーパーマリオカート』
スーパーファミコン(1992年)

©︎Nintendo
ゲームというメディアの面白いところは、映画などと違って「オリジナル=最高」とは限らないことだ。続編や改良を重ねるごとに良くなるケースが多く、それは新たなハードによって、当初のアイデアが技術の進化に伴いようやく実現できるようになるからでもある。もちろん常にそうとは限らないが、『スーパーマリオカート』の場合はまさにその典型だ。
1992年にスーパーファミコン向けに登場した『スーパーマリオカート』は、当時としては最先端の技術を駆使し、すべて2Dのスプライト素材を使いながらも立体感のあるレーストラックを再現した。キャラクターはピクセルアートの紙人形のように、固定された視点の仮想空間内を走っていく。本作はカートレースというジャンルを一般化させた作品とされており、それは事実だ。今プレイし直すと「ここから始まったのか」と新鮮さを感じるものの、さまざまなシステムや細かな作りは、早くも次回作で大幅に改良されることになる。それでも、古典は古典だ。
特に興味深く、そして今見ると少々奇妙に映るのは、画面分割の仕様だ。レース画面は画面上半分に集約され、下半分はコース全体を俯瞰で映し出すマップ専用エリアとなっている。皮肉なことに、このレイアウトは後のDSや3DSといった二画面ハードで採用されるデュアルスクリーン形式を先取りしていたとも言えるだろう。
7位
『マリオカートWii』
Wii(2008年)

©︎Nintendo
初期作品で育った世代より少し若い世代にとって、『マリオカートWii』はシリーズ初体験となった作品だったかもしれない。
とはいえ、決して駄作ではない。24人ものキャラクターと32コースを収録し、新たなキャラクターやロケーションも豊富でボリューム感は十分。ニンテンドーDS版に続き、オンライン対戦にも対応していた。大学の寮などで友人たちと遊ぶにはまさに最適な一本で、結果として3700万本以上を売り上げ、当時としてはシリーズ最高の販売本数を記録。マリオカートの世界的人気を決定づけた作品となった。
6位
『マリオカート7』
ニンテンドー3DS(2011年)

©︎Nintendo
シリーズ中でも中庸な立ち位置の一作が、2011年の『マリオカート7』だ。ニンテンドー3DSという、今振り返るとやや奇妙なハード(小型のデュアルスクリーンにステレオスコピック3Dを搭載し、没入感──という名の頭痛──を演出する端末)向けに、シリーズは再び携帯機へと戻ってきた。『マリオカートWii』での原点回帰の後に登場した本作は、基本的には大きな革命がないまま、3DS独自の3D表現以外は既存路線の延長に感じられる。
新要素としては、カートがハンググライダーで滑空したり、水中を走行したりできるようになり、コース設計の幅が広がった(これらの要素は次作でも引き継がれていく)。
5位
『マリオカート64』
NINTENDO64(1996年)

©︎Nintendo
もしあなたが「なんとなく年寄り扱いされる世代」(たとえば1980年代生まれ)なら、『マリオカート64』には特別なノスタルジーを感じるだろう。1996年にNINTENDO64向けに発売されたシリーズ第2作は、マリオカートにとって初めての本格的な3D化への大きな一歩となった──厳密には「ほぼ」だが。背景やアイテムブロック(例の虹色のブロック)などはポリゴンによる3Dレンダリングだが、キャラクターや武器は潰れた2Dスプライトを視点に合わせて歪ませることで奥行きを演出している。当時、たとえば『リッジレーサー』などは本格的にフル3Dへ舵を切っていたが、任天堂は『マリオカート64』であえて別のアプローチを選び、それが今なお独特の魅力を放っている。
本作では、今やシリーズの定番となった数々の新要素が初登場した。たとえば、画面分割によるマルチプレイ、ドリフトやスリップストリームによる加速、キャラクターを単なる色違いではなく重量級・軽量級といったクラス分けにしたシステムなどがある。そして何より、この作品が世界に初めて「青甲羅」をもたらした──先頭のプレイヤーを正確に狙い撃ちするあの忌まわしいアイテムであり、30年近くにわたって世界中のプレイヤーの心を打ち砕き続けている。本当に、あれだけは許せない。
4位
『マリオカートDS』
ニンテンドーDS(2005年)

©︎Nintendo
『スーパーマリオカート アドバンス』のフラストレーションを経て登場した、携帯機版マリオカートの第2弾はまさに救世主のような存在だった。2005年にニンテンドーDS向けに発売された『マリオカートDS』は、2001年のゲームキューブ版で向上した3D表現と、初期作品のクラシックな感触の中間をうまく取った仕上がりとなっていた。ある意味で、『マリオカートDS』こそがシリーズの基礎デザインを確立した作品と言えるだろう。以前の作品はそれぞれ独自の美学や操作感を持っていたが、本作以降のシリーズはほぼこの延長線上にある。今あらためて『マリオカートDS』をプレイすれば、現在のシリーズの感触がどこから始まったのかがよく分かるはずだ。
もちろん完璧ではなかった。ビジュアルは当時としては十分に健闘していたが、全体的に動きはカクカクしており、さらに「ラバーバンドAI」(負けているCPUが突然追いついてくる救済処理)がシリーズでも最悪レベルで目立った。しかし、堅実なゲームシステムに加え、シリーズ初のオンライン対戦対応作でもあった本作は、やはり高評価に値する一作となっている。
3位
『マリオカート ダブルダッシュ!!』
ゲームキューブ(2003年)

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シリーズ第4作となる本作も、今や成人できるほどの歳月が経ったが、『ダブルダッシュ!!』はいまなお任天堂ファンの間で高く評価されている。あまり報われなかったゲームキューブ向けに発売された本作は、シリーズの基本フォーマットを大きく変えた、ほぼ唯一の作品と言っていいだろう。1台のカートに1人ではなく2人のキャラクターを乗せ、ボブスレーのように役割を切り替えながら走るシステムが採用された。重量クラスの違う組み合わせも含め、コンビを選ぶ楽しさがあり、2人協力プレイ時は、ひとりが運転を担当し、もうひとりがアイテム使用を担当する役割分担も用意されていた。
2人乗りという仕組みに合わせて、ダブルアイテムブロックも新たに導入され、一度に2つのアイテムを保持できるようになった。これにより、どのタイミングでどの攻撃を仕掛けるか、より戦略的な駆け引きが可能になった。その後のシリーズは基本に立ち返り、再び1人乗りスタイルに戻ったが、ダブルアイテムブロックの仕組みだけは今でも継承されている。些細な変更に見えて、実は非常に大きな違いだった。それまで熟練プレイヤーだけが知っていた「防御用の甲羅やバナナを持ったまま次のアイテムを取る」という裏技的テクニックを、誰でも使える基本仕様として取り入れたことで、初心者でも公平に戦いやすくなったのだ。
2位
『マリオカート8』『マリオカート8 デラックス』
Wii U(2014年)/Nintendo Switch(2017年)

©︎Nintendo
つい最近まで『マリオカート8』とそのデラックス版は、シリーズ最高傑作の座をほぼ確実に手に入れていたはずだった。歴代作品の優れたデザイン要素をすべて詰め込み、膨大なキャラクターとコースを収録した本作は、まさに「マリオカートのグレイテスト・ヒッツ」と言える内容だ。
2014年に登場したシリーズ第8作は、残念ながらWii Uという一般にはほとんど知られていなかったハードで発売されたため、当初は大きな注目を集めることができなかった。しかし任天堂の苦境のまま終わることはなく、2017年にデラックス版として、はるかに成功したNintendo Switchで再リリースされた。オリジナル版の時点ですでに膨大なコンテンツを詰め込んでいたが、デラックス版ではさらに追加要素が加えられ、複数回にわたるダウンロードコンテンツの配信により、プレイアブルキャラクターは当時のシリーズ最多となる42人に、コースは驚異の96コースにまで拡充された。
マリオカートの核となる体験としては、これに匹敵する作品はなかなかない。シリーズのゲームプレイシステムすべての到達点であり、あらゆる世代のプレイヤーにとって新しさと懐かしさの両方を兼ね備えている作品だ。とはいえ、もはやこれがシリーズの頂点というわけではない。
1位
『マリオカート ワールド』
Nintendo Switch 2(2025年)

©︎Nintendo
何らかの地殻変動でも起きない限り、『マリオカート8 デラックス』を超えるのはほぼ不可能だと思われた。しかし、任天堂はそうした期待を超える挑戦を好む。新型ハード・Nintendo Switch 2のローンチタイトルとして登場した『マリオカート ワールド』は、単にコース数を増やすだけでなく、レースそのものをコースの外へと飛び出させ、自由に探索可能な”相互接続型”マップというこれまでにない野心的なスタイルへと進化を遂げた。
「フリーローム」モードでは、プレイヤーは世界中の複数のエリアを自由に走り回り、グランプリに一切触れずとも、何百ものチャレンジ、コレクション要素、シークレットを発見できる。一方でレースが始まれば、各コースは広大な地形の中に巧みに編み込まれており、これまでにない没入感のある体験が味わえる。グランプリでは、各カップがマップ上で地理的に繋がったコース群で構成される仕組みとなり、特に真価を発揮するのが「ノックアウトツアー」だ。これはバトルロイヤル風の新モードで、24人のプレイヤーがエリア間も含めて繋がった巨大マップ上を生き残りをかけてレースし、各ラウンドごとに最下位のプレイヤーが脱落していく。
ゲームプレイ自体はこれまで通り親しみやすいが、新要素として「チャージジャンプ」や「ウォールラン」などの新トリックが導入され、プレイヤーは新たな戦術で優位に立つことができる。24人対戦に対応するため、コース自体もより広大かつ壮大に設計され、分岐ルートや幅広いレーンによって各所で小さな混沌が生まれる作りになっている。それはまるで、子供向けにアレンジされた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のクライマックスシーンを手のひらの上で再現しているかのようだ。
マリオカートは、少しの工夫でも十分に楽しいゲームになる。しかし、価値観の再定義と大胆な野心によって、任天堂はついにシリーズ最高傑作を生み出してみせたのである。
From Rolling Stone US.