CLAN QUEENの2ndフルアルバム『NEBULA』は、AOi(Gt.)いわく、「知ること」についてのアルバムであり、その対象は、「自己」、または、「自分らしさ」である。自分は何者なのだろうか。
自分の役割は何なのだろうか。自分がこの世界に生きる意味とは何なのだろうか。極めて普遍的な問いであると思う。今作は、3人自身が、自分らしさ、CLAN QUEENらしさを、絶え間なく問い続けた思考の日々の美しき結実であり、同時に、一人ひとりのリスナーに対しても、絶えず思考を促す作品となっている。なぜ3人は、このタイミングで極めて内省的な作品を作り上げたのか。そして、自分自身についての理解を深めた3人は、今後、何を目指し、どこへ向かっていくのか。今回のアルバム『NEBULA』は、AOiが描く壮大なマスタープランの一部、偉大なる通過点にすぎない。『NEBULA』の制作プロセス、そして、CLAN QUEENの中長期的なビジョンを、3人に語ってもらった。

ー今回のアルバムに向けた構想は、いつ頃から明確なものとしてあったのでしょうか。

AOi(G):『VeiL』(2024年4月リリースの1stフルアルバム)のすぐ後にシングルとして「求世主」を出したんですけども、その時には、11曲入りで、こういう構成で、っていうのはもうできていて。このアルバムの全体像がその時既に僕の中には見えていたので、そこに沿って曲を作っていくという形でした。

ーはじめにマスタープランがあって、それに則る形で、「求世主」以降のシングル曲や、アルバムの新曲が生み出されていった、という流れだと思いますが、その結果として完成した今作は、極めてコンセプチュアルな一作となりました。


マイ(B):コンセプトがあった上でアルバムを作っていくっていうスタイルが、CLAN QUEENには当たり前のものとしてあって。一つひとつの曲が直結していくというか、切っても切り離せないというか、そういうものだと思っています。

ー全ての曲に一貫しているのが、自分とは何か、という問い、もしくは、葛藤や苦しみだと感じました。1曲目の「チェックメイト」の中には、〈壮大な自分探しさ〉〈終わらない旅を〉という歌詞がありますが、こうしたテーマに至った経緯や理由について教えてください。

AOi:前回、『VeiL』の時は、愛についてのアルバムを作って、今回は、知ることについてのアルバムを作ろうと思ったんですね。もし自分が全知だとしても、それを全知だと思った時に、無知の知じゃないですけど、それは全てを知らないことと同じで、そういう意味で、同じ穴の狢に陥ってしまう。そのように考えていった時に、世の中の全てを知るっていうことは、観測者である自分自身を知ることと同じようなものだな、と思って。自分を知ることで世界を知る、じゃないですけど、もっとそういう奥のほうに進むことによって、バンドとしても、一人の人間としても、この時代に寄り添うっていう意味でも、そういうテーマが合ってるなと思ったので。知ることっていうところから、自分を知ってみようとなり、こういうアルバムになりました。

ー知ることって、その対象が自分であれ、他者であれ、世界であれ、ほとんど生きることと同義のような、すごく壮大で深遠なテーマだと思うんですよね。『VeiL』の次は、そうしたテーマに向かっていこう、というプランは、前々から3人の中で共通認識としてあったのでしょうか。

マイ:『VeiL』が出来た時、次は、知ることを突き詰めていく期間になるってAOiから聞いて。
私は、最高じゃんって。自問自答するのがすごい好きなタイプなので。個人として知ることを突き詰めてくっていうのがシンプルに好き。それを、音楽を通して3人でやっていけるなんて楽しそうだなって思ってました。

yowa(Vo):私も、お、面白そうじゃん、って。

ー知ることをテーマとした時、例えば、その目的語として、自分以外にも、他者や世界という選択肢もあったのではないかと思います。結果的に、今回は、自分らしさ、アイデンティティを巡る旅のようなアルバムになっていますが、今のお話を聞くと、そこの接続は、yowaさん、マイさんにとってもスムーズだったということですね。

マイ:そうですね。まず自分を知らないと戦えない、というか。自分の弱い部分も全て抱きしめた上で、そうじゃないと戦っていけないって思ってるので。今、言われて気付いたんですけど、私はまだ、世界を知ろうと能動的に動けていないかもしれない。だからこそ、まずは自分を知る、っていうふうに思ってます。


yowa:たしかに。今自分が何をどう感じたかとかちゃんと分かんないと、あんまり人と会話できないし、コミュニケーションがとりづらいしって思っちゃうので。やっぱ、自分を知ることが大事だなって思います。

AOi:自分をメタ認知できていない人が何かを知るっていうのは、なんだろう、ある意味、一次元的な見方しかできないっていうのがそもそもとしてあって。まずは自分を、このバンドのことを知らないと。大衆と戦っていくじゃないですけど、いろんな人を知れないよね、っていうことなのかなって。

ー自分とは何か、他者とどう違うのか、世界の中で自分はどういう存在で、どういう役割を担うのか。全編を通して、そうした切実な問いを突き詰めていく今作は、それ故に、終始、壮絶な緊張感やスリルを感じさせます。

AOi:最初に考えたのは、何かを知ることによる利益と不利益と、その過程で何を思うのか、みたいなことで。何かを知ったら、もちろん知識が増えたり、いろんな考え方を得られたり、いろいろ良いことがあるんですけど、その過程で、知りたくないことも知っちゃうっていう。忘れることができるシステムが人間にはないから、知ることの、そういうネガティブな側面も含めて、突き詰めて考えていってしまって。

ー前回の『VeiL』と今回の『NEBULA』は、ストーリーが接続しているのか、もしくは、分岐しているのか、でいうと、いかがでしょう。


AOi:『VeiL』は、愛と信仰と終末論のアルバムで、もし、その終末の世界に求世主が現れたら、っていうアルバムが今回の『NEBULA』なので、いちおう繋がってはいるというか、分岐してるって感じです。その求世主が主人公の物語で、だから、どの曲も、ずっと主語は〈私〉のままで。その人がどういう人生を歩んでいくか、自分らしさをどう求めていくのか、っていうのを考えながら作っていきました。

ー自分らしさとは何か、アイデンティティとは何か、という問いは、3人自身、また、バンド自身にとって、とても大きなテーマであり、同じように、リスナーの中にも、自分とは何だろう、自分の役割って何だろう、なぜ生まれてきたんだろうと考えたり、葛藤したり、悩んだりしている人が多いと思うんですよね。このアルバムを作るにあたって、自分たち自身のことと、リスナーのこと、そのバランスをどう意識していたのか聞いてみたいと思いました。

AOi:どちらかというと、自分事寄りなんですよね。基本的には、自分の体験から物語を紡ぐっていう作り方、そういうレイヤーの分け方をしているので。ただ、それを、なんだろうな、共感っていう単語はあまり使いたくないんですけど、一個共有するものができたらいいなとは思ってるので。自分事すぎずっていう。一個の物語っていう共通項を設けることによって、理解というか、共感してもらえたり、分かるって思ってもらえたりとか、ちょっと疑問に思ってもらえたりとか、そういうことができたらな、と思いながら作っています。

その意味で、どの曲も、聴いてくれる人に対してのバランスは全く変わんなくて。物語のフィクション度合い、自分の体験の質感の部分はかなり曲によって変わるんでけど、お客さんにどう思ってもらうかみたいなのは、ずっと同じ割合というか。
自分の場合は、もう完全にデザイナー思考なんで。「俺はアーティストだから、こう表現したい」っていうよりかは、聴いてくれる人にどう届くかをずっと意識しているので。

ーAOiさん流のデザイン思考は、どのように定義されるものなのでしょうか。何かを解決するといったゴールありきの、逆算思考のようなものなのか。

AOi:やっぱり、自分自身が、音楽によって思考を促されて、それによって救われてきた側だから、そういう音楽を閉ざさない、じゃないけど、聴いてくれる人に向けて、ちゃんとそういう曲を届けていかないといけないんだろうなっていう。これが唯一の原動力というわけではないんですけど、そういう気持ちはあるので、聴いてくれる人にちゃんと考えてもらえるような、救いっていうとなんかあれですけど、うん、ちゃんと何か考えたりとか、思ってくれたりとか、心動かす、じゃないですけど、そういう音楽になっていたらいいなっていう。

マイ:CLAN QUEENの活動って、その根底にあるのは音楽で。曲から入って、歌詞を読んで、映像を観た一人ひとりにとって、考えるきっかけというか、気付くきっかけというか、少しでも能動的に動き出したり、思考し始めたりするきっかけになったらいいなっていうのは、すごい思います。私自身、何も考えていなかった時期があったんですけど、音楽がきっかけになって、心が動いて、思考が開始したということがあって。共感というか、自分以外にもこう思ってる人がいるんだって、その時は、それで救われたっていうのがあったので。少しでもCLAN QUEENの曲とか映像とかが広がっていくことによって、私なりにできることがあればいいな、なんて思いながら、ベースを弾いたり、映像を作っています。

ーyowaさんは、いかがですか?

yowa:私は、どちらかというと、AOiが思ってるものを作りたいという気持ちのほうが大きいです。
自分でも解釈はするけれど、AOiが納得しなかったら、もうちょっと違う歌い方を探すし。AOiのOKの基準の中でも、たぶんこうしたほうが聴いた人の耳に残るというか、感情に触れられたり、寄り添えたりできるかなっていうのも少しは考えてはいるんですけど、第一は、AOiが表現したいことを優先してます。

AOi:本当に、自分に寄り添ってくれてるんだろうなって思うし、自分なりのOKの基準がある上で、もっと上にいけるっていうのも、すごい嬉しいし、ありがたいです。

ー今回、いくつかある新曲の中で、僕が特に深く引き込まれたのが、「Apophenia」でした。

yowa:私も一番好き。

ーパンチラインが多いですよね。

AOi:本当に、この曲の歌詞を考えてる時が一番辛かったですね。「自白」に次いで、こいつが一番かな。

ー言える範囲でいいんですけど、辛かったというのは、ご自身のディープなところまで深く内省していった、ということの表れでしょうか。

AOi:自分の奥底、なんて言うんだろうな、自我じゃない部分と曲作りをするんですよね。変な言い方なんですけど。自意識じゃない部分を強制的に起こすみたいなやり方をするんですよ。もう一人の自分じゃないけど、ちょっとメタ認知的な自分と、めちゃめちゃ主観な自分。僕、けっこう記憶が抜けたり、感覚が抜けたりとかするタイプなんですけど。僕の中で、曲を作ってる時の自分と、今話してる自分の接続性があんまりなくて。なので、そこのすれ違いというか、自分でなんで辛いのか分かんないけど、なんかめっちゃ穴が空いていくみたいな感覚が、このアルバムの制作中ずっとあって。で、この曲を作ってる時は、もう一番、なんか訳が分かんない感覚を抱きながら生活しているみたいな感じでした。歌詞は、このアルバム制作期間中に思い浮かんでいたラインをまとめて、〈父と母のコラージュ〉〈アダムとイブのサンプリング〉とか、絶対これは入れたいみたいなものがけっこうあったので、そういうものを継ぎ足していって、だからこそ、パンチラインがたくさんあるとおっしゃって頂けるような曲になったんだと思います。

ーyowaさんは、「Apophenia」が一番好きとおっしゃっていましたが、この曲をどう捉えていますか?

yowa:傷付いても、その傷も含めて、ちゃんと自分をまだ守っていけそうな感じがする曲だと思っています。

ー〈汚れたからいっそ 唯一無二と呼ぶ事にしたの それもきっといつか失くすかしら 残った傷をそっと 自分らしいと呼んでみる まだ大丈夫と〉の辺りに色濃く表れている感覚だと思いました。

yowa:情緒が最初と最後で全然違うんで歌うのが難しかったんですけど、でも、傷付いても、ちゃんとまた歩けるから大丈夫だよ、みたいな気持ちで歌ってました。

ー決して明るい曲ではありませんが、この曲に滲んでいるのは絶望だけではないと思います。

yowa:自分はまだ大丈夫、またきっと歩いていける、みたいな。なんとなくの希望。明確に何かがあるわけじゃないけど、希望を持っていたいって、そう思って歌いました。

ーアルバムの最後が、2024年11月にリリースされたシングル「PSIREN」で締め括られる点も、とても重要なポイントだと思っています。去年、シングルとして聴いた時は、突き放されるような感覚を抱きましたが、今回、アルバムの最後に位置付けられることによって、単体で聴いた時とは異なる表情を見せるというか。爽快感すら感じました。

AOi:この曲は、もうほんと、自分の葬式で流したい曲ですね。この曲を一番最後にすることは、もう最初から決めてたんです。主人公がここに辿り着いた時に、自分らしさを全部分かった上で、ほんとは、私は無知のままでいたい、って言ってるというか。いろいろ知ったけど、あんま知りたくなかったな、みたいな。知らないほうが幸せだったかもしれないって悩むんだけど。でも、一番最後の歌詞の〈でも抜け出せやしない〉っていうのは、ある意味、輪廻みたいなものも含めて知ったっていうことで、ちゃんと輪廻を認識している、メタ的なところも見えてるっていうのは、立ってる地点は一緒でも、ある意味、進んでいるということなのかもしれない。〈抜け出せやしない〉という歌詞でこのアルバムは終わるんですけど、もしかしたら、〈終わらない旅〉という歌詞がある1曲目の「チェックメイト」に戻るかもしれない。UNOのリバースカードじゃないですけど、この曲は、今回のアルバムのゲームチェンジャー的な曲になったらなと思ってました。

ー今回、2ndアルバムを完成させたCLAN QUEENが、これからどこを目指し、どのような存在になっていくのか。最後に、中長期的なビジョンを、言える範囲で教えて頂きたいです。

AOi:今のところ、5枚目のアルバムまでの構想は決まっています。

yowa:今回の2枚目のアルバムを作る前に、「頭の中、今こうなってるよ」「こういう感じだよ」って、大まかな構想を教えてもらって。

AOi:僕が勝手にマスタープランを決めていて。ゴールが見えてるっていうか、これをこうやったらここに着くよね、っていうか。漫画の最終回を最初に考える、みたいな。一つの作品として、最初から終わりまで設計しておいたほうが、より美しいものができると思っているので、そういう意味で、もう最初から最後が分かってるというか、一つのフェーズの終わりまで見えているので。あとは、そこから逆算して進んでいくっていう。

yowa:中長期の構想を聞いたんですけど、それが終わったらどうしてしまうんだろう、燃え尽きちゃわないかなって、ちょっと心配で。だから、「その先、じゃあこういうのはどう?」ってAOiに言った気がする。

CLAN QUEENが語る、自分らしさを見つけた「知ること」をテーマにした内省的作品


ー今回の2枚目のアルバムで、自分を知るということを、その絶望や希望さえも含めて、純度高く、濃度高く突き詰めたからこそ、その次には、知ることの対象として、他者や世界が挙がってくると思いました。自分とは何かを突き詰めたからこそ、そこから初めて、他者に、世界に向かっていける、というか。

AOi:本当に、まさにその通りだと思っていて。今回の、ちょっとダークなフェーズは、必要なフェーズだったっていう。自分を知れたから、今、根を張った状態というか。やっと世界と話せる。ちゃんと伸びていくんじゃないのかな、というか。だから、これから、いろんな人と対話していきたいなって。

ー最終的に、どういう存在になることを見据えていますか?

AOi:やっぱり僕が思ってるのは、一番になりたい、ということで。世界征服したい、くらいの気持ちなんですよね。僕はポップミュージックを聴いて育ったので、「アングラだよね」とか、「ニッチなアーティストだよね」っていうよりは、もっと、いろんな人、一人でも多くの人に問いかけていきたいので。僕はそういう音楽性でいたいし、今回のアルバムでちゃんと自分らしさを見つけられたからこそ、それを忘れずに、もっと、大衆化じゃないですけど、いろんな人に届けられるような音楽を目指していきたいなと思っています。

<リリース情報>

CLAN QUEEN
2nd Album『NEBULA』
2025年6月4日Digital Release
2025年6月11日CDRelease
https://orcd.co/clanqueen_nebula
https://lnk.to/VeiL_CD
=収録曲=
1. チェックメイト
2. ORDER
3. 紙風船
4. インベイダー
5. 求世主
6. SPEED
7. 禁断の森
8. 自白
9. Apophenia
10. ゲルニカ
11. PSIREN

<ライブ情報>

CLAN QUEEN 2nd ONE MAN TOUR "NEBULA"
2025年6月27日(金)愛知 THE BOTTOM LINE ※SOLD OUT
2025年7月6日(日)大阪 BIGCAT ※SOLD OUT
2025年7月12日(土)東京 Zepp Shinjuku ※SOLD OUT
Ticket:4800円+1D

※追加公演
2025年8月23日(土)神奈川 KT Zepp YOKOHAMA
Ticket:5300円+1D

Official HP https://www.clanqueen.jp/
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