ヤングブラッドは、2020年にアルバム『weird!』が全英チャート1位を獲得した直後に『Idols』の制作に着手しようとしたが、その時点ではうまくいかなかった。
「『weird!』が商業的にかなり成功したから、『Idols』を作るのはやめとけってずっと言われてたんだ」と彼はRolling Stone誌に語る。「周囲のみんなは『この勢いを維持しなきゃダメだ』って言っててさ。で、『YUNGBLUD』をリリースしたとき、ニューヨークのホテルの屋上に立って、こう思ったんだ──『クソ、同じことを繰り返しちゃったな』って。”ヤングブラッドってこういうやつでしょ?”っていうイメージの広告塔みたいなアルバムを作ってしまったような気がしたんだよ」
その後、彼は自身を見つめ直す時間を持ち、ついに『Idols』を完成させるに至った。その制作期間は、人生の中で本当に重要な時期だったという。「自分にこう問いかけたんだ──”俺は本当に幸せか?”って。気づいたら、人にどう思われるかを気にしすぎる悪循環に陥ってたんだよ」
『Idols』は、ヤングブラッドにとってクラシックな作品を目指したものだ。一時的に聴いて終わるものではなく、”これからの人生ずっと、週に一度は再生したくなるような作品”を作りたかったという。サウンド面でも新たな領域に踏み込み、より内省的で成熟したヤングブラッド像を打ち出している。
「もしそれが”過去っぽく”聞こえるなら、それは俺の失敗だ。
若いアーティストとして、「誰だって”壁に飾られる写真”みたいな存在になりたいんだ」と彼は語り、フレディ・マーキュリーやミック・ジャガーのようなアイコンを引き合いに出す。しかし、このアルバムはむしろ自己充足の旅であり、「自分自身の個性にもっと自信を持っていいんだって気づくこと」がテーマになっている。
「このアルバムは、俺にとってほとんど最後のチャンスみたいなものだった」と彼は打ち明ける。「もし自分が何を作ってるか確信を持ててなかったら、もう後戻りはできなかったと思う。19歳のときに『21st Century Liability』っていう、本当に最高のアルバムを作った(2018年リリース)。想像以上の成功を手に入れた。でも、そうすると今度は大衆がやってきて、自分でも気づいてなかったような不安を抱えるようになるんだよ」
ジャケットはあえてメッセージ性のない仕上がりにしてある。タイトル『Idols』から身を引くように、ヤングブラッドが従属的なポーズを取っているのが特徴だ。「このクソみたいな状況で、十分傷ついてきた。
現在ロンドンにいるヤングブラッドが、新作アルバム『Idols』の収録曲6曲を解説する。
ヤングブラッドによる『Idols』収録曲解説
「Hello Heaven, Hello」
最近は、たくさんの演劇音楽やオペラを聴いていたんだ。レッド・ツェッペリン、ザ・フー、ローリング・ストーンズを見てみると、みんなバッハやヴィヴァルディ、ショパンなんかの影響を受けている。ただ、それをエレキギターで鳴らしてるってだけ。ツェッペリンのメロディをよく聴いてみると、あれってクラシック音楽だし、ジョン・ボーナムのドラムも、クラシックの打楽器的アプローチとブルースが融合したものなんだ。それって音楽で物語を語る「演劇」の視点から来ていると思う。
MVでは、”ハロー、誰かいる?”っていう台詞から始まって、そこから自己発見の旅が始まる。天国への一歩を踏み出し、何かを取り戻すための物語。でも、その前にいろんなクソみたいなことを通過しなきゃいけない……そして、最終的に山の頂にたどり着く。もう疑ってなんかいない。
「The Greatest Parade」
このアルバムのテーマは「アイドル化(idolism)」について。この曲は、ファンベースから人々が離れていく現実と向き合ったことから生まれた。ヤングブラッドって、すごく濃いつながりを持ったコミュニティなんだ。だから、そこから人が「卒業」していくのを見ると、ちょっとした喪失感がある。この曲は、ファンのみんなへのラブレターとして書いたものなんだ。去っていった人たちに対しても、「君もかつては最高のパレードの一員だった。出ていってもいいし、戻ってきてもいい。でも俺は、君のことを思い出す。君の夢を見る。君のために、俺は毎日これを続けていくよ、俺がこの世からいなくなるその日まで」っていう気持ちを込めている。本当に胸が締めつけられるような曲だ。
ファンの声を見ていると、「もうヤングブラッドを好きでいられない。だってもう17歳じゃないから」なんて意見もあった。興味深かったのは、俺自身が”成長していなかった”ことなんだ。それが、自分に”間(space)”が必要だった理由。俺は、クソほど成長する必要があった。完全に停滞してたんだよ。キャリアの初期に人々が思い描いたヤングブラッド像”の中に、自分を閉じ込めてたんだ。この曲の最後にある高音を出すために、最近になってボーカルレッスンも始めたよ。
「Change」
もしアルバムのタイトルを『Idols』にしていなかったら、『Change』にしていただろうね。それくらい、この曲は俺の人生の中で最大の転換点だった。
この曲を通して、俺は”不快なこと(uncomfortable)”の中にこそ美しさがあるんだって学んだ。不快さの中には、これまで以上に多くを学べるチャンスがある。どれだけ不快になれるかってことが、どれだけ強く”何か”を感じられるかに繋がっているんだ。
当時の俺は不安にまみれてた。なぜって、「お前の音楽はクソだ」って言う奴らの声に振り回されてたから。俺が気にしてたのは、パブの片隅でひとり「ヤングブラッドは偽物だ」って思ってるようなやつのことだった。そしてそのせいで、俺自身の輝きがどんどん鈍っていった。そういう声に負けて、どんどん声が小さくなって、臆病になって、自信も失っていった。
この曲では、19歳の自分に話しかけるように歌ってる。「お前、現実と向き合う準備ができてないだろう?」ってね。そして同時に、26歳の自分にも問いかけてる。「お前は大好きなことを仕事にできてるのに、なんでまだこんなに迷ってて、自信がないんだよ?」って。でも曲の終盤で、俺は自分の胸をバンと叩くんだ。「なあ、これで仕留めたつもりか? 外してんだよ」ってな──俺はまだここにいる。まだ立ってるし、もう一度闘志と牙を取り戻したんだ。
「Ghosts」
この曲はマジで大好き。ロンドンのテムズ川の川沿いを歩いていたときにふと考えたんだ。自分が今歩いてるこの場所を、これまで何人の人が歩いてきたんだろう? 何人の”幽霊たち”がここを通ってきたんだろう? まるで目に見えない亡霊が自分のそばをすり抜けていくようなイメージでさ。あるいは20年後、100年後の誰かが、俺と同じ場所を歩いているかもしれないって思った。「生きることを選べ。人生をちゃんと生きることを忘れるな。顔に風を感じることを忘れるな。感じるすべての経験を、全力で楽しむんだ」──それがこの曲に込めたメッセージ。生きてるってことは最高にクールなことだよ。混乱するし、痛みもある。でも、それでも人生って美しい。この時、俺は「ロンドンにずっと居たい」って本気で思った。そしてこの曲は、アルバムの中で”主人公である自分”が初めて勝ち始めるポイントでもある。「俺は絶対に乗り越える」って、そういう決意を描いたんだ。
ラストには3分半にわたるアウトロがあって、『王様と私』(※1951年に初演されたロジャース&ハマースタイン作のブロードウェイ・ミュージカル、およびそれを原作とした1956年公開の映画)にインスパイアされた構成になってる。音楽的には、ワルツのように艶めかしく、誘惑するような雰囲気にしたかった。そして最後にはスタジアム・ロックにぶち上げていくために、「もういいや、やっちまえ」ってノリで、仲間たち全員をスタジオに呼び込んでさ。イメージはウェンブリー・スタジアムとか、リーベル・プレート・スタジアム。ああいう場所で鳴り響くような音を作りたかった。ヘッドホンで聴いてる人にも、そのスタジアムの光景を想像してもらいたいんだ。屋外に集まった2万5千人の観客が、みんな同じ思いでそこにいる──そんなとき、音楽がどんなにカオスでクレイジーでも、俺の心の中はすごく落ち着いてるんだ。それが、このアウトロに込めた想いだよ。
「Idols Pt. II」
このパート2は、暗く、そして不可避な下り坂だ。最終的に「自分は永遠には生きられない」という現実に行き着く。つまり死だ。──じゃあ、自分を見つけて、自分を愛せるようになったとき、その愛を誰と分かち合うのか? このパートでは、母親のこと、家族のこと、そして自分自身を追い求めるなかで別れてしまった”人生の最愛の人”のことが歌われている。パート1が掲げていたアイデンティティの確立や自立のメッセージに対して、パート2はその裏側──矛盾のようにも思える現実を描いているんだ。
「Supermoon」
この曲は、俺にとって本当に特別な一曲になった。というのも、自分が書いていない曲をアルバムに収録するのはこれが初めてだから。マティ(・シュワルツ)が7年前、俺と出会ったときにこの曲を書いてくれていて──俺が羽ばたき始めるのを見て、彼にはすでにわかってたんだろうな。正直、自分のことをここまで理解してる歌詞って今まで読んだことがなかった。しかも、それを俺自身が書いてないっていう事実に、マジで泣いたよ。人生でこんなに自分をわかってくれた人はいなかった。魂とか心から生まれるアートって、理屈で説明できるもんじゃないんだよ。それは理由もなく湧き上がるもので、なぜ感動するのかもわからない。ただ、そこにある。それが”自分のもの”ってことなんだ。
マティが俺に言った言葉はこうだった:「君という存在は、自己成就する予言そのもの。欲望に導かれて生まれた存在で、想像の世界に生きている……君は、自分自身で満たしていく終わりなき旅、いわば自己完結するオデッセイなんだ。最近、何にインスパイアされた? それを教えてくれたら、きっと君のことをかすかに思い出せる気がする」
いつだって「お前は誰なんだ? 何者なんだ?」って訊かれるけど、俺はいつもこう返してきた──「いつの俺のことを言ってるんだ?」って。変わることを恐れるんじゃなくて、それを受け入れて、インスピレーションに変えてきた。そして、この曲は──本当に信じられないくらい──俺という人間の核心を突いていた。だからこそ、この曲に関しては自分のエゴを手放す必要があったんだ。これはひとつの芸術的ステートメントとして、そのままの形でアルバムに入れたかった。一字一句変えたくなかった。だって、最初から完璧だったから。
From Rolling Stone US.

ヤングブラッド
『Idols』
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SUMMER SONIC 2025
2025年8月16日(土)・17日(日)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
大阪会場:万博記念公園
※ヤングブラッドは8月16日(土)東京会場、17日(日)大阪会場に出演
https://www.summersonic.com/