過去何十年にもわたり、カルロス・サンタナはさまざまなジャンルの伝説的アーティストたちとコラボレーションを行ってきた。ジャズの巨匠(マイルス・デイヴィス、ウェイン・ショーター)、ロックギタリスト(エリック・クラプトン、スティーヴィー・レイ・ヴォーン)、ブルースの偉人(バディ・ガイ、ジョン・リー・フッカー)、R&Bシンガー(スモーキー・ロビンソン、ローリン・ヒル)、さらにはカントリー・アーティスト(ウィリー・ネルソン、フェイス・ヒル)とも共演してきた。そうしたコラボの中には、ロブ・トーマスとの「Smooth」や、ワイクリフ・ジョンとの「Maria Maria」のように世界的ヒットとなった楽曲もあれば、埋もれてしまい、本来届くべきリスナーに届かなかったものもある。
新たにリリースされたアルバム『Sentient』(3月28日リリース)は、そうした見過ごされてきたコラボレーションを掘り起こすことを目的としている。マイケル・ジャクソン、マイルス・デイヴィス、スモーキー・ロビンソン、パオロ・ルスティケッリ、そして妻でドラマーのシンディ・ブラックマン・サンタナとの共作曲を収録し、さらに未発表音源が3曲加えられている。
「すべては結局、神の恵みに帰結するんだ」とサンタナはRolling Stone誌に語る。「ラスベガスに住んでいるけれど、運とか偶然とかツキなんてものは信じていない。僕が信じているのは”恵み(grace)”なんだ。その恵みのおかげで、想像力や創造力が与えられて、人の心を引きつける磁石のようなハートを持つことができる。こんなに多くの実りある曲が1枚のアルバムに詰まっているなんて、信じられるかい?」
アルバムは、ダリル ”DMC” マクダニエルズをフィーチャーした「Let the Guitar Play」で幕を開ける。この楽曲は、もともとサンタナが2021年に発表したインスト曲「Song for Cindy」をベースにしているが、今回はプロデューサーのリノ・ニコローシとナラダ・マイケル・ウォルデン、そしてRun-DMCのラッパーであるDMCによって新たに再構築された。「ラップは今の時代の音楽だ」とサンタナは語る。
続いて登場するのは、マイケル・ジャクソンの1995年の隠れた名曲「Stranger in Moscow」のインストゥルメンタル・バージョンだ。この曲はサンタナが2007年、プロデューサー兼ドラマーのナラダ・マイケル・ウォルデンのバンドとともに、カリフォルニア州サン・ラファエルにあるクラブ「ニュー・ジョージズ」で録音したものである。「僕らはリハーサルすらしなかった」とサンタナは語る。「ただ現地に行って、演奏して、マイケル・ジャクソンの声が自分の指先から出てくるようなイメージで弾いたんだ」
「Stranger in Moscow」はそのままシームレスに、「Whatever Happens」へと続く。この曲は、マイケル・ジャクソンの2001年のアルバム『Invincible』に収録されており、サンタナがギターで参加している。彼は冒頭で口笛も吹いている。「僕はカーボベルデの音楽が大好きなんだ」とサンタナは振り返る。「とてもロマンチックでね。
スモーキー・ロビンソン、マイルス・デイヴィス、そして妻への敬愛
モータウン時代の仲間でもあるスモーキー・ロビンソンは、2009年の楽曲「Please Dont Take Your Love」でサンタナにギター演奏を依頼した。そのレコーディング・セッションからの別テイクが、今回の『Sentient』に収録されている。「僕はスモーキー・ロビンソンのことが狂おしいほど好きなんだ」とサンタナは語る。「彼が僕に弾いてほしい曲があるって聞いたとき、思わずどもってしまったよ。それくらい感激した。彼がスタジオに来る前に録音を済ませたんだけど、すごく気に入ってくれて、本当に驚いた。実はあの曲の中には、マイルス・デイヴィスの『Prince of Darkness』から引っ張ってきたモチーフを忍ばせてあるんだ。見事にハマったよ」
マイルス・デイヴィスは、サンタナにとって生涯の音楽的ヒーローの一人である。そんなマイルスと共演する機会を与えてくれたのが、イタリアのジャズ・ロック作曲家/プロデューサーのパオロ・ルスティケッリだった。サンタナは彼の楽曲「Get On」と「Rastafario」でマイルスと共に名を連ねることになる。そのきっかけとなったのは、TWA800便の墜落事故(1996年)で亡くなる数年前に受け取った、ウェイン・ショーターの妻アナ・マリア・ショーターからの一本の電話だった。
「彼女はこう言ったんだ。『カルロス、パオロ・ルスティケッリという人がいるの。彼はローマのクインシー・ジョーンズよ。その彼がマイルス、ウェイン、ハービー・ハンコック、そしてあなたのために音楽を書いたの。その曲に参加してくれないかって』とね。だから僕は『もちろん』と答えた。彼の曲『Full Moon』で演奏したんだけど、それをすごく気に入ってくれて、スタジオに招かれて他の曲にも参加することになった。それがマイルス・デイヴィスとのつながりになったんだ」(※『Sentient』には、サンタナとルスティケッリの共作曲が他にも2曲収録されている:「Vers Le Soleil」「Full Moon」)。
サンタナにとって最も身近なコラボレーターは、過去15年間連れ添っている妻であり、ツアーバンドのドラマーでもあるシンディ・ブラックマン・サンタナだ。2人の共作曲「Coherence」は、アルバムのラスト直前に収められている。「神が僕の人生にシンディを授けてくれたことに、本当に感謝している」とサンタナは語る。「彼女は僕の恋人であり、友人であり、精神的なパートナーでもある。
長寿の秘訣、フェアウェル・ツアーを行わない理由
サンタナは80歳の誕生日まであと3年と迫っているが、いまだに精力的なツアーを続けており、ラスベガスのハウス・オブ・ブルースでの定期公演もこなしている。彼はその長寿の秘訣を、清らかな生活と精神的な健康にあると語る。「多くの人が自分をみずから破滅させてしまった。マイケル・ジャクソン、プリンス、ホイットニー・ヒューストンみたいにね」と彼は言う。「僕は彼らのようにはならないと、何年も前に意識的に決めたんだ。それで瞑想を始めた。スリ・チンモイというグル(導師)から学んだもので、彼のことはジャズ・フュージョンのギタリスト、ジョン・マクラフリンを通じて知ったんだ」
数年間、サンタナの生活は「まるでウェストポイント(米陸軍士官学校)」のようだったという。ドラッグもアルコールもなく、毎日数時間の瞑想を行っていた。「今では、同年代の人たちの多くがもうあの世に行ってしまったか、身体がボロボロで演奏できる状態ではない。でも僕はもうすぐ80歳になろうというのに、まだかなり元気だよ。ステージに立つときは、マイルス・デイヴィスが言っていた『マザーファッカー・エナジー』を持っていくんだ」
彼のライブでは「Evil Ways」「Black Magic Woman」「Soul Sacrifice」「Smooth」といったサンタナの代表曲がずらりと並ぶ。
「不可能なことなんて何もないよ」とサンタナは語る。「ただ、人にはそれぞれ優先順位がある。グレッグにも優先すべきことがあると思うし、(ジャーニーのギタリスト)ニール・ショーンにもあるだろう。でも、僕とよく一緒に出てくれる”兄弟”がひとりいる。それが(パーカッショニストの)マイケル・カラベロだ。だから、何が起きてもおかしくはない。すべては彼らの”心”次第なんだ。もし彼らが、僕に対するわだかまりや争いを持たずに、一緒に音楽を創れるなら、僕はいつでも歓迎するよ」
一方で、サンタナが絶対にやらないと断言するのがフェアウェル・ツアーだ。「そういうのをやろうと考えたことはない」と彼は語る。「毎年引退していく人たちをたくさん見てきた。
From Rolling Stone US.

カルロス・サンタナ
『Sentient』
配信:https://santanasentient.lnk.to/SentientPR