
ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長兼CEO・岡田武士(Photo by Ryohey Nakayama)
デジタル時代にいち早く対応し、情熱を原動力に突き進んできたキャリア
―昨年12月にワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長兼CEOに就任した背景を教えてください。オファーを受けた時、どんなことを感じましたか?
岡田:単純に驚きました。ただ、ちょうど個人的にも40歳という節目だったこともあり、チャレンジしたいという気持ちがありました。ありがたいことに、これまでの私のデジタル領域での取り組みや、ヒット作りやレーベル運営といった経験を評価いただいた上で、ワーナーミュージックのさらなる成長に向けた変革とデジタルへの移行の舵取りを求められていた。そういう意味ではここは自分がやるべきだろうと思いました。
―前職では、EMI Recordsのマネージングディレクターに就任されたのが2018年1月でしたが、そこから現在までの数年間は、まさに日本の音楽業界が構造的に変化した時期でした。この期間をどのように振り返っていますか?
岡田:2018年時点では、まだストリーミング配信を始めていないアーティストも少なくなく、担当していた椎名林檎さんや松任谷由実さんがストリーミング配信に楽曲を解禁するのをご一緒したりもしました。ストリーミングサービスが徐々に広がり、音楽流通やヒットの生まれ方が多様化し、現在のストリーミングが主流の音楽シーンが形成されていく、本当に大きな変化でした。
―これまでのキャリアを振り返って、岡田さんがデジタル領域への強みを持つようになった原点はどこにありますか?
岡田:最初にデジタルの仕事を始めたのは「着うた」の時代でした。
―EMI Records時代には多くのアーティストの育成もしてきました。アーティストの才能や可能性をどう見抜き、どう成功に導いていくかについてはどんな考えがありますか?
岡田:その頃からずっと信じているのは熱量です。自分自身、アーティストの才能を100%見抜けるわけではありません。ただ、そのアーティストを見つけたA&Rがどれだけ熱量を持って未来を描けているかに可能性を見出しています。もちろん自分なりの指標もありますが、最終的には担当するA&Rの熱量が大事だと思います。

Photo by Ryohey Nakayama
アーティストに寄り添いつつ、伝統と革新をつなぐ
―ワーナーミュージック・ジャパンで働き始めて約半年が経ちましたが、社風についてはどんなことを感じましたか?
岡田:まずは皆さんに受け入れてもらえて嬉しく思いました。若い人も多く活気があって、コミュニケーションしやすいカルチャーを感じました。もともとワーナーミュージックには「アーティストファーストな会社」というイメージを持っていましたが、実際に入社してまさにその通りだと思いました。アーティストファーストなDNAが脈々と受け継がれている。
―所属アーティストについて、どんなふうに見ていらっしゃいますか?
岡田:一番長く在籍されているのは山下達郎さんと竹内まりやさんで、両者が象徴的に存在してくれることが他のアーティストにもいい影響を与えていると思っています。あいみょんもワーナーミュージックを代表するアーティストの一人です。あいみょんの「マリーゴールド」はストリーミングから生まれた初めての国民的なヒットソングですが、まさに先ほど話したアーティストファーストなスタンスで、スタッフがアーティストに寄り添い、その才能をサポートして大きくなっていったアーティストです。そういうアーティストが多いイメージもあります。
―山下達郎さんや竹内まりやさんのようにレジェンドとしてのキャリアと存在感を持つアーティストを新しい世代のリスナーに届けていくということに関しては、どう考えていらっしゃいますか?
岡田:達郎さんは今年7月のフジロックに出演しますし、日本だけでなく世界で尊敬を集め、海外のレコードショップの一番目立つところに達郎さんのレコードが陳列されていたりする。達郎さんの音楽に対する尊敬や評価は、国や世代を越えてますます広がっている実感があり、この後も日本だけじゃなく海外も含めて色々な新しいチャンスも生まれてくるのではないかと思います。
―ワーナーミュージックの所属アーティストには、THE YELLOW MONKEYや水曜日のカンパネラなど、コアな音楽性を持ちつつ広く音楽ファンに支持されているアーティストも多い印象があります。レーベルカラーについてはどんなイメージがありますか?
岡田:おっしゃる通り、こだわりを持って良質な音楽を追求しながら、広いオーディエンス層に支持されるアーティストが多いというのは外から見たイメージでした。良質な音楽をよりメジャーなものにしてみなさんに届けてきたというのは、ワーナーミュージックの特徴であり、パワーではないかと思います。
世界を目指すアーティストの挑戦を後押し
―これからワーナーミュージックにどんな新しい変化をもたらそうと考えていますか?
岡田:まずはアーティストはもちろん、業界内外のビジネスパートナーから最も信頼され、選ばれる会社になっていきたい。環境変化を前向きに捉えて進化を続け、ワクワクするような刺激的なことが常に起きている企業でありたい。
中でもグローバルカンパニーとしての強みを活かし、海外への意欲やポテンシャルの高い日本のアーティストが世界を舞台にもっと活躍できるように本気で取り組みたいと思っています。ワーナーミュージックグループは世界各地にオフィスがあるので、色々な国の音楽ビジネスのプロフェッショナルたちと日々コミュニケーションできるのですが、日本の音楽カルチャーの世界での可能性に、グループ内でも期待と関心が高まっていると感じます。このグローバルネットワークと各マーケットでのビジネス基盤を有効に活用しながら、世界に羽ばたく日本のアーティストを最も輩出できる会社になりたいと思っています。
そういう意味でも今後は海外へのモチベーションやポテンシャルの高いアーティストとも新たに契約していきたいと思っています。現在所属しているアーティストともコミュニケーションを取りながら、アーティストのビジョンやニーズに応じて、海外で活躍するための専門的なサポートを提供していきたいと思います。アジアやアメリカ、ヨーロッパの各国の幹部陣と日々意見を交わしながら、まずはそのための仕組みづくりに取り組んでいるところです。アーティストごとに、どの地域でどんな取り組みをすればいいのかをデータなども分析・検証しながら検討し、個別戦略を立てていきたいと思います。
―ワーナーミュージックの所属アーティストで海外での活動にいち早く取り組んできたアーティストにはONE OK ROCKが挙げられると思います。アメリカに拠点を移したり、エド・シーランとコラボレーションをしたり、能動的に動いてきたここ数年の取り組みがあったと思うんですが、こういった動きに関してはどのように見てらっしゃいますか?
岡田:彼らはまさにパイオニアですね。海外に拠点を置き、現地のシーンで高い評価と支持を勝ち取っているというのは本当に素晴らしいです。次の世代のアーティストたちに勇気と刺激を与えてくれる存在だと思っています。
―今の日本の音楽業界の中で、ワーナーミュージックの課題や取り組むべきことについてはどうでしょうか?
岡田:デジタル戦略には引き続き注力していきたいです。
またこれはワーナーミュージックに限ったことではないですが、新たな音楽ファンを増やしていくことは業界の課題だと思います。消費者の趣味嗜好が多様化し、様々なエンタテインメントコンテンツが市場に溢れる中、自ら主体的に音楽を聴こうとはしない層が増えているという最近の調査結果もあります。新たな音楽ファンがなかなか自然に増えていかないのであれば、好きになってもらうためのきっかけを作る必要がある。当社では、アニメをはじめとするエンタテインメントコンテンツや、音楽と相性の良いカルチャー&ライフスタイルブランドなどと連携し、新たに音楽と接する機会を増やしていくことにも取り組んでいます。
TikTokやInstagramでのバズをきっかけにアジア各国のSpotifyバイラルチャートにランクイン、今年3月には米SXSWで熱演を披露し、「Spotify on PlayStation」のキャンペーンソングにも起用された若き5人組・luv
―この先5年後、10年後のビジョンにはどういうものがありますか?
岡田:ワーナーミュージックを通じて世界への扉が開かれるというイメージを持ってもらえるようにしたいです。5年後には多くの日本のアーティストが世界を舞台に活躍している状況が広がっているのが理想です。もちろん全てのアーティストがそうあるべきということではなく、海外への意欲を持ったアーティストが夢を実現できるようにサポートし、成果を積み重ねていきたいと願っています。ボーダーレスに活躍したいと志すアーティストの皆さんに、ベストな選択肢として選んでもらえる会社になれたらと思っています。
「今の音楽業界は若い人にチャンスが溢れている」
―今の時代はアーティストが活動をセルフプロデュースできる環境が当たり前のものになりました。
岡田:おっしゃる通り、様々なデジタルプラットフォームやソリューションの普及によって、いわゆるDIYで活動するアーティストも増え、アーティスト活動の形も多様化し、メジャーレーベルに期待する役割や価値も変化しつつあると感じます。そんな環境だからこそ、先ほどお伝えしたアーティストファーストという考えにもつながるんですが、アーティストが描く夢や目標を理解し、これに寄り添い、フルスケールでその実現をサポートできるプロフェッショナルなチームを提供できるということが大きな意義になるのではないかと考えています。それぞれのアーティストの音楽性やニーズに応じてカスタマイズした、専門性の高いサポートを提供できるのが、メジャーレーベルのあり方になっていくんじゃないかと思います。
―個人的に印象的な変化として、かつてのアーティストはインタビューやライブのMCで告知をするときに、レコード会社のスタッフのことを「大人たちが」という言葉で言うことが多かったんですね。「大人たちがこう決めたので」というような言い方をするバンドが結構いた。でも今はかなり減ったと思っています。その代わりに「僕らのチームが」という言い方をするようになった。この先の予定や活動のビジョンを語るときも、あくまでアーティスト主体で発信するようになった。そういう変化を感じました。
岡田:まさにそうですね。我々のやるべきことは、アーティストが夢の実現のために必要とする、プロフェッショナルなソリューションを揃えていくこと。

Photo by Ryohey Nakayama
―アニメやドラマの主題歌やCMのタイアップも含めて、他の業種やIPとのコラボレーションについてはどう考えていらっしゃいますか?
岡田:音楽は、それだけで素晴らしいだけでなく、例えば本を読みながらでも聴けるし、いろんなコンテンツと相乗効果を生むことができる。それが音楽の強みだと思っているので、これからもコラボレーションは積極的にやっていきたいと思います。昨年末にはNBCユニバーサルとアニメ関連の音楽に関する戦略的パートナーシップを締結しました。エンタテインメント領域だけでなく、カルチャーやライフスタイル分野のブランドとも様々な取り組みを進めています。先日は暗闇フィットネスを手掛けるFEELCYCLEとのコラボレーションイベントを開催しました。フィットネスをきっかけにダンス・ミュージックを好きになる人も多いと思います。ファッションも入り口になると思っています。先頃はGREEN DAY x VERDYのコラボTシャツも展開しました。こうして音楽とのタッチポイントをどんどん広げていきたい。今後も業種を問わず積極的にやっていきたいなと思っています。
ワーナーミュージック・ジャパンとFEELCYCLEが共同開催したイベント「FEELCYCLE LIVE LUSTER 2024」のアフタームービー。今年も5月30日~6月1日にかけて横浜アリーナで開催された

グリーン・デイと日本を代表するグラフィック・デザイナーVERDYのコラボTシャツ
―海外の音楽を日本に届けていくことに関しては、どう考えていますか?
岡田:私自身も洋楽で育った音楽リスナーなので、日本のリスナーのみなさんにもっと洋楽も聴いてほしいという思いはあります。ワーナーミュージックには素晴らしいカタログも豊富にありますし、ベンソン・ブーンやアレックス・ウォーレンのような新しい優れたアーティストも続々と登場してきているので、こうしたアーティストの素晴らしい音楽をたくさん聴いてほしいと常に思っています。
一方で、様々な市場調査が示すように、日本国内では邦楽の再生比率が断然高い。若い世代の音楽リスナーに洋楽をもっと聴いてもらえるような取り組みも進めていかなくてはと感じています。そういう意味では、BLACKPINKのROSÉとブルーノ・マーズがコラボした「APT.」の大ヒットは大きな意味を持ちます。Mrs. GREEN APPLEやCreepy Nutsに並んでMUSIC AWARDS JAPANの最優秀楽曲賞にノミネートされたことも含め、洋楽への注目や関心を高める良いきっかけになったと思います。このことで洋楽のチームには様々なノウハウが蓄積されたと思うので、これらを活かしていきたいと思っています。かつては「洋楽だから」ということで聴かれていた時代もあったと思うんですが、今はそうなくなっている。これからは聴いてもらうための文脈作りを行い、これを伝えていくことがさらに大事になってくる。洋楽にもまだまだ成長の可能性がすごくあるというのは「APT.」の成功を見て改めて実感したところですね。
―最後に、若い世代の方に向けてのメッセージをお願いします。
岡田:私も若いうちに多くのチャンスをいただきました。音楽業界はそういうことができる産業だと思います。特にいま音楽業界は変革期にあります。だからこそ音楽ビジネスの未来を自らの手で切り拓くチャンスが広がっているとも言えます。従来のやり方が通用しなくなってきたからこそ、若くてもいきなりチャンスをつかみ、一気にフロントランナーになれる可能性がある。非常にエキサイティングな時ではないでしょうか。
若い世代のアーティストももちろんですが、彼らを支える若い世代のミュージックマンを増やすことも私のミッションと考えています。今の音楽業界は若い人にチャンスが溢れていると思います。そのチャンスを掴んでほしいし、若いうちから活躍できる業界で、前例にとらわれず、斬新な発想でチャレンジしてほしいです。我々もこれから新しいワーナーミュージック・ジャパンを共に創っていく仲間を増やしていきたいと思っていますので、この先に広がる新たな冒険の旅を一緒にしてみたいと共感いただける皆さんをお待ちしています。

Photo by Ryohey Nakayama

ワーナーミュージック・ジャパン公式サイト:https://wmg.jp/