東京の5人組バンド・Khakiが先月の中頃に発表した『Hakko』というアルバムは、相応のインパクトを持って新旧のリスナーへ受け入れられたと同時に、一様には定まらない種々雑多なリアクションが飛び交うという幸福な混乱さえもたらした。
無理もない。
デビュー作となった2021年の『Janome』から約4年。EPやシングルのリリースを重ねながらも、活動の根幹となるライブでは毎回のように異なったアレンジで楽曲を磨き、叩き、バンドとしての理論値をその都度リスナーに提示してきた。バンドの個人事務所として合同会社を設立し、プロモーションの隅々まで自分たちの裁量で行うKhakiだが、彼らから煮えたぎるようなアントレプレナーシップは感じられない。むしろ自分たちの面白がれるポイントを探った結果、今のユニークな形態に収まったという趣きさえある。巧妙に車輪の再発明を回避しつつ、バンドの「らしさ」を獲得し、真に「らしく」なるために。Khakiおよび『Hakko』のサイドリーダーとして、5人の証言をぜひご一読いただきたい。
Photo by Mado Uemura
『Hakko』の反響、『Janome』との対比
─『Hakko』のリリースから数日経ちましたが、反響はいかがですか?
橋本拓己(Dr):良い反応をもらいつつ、「よくわからない」みたいな感想ももらいつつ(笑)。ただ、今まで出た作品の中では間違いなく一番反響がありました。自分たちのことを知らない人にも届いたからこそ、色んなリアクションがあってビックリしちゃって。
平川直人(Vo, Gt):『Janome』の時よりも聞いてもらってる母数が増えていて、自分たちの知り得ない領域の人たちも聞くようになってるのを感じますね。
左)橋本拓己/右)平川直人
─反響という点では、リリース日にサプライズで発表した渋谷WWWでの投げ銭ライブ〈前期定例〉は話題になりましたね。スペイン坂の下まで列が並んでたらしく。
中塩博斗(Vo, Gt):そう、こんなに沢山聞いてくれたんだって。それなら最初から教えて欲しかったというか(笑)。まぁ率直に嬉しかったです。
黒羽広樹(Key):多分お互いに思ってるよね。お客さんも「ライブやるなら早く教えてよ!」っていう。
─アルバム発売のタイミングでライブを発表するのは当初から決めていたんですか?
平川:〈前期定例〉と〈後期定例〉っていうライブは毎年やろうと決めていて、〈前期定例〉の対バン相手を『Hakko』のレコーディングと並行して探してたんですけど、しっくりこなくて。そうしたらアルバムの発表が何だかんだで5月くらいになりそうで、〈前期定例〉の時期と重なってたから、やろうと。
下河辺太一(以下、下河辺):「KhakiとKhakiの対バン」っていう形式だけを決めて、そこから差別化を考えたんです。その時には2ndアルバム(『Hakko』)の曲を再現することも決めてたんで、なら1stアルバム(2021年の『Janome』)を最初にやったら良いんじゃないかって。
中塩博斗
左)黒羽広樹/右)下河辺太一
─ライブではふたつのアルバムが綺麗に対比されていましたね。『Hakko』の話に移る前に、そもそも『Janome』という作品が現時点のバンドから見てどのような意味合いを持つ作品なのかについて伺いたいです。
中塩:今だったらもうちょっと詰められる点もあったと思います。ただそういう質感も若くていいよね、みたいな。バンドの黎明期という印象です。
平川:『Hakko』が完成してから聞き返しているうちに、あのアルバムには「2025年の3月ぐらいまでのKhakiはこうだったんだな』っていうのが入ってるなと思って。アルバムを3年半くらい出さずにライブをしていた期間が反映されていると。その点、『Janome』にはあの時のバンドがあるんだなって、WWWで演奏しながら感じましたね。
2025年5月21日、『Hakko』リリース日に渋谷WWWで開催した投げ銭ライブ〈前期定例〉より(Photo by Hayato Watanabe)
─今こそ言われないですけど、「フォークロック」っていう形容をされるようになったのは『Janome』の作風が影響してるんじゃないかと。
平川:フォークロックだったり、その後の「イマーシブ・アートロック」だったりは自分たちから言い出したんじゃないんですよね。バンドの外の人に言われて面白そうだから自分たちでも言うようになったというか。今後そういうものを標榜する気は失せつつあります。
「別軸のポップス」を獲得するまで
─『Janome』リリース以降のトピックとしては、まず下河辺さんの正式加入が挙げられるかと。EP『頭痛』発表のタイミング(2022年)で、作品のコンセプトとしても暗いムードで統一されているというか。
黒羽:『Janome』がフォークロックで、なおかつポップなものとして扱われていたんです。だから、『頭痛』では聞かれなくてもいいから暗いものを作ろうとした記憶があります。その後にシングルで出る「お祝い」も既にあったんですけど、コンセプトに合わないから収録はしませんでした。
─なるほど。ライブを観てる限り、この辺りからアレンジのアイデアが出るスピードが加速し始めた印象で。
橋本:あの時期はライブが多かったんですよね。だから色々試せた。
平川:あと、真面目にやり始めた。
─それまでは真面目じゃなかった(笑)。前に大塚のライブの話をしてたのを聞いて……お客さんが全然いなかったんでしたっけ?
平川:そう、お客さん0人。
中塩:それで幕が下から開いたら、足がない。
平川:幽霊。お墓みたいなライブ。確かその後に公園で集まって『Janome』発売の告知をツイートしたんじゃなかったっけ? そういう時期もありました……。
─そもそも、バンドが広く聞かれはじめたのを実感したタイミングってあります?
平川:明確なきっかけはなく、徐々に増えてると思います。Khakiを観に来た人が5人いるところから10人になって、そこから20人になって、みたいな増え方はあったかもしれないですけど。
─『関ジャム』(現:EIGHT-JAM)の年間マイベストで川谷絵音さんから「Undercurrent」をピックアップされた時はどうでした?
下河辺:テレビ大陸音頭のメンバーがあのオンエアでKhakiを知ったらしく、それを言われた時に反響を感じました。
平川:それはすごい。今ダイレクトに実感しました(笑)。
─じゃあ結局、バンドとしてのバズを経験するわけでもなく、今に至ると。
中塩:そうです。
橋本:縦型の動画を作ってTikTokに流すとか、ちょっとは考えたんですけどね。ただ流行ってる曲って部分的にキャッチーなパートがあるとか、15秒ぐらいで踊れるとか……ウチにはないんです。
黒羽:作ってる段階でそういうことは意識しないしね。バズる形式にそもそも則っていない。
平川:そもそも、どういう曲がバズるんですか?っていう。今って単純に踊れる曲だけじゃなくて、例えばandymoriの曲がTikTokでバズってたけど、僕とか中塩くんとかは踊ることとか気にせずに高校生の頃から聞いてたわけで。それが今こんなに踊られるとは、っていう。
─確かに、こんな時代が来るとは思わなかった。
平川:ただ、それで「バズを狙ってませんよ」っていうのを言い続けるのも嫌なんです。
─なるほど。そういう考え方は『Hakko』に反映されているかもしれないですね、ある種の難解さというか。
平川:考え方自体は否定しないですけど、どこが難しいのかもわからないんですよね。それに、自分としては、音楽を聞く時は難しい方が楽しいんじゃないかと思うんですよ。
黒羽:それは一般的な態度ではないよね(笑)。まぁ、「定型ではない」っていうのはバンドの在り方としてあるかもしれない。曲の構成として理解しづらいものもあるし、音楽を定型として楽しみたい人がKhakiを聞いて「難しい」って結論に至るのは、なんとなくわかります。
下河辺:ただ、ポップスを作ることだけは継続してるんです。今回のアルバムも歌モノだし、ポップスではある。それと、例えばずっと真夜中でいいのに。みたいに転調とかビートスイッチが一般化されてるポップスはもうあるから、世間の考えるポップスの基準も上がってるんじゃないかと。だからKhakiの曲も、「よく言われるけどそんなに難しいかな?」って思いますね。
─ポップスの基準が上がってるのは頷けるんですけど、その基準を超えるのか、それとも基準に合わせた上で色々な要素を取り込みたいのかっていう、どちらの考え方なのかは気になります。
中塩:今ある複雑さとは別軸のポップスを自分たちで作りたいんです。単純になぞるより、新しいことを考え続けている方が楽しい。そういう点で、『Hakko』では作曲とかアレンジの段階から他ではあまり聞くことのできないアプローチを取れたと思ってます。
─『Janome』の頃と比べると、一曲の中での展開は増えましたよね。
中塩:どうなんですかね。例えば『Janome』でも「Kajiura」はテンポがどんどん変わっていくし、その後に出た「Undercurrent」でも全然違う展開になっていくし。Khakiの中で要素を詰め込んで曲の印象をガラッと変えること自体のハードルは年々低くなっていて、そのことが『Hakko』に表れただけなのかもしれない。
『Hakko』のコンセプトとは
─『Hakko』の中で一番最初に形が固まったのはどの曲ですか?
中塩:「文明児」かな。
下河辺:うん、2023年の年末に下北沢SHELTERでやったワンマンで披露したはず。
─なんだかんだでリリースまで1年半かかったんですね。ライブの度にアウトロが長くなっていって、音源でも3分以上続くっていう。しかも音の破綻というか、出ちゃいけない領域まで出てる感覚でした。
平川:マスタリングの時に、中塩くんが手元で音圧を上げていったんだよね。
中塩:そう。最初は弾き語りのために作った曲で、もっとフォーク寄りのアレンジだったんです。ただそれをバンドに持っていって、ライブとかスタジオで演奏を続けていくたびにみんなが展開を入れ込むようになって。
─今までになかったドラムソロとかも入ってますよね。フィジカルな部分というか、ライブだと大変そうで。
橋本:しんどいっすね……。行けるとこまで行って、限界が来たら終わるっていう。
─その次にライブでよく披露していたのは「天使」ですかね?
平川:あれは「文明児」が先に出来ていて、それを念頭に置いた曲なんです。「こんなに展開のある曲がバンドにあるなら、俺も一個くらい作ってもいいよな」って。黒羽と一緒に色んな曲を繋げて作りました。
─バンドで曲を競う意識はあるんですか?
平川:うーん、そんなにないかな。むしろ、「面白そうだしやってみよう」っていう感覚かもしれない。例えば「The Girl」で中塩くんがオープンG#A♭チューニングを使ってて、それが面白かったから同じチューニングで「Sal Urso」って曲のデモを作ったんです。アイデアを近いところから貰って、それを反映してるだけっていう。
─その辺りの曲をシングルで出そうとは思わなかったんですか?
中塩:あくまでアルバムの中で聞いてほしかったんです。それと、「Undercurrent」と『お祝い/萌芽』っていうシングルを出した後、そこから一気に10曲以上入ってるアルバムを発表した方がカッコいいと思って。だから「文明児」をシングルで出すよりは、アレンジを詰めつつ他の曲を作った方がインパクトがあるんじゃないかと。
─それでアルバムの制作にフォーカスしていくと。『頭痛』は暗さがテーマとして掲げられていたとのことですが、『Hakko』はどういうテーマだったんですか?
中塩:色気。誰も覚えてないと思うけど(笑)。
黒羽:アルバムを作るにあたって、何かしらのコンセプトを決めるためのバンド会議をして、そこで中塩くんが言ってたんだよね。
中塩:自分の中で絞り出した言葉というか。「文明児」とか「天使」が既に完成していた状態で、その辺の雰囲気を区切ったら「色気」っていうワードが出てきたんです。言葉自体に強い意味があるわけじゃないけど、軸が出来たとは思います。
─ただ、Khakiはそれで生々しい表現にはいかないというか。例えば「エロさ」とかとは違いますよね?
中塩:うん。エロではないなぁ。
平川:「色気」っていうワードを一つの認識に当てはめるのも違うっていうか。例えば、競艇場のジジイって色気があると思うんですよ。エロくはないけど、雰囲気が纏っている良さだけはなんかある、みたいな。そういう時に「色気がある」みたいな言い方をしても良いんじゃないかと思っていて。そもそもライブとかリアレンジの段階でそれぞれの考えてることは共有できていたから、軸を通すためだけになんとなく決めたっていう感じです。
キング・クルール、ペイヴメント、東進ハイスクール
─アルバムの制作に話を戻すと、軸が決まってから各々が曲を提出するフェーズになったんですかね?
平川:そう。エンジニアの阿南(智史)さんに「君たち解散するの?」って言われて(笑)。あまりに何も進んでなかったから、いい加減アルバムでも作りましょうってことで、曲数が足りないから2週間で一人一曲提出することを決めたんです。それでみんな期限を守って、ちゃんと作ってきた。
─それで今回のアルバムは全員が作曲に参加してると。下河辺さんはKhakiに曲を書くのは初ですよね?
下河辺:そうですね。構成としてはキング・クルールの「Border Line」みたいな、リフとサビを繰り返すイメージで作りました。展開自体はシンプルです。
平川:歌詞は自分が書いて、サビの〈lv30のささやき〉って箇所はくるりから引用させてもらいました。30歳をオシャレに言ってる方が先にいたのでね。結果的には下河辺らしさがある曲なんじゃないかな。Grace Cathedral Parkっていう下河辺のもう一つのバンドのメンバーに『Hakko』を聞かせて、「どれが下河辺の曲でしょう?」っていうクイズをしたら、「夢遊病」の最初のリフで当てられたらしくて。
黒羽:うん、即答だったね。
─キング・クルールを挙げてましたけど、各々の曲ではどのようなものを参照したんですか?
橋本:「かれら」はメン・アイ・トラストの……なんだっけな。
─馬に乗ってるジャケットの、ポストパンクっぽいビートのやつですかね?
橋本:あーそうそう、それです。あと、途中のギターをジャガジャガ弾く展開はマスドレ(MASS OF THE FERMENTING DREGS)からですね。
平川:俺の曲だと、「Winter Babe」は東進ハイスクールのCM。ピアノのリフを考えてもらう上で、YouTubeのリンクを黒羽に投げて「あなたの思うものを弾きなさい」って頼みました。
黒羽:音源ではピアノを弾いてなくて、ステップ入力で人間味を消した音を作ったんです。
平川:それと、東進ハイスクールのCMから冬季講習のことを考えていた時に、ペイヴメントの「Summer Babe (Winter Version)」を思い出して。あれって自分の解釈では冬に夏のことを想っている曲なんですよ。だからその逆で、夏に冬のことを想っている曲があったら面白いかなと。
─それで冬季講習だから「Winter Babe」?
平川:そう。それで歌詞を書き始めたんです。〈チューリヒが汚れた〉っていう歌詞もペイヴメントの「Zurich Is Stained」からです。
黒羽:僕は「才能の方舟」っていう曲を作ってる時にドビュッシーをたくさん聞いていて、特に「牧神の午後への前奏曲」から引用しましたね。それと、「軽民物語」とか「夢遊病」のリハモをした箇所ではブラックアダーコードっていうのを使ってて。2024年のはじめにゆゆうたが「田中秀和検定」っていうのに挑戦している動画を見たんです。いくつかのアニソンを聞き比べて、田中秀和が作った曲を当てるっていう。その時の判定基準がブラックアダーコードを挟むかどうかっていうので、それから僕も使うようになりました。
もう次があるような予感がしている
─中塩さんは?
中塩:僕はジャズばっかり聞いていたので、そこからの影響が多いです。例えば「裸、道すがら」はセロニアス・モンクの「Epistrophy」のコード進行から着想を得て、「白鳥の湖」ではボサノヴァみたいなのをしたくて作りました。それと「君のせい」はマイルス・デイヴィスの「Footprints」を聞いて、そこから影響されました。
─「君のせい」ではトランペットも吹いてますし、なんならモードで作ってますよね?
中塩:そうです。キーは違うけど「So What」とほぼ同じ構成です。
─ギターのフレーズを聞いてても、ジャズからの影響は伝わります。ただ、それで本寸法のジャズを演奏するわけではなく、あくまで歌モノのポップスにするっていう。
中塩:ポップスをやりたいっていうのが根底にあるし、色んなところから得た要素をフェイクでもいいから雰囲気として使いたいんですよね。
─フェイクへの意識というか、ジャンルが念頭にあって作ってるわけではなく、あくまで自分たちのやりたいことが先にあると。意図的に特定のジャンルに収まるのを避けることは考えたりするんですか?
下河辺:たまにありますね。例えば「夢遊病」のリフを最初に弾いてる時、ちょっとトム・ミッシュみたいだなと思って。それがあんまり好きじゃなかったからクラシックギターに持ち替えたり、そういうことはしました。
─バズへの態度にしても、簡単には括られないことへの意識はありますよね。雑な言い方ですけど、天邪鬼というか。
平川:自分たちで天邪鬼とは思ってないけど、そう思われても仕方ないのかなと。悲しいですけどね。プロモーションとかも自分たちで考えてやった結果「ひねくれ者乙」みたいな捉えられ方をしたり、真っ直ぐ伝わらないのはちょっと悲しい。そう思わない?
橋本:うん、めっちゃ悲しい。自分だったらワクワクすると思うことが「難しい」とか「ひねくれてる」みたいなリアクションで受け止められるのは……。
平川:まぁ受け取り手の自由なんですけどね。
黒羽:僕らがこういう性分なのが悪いよ(笑)。
─Khakiは会社を作って、自分たちだけでやっていく道を選びましたよね。そういう活動形態にもバンドのらしさが表れてるんじゃないかと。
橋本:まぁ事務所に入る話が来なかったから(会社を)建てたんですけどね。
黒羽:飛んで喜ぶ良い話があったら所属してもいいし。
平川:相対的に見て、活動の自由にしても金銭面にしても、自分たちだけでやるのが良いと思っているだけなんです。ただ何が最善なのかはわからない、そもそも日本の音楽業界のどこに金があるのか知らないし(笑)。まぁ想像できることが起こるんだったらやる意味はないし、自分たちがわからないことを楽しむために今の形になっている節はあります。
─「色気」や「重厚」というワードを念頭に置いて『Hakko』を作ったとのことですけど、アルバムが完成した今、バンドにとってどのような意味を持った作品に仕上がったと思いますか?
中塩:これまでの蓄積が入っていて、今の時点でのKhakiが保存できているんじゃないかと。
黒羽:そう。むしろ、もう今の姿とは違うなとすら思います。サブスクで出るまでは自分たちの音源なので何度も聞き返していましたけど、もうなんか過去になっちゃったというか。だからこそ、もう次があるような予感がしている。
平川:2025年5月21日にアルバムが出ても、5月22日には違うものが好きになってるかもしれないわけで。そういう意味では、『Hakko』は既に過去だよね。
黒羽:それを考えすぎちゃってて、リリース日のタイミングでは今じゃなくなっちゃってたからね。「これって本当に良いのかな?」って1週間くらい前から考えてて……。
─マリッジブルーみたいな(笑)。アルバムツアーの次の動きについてはもう考えているんですか?
平川:中塩くんは今年アルバム録り始めて出すとか言ってたよね。来年だっけ?
中塩:……?
黒羽:僕には今年って聞こえてたけど(笑)。僕はまだブルーから完全には抜け切ってないから、今は休眠中かな。
平川:そうなんだ。全然ブルーじゃないなぁ。個人的にはバイブスが高めというか、今バンドでドンドン作ったら面白いんじゃないかな。
Khaki
2nd ALBUM 「Hakko」
配信:https://ssm.lnk.to/khaki_hakko
1.裸、道すがら
2.君のせい
3.天使
4.Winter Babe
5.軽民物語
6.かれら
7.夢遊病
8.文明児
9.彩華
10.白鳥の湖
11.才能の方舟
12.害虫
「Khaki LIVE TOUR 2025」
2025年7月13日(日)福岡 秘密
Khaki LIVE TOUR 2025「発効」
OPEN 18:30 / START19:00
aldo van eyck
※SOLD OUT
※aldo van eyck『aldo van eyck 3rd Album "das Ding" Release Tour』とのダブルネーム公演
2025年7月17日(木)東京都 渋谷 CLUB QUATTRO
Khaki LIVE TOUR 2025「発酵」
OPEN 18:00 / START19:00
The Novembers
※SOLD OUT
FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※Khakiは7月25日(金)苗場食堂に出演
https://fujirockfestival.com
Khaki公式サイト:https://www.khaki-band.com/
無理もない。
日本語を基調としたオルタナティブ・ロックの形式にとりあえず則りながらも、1時間弱のランニングタイムでモード・ジャズからプログレまで天衣無縫に詰め込んだ一枚には、バンドの奇才っぷりがスケール感を全く損なうことなく表現されている。アルバムの発売に合わせての開催となった、初となる全国ツアーに付された発光/発航/発酵 etc.という公演タイトルは、作品から放たれる様々な「読み」への可能性を示唆しているかのようだ。
デビュー作となった2021年の『Janome』から約4年。EPやシングルのリリースを重ねながらも、活動の根幹となるライブでは毎回のように異なったアレンジで楽曲を磨き、叩き、バンドとしての理論値をその都度リスナーに提示してきた。バンドの個人事務所として合同会社を設立し、プロモーションの隅々まで自分たちの裁量で行うKhakiだが、彼らから煮えたぎるようなアントレプレナーシップは感じられない。むしろ自分たちの面白がれるポイントを探った結果、今のユニークな形態に収まったという趣きさえある。巧妙に車輪の再発明を回避しつつ、バンドの「らしさ」を獲得し、真に「らしく」なるために。Khakiおよび『Hakko』のサイドリーダーとして、5人の証言をぜひご一読いただきたい。
Photo by Mado Uemura

『Hakko』の反響、『Janome』との対比
─『Hakko』のリリースから数日経ちましたが、反響はいかがですか?
橋本拓己(Dr):良い反応をもらいつつ、「よくわからない」みたいな感想ももらいつつ(笑)。ただ、今まで出た作品の中では間違いなく一番反響がありました。自分たちのことを知らない人にも届いたからこそ、色んなリアクションがあってビックリしちゃって。
平川直人(Vo, Gt):『Janome』の時よりも聞いてもらってる母数が増えていて、自分たちの知り得ない領域の人たちも聞くようになってるのを感じますね。
『Hakko』はもう自分たちだけのものじゃないというか、『Hakko』は『Janome』よりも遠いところにあるなっていう印象。

左)橋本拓己/右)平川直人
─反響という点では、リリース日にサプライズで発表した渋谷WWWでの投げ銭ライブ〈前期定例〉は話題になりましたね。スペイン坂の下まで列が並んでたらしく。
中塩博斗(Vo, Gt):そう、こんなに沢山聞いてくれたんだって。それなら最初から教えて欲しかったというか(笑)。まぁ率直に嬉しかったです。
黒羽広樹(Key):多分お互いに思ってるよね。お客さんも「ライブやるなら早く教えてよ!」っていう。
─アルバム発売のタイミングでライブを発表するのは当初から決めていたんですか?
平川:〈前期定例〉と〈後期定例〉っていうライブは毎年やろうと決めていて、〈前期定例〉の対バン相手を『Hakko』のレコーディングと並行して探してたんですけど、しっくりこなくて。そうしたらアルバムの発表が何だかんだで5月くらいになりそうで、〈前期定例〉の時期と重なってたから、やろうと。
下河辺太一(以下、下河辺):「KhakiとKhakiの対バン」っていう形式だけを決めて、そこから差別化を考えたんです。その時には2ndアルバム(『Hakko』)の曲を再現することも決めてたんで、なら1stアルバム(2021年の『Janome』)を最初にやったら良いんじゃないかって。

中塩博斗

左)黒羽広樹/右)下河辺太一
─ライブではふたつのアルバムが綺麗に対比されていましたね。『Hakko』の話に移る前に、そもそも『Janome』という作品が現時点のバンドから見てどのような意味合いを持つ作品なのかについて伺いたいです。
中塩:今だったらもうちょっと詰められる点もあったと思います。ただそういう質感も若くていいよね、みたいな。バンドの黎明期という印象です。
平川:『Hakko』が完成してから聞き返しているうちに、あのアルバムには「2025年の3月ぐらいまでのKhakiはこうだったんだな』っていうのが入ってるなと思って。アルバムを3年半くらい出さずにライブをしていた期間が反映されていると。その点、『Janome』にはあの時のバンドがあるんだなって、WWWで演奏しながら感じましたね。

2025年5月21日、『Hakko』リリース日に渋谷WWWで開催した投げ銭ライブ〈前期定例〉より(Photo by Hayato Watanabe)
─今こそ言われないですけど、「フォークロック」っていう形容をされるようになったのは『Janome』の作風が影響してるんじゃないかと。
平川:フォークロックだったり、その後の「イマーシブ・アートロック」だったりは自分たちから言い出したんじゃないんですよね。バンドの外の人に言われて面白そうだから自分たちでも言うようになったというか。今後そういうものを標榜する気は失せつつあります。
「別軸のポップス」を獲得するまで
─『Janome』リリース以降のトピックとしては、まず下河辺さんの正式加入が挙げられるかと。EP『頭痛』発表のタイミング(2022年)で、作品のコンセプトとしても暗いムードで統一されているというか。
黒羽:『Janome』がフォークロックで、なおかつポップなものとして扱われていたんです。だから、『頭痛』では聞かれなくてもいいから暗いものを作ろうとした記憶があります。その後にシングルで出る「お祝い」も既にあったんですけど、コンセプトに合わないから収録はしませんでした。
─なるほど。ライブを観てる限り、この辺りからアレンジのアイデアが出るスピードが加速し始めた印象で。
橋本:あの時期はライブが多かったんですよね。だから色々試せた。
平川:あと、真面目にやり始めた。
─それまでは真面目じゃなかった(笑)。前に大塚のライブの話をしてたのを聞いて……お客さんが全然いなかったんでしたっけ?
平川:そう、お客さん0人。
その日はステージに幕がかかってて、「幕間にVJで『車輪』のMVを投影して、演奏しながら本編を始めたらカッコいいんじゃないか?」って話してて。
中塩:それで幕が下から開いたら、足がない。
平川:幽霊。お墓みたいなライブ。確かその後に公園で集まって『Janome』発売の告知をツイートしたんじゃなかったっけ? そういう時期もありました……。
─そもそも、バンドが広く聞かれはじめたのを実感したタイミングってあります?
平川:明確なきっかけはなく、徐々に増えてると思います。Khakiを観に来た人が5人いるところから10人になって、そこから20人になって、みたいな増え方はあったかもしれないですけど。
─『関ジャム』(現:EIGHT-JAM)の年間マイベストで川谷絵音さんから「Undercurrent」をピックアップされた時はどうでした?
下河辺:テレビ大陸音頭のメンバーがあのオンエアでKhakiを知ったらしく、それを言われた時に反響を感じました。
平川:それはすごい。今ダイレクトに実感しました(笑)。
─じゃあ結局、バンドとしてのバズを経験するわけでもなく、今に至ると。
中塩:そうです。
バズっていうより、着実に何かを作ってるだけっていう。なんか、バスって拾いにいかないともう無理というか。そういう姿勢を取ってまで拾う気はない。
橋本:縦型の動画を作ってTikTokに流すとか、ちょっとは考えたんですけどね。ただ流行ってる曲って部分的にキャッチーなパートがあるとか、15秒ぐらいで踊れるとか……ウチにはないんです。
黒羽:作ってる段階でそういうことは意識しないしね。バズる形式にそもそも則っていない。
平川:そもそも、どういう曲がバズるんですか?っていう。今って単純に踊れる曲だけじゃなくて、例えばandymoriの曲がTikTokでバズってたけど、僕とか中塩くんとかは踊ることとか気にせずに高校生の頃から聞いてたわけで。それが今こんなに踊られるとは、っていう。
─確かに、こんな時代が来るとは思わなかった。
平川:ただ、それで「バズを狙ってませんよ」っていうのを言い続けるのも嫌なんです。

─なるほど。そういう考え方は『Hakko』に反映されているかもしれないですね、ある種の難解さというか。
平川:考え方自体は否定しないですけど、どこが難しいのかもわからないんですよね。それに、自分としては、音楽を聞く時は難しい方が楽しいんじゃないかと思うんですよ。
黒羽:それは一般的な態度ではないよね(笑)。まぁ、「定型ではない」っていうのはバンドの在り方としてあるかもしれない。曲の構成として理解しづらいものもあるし、音楽を定型として楽しみたい人がKhakiを聞いて「難しい」って結論に至るのは、なんとなくわかります。
下河辺:ただ、ポップスを作ることだけは継続してるんです。今回のアルバムも歌モノだし、ポップスではある。それと、例えばずっと真夜中でいいのに。みたいに転調とかビートスイッチが一般化されてるポップスはもうあるから、世間の考えるポップスの基準も上がってるんじゃないかと。だからKhakiの曲も、「よく言われるけどそんなに難しいかな?」って思いますね。
─ポップスの基準が上がってるのは頷けるんですけど、その基準を超えるのか、それとも基準に合わせた上で色々な要素を取り込みたいのかっていう、どちらの考え方なのかは気になります。
中塩:今ある複雑さとは別軸のポップスを自分たちで作りたいんです。単純になぞるより、新しいことを考え続けている方が楽しい。そういう点で、『Hakko』では作曲とかアレンジの段階から他ではあまり聞くことのできないアプローチを取れたと思ってます。
─『Janome』の頃と比べると、一曲の中での展開は増えましたよね。
中塩:どうなんですかね。例えば『Janome』でも「Kajiura」はテンポがどんどん変わっていくし、その後に出た「Undercurrent」でも全然違う展開になっていくし。Khakiの中で要素を詰め込んで曲の印象をガラッと変えること自体のハードルは年々低くなっていて、そのことが『Hakko』に表れただけなのかもしれない。
『Hakko』のコンセプトとは
─『Hakko』の中で一番最初に形が固まったのはどの曲ですか?
中塩:「文明児」かな。
下河辺:うん、2023年の年末に下北沢SHELTERでやったワンマンで披露したはず。
─なんだかんだでリリースまで1年半かかったんですね。ライブの度にアウトロが長くなっていって、音源でも3分以上続くっていう。しかも音の破綻というか、出ちゃいけない領域まで出てる感覚でした。
平川:マスタリングの時に、中塩くんが手元で音圧を上げていったんだよね。
中塩:そう。最初は弾き語りのために作った曲で、もっとフォーク寄りのアレンジだったんです。ただそれをバンドに持っていって、ライブとかスタジオで演奏を続けていくたびにみんなが展開を入れ込むようになって。
─今までになかったドラムソロとかも入ってますよね。フィジカルな部分というか、ライブだと大変そうで。
橋本:しんどいっすね……。行けるとこまで行って、限界が来たら終わるっていう。
─その次にライブでよく披露していたのは「天使」ですかね?
平川:あれは「文明児」が先に出来ていて、それを念頭に置いた曲なんです。「こんなに展開のある曲がバンドにあるなら、俺も一個くらい作ってもいいよな」って。黒羽と一緒に色んな曲を繋げて作りました。
─バンドで曲を競う意識はあるんですか?
平川:うーん、そんなにないかな。むしろ、「面白そうだしやってみよう」っていう感覚かもしれない。例えば「The Girl」で中塩くんがオープンG#A♭チューニングを使ってて、それが面白かったから同じチューニングで「Sal Urso」って曲のデモを作ったんです。アイデアを近いところから貰って、それを反映してるだけっていう。
─その辺りの曲をシングルで出そうとは思わなかったんですか?
中塩:あくまでアルバムの中で聞いてほしかったんです。それと、「Undercurrent」と『お祝い/萌芽』っていうシングルを出した後、そこから一気に10曲以上入ってるアルバムを発表した方がカッコいいと思って。だから「文明児」をシングルで出すよりは、アレンジを詰めつつ他の曲を作った方がインパクトがあるんじゃないかと。

─それでアルバムの制作にフォーカスしていくと。『頭痛』は暗さがテーマとして掲げられていたとのことですが、『Hakko』はどういうテーマだったんですか?
中塩:色気。誰も覚えてないと思うけど(笑)。
黒羽:アルバムを作るにあたって、何かしらのコンセプトを決めるためのバンド会議をして、そこで中塩くんが言ってたんだよね。
中塩:自分の中で絞り出した言葉というか。「文明児」とか「天使」が既に完成していた状態で、その辺の雰囲気を区切ったら「色気」っていうワードが出てきたんです。言葉自体に強い意味があるわけじゃないけど、軸が出来たとは思います。
─ただ、Khakiはそれで生々しい表現にはいかないというか。例えば「エロさ」とかとは違いますよね?
中塩:うん。エロではないなぁ。
平川:「色気」っていうワードを一つの認識に当てはめるのも違うっていうか。例えば、競艇場のジジイって色気があると思うんですよ。エロくはないけど、雰囲気が纏っている良さだけはなんかある、みたいな。そういう時に「色気がある」みたいな言い方をしても良いんじゃないかと思っていて。そもそもライブとかリアレンジの段階でそれぞれの考えてることは共有できていたから、軸を通すためだけになんとなく決めたっていう感じです。

キング・クルール、ペイヴメント、東進ハイスクール
─アルバムの制作に話を戻すと、軸が決まってから各々が曲を提出するフェーズになったんですかね?
平川:そう。エンジニアの阿南(智史)さんに「君たち解散するの?」って言われて(笑)。あまりに何も進んでなかったから、いい加減アルバムでも作りましょうってことで、曲数が足りないから2週間で一人一曲提出することを決めたんです。それでみんな期限を守って、ちゃんと作ってきた。
─それで今回のアルバムは全員が作曲に参加してると。下河辺さんはKhakiに曲を書くのは初ですよね?
下河辺:そうですね。構成としてはキング・クルールの「Border Line」みたいな、リフとサビを繰り返すイメージで作りました。展開自体はシンプルです。
平川:歌詞は自分が書いて、サビの〈lv30のささやき〉って箇所はくるりから引用させてもらいました。30歳をオシャレに言ってる方が先にいたのでね。結果的には下河辺らしさがある曲なんじゃないかな。Grace Cathedral Parkっていう下河辺のもう一つのバンドのメンバーに『Hakko』を聞かせて、「どれが下河辺の曲でしょう?」っていうクイズをしたら、「夢遊病」の最初のリフで当てられたらしくて。
黒羽:うん、即答だったね。
─キング・クルールを挙げてましたけど、各々の曲ではどのようなものを参照したんですか?
橋本:「かれら」はメン・アイ・トラストの……なんだっけな。
─馬に乗ってるジャケットの、ポストパンクっぽいビートのやつですかね?
橋本:あーそうそう、それです。あと、途中のギターをジャガジャガ弾く展開はマスドレ(MASS OF THE FERMENTING DREGS)からですね。
平川:俺の曲だと、「Winter Babe」は東進ハイスクールのCM。ピアノのリフを考えてもらう上で、YouTubeのリンクを黒羽に投げて「あなたの思うものを弾きなさい」って頼みました。
黒羽:音源ではピアノを弾いてなくて、ステップ入力で人間味を消した音を作ったんです。
平川:それと、東進ハイスクールのCMから冬季講習のことを考えていた時に、ペイヴメントの「Summer Babe (Winter Version)」を思い出して。あれって自分の解釈では冬に夏のことを想っている曲なんですよ。だからその逆で、夏に冬のことを想っている曲があったら面白いかなと。
─それで冬季講習だから「Winter Babe」?
平川:そう。それで歌詞を書き始めたんです。〈チューリヒが汚れた〉っていう歌詞もペイヴメントの「Zurich Is Stained」からです。
黒羽:僕は「才能の方舟」っていう曲を作ってる時にドビュッシーをたくさん聞いていて、特に「牧神の午後への前奏曲」から引用しましたね。それと、「軽民物語」とか「夢遊病」のリハモをした箇所ではブラックアダーコードっていうのを使ってて。2024年のはじめにゆゆうたが「田中秀和検定」っていうのに挑戦している動画を見たんです。いくつかのアニソンを聞き比べて、田中秀和が作った曲を当てるっていう。その時の判定基準がブラックアダーコードを挟むかどうかっていうので、それから僕も使うようになりました。
もう次があるような予感がしている
─中塩さんは?
中塩:僕はジャズばっかり聞いていたので、そこからの影響が多いです。例えば「裸、道すがら」はセロニアス・モンクの「Epistrophy」のコード進行から着想を得て、「白鳥の湖」ではボサノヴァみたいなのをしたくて作りました。それと「君のせい」はマイルス・デイヴィスの「Footprints」を聞いて、そこから影響されました。
─「君のせい」ではトランペットも吹いてますし、なんならモードで作ってますよね?
中塩:そうです。キーは違うけど「So What」とほぼ同じ構成です。
─ギターのフレーズを聞いてても、ジャズからの影響は伝わります。ただ、それで本寸法のジャズを演奏するわけではなく、あくまで歌モノのポップスにするっていう。
中塩:ポップスをやりたいっていうのが根底にあるし、色んなところから得た要素をフェイクでもいいから雰囲気として使いたいんですよね。
─フェイクへの意識というか、ジャンルが念頭にあって作ってるわけではなく、あくまで自分たちのやりたいことが先にあると。意図的に特定のジャンルに収まるのを避けることは考えたりするんですか?
下河辺:たまにありますね。例えば「夢遊病」のリフを最初に弾いてる時、ちょっとトム・ミッシュみたいだなと思って。それがあんまり好きじゃなかったからクラシックギターに持ち替えたり、そういうことはしました。
─バズへの態度にしても、簡単には括られないことへの意識はありますよね。雑な言い方ですけど、天邪鬼というか。
平川:自分たちで天邪鬼とは思ってないけど、そう思われても仕方ないのかなと。悲しいですけどね。プロモーションとかも自分たちで考えてやった結果「ひねくれ者乙」みたいな捉えられ方をしたり、真っ直ぐ伝わらないのはちょっと悲しい。そう思わない?
橋本:うん、めっちゃ悲しい。自分だったらワクワクすると思うことが「難しい」とか「ひねくれてる」みたいなリアクションで受け止められるのは……。
平川:まぁ受け取り手の自由なんですけどね。
黒羽:僕らがこういう性分なのが悪いよ(笑)。

─Khakiは会社を作って、自分たちだけでやっていく道を選びましたよね。そういう活動形態にもバンドのらしさが表れてるんじゃないかと。
橋本:まぁ事務所に入る話が来なかったから(会社を)建てたんですけどね。
黒羽:飛んで喜ぶ良い話があったら所属してもいいし。
平川:相対的に見て、活動の自由にしても金銭面にしても、自分たちだけでやるのが良いと思っているだけなんです。ただ何が最善なのかはわからない、そもそも日本の音楽業界のどこに金があるのか知らないし(笑)。まぁ想像できることが起こるんだったらやる意味はないし、自分たちがわからないことを楽しむために今の形になっている節はあります。
─「色気」や「重厚」というワードを念頭に置いて『Hakko』を作ったとのことですけど、アルバムが完成した今、バンドにとってどのような意味を持った作品に仕上がったと思いますか?
中塩:これまでの蓄積が入っていて、今の時点でのKhakiが保存できているんじゃないかと。
黒羽:そう。むしろ、もう今の姿とは違うなとすら思います。サブスクで出るまでは自分たちの音源なので何度も聞き返していましたけど、もうなんか過去になっちゃったというか。だからこそ、もう次があるような予感がしている。
平川:2025年5月21日にアルバムが出ても、5月22日には違うものが好きになってるかもしれないわけで。そういう意味では、『Hakko』は既に過去だよね。
黒羽:それを考えすぎちゃってて、リリース日のタイミングでは今じゃなくなっちゃってたからね。「これって本当に良いのかな?」って1週間くらい前から考えてて……。
─マリッジブルーみたいな(笑)。アルバムツアーの次の動きについてはもう考えているんですか?
平川:中塩くんは今年アルバム録り始めて出すとか言ってたよね。来年だっけ?
中塩:……?
黒羽:僕には今年って聞こえてたけど(笑)。僕はまだブルーから完全には抜け切ってないから、今は休眠中かな。
平川:そうなんだ。全然ブルーじゃないなぁ。個人的にはバイブスが高めというか、今バンドでドンドン作ったら面白いんじゃないかな。


Khaki
2nd ALBUM 「Hakko」
配信:https://ssm.lnk.to/khaki_hakko
1.裸、道すがら
2.君のせい
3.天使
4.Winter Babe
5.軽民物語
6.かれら
7.夢遊病
8.文明児
9.彩華
10.白鳥の湖
11.才能の方舟
12.害虫

「Khaki LIVE TOUR 2025」
2025年7月13日(日)福岡 秘密
Khaki LIVE TOUR 2025「発効」
OPEN 18:30 / START19:00
aldo van eyck
※SOLD OUT
※aldo van eyck『aldo van eyck 3rd Album "das Ding" Release Tour』とのダブルネーム公演
2025年7月17日(木)東京都 渋谷 CLUB QUATTRO
Khaki LIVE TOUR 2025「発酵」
OPEN 18:00 / START19:00
The Novembers
※SOLD OUT
FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※Khakiは7月25日(金)苗場食堂に出演
https://fujirockfestival.com
Khaki公式サイト:https://www.khaki-band.com/
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