6月の1カ月間をかけて、信頼するバンドメンバーと共に10都市のライブハウスを回った、にしな。今回の全国ワンマンツアー「MUSICK 2」は、4月に東京国際フォーラム(ホールA)で行った自身最大規模となるワンマンライブ「MUSICK」の延長線上に位置付けられるもの。
「MUSICK」の時がそうであったように、今回の「MUSICK 2」も、まっすぐに音楽を届け、そして、音楽を介して観客と深くコミュニケーションを重ねていく、そうした極めてシンプル、かつ、本質的なライブの在り方を真摯に追求したツアーだった。そして今回は、会場がライブハウスということもあり、ライブパフォーマンスの熱さや、観客とのコミュニケーションの親密さを、かつてないほどに感じられたように思う。この記事では、6月26日、Spotify O-EASTで行われたツアーファイナル公演をレポートしていく。

【画像】にしな、「MUSICK 2」ファイナル公演(全32枚)

1曲目は、エレキギターの弾き語りから幕を開けた「ヘビースモーク」。静寂の中、凛とした響きを放つ歌声、凍てつくような手触りのエレキギターのコードストロークが鳴り渡り、途中からバンドイン。短期間でたくさんのステージを共にしてきたからだろうか、いつもよりもバンドサウンドの躍動的なエネルギーが際立っているように感じた。にしなの歌に寄り添い、引き立てるだけではなく、歌とバンドサウンドが分かちがたく結び付き合いながら、巨大なエネルギーを放っていく。そうした5人の渾身のライブパフォーマンスに、冒頭から深く引き込まれた。特に、望月敬史(Dr)によるドラムのエモーショナルさには圧倒された。2曲目は、「MUSICK」のステージで初披露された「weekly」。1曲目から一転して、カラフルで軽やかなフィーリングが瞬く間に会場を満たし、にしなの歌声に重なる観客の合唱もばっちりだった。続く「ねこぜ」における〈ほっとけー〉のコールも同じくばっちりきまり、にしなは、右手を高く上げサムズアップをして観客を讃えてみせる。


にしな、「MUSICK 2」ファイナルで示した、バンドメンバーと観客への信頼の深さ

(Photo by Daiki Miura)

「せっかくのファイナルなので、恥じらい捨てつつ、最後まで、ハッピーに、健康に、楽しんでいけたらなと思います」。そう挨拶した後に披露されたのは、「あれが恋だったのかな」。その曲名とは裏腹に迷いなく爆走するバンドサウンドを追い抜き追い越すように、にしなは鮮やかに吹き抜ける風のようなエネルギッシュな歌を届け、また、原曲ではセリフ調の2番のパートを今回は叫び上げるように歌ってみせる。改めて、歌とバンドサウンドの渾然一体さに驚かされる時間だった。

再びモードが変わり、ここから、切実な恋心や孤独の感傷をありありと伝えていく3曲「真白」「スローモーション」「夜になって」が立て続けて披露される。ホール公演だった「MUSICK」の時と異なり今回はライブハウス公演ということもあって、どの曲も、鳥肌が立つほどに凄まじい気迫をもってダイレクトに胸に迫ってきた。また、「スローモーション」における真田徹(G)のギターリフは、これまでのライブと比べてグッと鮮烈な存在感を増して響いていて、さらに、にしなの歌もそれに呼応するように今まで以上にエモーショナルに響いているように感じられた。繊細さと壮大さが一つの楽曲の中で美しく両立するような「つくし」も、息を呑む名演だった。

にしな、「MUSICK 2」ファイナルで示した、バンドメンバーと観客への信頼の深さ

(Photo by Daiki Miura)

ここから、「MUSICK」の時にも設けられていたアコースティックコーナーへ。まずは、にしなと松本ジュン(Key)の2名で、日替わりの一曲。「ははんははん」「はんはーは」というように曲名を伏せた形でどちらの曲がよいか観客にアンケートをとり、「ワンルーム」を披露。ギターのコード感と比べて、鍵盤のコード感がシャープだからこそ、にしなの声の些細な震えや細かなブレスがありありと伝わってきた。


にしな、「MUSICK 2」ファイナルで示した、バンドメンバーと観客への信頼の深さ

(Photo by Daiki Miura)

次に、真田、Tomi(B)、望月を迎え、再び5人編成で「plum」をアコースティックアレンジで披露。松本が奏でるジャジーなコードが前面に出たアレンジで、原曲とは異なる表情がくっきりと浮き彫りになっていたように思う。続けて、昨年春のリリース以降、にしな流のライブアンセムとしての存在感を誇るようになった「It's a piece of cake」へ。自然と巻き起こる大らかなハンズクラップと温かなシンガロング。にしなは、〈不揃いのそれぞれで〉という歌詞に合わせて、上下交互に動かす両手で一人ひとりの観客を指差しながら、今日集まった観客と共にこの日限りのライブパフォーマンスをつくりあげていく。同曲の終わり、「みんな天才です、ありがとうっ!」と伝えたにしなの深い満足感に満ちたような晴れやかな表情が忘れられない。

あっという間にライブは後半へ突入。「ケダモノのフレンズ」では、にしなが、グッズの"ケダモノのしっぽ"を振り(バンドメンバーは楽器に装着)、観客も同じく、しっぽや昨年のツアーのグッズ"照らすcomplex ring"を自由に振って、にしなのライブ独自のチアフルな空間を共につくりあげていく。「東京マーブル」のサビ前では、にしなとTomiが向き合い、3回ぴょんぴょんぴょんとジャンプ。それ以降のサビ前では観客も巻き込んでジャンプ。「クランベリージャムをかけて」では、肩から下げたバッグからキャンディーをフロアに振りまきながら観客と熱烈なジャムを重ね、「U+」のラストでは、大胆にマイクをフロアに託し、観客が大合唱でしっかり応えてみせる。今回のツアーを通して、バンドメンバーへの信頼が今まで以上にグッと深まっているのと同じように、観客への信頼も、これまでよりさらに深まっているように感じられた一幕だった。


バンドメンバーの紹介を兼ねた激烈なセッションから雪崩れ込む形で突入した「シュガースポット」では、「今日一番の声を出せますか!」というにしなの呼びかけに応える形で熱烈な歌声がフロアから送られる。とにかく最高に楽しい。会場全体にクライマックスの高揚が満ちる中、ついにラスト1曲「わをん」へ。曲中に送られた「みんなの顔も声も、素晴らしかったです」「生きてたらいろいろあるけど、優しく、愛を持って、生きていきましょう」という温かな言葉が深く心に染みた。

にしな、「MUSICK 2」ファイナルで示した、バンドメンバーと観客への信頼の深さ

(Photo by Daiki Miura)

アンコールでは、まず、「1999」が披露される。描き出されていく世界があまりにも壮大で、ここがO-EASTであることをつい忘れてしまうほどだった。その後のMCで、にしなは、今回のツアーを「旅っぽいツアー」だったと振り返った。いわく、にしなもバンドメンバーもシャイだが、今回は今まで以上にバンド内のコミュニケーションが多かったツアーで、にしなは、忘れかけていた大切なことを思い出したと感慨深く告げた。今回のライブ全編を通して感じた"バンド感"の強さは、やはり間違っていなかったのだと合点がいった。

話題は、次に披露する新曲「輪廻」へ。にしなは、自身にとって大事な人の最期の時に立ち会うことができなかった、というエピソードを話し始めた。その日の帰り道、夜空に赤くて丸い月が浮かんでいて、それを見た時、その人が、さよならを言いに、励ましに来てくれたような感覚を抱いたという。
その時にもらった大きなエネルギーをもとに作られたのが、今回アンコールの2曲目として披露された「輪廻」という新曲。人が人を想うということ。そして、その想いが、次の誰かへと巡り、循環していくということ。そうした極めて普遍的、かつ、深淵なテーマを真正面から歌にした、とてもドラマチックなナンバーだった。

にしな、「MUSICK 2」ファイナルで示した、バンドメンバーと観客への信頼の深さ

(Photo by Daiki Miura)

この日のライブ、および、今回のツアーを締め括ったのは、痛快なロックンロールナンバー「アイニコイ」。最後は、5人で手を繋ぎ、オフマイクで「ありがとうございました!」と感謝を告げ、万感の終幕。総じて、バンドメンバーや観客との繋がり合いの強さが、にしなの表現をさらに深く壮大なものへと進化させていることを実感したライブだった。今後のアクションへの期待が高まる。

セットリスト
1. ヘビースモーク
2. weekly
3. ねこぜ
4. あれが恋だったのかな
5. 真白
6. スローモーション
7. 夜になって
8. つくし
9. ワンルーム
10. plum
11. It's a piece of cake
12. ケダモノのフレンズ
13. 東京マーブル
14. クランベリージャムをかけて
15. U+
16. シュガースポット
17. わをん
EN1. 1999
EN2. 輪廻
EN3. アイニコイ

にしなオフィシャルHP:https://nishina247.jp/
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