偽物が本物よりも影響力をもちうる時代
The Velvet Sundownは複数のメディアがその不自然な人気ぶりを報じた後も、Xの公式アカウントでAIの使用を強く否定し続けていた。しかし現在、バンドのスポークスパーソンで”準メンバー”を名乗るアンドリュー・フレロン(Andrew Frelon)はこう認めている。
「これはマーケティングだ。トローリング(※人々を意図的に挑発して注目を集める行為)なんだよ。以前は誰も僕たちのことなんて気にしちゃいなかった。でも今や、こうしてRolling Stoneと話している。つまり、”それって悪いこと?”って話だよね」
「個人的に、僕はアート・ホークスに興味があるんだ」とフレロンは続ける。「たとえばイギリスのLeeds 13っていうアート学生のグループがいて、彼らは奨学金を使ってビーチで遊んでるような偽の写真を作って、それが大スキャンダルになった。そういうのって、すごく面白いと思うんだよね。今の世界では、偽物のほうが本物よりも大きな影響力を持つことすらある。それってヤバいことだけど、でもそれが僕たちの生きている現実なんだよね。だからこそ、こう思うんだ──そういう現実を無視すべきなのか? リアルとフェイクのあいだ、あるいはその混合地帯に存在するものたちを無視すべきなのか? それとも、そこに飛び込んで、それこそがネット時代における新たなネイティブ・ランゲージなんだと認めるべきなのか?って」

Velvet SundownのX公式アカウント(@Velvet_Sundown)より引用。
7月2日の朝(※アメリカ現地時間)に行われた電話インタビューの中で、フレロンは当初、「AIはあくまで楽曲のブレインストーミングに使っただけだ」と主張していた。だがその後、「Sunoは使った、でも最終的な音源には使っていない」と認め、最終的には「(どの曲とは言いたくないが)少なくとも一部の楽曲はSunoによって生成された」ことを認めるに至った。「このことは他の誰にも話していないんだ」とフレロンは証言している。
さらに彼は、Sunoの「ペルソナ」機能も使用したことを認めた。これは、ティンバランドが物議を醸しているAIアーティスト「TaTa」に使っているのと同じ機能で、一貫した歌声を複数の楽曲で保つために用いられるものだという。ただしフレロンは、「すべてのトラックでそれを使っているわけではない」と主張し続けている。
一部の観察者たちは、「Velvet Sundown」のSpotifyリスナー数が急増した背景に、プレイリスト操作のような仕掛けがあったのではないかと疑問を投げかけている。しかし、フレロンはその問いに対して明確な回答を避けた。「Spotifyのバックエンドについては自分が管理してるわけじゃないから、その仕組みがどうなってるか正確にはわからない」と彼は語る。「たくさんのフォロワーがいるプレイリストに載ったことは知ってるし、たぶんそこから広がっていったんだと思うよ」
そうなると、フレロンやその関係者が、自前のプレイリストを使って再生数をブーストしたのか? この質問にはこう答えている──「その件について君に言えるような答えは持ってない。というのも、僕はその部分に関与していないから。それに、事実じゃないことは言いたくないからね」
当初から指摘されてきた「AIフェイク説」
The Velvet Sundownの謎が始まったのは今年6月のことだった。
しかし、それはどこまで「本物」だったのだろうか? たとえば「Dust on the Wind」といった楽曲は、70年代ロックの汎用的な再現のように感じられたし、グループの写真は、明らかにAI生成特有の琥珀色に包まれたような光沢を持っていた。Reddit(※米国の掲示板型SNS)では、複数のユーザーがこのバンドを「完全にフェイクなバンド」だと指摘し、ミュージシャン/ライターのクリス・ダラ・リヴァ氏もTikTok上でその存在に疑問を呈した。また、ストリーミングサービスDeezerも「このアルバムの一部の楽曲はAIによって作成された可能性がある」との注記を出している。
さらに音楽業界向けサイトMusic Allyの調査によれば、Velvet Sundownの楽曲が掲載されていたSpotifyのプレイリストの大半は、たった4つのSpotifyアカウントによって運営されていたという。そして、彼らの楽曲がなぜかベトナム戦争を想起させる曲を集めたプレイリストに紛れ込んでいた理由については、誰にも説明できなかった。
今週初め、”バンド”は自身のXアカウントで反論の声明を投稿した。その中で彼らは次のように主張している。「Velvet SundownがAI生成だという怠惰で根拠のない説を、ジャーナリストたちが証拠もなしに広め続けているなんて、まったくクレイジーだ……これは冗談なんかじゃない。これは僕たちの音楽だ。
AI音楽に抵抗を感じるのは「過剰反応」なのか?
Spotifyには、現時点でAI音楽に対する明確な禁止ルールは存在していない。かつてSpotifyでデータ分析担当(Data Alchemist)を務めていたグレン・マクドナルド氏はこう語る。「以前は”フェイクな音楽”よりも”フェイクなリスナー”のほうが大きな問題でした。だけど今はその構図が逆転したのかもしれません」
マクドナルド氏は、Velvet SundownがSpotify上で急浮上した理由について、いくつかの要因が考えられると指摘する。そのひとつは、Spotifyのレコメンド(おすすめ)システムがかつてのような「実際のリスニング傾向やコミュニティに基づいた、理解可能なアルゴリズム」から離れ、今ではむしろ「音響的特徴だけに基づいて楽曲を選ぶAI駆動型のシステム」へとシフトしていることだという。
マクドナルド氏によれば、これらの要因が重なることで、Spotifyのシステムは「宝くじ的な偶然性が増す」構造になっており、”フェイクなバンド”が成功できない理由がますます少なくなっているという。「もちろん、大半のフェイクバンドは今でも成功は難しいでしょうし、AIバンドがまったく聴かれなかったとしても、それを気に留める方はほとんどいらっしゃらないでしょう。一方で、そうした存在が成功することに対する明確な歯止めや規制は現時点では存在しておらず、また、Spotifyのビジネス的な観点から申し上げても、それを”防ぐべき問題”として捉えるべきかどうかについては意見が分かれるところかと思います」──なお、Spotifyの広報担当者はこの件に関するコメントを辞退している。
Velvet Sundownがこれほどバズった理由について、あるベテランA&R(匿名希望)はこう語る。「音楽が素晴らしいからじゃなくて、AIだから注目されたんだよ。

Velvet SundownのX公式アカウント(@Velvet_Sundown)より引用
かたやVelvet Sundownのフレロンは、音楽ファンはAIツールを受け入れることを学ぶべきだと語り、それに対する恐れを「過剰反応もいいところ」と表現している。
「人々がこの件に対して強い抵抗を抱いていることは理解しているし、そこは尊重しているつもりさ」と彼は言う。「でも、アーティストが新しいテクノロジーやツールを使って実験し、試行錯誤することを認めることは大事だと思うんだ。誰かがプログラムを使ってるとか使ってないとか、そういうことで人を責めるのはやめたほうがいい。みんな”誰からも好かれなきゃいけない、ルールに従わなきゃいけない”って思い込んでる。でも、音楽や文化というのは、そんなふうにして発展してきたわけじゃない。人々が奇妙な実験をしてみて、うまくいくこともあれば、そうじゃないこともある──そういう精神こそが、僕たちが大事にしてるものなんだ」
From Rolling Stone US.
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