UKルートン出身の27歳、マイルズ・スミス(Myles Smith)。2025年、最も注目すべきシンガーソングライターの一人と言っていいだろう。


というより、すでにトップアーティストの仲間入りを果たしつつある。2024年5月にリリースした「Stargazing」は世界で20億回再生を超え、2024年の英国人アーティストによる年間最大のヒットを記録した。さらにBRIT Awards 2025ではライジング・スター賞を受賞し、TIME誌が発表した2025年版「世界で最も影響力のある100人」にも選出されている。

なぜ彼はここまで飛躍を果たしているのか。

最大の影響源エド・シーランとスタジアムで共演

再生回数の数字や受賞歴以上に、曲を一度聴けばマイルズ・スミスの魅力がハッキリとわかるはず。

「Stargazing」は一度聴けば覚えてしまうキャッチーなメロディと、誰もがシンガロングできる包容力を兼ね備えた一曲だ。星を見上げ、大切な存在への愛に気付くというロマンティックな世界観の楽曲は、スタジアム・アンセムとしての強度を持っている。

軽快なビートとアコースティックギターの響きが印象的な「Nice To Meet You」もスマッシュヒット。ワン・ヒット・ワンダーに終わらない実力の持ち主であることを証明した。

今年5月には最新EP『A Minute, A Moment...』をリリース。リード曲「Gold」はツアー各地の会場で大合唱を巻き起こしている。

その音楽性はどんな文脈に位置づけられるのか。
マイルズ・スミスのブレイクは、いまの音楽シーンのどんなトレンドを象徴しているのか。紐解いていきたい。

ジャマイカ系の家庭に育ち9歳でギターを手にしたマイルズ・スミス。最大の影響源として公言しているのがエド・シーランだ。13歳の頃に『+』を聴いてループペダルに開眼し、地元のパブでカバーとオリジナル曲を演奏するようになった。当時演奏していたのは、エド・シーランだけでなく、マムフォード・アンド・サンズやコールドプレイの楽曲でもあったという。

高校卒業後、ノッティンガム大学に進学した彼は、2022年にTikTokへ投稿を開始。弾き語り動画が注目を集め、2023年に「My Home」や「Solo」などのシングルをセルフリリースした後、ソニー・ミュージックと契約。2024年3月にメジャーデビューEP『You Promised a Lifetime』をリリースした。

そして2025年5月から9月まで続くエド・シーランの「Mathematics Tour」のヨーロッパ公演のサポートアクトに抜擢。たった3年で環境は一変し、憧れの人とステージを共にしてスタジアムに立つ経験を手にした。

エド・シーランとマイルズ・スミスの共演(オーディエンス撮影)

UKの移民都市が生んだ雑食性

エド・シーランとマイルズ・スミスには音楽的な共通点も多い。


両者ともアコースティックギター主体のフォーク・ポップを軸にしつつ、多様なスタイルを果敢に取り入れている。その背景には、移民が共生するUKの豊かな音楽カルチャーがある。

エド・シーランの代表曲「Shape of You」にはダンスホール/レゲエのリズムが息づき、コラボ作『No. 6 Collaborations Project』ではヒップホップやグライムに深く踏み込んだ。「Thinking Out Loud」ではソウルやR&Bのフィーリングが鍵を握り、「Galway Girl」ではアイリッシュ・トラッドを取り入れている。

自身のルーツであるアイルランドだけでなく、カリブ海、西アフリカ、それぞれの移民がロンドンで育んできた音楽カルチャーを自らの身体に取り込んできた旺盛な雑食性がエド・シーランの音楽性のキーにある。

対してマイルズ・スミスはジャマイカがルーツだ。両親や兄弟の影響でモータウン・ソウルや2000年代のR&Bも浴びるように聴いて育った。グリーン・デイやラビリンスなど幅広い音楽に刺激を受け、UKラップにも傾倒した。さらに地元のルートンにはアイルランド系のコミュニティが根付いている。トラッド/カントリー系のバンドが活躍するパブも少なくない。

出自と世代こそ違えど、エド・シーランとマイルズ・スミスは移民が共生し交差するUKの多文化的な音楽遺伝子を自らの身体に宿したシンガーソングライターと言えるだろう。

”Stomp & Holler” 復権の象徴

マムフォード・アンド・サンズの系譜も、マイルズ・スミスのブレイクを語るうえで欠かせないキーワードだ。


その成功は2020年代に再燃する音楽トレンド”Stomp & Holler”(ストンプ・アンド・ホラー)の象徴とも捉えられる。

”Stomp & Holler”は「Stomp(=足を踏み鳴らす)」と「Holler(=叫ぶ)」を組み合わせた造語で、エモーショナルで高揚感あるフォーク・ポップのスタイルを示す。四つ打ちのビートにアコギやバンジョーのストローク、アンセミックなメロディが大きな特徴。2010年代後半にSpotifyの公式プレイリスト名からマイクロジャンルとして定着した。

その源流は、マムフォード・アンド・サンズやザ・ルミニアーズが火をつけた2010年代前半のフォーク・リバイバルにある。

代表曲は2012年のマムフォード・アンド・サンズ「I Will Wait」だろう。数万人規模のフェス会場で観客が足を踏み鳴らし、手拍子を叩き、一斉に叫び、シンガロングする光景は、まさに”Stomp & Holler”の体現だ。

そしてその流れを 2020 年代に蘇らせた立役者が、米バーモント州出身のノア・カーンだ。シングル「Stick Season」(2022 年)を皮切りに TikTok でバイラルを起こし、ポスト・マローンらとのコラボを経て2023年から2024年にかけてブレイク。その人気はUKでも爆発し、2024年にはUKシングルチャート 7週連続1位、年間チャート1位を達成した。

2025年の現在地

2025年も”Stomp & Holler”のムーブメントは続いている。マムフォード・アンド・サンズは3月に原点回帰作『Rushmere』をリリースし、エド・シーランも5月の新曲「Old Phone」で”Stomp & Holler”スタイルを示した。


そして6月、マイルズ・スミスはグラストンベリー・フェスティバルに初出演。「Stargazing」で大観衆に興奮と歓喜を巻き起こしている光景を見れば、彼の音楽がどんな風に受け入れられているかが伝わるだろう。

マイルズ・スミスの背後には、エド・シーラン、マムフォード・アンド・サンズ、ノア・カーンといった2010年代~2020年代フォーク・ポップ革新の系譜がある。アリーナやスタジアムクラスの祝祭感を生み出す音楽として、現在進行形でアップデートが続いている。

この先、彼はさらに大きな存在になるだろう。そのダイナミズムを日本で体感できる来日公演を楽しみに待ちたい。

この投稿をInstagramで見るMyles Smith(@mylessmithuk)がシェアした投稿14万人を動員したエド・シーランのフランス・マルセイユ公演にて、大いに歓迎されるマイルズ・スミス

マイルズ・スミスとは? エド・シーラン直系のUK新世代、世界的ヒットの背景と「革新の系譜」を解き明かす

マイルズ・スミス
『A Minute, A Moment…』
配信中
再生・購入:https://lnk.to/MS_AM_AMRS

【収録曲】
1. Made For Me
2. Gold
3. My First Heartbreak
4. Someone New
5. All My Life
6. Dreamers
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