〈私達はクラブに向かっているところ/馬鹿な真似をする奴が馬鹿だってこと〉(「catch these fists」)──ウェット・レッグが向かうパーティがどんなものであれ、どうやら飛び入り参加する価値はありそうだ。
UKのインディーロック・バンド、ウェット・レッグは2021年にどこからともなく(まあ、正確にはワイト島から)突如現れ、シングル「Wet Dream」と「Chaise Longue」の2曲によって、巧妙な手口で国際的なスーパースターへと駆け上がった。リアン・ティーズデイルとヘスター・チェンバースはギターをかき鳴らしながら、彼女たちの前に現れる馬鹿な男たちを皮肉たっぷりにあしらう一行ネタをヒステリックに吐き出す──〈うち来る?『バッファロー66』のDVDあるよ〉という不滅のフックとともに。
ウェット・レッグはもともと、大学卒業後の退屈を笑い飛ばすために何曲か冗談半分で書いていた、ちょっと皮肉屋な女の子ふたりから始まった──彼女たち自身が〈大学に行って、”ビッグD”を手に入れた!〉と歌っているように。バンドを始めようというアイデアも、観覧車に乗っているときに思いついたんだと自慢していたくらいだ。
それなのに、デビュー・アルバムはまさかの大ヒット。クールな英国バンドがことごとく埋もれていくアメリカでさえ成功を収めた。ウェット・レッグはグラミー賞まで獲得──控えめに言っても快挙だろう。なにしろ、彼女たちの代表曲といえば、「車内オナニー」と「楽屋でグルーピーといちゃつく」ことをテーマにした2曲なのだから。歯切れのいいギター、気だるい皮肉、そして世界に中指を立てるようなパンク・フェミニズム的傲慢さ。どうして愛さずにいられようか?
2bdアルバム『moisturizer』でウェット・レッグは、以前よりさらに弾けて、どんどんスピードを上げ、ますます人目を気にせず、よりセクシーな愚か者たちと出会っていることを証明してみせた。
「mangetout」は、パルスのように脈打つリズム、大胆不敵な自信、暴走するホルモンが渦巻く、ほぼ完璧なダンスパンクのサマージャムだ。リアンは、現代的なナンパ文句でグイグイと迫る。〈私のこと可愛いと思ってるんでしょ/超クールだと思ってるんでしょ/私とヤリたいってこと?/大抵の人がそう思ってるはず〉──曲の終盤には、彼女たちは〈消え失せな、永遠に!(Get lost forever!)〉とコールしながら、さらにテンションをぶち上げていく。
突き抜けた痛快さとユーモア
『moisturizer』は、終始スピード感と小悪魔的な勢いに満ちている。オープニングの「CPR」では、リアンが欲望を医療緊急事態になぞらえ、救急車のサイレンのようなシンセのフックに乗せて〈唇を重ね合わせ、人工呼吸をしてよ〉と叫ぶ。
デビュー以降、彼女は初めてクィアな関係に身を置くようになった。一方でデビュー作と同様、本作のすべての楽曲が現代的な恋愛の浮き沈みをユーモラスに描き出している。ここ数年で彼女たちはすっかりスターになり、ファンを公言するハリー・スタイルズとのツアーも経験。彼はBBCで「Wet Dream」の見事なカバーも披露した。けれど、彼女たちは「若くてうるさくて小生意気」な姿勢を微塵も改めていない。
「catch these fists」は、クラブで激しく遊びすぎて、ドラッグをやりすぎて、ただ友達と踊りたいだけなのにナンパしてくるダメ男たちとケンカになる、という曲だ。リアンは嘲笑うようにこう歌う。〈どっかの男が近づいて来て、私が好みのタイプだって言う/胃液が口に逆流するほど吐き気がした〉。
「pillow talk」は、恋愛的欲望をテーマにしたハイスピードなニューウェーブ讃歌。リアンはこう歌う。〈毎晩、枕を舐める/本当は君を舐めていたいのに〉〈毎晩、枕とヤる/本当は君とヤっていたいのに〉。へスターも「dont speak」(ノー・ダウトの曲とは別物)と「pond song」という2曲でリード・ボーカルを務めており、どちらもチャーミングな楽曲に仕上がっている。
このアルバムで唯一うまくいってないのは、いかにもお約束といった感じのバラード「11:21」だ。スローモーションな感傷なんてウェット・レッグには似合わない。
『moisturizer』に詰め込まれた感情は振れ幅が大きい。とろけるような陶酔感もあれば(〈私が君のシャキーラになる/どんな時でも、どこであろうと〉「davina mccall 」)、「あなたは終わった人、時代遅れ、私の邪魔をしてるだけ」とバッサリ切り捨てるような別れの怒りもある(〈ああ、さっさと消えてくれないかな〉「mangetout」)。けれど、ウェット・レッグがどこへ向かおうと、私たちは思わずそのあとをついて行きたくなるのだ。
From Rolling Stone US.

ウェット・レッグ
『moisturizer』
発売中
日本盤:解説書・歌詞対訳付き/ボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14881
WET LEG japan moistourizer 2026
2026年2月18日(水)東京・豊洲PIT
2026年2月19日(木)大阪・GORILLA HALL OSAKA
2026年2月20日(金)名古屋・DIAMOND HALL
Open 18:00 / Start 19:00
チケット:前売:8,800円(税込)
※別途ドリンク代必要
※未就学児童入場不可
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15225