近年、イギリスでもっともブレイクした新進気鋭のダンスアクト──スコットランドはエジンバラ出身、バリー・キャント・スウィム(Barry Can't Swim:以下、BCS)ことジョシュア・マニーのことをそう呼んでも異論はあるまい。デビューアルバム『When Will We Land?』(2023年)はいきなりマーキュリー賞にノミネートされ、BBC Sound of 2025では3位に選出。
2024年末には5000人キャパのブリクストンアカデミーを3夜連続ソールドアウトし、今夏にロンドンで開催される5万人規模の大イベント、All Points Eastでは早くもヘッドライナーを務めることになっている。わずか2年足らずの間での怒涛の快進撃は痛快というほかない。

彼がこれほどまでの人気を集めた理由は、デビュー作を聴けば明白だ。このアルバムでは、ダンスミュージックとしての機能性と、ポップな親しみやすさが理想的なバランスで共存している。粘っこいハウスのビート、躍動するアフロのリズム、グルーヴィなジャズのピアノ、エキゾチックなサンプリング──こうした要素が交錯するサウンドは、思わず体が動き出すような肉体性と、カラフルな華やかさを兼ね備えている。必ずしも歌が楽曲の中心にあるわけではないが、それでもメロディアスな魅力に溢れているのは、彼が影響源としてビートルズやヴァン・モリソンといった非ダンスミュージックのアーティストを真っ先に挙げていることとも無関係ではないだろう。

ただ、同作での成功があまりに急激だったため、ジョシュア自身は戸惑う部分が少なからずあったようだ。このたび届けられた2ndアルバム『Loner』には、成功に伴う様々な葛藤や苦悩と真摯に向き合い、それを乗り越えようとする姿が率直に刻まれている。ここでは、ポップでジャンルクロスオーバー的なBCSらしさは踏襲しつつも、全体としてはよりダークで内省的。オープニングの「The Person Youd Like To Be」を筆頭に、随所に混乱や内省の心情が滲む。だが、アルバムの最後に向けて徐々に光が差し込み、解放へと向かうような流れは感動的でカタルシスたっぷりだ。

今年のフジロックの2日目、7月26日にホワイトステージに出演するBCSだが(初来日!)、そこでは苦難の季節を乗り越えた今だからこその、パワフルで自信に満ちたライブセットを見せてくれるに違いない。
それでは、以下にBCSの記念すべき日本初インタビューをお届けしよう。多彩な音楽的ルーツから『Loner』の背景にある想いまで、そのすべてをオープンに語ってくれた。

エジンバラで育んだカラフルな音楽観

―Rolling Stone Japan では初めてのインタビューなので、あなたの音楽的なルーツ、デビューアルバム、そしてニューアルバムの話と、順を追って訊かせてください。あなたは9歳のときにピアノを始めたそうですね。デビューアルバム『When Will We Land?』にもピアノが大々的にフィーチャーされていましたが、ピアノを学んだことは音楽家としてのあなたに影響を与えたと思いますか?

Barry Cant Swim(以下、BCS):間違いなく影響はあったね。音楽を演奏する最初の手段として始めたのがピアノだったから、自分にとっては音楽の入口だったんだ。鍵盤の構造もそうだけど、左から右に並んでいて、視覚的にもすごくわかりやすい。ピアノを習うと他の楽器の構造とか音階も理解しやすくなるから、そういう意味でも自分にとっては初めて扱う楽器としては完璧だったと思う。そこから色々と試して、表現の領域を広げていくことができたんだ。

―デビューアルバムであなたが弾いているピアノからは、ジャズの要素を感じます。ジャズの影響は大きいですか?

BCS:すごく大きい。子どものころにピアノのグレード試験を受けていて、たいていはクラシックの曲なんだけど、たまにジャズの曲も出てくるんだ。
それが自分にとってのジャズとの初めての出会いだった。ジャズが好きになったのは、クラシックがあまり好きじゃなかったというのもある(笑)。だからジャズはちょっとした逃げ場みたいな感じだった。特にジャズピアノは、1stアルバムにもすごく影響している。ピアノだけじゃなくて、昔のジャズのレコードを掘って、それをサンプリングして別の形にするのも好きなんだ。ジャズミュージックは最高だよ。

Barry Can't Swimが語る、成功の先で掴んだもの──最注目ダンスアクトの素顔と音楽観

Photo by Rory Dewar

―あなたはスコットランドのエジンバラ出身ですよね。エジンバラ出身であることが自分の音楽に影響を与えているところはあるのでしょうか?

BCS:影響があったと言いたいけど、正直そんなにないかな(笑)。エジンバラの音楽シーンって、悪くはないけど、めちゃくちゃ良いってわけでもないんだ。これはエジンバラ市議会が、若手アーティストやインディーアーティストたちの活動にあまり関心がないということもあると思う。でも車で1時間くらいのグラスゴーまで行けば、もっと音楽が盛んでカルチャーも根付いている。だからエジンバラ自体が音楽に影響を与えたとは言い切れないんだけど、エジンバラの街は本当に美しいし、育った場所としてはめちゃくちゃインスピレーションをもらったと思う。
作家も多いし、建築も素晴らしいし。あと、エジンバラにもいくつかクラブがあって、そういうところではアンダーグラウンドなエレクトロニックミュージックが流れていて、自分もそこに通ってすごく影響を受けた。だから「影響があった部分もあるし、なかった部分もある」って感じかな。

―エレクトロニックミュージックに目覚めたのは、エジンバラのクラブでの体験がきっかけですか?

BCS:それも大きかったけど、15~16歳くらいになってからネットでいろんな音楽を掘ってるうちに、自然と出会っていったって感じ。それでちょっとずつハマっていって、17くらいでクラブに行き始めてから一気にのめり込んだ。クラブのカルチャーに触れて、音楽だけじゃなくて、その周辺の雰囲気とか背景も知るようになって、完全にハマったんだよね。だからやっぱりクラブに通うようになってからが、本格的な入口だったと思う。

―ただあなたは、エレクトロニックミュージックを作り始める前に、インディバンドもやっていたんですよね?

BCS:まず言っておくけど、僕たちのバンドはあまり上手くなかったんだ(笑)。僕はピアノも弾いてたし、ギターもやってたし、あと歌も歌っていた。ただ正直、歌はそんなに得意じゃなくて。でも自分で曲を書いていたから、それを自分で歌うべきかな、と思っていた。理由はよくわからないけど、若かったからね。


―当時はどんな音楽に刺激を受けていたんですか?

BCS:うちは特に音楽的な家庭じゃなかったから、親からの影響はほとんどなくて。自分でネットで色々見つけていたんだ。12~13歳くらいのときに、名盤と言われるアルバムをGoogleで調べまくって、「これが名盤らしいぞ」というものを毎日聴いていた。60~70年代の音楽がすごく好きで、特にビートルズは、ものすごく好きだった。あと、60年代のガレージサイケロックにもハマっていて、『ナゲッツ』とかのコンピレーションを掘っていたね。今はあんまり聴かないけど、あの時期には特別な思い入れがある。

―では、ビートルズで一番好きなアルバムを挙げると?

BCS:ダントツで好きなのは『Revolver』。

―その理由は?

BCS:いろいろあるけど、まずアルバムとして完璧だと思う。あの時期のビートルズって本当に絶頂期で、めちゃくちゃ実験的だった。前作の『Rubber Soul』からの進化の幅がすごくて、そこから『Sgt. Pepper ~』へのステップアップもあるけど、『Revolver』が一番飛躍していると思うんだ。だから彼らの最もクリエイティブな時期なんじゃないかな。それに、後のアルバムも実験的ではあるけど、全体としてのまとまりという意味では『Revolver』が一番だと思う。
本当にすごい作品だよ。

―ここまで聞いた話だけでも、あなたが非常に幅広い音楽から影響を受けているのがわかります。そんなあなたの音楽観を形成する上で欠かすことができない影響を与えたアーティストや作品を幾つか挙げるとすれば、何になりますか?

BCS:やっぱりビートルズはすごく大きな存在だったと思う。僕がピアノを習っていた頃って、クラシックの教本に沿って、わりと厳格なスタイルで練習していたから、ちょっと窮屈に感じるところもあって。だから、だんだん自分で曲を書くようになっていったんだ。そっちのほうがずっと自由に表現できたからね。そういうふうにソングライティングに惹かれるようになっていって、ビートルズを聴いたときに、「これは本当にすごい」と思った。彼らのメロディやハーモニーの使い方って、すごく印象的だし実験的でもあるけど、同時にとてもシンプルに聴こえる。聴いた瞬間に心に残るし、どこかで聴いたような気がするけど、実は全然新しい。そういう感覚がある。ああいうシンプルさと複雑さのバランスって、本当に見事だと思う。だから僕の音楽も、メロディを大事にしているのはそこから来ているのかもしれない。
ビートルズだけじゃなくて、60年代の音楽全体に、そういう強いメロディ志向があった気がする。今ではちょっと減ってしまったところもあるけれどね。

―ビートルズ以外にも、自分にとって重要なアーティストはいますか?

BCS:ヴァン・モリソンの『Astral Weeks』も子供の頃に聴いていたレコードで、すごく大きな影響を受けた。ピンク・フロイドも大好き。エレクトロニックミュージックだと、ブリアルとか、ジェイミーxxの1stアルバムなんかは本当に衝撃だった。リリースされたときは何度も繰り返し聴いていたよ。

デビューアルバムがもたらした急激な成長

―デビューアルバムの『When Will We Land?』は、ダンスミュージックとしての機能性とポップな親しみやすさが理想的なバランスで両立している作品でした。また、アートワークが象徴するように、ポップでカラフルで楽しい作品だとも言えます。あなたとしては、どのような作品を目指していたのでしょうか?

BCS:特に何かを狙って作ったわけじゃないんだ。僕が音楽を書くときは、あまり最初から「こういう作品にしよう」と決めすぎないようにしている。だからこそ、あのアルバムはわりと多様な音が詰まっていると思う。デビュー作って、自分のこれまでの歩みや影響を全部詰め込めるタイミングだと思うから。そういう意味では、自分の好きなものや影響を受けた音を全部出したかったんだ。

―初めてのアルバムを完成させるにあたり、指針となった他のアーティストのアルバムはありましたか?

BCS:参考にしていたアルバムを挙げるなら、アヴァランチーズの『We Will Always Love You』かな。あの作品って、曲同士の流れがすごく滑らかで、でも音楽的にはすごく幅が広い。アップテンポなダンスチューンがあったかと思えば、すごくメロウな曲や、ラップが入ったトラックまである。僕自身はあれを真似しようとしたわけじゃないけど、「アルバムの構成や流れ」という意味ではかなり影響を受けたと思う。

―確かに。言われてみると、近いものを感じます。

BCS:あとは、たとえば、レオン・ヴァインホールの作品はよく聴いていたし、彼のアルバム『Nothing Is Still』は特に印象に残っている。彼はオーケストラの要素やストリングス、生楽器を、エレクトロニックな音と融合させるのが本当に上手くて、すごく美しいシンセやパッドの音を使う。だから、あのアルバムも一つのインスピレーションだったと思う。あとはブリアルも少し影響があったかな。彼の作品は、音のテクスチャーの扱い方が本当にユニークで、それも参考になったね。

―デビュー作収録の「Deadbeat Gospel」には、あなたの友人であり詩人であるデッドビートによる、クラブで誰もが一度は経験する宗教的な高揚感を称えたポエトリーリーディングが乗っています。この感覚はクラブミュージックにおける重要な要素のひとつですが、あなたが考えるクラブミュージックでもっとも重要な要素とは何だと言えますか?

BCS:僕が思うエレクトロニックミュージック、ダンスミュージックの一番大切な要素は、やっぱり「人と人をつなぐこと」だと思うんだ。常にそれが核にあるし、昔からずっとそうだったはず。知らない人同士が、ダンスフロアで同じ瞬間を共有して、一緒に何かを感じられる。そこに言葉はいらないし、名前を知らなくても構わない。ただ同じ音に身を委ねて、同じ時間を過ごす。そういう「一体感」や「高揚感」こそが、ダンスミュージックの魅力なんじゃないかと思う。少なくとも僕にとってはそう。

―では、あなたがそういう「一体感」や「高揚感」をもっとも感じたのは、どのパーティーでのことだったか覚えていますか?

BCS:そういう体験はこれまでに何度もあるよ。本当にたくさん! 特に印象に残ってるのは、スニーキー・ピーツ(Sneaky Petes)っていうエジンバラの小さなクラブ。キャパが90人くらいしかないところなんだけど、毎週のように通っていた。週に3日は行っていたかな。そこにはちょっとしたシーンがあって、顔見知りになる人も多かった。名前とかは知らなくても、何度も一緒に踊って、アフターパーティで一緒になったりして。昼間には会わないけど、クラブでは「元気?」って声をかけ合える、そういう距離感がすごく好きだった。

―最高ですね。

BCS:アーティストでいうと、エロル・アルカンがよくそこでプレイしていて、彼なんかは今すごく大きな会場でもやれるのに、あの小さなクラブで今でもプレイしているんだ。それがまた素敵なんだよね。ダニエル・エイヴリーも何度か観たし、彼ももっと大きな会場でやれるのに、あそこが好きでやっているんだと思う。すごく良い空間なんだ。あともう一つ覚えているのは、初めてウェアハウス・プロジェクトに行ったとき。マンチェスターのクラブなんだけど、僕にとって初めて「地元以外」で体験したレイヴだったから、すごくワクワクしたし、冒険のような気分だった。友達と一緒に行って、あの夜は今でも特別な思い出になっているよ。

―デビューアルバムであなたは一気にブレイクし、マーキュリープライズにノミネート、BBC Sound of 2025で3位、さらにはブリクストンアカデミーで3公演をソールドアウトし、今夏のAll Points Eastではヘッドライナーを務めることになっています。やはりここまでの急激な成功はあなたの予想を超えるものだったのでしょうか?

BCS:本当にそう。いまだに信じられないくらいだし、正直ちょっとプレッシャーも感じているんだ(笑)。ブリクストンアカデミーの話が出たけど、あれは特に印象深くて。〈Ninja Tune〉と契約する前、最初にレーベルの代表と話したときに、「10年後、君はどこでプレイしていたい?」と聞かれたんだ。そのとき僕は、「10年かけてブリクストンアカデミーのヘッドライナーができたら夢みたいです」と答えた。それが2年後には3日間ソールドアウトでプレイしていたわけで……ほんとうに予想外だったし、今でも信じられない気持ちだよ。この経験によって、僕の音楽に対する見方が変わった──良い意味でも悪い意味でも、いろんな影響があったと思う。でも、今はただその流れに乗って、進み続けている感じかな。

最新作『Loner』の内省とエネルギー

―ニューアルバムの『Loner』は、前作よりダークで内省的なところもあるアルバムです。急激な成功に自分の気持ちが追い付かないところがあったのではないかと感じますが、そのような理解は納得がいくものですか?

BCS:まさにそのとおりだと思う。このアルバムは、大部分がそういうテーマなんだ。予期していなかった成功が一気にやってきて、正直かなり戸惑った部分があった。成功したことによって、素晴らしいことも、もちろんたくさんあったよ。でも成功したばかりの頃は、その状態に馴染めなくて苦しんでいる自分がいたんだ。「自分なんかがここにいていいのか」みたいな感覚というか、インポスター症候群みたいなものを感じていたし、大きなステージに立つときに、どうしても緊張や不安がついてきた。だから、自分自身と、パフォーマーとしての自分との間に、距離を置くようになってしまったんだ。

―自分のメンタルを守るために、「ステージでの自分」を切り離して考えるようになっていたと。

BCS:でもその隔たりを作ってしまったせいで、自分のパフォーマーとしての活動に対して情熱を感じられなくなってしまった時期があった。『Loner』というタイトルは、そうやって自分を孤立させていた時期のことを表しているんだ。当時はそれが自分にとって必要なことだと思っていたけれど、あとから考えると、あまりうまくいっていなかった。でもそのおかげで、今回のアルバムは短期間で書き上げることができた。ツアーの合間に少しでも時間ができたらすぐにスタジオに入って、音楽を作ることに集中していた。その時間こそが、唯一「自分らしさ」を取り戻せる時間だったから。でも今は、ライブも本当に楽しく感じられるし、アルバムを作ったことで、自分の中のバランスを取り戻せた気がしているよ。成功したばかりの頃は少し大変だったけどね。

―オープニングトラックの「The Person Youd Like To Be」では、けたたましいサイレンとアグレッシブなブレイクビーツが鳴り響き、不穏なムードが流れます。そして、そこに乗るスポークンワードで語られるのは、ある種の混乱した心情です。非常に鮮烈な幕開けですが、これはアルバム制作時のあなたの心情の素直な反映なのでしょうか? それとも、何か別の意味がありますか?

BCS:あれは自分の気持ちをちょっと誇張して表現しているんだけど、でも実際に感じていたことではあるんだ。確かに暗くて、どこか重たい曲ではあるし、実際そこまで落ち込んでいたわけではないけれど、そういうテーマを扱いたかった。この曲には、二つの声が混ざっていて、ひとつはAIのスポークンワード、もうひとつは僕の友人の声なんだ。これは、自分の中で無意識に起きていた「内なる葛藤」を象徴しているんだけど、実際にこの葛藤を自分で認識したのは、もっと後のことだった。でも、だからこそ、この曲をアルバムの1曲目に持ってきたかった。この曲こそが、今作のテーマを一番うまく表していると思ったから。

―まさにあの曲は1曲目にぴったりだと思いますし、そこから始まるアルバム全体の流れも美しいですね。

BCS:曲の流れを大事にして、どこに配置するのが一番しっくりくるかを考えながら並べていったんだ。アルバムの曲が全部できたあとで、何週間もかけて曲順やトラック間のつながりを調整して。流れが自然になるように、曲と曲の間をどうつなげるかにすごくこだわったよ。「The Person Youd Like To Be」を冒頭にするのは、最初から決めていた。さっきも言ったみたいに、あの曲が今回のアルバムのテーマを一番よく表していると思ったから。前作とは明らかに違う世界観になっているし、それを最初に提示したかったんだ。最後の曲「Wondering Mt. Moon」も、ずっと最後にしようと決めていて。エモーショナルだけど明るさもあるような、ポジティブな感触で終わりたかったから。その間の曲たちは、ひとつひとつ聴いていって、「この流れが一番自然だな」と思える順に並べたっていう感じだね。

―「Different」や「About To Begin」などは、前作よりもハードでパワフルなダンストラックです。前者はレイヴチューンのようでもあり、後者はアシッドなうねりが効いています。それぞれどんなイメージで作ったのか教えてください。

BCS:実はスタジオに入るときに、あらかじめ具体的なアイデアを持ち込むことってあまりないんだ。その場で感じたままに表現したいという気持ちが強いから、できるだけ頭で考えすぎずに、自由に作るようにしている。だから、この2曲に関しても、最初から「こういう曲を作ろう」と思っていたわけじゃないんだよ。でも完成してみると、確かにこれまでよりもずっとエネルギッシュで勢いがある曲になっていて、自分でも少し驚いた。でも意図的にそうしたわけじゃなくて、ただ、それもその時期に自分が感じていたことが自然に出てきた結果だと思う。

―では、新作に何かしらの影響を与えた他のアーティストの作品は何かありましたか?

BCS:いくつかあるよ。実はポストパンク系のバンドをよく聴いていた時期で。「Different」を作るうえで特に影響を受けたのは、ダニエレ・パピーニの「Church of Nonsense」というトラックなんだ。あの曲に出てくる、徐々にピッチが上がっていくベースの感じがすごく印象的で、それを自分なりの形で取り入れたかった。だから、かなり直接的なインスピレーションだったと思う。それに自分の解釈を加えた感じ。

―面白いですね。

BCS:他に誰を聴いていたかは、正直あまり覚えていないんだけど……モービーやブリアルも少し聴いていたし、あとは最近出たフォンテインズD.C.のアルバムもすごく良かった。彼らとは、グラストンベリーで同じステージだったから、その時にライブを観たんだ。それがすごく響いた。そういうバンド音楽だね。あと最近はハイ・ヴィズ(High Vis)っていうバンドも聴いているよ。ただ正直に言うと、ハイ・ヴィズはこのアルバムへの直接的な影響というより、今の僕の好みに近い。最近のお気に入りという意味で紹介したいバンドだね。他にもたくさんあったんだけど、今はちょっと思い出せないな。

―「Kimpton」ではオフリン、「The Person Youd Like To Be」と「Machine Noise For A Quiet Daydream」ではシェームスとコラボしています。今のあなたであれば大物プロデューサーやシンガーとのコラボもひとつの方向性としてあり得たと思いますが、敢えて身近な友人をコラボ相手に選ぶのは、今回重要なことだったのでしょうか?

BCS:重要だったし、完全に意図的だった。実はもっと有名な人たちからコラボの話をもらったこともあるんだ……名前は出せないけどね。でも、僕が音楽を作るうえで一番大事にしているのは、まず「その人の音が好きかどうか」ということ。オフリンはすごく才能のあるアーティストだし、シェームスは有名じゃないけれど、本当に素晴らしいライターなんだ。だから一緒にやりたいと思った。それに、僕にとって一番クリエイティブになれるのは、リラックスできる環境にいるときなんだよね。知らない人とスタジオに入って、「ちゃんといい仕事をしなきゃ」とか「いいものを作らなきゃ」と構えてしまうと、どうしても肩に力が入ってしまう。だったら、気心の知れた友人と一緒に、自然な流れでいい音楽が作れた方がずっといい。今回は「ビッグな作品」よりも「良い作品」を作ることに集中したかったから。

―オフリンやシェームス以外にも、あなたの周りで注目すべきDJやプロデューサーはいますか?

BCS:うん、紹介したいアーティストがいるよ。エイトリップ(ATRIP)っていうアーティストで、彼はすごく良い! 今まさに波に乗り始めているところで、もっと知られていい存在だと思っている。僕は3年くらい前から彼のファンで、当時Mixmagのライブ配信に出たときも、彼の曲をプレイしていたんだ。今では友達でもあるし、すごく才能のあるプロデューサーだと思う。これからもっと大きくなっていくんじゃないかな。あとやっぱり、さっきも話に出たけど、オフリンもおすすめしたいね。たまたま同じ通りに住んでいるんだけど、今ちょうど彼も新しいアルバムを制作中で、本当に素晴らしいプロデューサーなんだ。この2人は今の僕にとってすごく刺激を与えてくれる存在だよ。 

フジロックは世界初披露のセットで登場

―『Loner』は成功によって直面した様々な困難を乗り越えて生まれたアルバムと言えますが、今回、自分にとって一番大きな挑戦は何でしたか?

BCS:いくつかあるけど、一番大きかったのは「アルバムを作り終えた後」のことかもしれない(笑)。ちょっと不思議に聞こえるかもしれないけど、完成してからリリースまでの期間って、ずっとそわそわしていて……。それがキツい。なにしろ今回は前作とは違う内容だから、いろいろ考えすぎてしまうところもあって。

―なるほど、そうかもしれませんね。

BCS:制作面で言えば、一番難しかったのは「アルバム制作を始めること」だったと思う。前作が思いがけず評価されて、知らず知らずのうちに「次もいいものを作らなきゃ」と自分にプレッシャーをかけていたんだ。誰かから言われたわけじゃなくて、自分で勝手に感じてしまっていたんだけどね。「あのアルバムの延長線のような作品をまた作らなきゃ」って思ってしまっていたけど、それは創作にとって本当によくない状態だった。自由に、子どものような気持ちで音楽を作ることが大事なのに、それができなくなっていたんだ。でも、「もう気にしないで、今の自分にとって本当に正直なものを作ろう」と思えた瞬間から、一気に流れが変わった。ツアーの合間に作ったとは思えないくらい、早く作り上げることができたよ。もちろん今でも、「前作の続編を期待している人がいるかも」とは思うけれど、それよりも、自分の本音から出てきた音楽を大切にしたいという気持ちの方が強かった。その気持ちに気づけたことで、すごく解放されたし、楽になったよ。

―本当にそんなあなたの想いが伝わってくる作品だと思いました。さて、いよいよフジロックでの初来日も迫っていますね。どんなステージを期待していいでしょうか?

BCS:今回はライブセットになるから、バンドを連れていくよ。すごくエネルギッシュなステージになるはず! 実はフジロックのために、新しいセットを組んで準備しているんだ。まだ誰にも見せていないセットだから、日本で初披露になる予定だよ。きっとすごく楽しいショーになると思うし、観てくれた人みんなに楽しんでもらえたら嬉しいな。パーティーみたいな雰囲気にしたいと思っているよ。

―それは楽しみですね! 今日はお時間をいただき、ありがとうございました。日本でお会いできるのを楽しみにしています。

BCS:こちらこそ、どうもありがとう! 日本は本当に最高の国だから、行くのがすごく楽しみだよ。

Barry Can't Swimが語る、成功の先で掴んだもの──最注目ダンスアクトの素顔と音楽観

バリー・キャント・スウィム
『Loner』
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日本盤:解説書/歌詞対訳付き/ボーナストラック追加収録
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Barry Can't Swimが語る、成功の先で掴んだもの──最注目ダンスアクトの素顔と音楽観

FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※バリー・キャント・スウィムは7月26日(土)出演
https://fujirockfestival.com
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