今回のコラボは、indigo la Endが2023年~2024年にかけて開催したワンマンツアー『藍衆』の登場SEとして、Yorkeの楽曲「like in the movies」を使用したことがきっかけ。昨年5月に本誌がバンドを取材した際、川谷は「26公演ずっと流してたら、ファンの人がYorkeのYouTubeに『インディゴから来ました』みたいなコメントを書いてて、それを見たYorke本人から『曲を流してくれてありがとう。いつかコラボしましょう』みたいなDMが来て。ずっと流し続けるとこういうこともあるんだなって」と語っていた。
あれからおよそ1年。今年6月21日に東京国際フォーラム ホールAで開催されたindigoのワンマンツアー『藍のすべて』ファイナル公演では、オープニングゲストとしてYorkeが登場。自身初となる日本でのステージで、「like in the movies」を皮切りに計5曲を披露し、持ち前の歌唱力と高揚感のあるエレクトロポップで大いに沸かせた。さらにその後、indigoのアンコールで迎えられると、コラボ曲「sorry in advance feat. indigo la End」をいち早くパフォーマンス。Yorkeの最新EP『unfinished business』に収録された原曲が、川谷の歌う日本語パートとバンドアレンジによって鮮やかに生まれ変わった。
ここからお届けする対談は、その2日後に実施されたもの。SNSでの交流を重ね、先日のライブでリアルな対面も果たした2人は、リラックスした雰囲気で共演の裏側やお互いの化学反応について語ってくれた。ちなみに取材後は、川谷のエスコートで都内の古着ショップやレコード店、カレー屋を一緒に巡ったそう。
「sorry in advance feat. indigo la End」MV
日本で共演するまでのストーリー
―まずは改めて、お互いの出会いから聞かせてください。
川谷:Yorkeを知ったのは2023年で、初めて聴いたときから他の曲も全部好きで。特に「like in the movies」は、ライブのSEにぴったりだと思ったんですよね。ツアーのオープニング演出にもめちゃくちゃ合ってて、「こんなに合う曲あるのかな?」と思ったくらい。実際、お客さんの反応もよかったし、僕らも「like in the movies」を聴くと、もう体が勝手に動き出すようになっちゃって。「ライブが始まっちゃう!」みたいな(笑)。26公演でずっとかけてたので、それくらい僕らの体に馴染んでる曲になったんですよね。
そこから、ファンの方たちがYorkeのYouTubeにコメントするようになって。僕は最初そのことに気づいてなかったんですけど、あれだけ流していたから、みんなShazamとか使って能動的に調べてくれたみたいで。でもまさか、こういう形で本人に届くとは思わなかったです。それでYorkeからDMが来て、ちょうどその時期に僕もオーストラリアに行く機会があって(indigo la End「心変わり」のMV撮影)。
Yorke:最初に知ったときは本当にびっくりしました。(日本のバンドが)自分の曲に合わせてステージに登場するなんて想像がつかなかったけど、あとでそのときの映像を見させてもらって、「なるほど、すごくしっくりくるな」って思いました。
実は私自身も、あの曲をかけながら毎回ステージに登場してるんです。だから、indigo la Endのみなさんも同じように使ってくれていたと知って、面白いものだなって思いました(笑)。自分の音楽を新しいリスナーに知ってもらえる機会にもなりましたし、感謝の気持ちでいっぱいです。

Photo by Yosuke Torii
―「like in the movies」は「人生は映画のように思い通りにはいかない」というテーマで作られたそうですね。Yorkeさんはこの曲で、どんなことを表現したかったのでしょう?
Yorke:あの曲はまさに「物事がうまくいくか、それともボロボロになってしまうか」という境目の瞬間を捉えたものです。思わぬ形ですべてが崩れてしまうリスクもあるけど、それでもなんとかして前に進まなきゃいけない――映画に例えるなら、クライマックスのシーンみたいな感じ。右に転ぶか、左に転ぶか。思い描いたような展開になるかはわからないけど、それでも人生をどうにかして乗りこなしていかなきゃいけない。その瞬間の緊張感や不確かさを、自分の曲でも表現したかったんです。
―今の話を聞くと、ますますindigoの世界観ともマッチしてる気がしますね。Yorkeさんはお礼のDMを送ったとき「いつかコラボしましょう」とメッセージを添えたそうですが、どこかシンパシーを感じる部分もあったんですか?
Yorke:ええ、すごく惹かれるものがありました。すぐにSpotifyで、川谷さんたちの曲を聴いてみて。どれも本当によくて、大好きになりました。
私はもともとオーストラリアで、ロックに囲まれて育ったんです。Powderfingerっていうバンドがいるんですけど、母が大ファンで、私もよく聴いていて。indigoの曲を初めて聴いたとき、彼らの雰囲気をちょっと思い出しました。メロディの使い方や音のプロダクションも素晴らしいし、グルーヴやドラムの感じもすごく好み。だからこそ、私たちそれぞれのジャンルやソングライティングを組み合わせたら、きっと面白いことが起こるんじゃないかなって。そう思ってコラボを提案しました。
Powderfingerは90年代~2000年代にかけて活躍したオーストラリア・ブリスベン出身のロックバンド。叙情的なメロディとギターサウンドを融合させたスタイルで国民的人気を博した。
―川谷さんはRolling Stone Japan恒例の年間ベスト企画でも、オーストラリアの音楽をよく紹介している印象です。
川谷:そうそう。もともとすごく行ってみたい国だったから、MVの撮影は東京でもよかったんですけど、僕が「行きたい」っていうだけの理由で、オーストラリアまで行くことにしたくらい(笑)。
Yorke:そのときのこと覚えてます。メッセージを送ったら「実は今、シドニーにいるんだ」と返ってきて(笑)。
―それが去年の春くらいの話ですよね。
川谷:そこから「何か一緒にやろう」という話になって、Yorkeが新しいEPをリリースするということなので、デモの中から「この曲を一緒にやろうか」と決めていって。すごく好きな感じの曲で、メンバーもみんな気に入って、結構すんなり形になりました。
Yorke:もともと今回のEPは「コラボ」をテーマにしていて。実際にオーストラリアだけでなく、LAやロンドン、ニュージーランドといろんな国で制作したんです。そこから、このEPを”コラボレーション・バージョン”として再構築することで、私が愛してやまない海外のアーティストたちを、オーストラリアのリスナーに紹介できたらと思いついて。だから今回のコラボも、私にとってはすごく自然な流れでした。
―日本で共演するのはいつ決まったんですか?
川谷:それはわりと最近ですね。せっかくだから来てくれたら嬉しいなって。
Yorke:日本での初ライブ、本当に最高でした。想像をはるかに超える体験でしたね。日本の観客は「シャイでおとなしい」と前もって聞かされていたけど、実際にステージに立ってみたら、全然そんなことはなくて。みなさんすごく優しかったし、私の音楽で盛り上がってくれているのが伝わってきて。とても温かく迎えてもらえました。本当に感謝していますし、あのステージのことは一生忘れません。
―海外アーティストがオープニングアクトを務めるとき、そこまで盛り上がらないケースも正直多いと思うんですよ。だからYorkeさんの歓迎されっぷりには感激しました。
川谷:ちゃんとストーリーがあったのもよかったんでしょうね。 もうちょっと長く観たかったです。

Photo by Yosuke Torii
―気持ちはよくわかります。お互いのライブをご覧になっていかがでしたか?
Yorke:すごく楽しかったです! 私のお気に入りは「Lauren」で、たしか最後の曲だったと思うんですけど。特にドラムの方(佐藤栄太郎)が素晴らしくて、ステージ袖からずっと見入ってしまいました。あと、お客さんとのやり取りも面白くて、本当に素晴らしいライブでした。
川谷:ずっと好きだった曲を生で聴けたのが嬉しくて。家でもよく聴いてましたし、やっぱり自分たちがライブをやる前に流してた曲なので。そこから僕たちのライブを始めることができたのも感動しましたね。

Photo by Yosuke Torii
Yorkeの早熟な生い立ちと音楽観
―この機会にYorkeさんのことをもっと知りたいです。オーストラリアのバイロンベイ出身とのことで、どんな環境で育ってきたのでしょう?
Yorke:いわゆる海辺の街で、すごくクリエイティブなコミュニティがあるんですよね。もし私が違う場所で育っていたら、今とはまったく違うキャリアを歩んでいたと思います。というのも、周りの人たちが本当に寛容で。私はストリートでのバスキング(弾き語り)もたくさんやってきたんですけど、若い頃から「この子を応援したい」って、本気で支えてくれたんですよね。最近はちょっとオーバーツーリズム気味ですが、ビーチが好きならぜひ訪れてみてほしいです。食事を楽しむにもぴったりの場所です。
川谷:シドニーからはどれくらい?
Yorke:飛行機で1時間くらい。ゴールドコースト空港を経由して、そこから車でまた1時間ちょっとかな。
―バスキングを始めたのはいつ頃ですか?
Yorke:9歳ですね。実は、最初のギターはバスキングで貯めたお金で買ったんです。最初は楽器なしでバスキングしてて(笑)。アカペラで歌いながら少しずつお金を貯めて、やっとギターを買いました。たぶん、みんな私に「もう歌うのやめて」って気持ちでお金をくれてたんじゃないかな(笑)。
ちなみに、曲を書き始めたのは8歳のときで、14歳で初めてのEPをリリースしました。だから、わりと昔からずっと音楽をやってるんです。
―早熟!
川谷:僕がギターを始めたのが18歳だったので、すごい……半分ですね(笑)。
Yorke:なんでギターを始めようと思ったの?
川谷:もっと早く始めたかったんだけど、田舎だからギターとか弾いてるといじめられるみたいな。 だから、上京したタイミングで始めようと。
―当時の長崎県松浦市は、バイロンベイほど開放的な環境ではなかったと。
川谷:ビーチはあるんですけどね(苦笑)。

―Yorkeさんが8歳の若さで曲作りを始めたのは、テイラー・スウィフトの影響が大きかったそうですね。
Yorke:その頃ちょうど、テイラーのアルバム『Fearless』が出たんですよね(2008年)。そこから彼女が16歳でデビューしたと知って、「彼女にできるなら私にもできるんじゃないか」と思ったんです。
彼女のソングライティングは本当に大好き。もちろん一人のファンとして愛聴しつつ、同時に「どうやって曲を書いているのか」研究するような目線でも聴いてきました。彼女のライブは『Fearless Tour』から『The Eras Tour』まで全部観てます。アーティストやソングライターとして活動するうえでの”マスタークラス”みたいな存在で、たくさんのことを学ばせてもらいました。
―Rolling Stone Japanの年間ベスト企画で、川谷さんにはテイラーについても何度か語ってもらってますよね。
Yorke:テイラーの曲だとどれが好き?
川谷:難しい……(笑)。今だったら最新アルバムの「Fresh Out The Slammer」かな。
Yorke:最高! 私はベタだけど「All Too Well」が好き。実はライブでカバーしたことがあって、その動画をTikTokに投稿したら、テイラー本人から「いいね」が届いたんです。空港にいるときそれを知って、気絶しそうになっちゃった(笑)。
―他にはどんなアーティストが好きですか?
Yorke:最近はサブリナ・カーペンターやチャペル・ローン、グレイシー・エイブラムスをよく聴いてます。オーストラリアにも素晴らしいポップ・アーティストがたくさんいますし、さっきPowderfingerの話をしましたけど、昔ながらのクラシックな人たちも好きです。
Yorkeのお気に入り楽曲をまとめたプレイリスト。上述のアーティストのほか、テイト・マクレーやアディソン・レイなどの曲もセレクト

Photo by Yosuke Torii
共通項は「切なさ」と「シネマティック」
―川谷さんはYorkeさんの音楽に対し、どんな印象を抱いていますか?
川谷:センチメンタルな感じがありますよね。自分の音楽でもセンチメンタリズムは大事にしている部分なので、そこにすごく共感するというか。明るいポップソングのようで、メロディラインには切なさがある。そういうところがすごく好きです。
Yorke:物事にはコインのように二つの面があると思うんです。人生っていつもハッピーなものじゃないし、その中間にある”グレーな部分”を表現できたらと思っていて。白か黒かじゃなくて、その間にあるもの。そういう意味でも、私は自分の音楽でセンチメンタルな要素を大切にしています。私の曲を聴いて、そこからなにかを感じ取ってほしいので。
―それこそ「like in the movies」という曲でつながったように、お二人の作風には”シネマティック”という共通項もあるような気がします。映画のワンシーンが浮かぶような曲が多いというか。
Yorke:そう思います。indigoの音楽を聴いたとき、「この人たちとコラボしたら素敵なものが生まれるだろうな」と思った理由のひとつもそこなんです。私にとって音楽は、単なるサウンドではなくて、すごく視覚的なものでもあるんですよね。ファンとのあいだでは、それを「Yorkeシネマティック・ユニバース」と呼んでいて。私の音楽における世界観をそうやって共有しているんです。
それは川谷さんたちの音楽にも感じたことで……ライブを観たあと、その感覚がさらに強まりました。センチメンタルかつシネマティックな魅力、そこがすごく響いたんです。
「sorry in advance」コラボの裏側
―Yorkeさんは「sorry in advance」も収録した最新EP『unfinished business』を6月にリリースしたばかりですが、作品のコンセプトを教えてください。
Yorke:このEPは、20代前半の女性として「自分を見つけていく」旅路を描いたものになっています。人生の曖昧さや揺れ動く感情の機微を描きたかったので、さっきも話したように、多くの曲で”グレーな部分”をテーマにしています。「ラブソングか失恋ソングか」の二択より、人生ってもっと複雑だと思うんです。そのことを表現したかった。
ビジュアル面にもこだわっています。アートワークや映像の世界観は、探偵やミステリーをモチーフにしていて。『バットマン』のゴッサム・シティみたいな世界観にインスパイアされています。そういった影響と私の音楽におけるシネマティック・ユニバースを掛け合わせることで、自分にとっても特別な作品になりました。
―川谷さんはEP全体を聴いて、どう感じましたか。
川谷:メロディがやっぱりいいですよね。すごく豊かだし、一回聴いたらすぐに口ずさめそう。トラックにも実験的な部分があったりして、何回でも聴きたくなる作品ですよね。
―今回コラボした「sorry in advance」は、もともとどのように生まれたのでしょう?
Yorke:2021年に発表した「window shopping」っていう曲が、少し前に日本でもバイラルになったんです。(EP制作のため)スタジオに向かってる最中に、あの曲が日本のShazamでチャートインしたって通知が来て。そこからいろいろ思い出したんですよね。
「window shopping」はデートにたくさん行ったり、「とにかく今を楽しもう」みたいな内容だったんですけど、ふと「今この曲を書いたとしたら、もう少し擦れた視点になるかもしれない」って思ったんです。数年前よりも成長した今の自分だったら、相手に気を遣って喜ばせようとするより、もっと私自身の幸せを大事にするんじゃないかって。
そこから「window shopping」に対する”シスターソング”みたいな形で、曲を書いてみようと思ったんです。セッション自体もすごく楽しかったし、ちょっとカオスな感じで(笑)。3時間くらいで書き上げたんですけど、肩の力が抜けているところも気に入ってます。
―そんな「sorry in advance」のコラボ・バージョンで、川谷さんは日本語で歌うにあたって、原曲の歌詞に一捻り加えているように思いました。
川谷:原曲の歌詞がすごく面白いんですよね。〈先に謝っておくね(sorry in advance)〉というのは僕のなかにはない言葉なので。だからどうしようかなと考えつつ、自分の感覚と重ね合わせて、indigoっぽい歌詞にしてみました──直接的な表現はあまりせずに、比喩も使いながら詩的に書き上げるという意味で。音の並びも面白くて、メロディに言葉を当てはめるのがすごく楽しかったです。
―原曲で繰り返される〈Uh〉〈No chance!〉といった印象的なワードも残しつつ、川谷さんらしさが発揮されててよかったです。バンド演奏に置き換えるうえで意識したことはありますか?
川谷:僕らが普段聴いてるような、好きな感じのサウンドだったので自然にできた気がします。わりと原曲のよさをそのまま残したアレンジというか。indigoといえばギターなので、そこはすごく自分たちらしい感じになったと思います。
Yorke:最初は正直、どんなふうになるのか想像がつかなかったけど、聴いた瞬間に「あ、これだ」って思いました。原曲へのリスペクトも感じられるし、すごくしっくりきたんです。しかも、日本語の歌詞で聴くと、また違った感動があって。自分の曲が母国語じゃない言語で歌われるのを聴いて、なんだかあたたかい気持ちになりました。本当に嬉しかったし、このクールに生まれ変わったバージョンが大好き。だから今、川谷さんがいないときのために、自分でも日本語パートを歌えるように練習してます(笑)。
―理想的なコラボを経て、お2人は今後どんな関係を築いていきたいですか?
Yorke:もう次のプロジェクトに向けた曲作りも始めていて。これからオーストラリアやシンガポールでもライブがあるし、とにかく自分の活動を続けていこうと思ってます。そして、必ず日本に戻ってきたいです。できれば今年の年末くらいに単独公演をできたらと思っていて。もしタイミングが合えば、indigoとまたご一緒したいです。
―今度は、川谷さんやindigoがオーストラリアに行って共演するのもよさそうですけどね。
川谷:そう、ツアーで行きたいですよね。お互い行き来できたらいいなって。
Yorke:オーストラリアの人たちは、絶対にindigoの音楽を気に入ると思う。いつかぜひ来てほしいです!
今回の来日は、自分のキャリアにとって新しい道が開けたような体験でした。日本のファンのみなさんに出会えて、本当に心温まる時間でした。この機会をもらえたことには、これからもずっと感謝し続けると思いますし、今回のコラボ曲がリリースされるのも楽しみ。たくさんの人に気に入ってもらえたら嬉しいです。

Photo by Yosuke Torii

Yorke × indigo la End
「sorry in advance feat. indigo la End」
配信リンク:https://yorke.lnk.to/SIA_ft_indigoPR

Yorke
『unfinished business』
再生・購入:https://yorke.lnk.to/unfinishedbusinessEPPR

indigo la End 15th Anniversary Special Series #Final
「雨の藍」2026年1月30日(金)
「夜の藍」2026年1月31日(土)
会場:日本武道館
チケット:全席指定 9,000円(税込)
indigo la End オフィシャルサイト:https://indigolaend.com/
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