実に11年振りのスタジオ・アルバムとなった前作『The Death Of Randy Fitzsimmons』(2023年)が全英チャートで2位まで上昇、俄然勢いに乗るザ・ハイヴス(The Hives)。

思えばスウェーデンから彼らが登場、2000年代初頭のロックンロール・リバイバルに貢献してから、早いもので20年以上の月日が過ぎていた。
8月に超強力なニュー・アルバム『The Hives Forever Forever The Hives』のリリースが控えている彼らは、久々にフジロックに出演するため間もなく来日するところ。バンドの中心人物で、シンガーのハウリン・ペレ・アームクヴィストの実兄であるギタリスト、ニコラウス・アーソンに、度々訪れてきた日本について振り返ってもらった。

The Hivesが語る「誰もやってなかった」ガレージロックの源流、バンド復活劇、日本への想い

Photo by Pao Duell

日本とフジロックにまつわる記憶

―来日は今回で5度目になると思います。サマーソニックで最初に来日した2002年、初めて来たときの日本についてはどんな印象が残っていますか?

ニコラウス:覚えてるのは、ちょうど当時、イギリスを中心にヨーロッパで人気に火がつき始めた時期で……何の予備知識もないまま日本に行って、お客さんもパラパラいる程度だろうとタカを括ってたところ、蓋を開けてみたらスタジアムで。あの場に何人いたのかわからないけど、ざっと1万人ぐらいはいたのかな。いずれにしろ、新人バンドが初めての国でやるライブにしては恐れ多い規模だったことは間違いないよ(笑)。その後も何度か大きなフェスに出演させてもらったけど、初めての日本で何しろ巨大なステージだったことのインパクトが強烈だった。それととにかく蒸し暑かったな。スタジアムの裏を探索したら小さなビーチがあって、いい感じだった。それと日本の人達との出会いも印象的だった。みんな本当に礼儀正しくて、すごく感銘を受けたのを覚えてるよ。

初期の代表曲「Hate to Say I Told You So」(2000年)

―2006年のフジロックに出たときはGREEN STAGEで、真夏なのに全員長袖でタートルネックのシャツが暑そうだったことを覚えています。
初めてのフジロックは何が記憶にありますか?

ニコラウス:フジロックは何しろ会場に向かうまでの移動中が印象的でね。実際にフェスの会場に着いてから、ヨーロッパと日本のフェスの違いを目の当たりにしたのも印象的だったよ。会場のまわりの自然も本当に素晴らしくて、それも印象に残ってる……それと、山の中を車で移動してる最中に、猿が橋を渡っているのを見つけて大興奮したのを覚えてるよ(笑)。今でも思い出すとほっこりするね。

The Hivesが語る「誰もやってなかった」ガレージロックの源流、バンド復活劇、日本への想い

2006年のフジロック出演時の写真(Photo by Jun Sato/WireImage)

―日本ではガレージ・パンクがとても人気があって、ハイヴスが最初に注目されたときもその層から支持されて火がついた印象があったので、ヨーロッパやアメリカとはちょっと状況が違ったかもしれません。日本のファンにはどんな印象を持っていますか?

ニコラウス:日本のお客さんってすごく礼儀正しいじゃないか。曲を演奏している最中にしろ、ペレが合間にMCで喋ってる最中にも、みんな静かに耳を傾けてくれる。僕はそれを他者へのリスペクトを表わす姿勢だと解釈していてね。一方、ヨーロッパでは観客が酔っ払ってぐでんぐでんになってぶつかり合って絶叫してるのが通常のライブ風景で、完全にそれに慣れちゃってる(笑)。日本ではもっとこう……やっぱり、何か雰囲気が違うんだよな。暴れたりしないんだけど、それでも曲が始まった瞬間に一気にワーッと火がつく、そこが本当にいいなあって思うよ。日本のファンって、すごくエネルギッシュで、曲に対してちゃんとリアクションもしてくれるし、しかも反応も早い。
だからとても気持ちよく演奏できる。

日本のガレージ・ロック・シーンについて言えば、何しろギターウルフとかティーンジェネレイトを聴いて育ってきたもんでね。そこからも日本のガレージ・ロックの土壌がものすごく豊かであることは想像できるよ。

―なるほど。ティーンジェネレイトのメンバーが東京で面白いバーをやっているので、時間があったらぜひ調べて行ってみてください。

ニコラウス:ぜひとも! 自分はまだ行ったことがないけど、うちのメンバーの何人かは訪問したことがあるらしいんだ。今回の来日の際にはぜひ足を運んでみないとね。

―初期に『Sounds Like Sushi』なんてタイトルのカセットを出していたぐらいなので、日本のカルチャーにも興味があったと思うんですが。何か惹かれたものはありましたか?

ニコラウス:最初はおそらく武術だろう(笑)、子供だったからね。兄弟して武術全般に夢中で、あとは漫画とかもね。日本に最初に興味を持ったのはたぶんそのへんからかな。 日本の音楽に興味を持つようになったのはもう少し後になってからで、当時は主にAC/DCやハロウィン、トゥイステッド・シスターといったハードロックをよく聴いてた。
それからメタリカとか、いろんなパンク・バンドにハマっていった末に、日本のパンクやガレージ系のバンドを知るようになったんじゃないかな。

「誰もやってなかった」ロックンロールの源流

―これまで何度か一緒にツアーをしたアークティック・モンキーズとは仲がいいと思います。マット・ヘルダースは初期にヒントを得たバンドとしてハイヴスとストロークスを挙げていますが、2000年代の前半に新しいロックンロールの時代が始まる頃、自分たちがそのフォーマットを作り上げたバンドのひとつだった、という自覚はありますか?

ニコラウス:まあ、実際そうなんだろうね。わざわざ自分達のところに来て「影響を受けました」って言ってきてくれるバンドも多い。「12歳、13歳、14歳、15歳のときにザ・ハイヴスに出会ってそこからバンドを始めました!」的な、「昔から一番好きなドラマー、ギタリストなんです」みたいなことを言ってもらえたりね。だから、ある程度は貢献している部分が確実にあるだろう。実際、音からも「あ、これはちょっとハイヴス入ってるね」みたいに影響を感じることもある。とはいえ、自分達とそっくりそのまま同じ音を出してるバンドっていうのは正直いないと思うし、ハイヴスのコピーキャットみたいなバンドには今まで一度もお目にかかったことがない。つまり、自分達から受けたインスピレーションを、みんなちゃんと自分なりの表現に還元してるわけさ。そういう意味では、自分達が誰かのインスピレーションの元になってるっていうのはすごく光栄なことだよ。僕らも同じような感じで数々のバンドから影響を受けてきたわけだから。それこそ数えきれない多くのバンドからね。
だから自分達が同じように誰かに影響を与えることができてるとしたら、ただひたすら光栄でしかないね。

「Walk Idiot Walk」(2004年)

「Tick Tick Boom」(2007年)

―以前ペレにインタビューしたときに彼は、「誰もやっていないことをやろうと思っていた」と言っていました。リード・ギターがない、徹底的にリフとリズムを重視したサウンドのデザインを決めたのは、きっとあなたですよね? それとも、前作で亡くなったとされる謎の人物、ランディ・フィッツシモンズが決めたんでしょうか。

ニコラウス:まあ、その両方だろうね。曲の多くはランディが提供してくれたアイディアやパーツがきっかけになっていて、6人目のメンバーみたいな存在なのでね。メンバー5人と彼との共同作業によりハイヴスのサウンドを作り上げてきたみたいなものだから。それはこれまで何年もかけて磨き上げてきたもので、何かを書いたり作ったりするたびに「これはこうしたほうがいいだろうね」、「いや、こっちのほうがいいかも」みたいなやり取りを続けて常に試行錯誤しながら、二人三脚で向上させてきたような感じだね。ハイヴスの音楽をより高みに導くための、終わりのない探求なわけさ。仮にどちらか一方が乗り気じゃないならそこは深入りせず、逆にお互いが100%「いい‼」と思ったものに注力していく。それがハイヴスの核でもあり、同時に自分たちが心から「いい‼」と思ったもののエッセンスだけを抽出することにも繋がる。その結果、自分たちが心から「いい‼」と思ったものが、最終的にハイヴスの音として定義されてアップデートされていく。つまり、メンバー全員の音楽的な好み+ランディ・フィッツシモンズ的感性の両方が反映されてるわけさ。


The Hivesが語る「誰もやってなかった」ガレージロックの源流、バンド復活劇、日本への想い

Photo by Julio Cabana

―前にあなたに取材したとき、「ビートルズは嫌いじゃないがあんまり聴いてない。ローリング・ストーンズのほうが好きだった」と言っていたのが印象的でした。そんな風に、あなたの方向性を決めたバンド、ルーツにあるバンドをいくつか挙げてもらえますか?

ニコラウス:まずはAC/DC……それからザ・ソニックス、デッド・ケネディーズ、ニュー・ボム・タークス、ジ・オブリヴィアンズ……今言ったのは自分の中でのトップ5としてかなり固いんじゃないかな……それに加えて、ラモーンズとザ・ストゥージズも外せない。とはいえ、他にも山ほどいるよ。たとえば、ザ・セインツ、ザ・ダムド、セックス・ピストルズ、それからスウェーデンのパンクのKSMBやアスタ・カスク、あるいはミスフィッツ、バッド・ブレインズとか……とりあえずロック、パンク、あるいはどんなジャンルでも質の高い音楽なら何だって吸収してきた。今名前を挙げたメンツに関しては、間違いなくハイヴスのサウンドを形成する上で重要な核になってるよ。

―ペレはAC/DCが最初で、10代になってからパンクとヘヴィメタルを発見、両方好きだったと言ってました。ヴィジランテはパンクにかなり影響を受けたとのことですが、その辺の好みは結構メンバー同士で重なっているという認識でいいでしょうか。

ニコラウス:まあ、そうなんだろうね。最初は個々に違うバンドから入っていったんだろうけど……例えばヴィジランテが最初にハマったのはシャドウズで、そこからガンズ・アンド・ローゼズを経てパンクというルートらしく……とはいえ、パンクにハマっていったのもほぼ同時期なはずで、それこそ10歳とか11歳くらいから、12、13、14歳あたりだろうね。まあ、そのへん年齢の違いによる時間差はあるにせよ、とりあえずメンバー全員13、14歳になる頃にはパンクの洗礼を受けていたはずだよ。

鮮やかな復活劇、爆発的な最新モード

―前作『The Death Of Randy Fitzsimmons』は実に力強いアルバムで、11年もアルバムを出していなかったにも関わらず、全英2位と大成功しました。
あのアルバムや、当時のハイヴス復活劇についてはどのように振り返りますか?

ニコラウス:いや、今みたいな言い方をされると、この先も気合を入れて作品を作り続けていこうって気にさせられるね(笑)。あるいは、こんなに愛されてるんなら、11年間も間をあけずにもっと音楽を作っておくべきだったなっていう気持ちにもなる。当時の心境としては、ただひたすら達成感しかなかったね。自分達が心から誇りに思えるレコードを完成に導いて、世に送り出すことができて、それに相応しいリアクションが返ってきたわけで。そこからツアーを再開して、自分たちが現在進行形のバンドであることを実感できたのも嬉しかった。すごく誇りに思ってるよ。しかも、ハイヴスのカタログの中でもあのアルバムはしっかり馴染んでる。

それと同じくらい、新作にも誇りを持ってるよ。『The Death of Randy Fitzsimmons』がちょうどいい感じの布石になってくれた感じで、今回のアルバムもあれに匹敵するくらいエネルギー全開の作品になってる。ハイヴスの音楽の大半が今でもやはりハイヴスとしか形容できない、ハイヴス的エネルギーを原動力にしてるんでね。結局、最初に人々にガツンと訴えかけるのはその本能の部分なわけさ(笑)。あの爆発的なエネルギーこそが、まさにハイヴスのキモなんでね。

―そしてニュー・アルバムは、前作以上に荒々しくてハードで、シンプルな、全曲がシングルのようなアルバムになっていますね。曲は前作の段階からあったそうですが、新作はどんなアルバムにしたいと思っていた?

ニコラウス:まあ、簡単に言ってしまえば、アリーナ会場向けのレコードを作ろうということだね。前作でツアーを再開して、ライブでのエネルギーを糧にさらにパワーアップして強化しようという、そっち方向に全面的に舵を切った作品なわけさ。とはいえ、アルバムが完成してから初めて「アリーナ向けのアルバムとは何ぞや?」って考え出したという……そこは順序が逆になってるけども(笑)。結論から言うと、アリーナ級の音楽って決まったフォーマットがあるわけでもなく、単にポピュラーな音楽なんだよね。普通にアリーナを埋められるくらい大衆から愛されてる音楽……というわけで、ポピュラーでさえあれば実質的にどんな形も取れたわけさ。自分達が掲げた目標としては、とにかくデカいもんにしてやろう!ということ、それに尽きる。

最新アルバム『The Hives Forever Forever The Hives』の先行シングルMV

―そういうアリーナ的なアルバムを作るに当たって、実際にAC/DCやローリング・ストーンズとのツアーも経験したことは、新作をイメージする上で有益でしたか?

ニコラウス:まあ、それもあるだろう。基本的に、そこをずっと雛形にしてきたみたいなものなんでね。AC/DCにしろローリング・ストーンズにしろ、まさにアリーナ・ロックの雛形を作ったバンドだから。しかも、どストライクで自分達の好きなスタイルだったりもする。AC/DC然り、ローリング・ストーンズ然り、何しろ心酔してるものでね。デフォルトがそこなので、ものすごく学びが多かったよ。とくにテンポとか強弱のつけ方に関して、どちらのバンドからもガンガン多くのものを吸収させてもらったよ。

―そしてハイヴスは今年のフジロックで、どんなライブを披露してくれそうでしょうか。

ニコラウス:そりゃもう、ハイヴスが君の街にやって来るときには、いつだってベスト中のベストを期待してもらって構わない。過去にハイヴスのライブを経験済みだろうと、未体験であろうと、これまで観てきたバンドの少なくとも2倍はすごいものを期待してもらって、ほぼ間違いないよ。

The Hivesが語る「誰もやってなかった」ガレージロックの源流、バンド復活劇、日本への想い

ザ・ハイヴス
『The Hives Forever Forever The Hives』
2025年8月29日リリース
解説/歌詞/対訳付、日本盤ボーナス・トラック収録(予定)
詳細:https://bignothing.net/thehives.html

The Hivesが語る「誰もやってなかった」ガレージロックの源流、バンド復活劇、日本への想い

FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※ザ・ハイヴスは7月27日(日)出演
https://fujirockfestival.com

最新アルバム『The Hives Forever Forever The Hives』の先行シングルMV
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