中国出身のグローバルアイコン、Jackson Wang(ジャクソン・ワン)が最新アルバム『MAGICMAN 2』をリリースした。SNSの総フォロワー数は1億人を超え、コーチェラに3年連続出演。
Number_iとのコラボ曲「GBAD (Number_i Remix)」も記憶に新しい。アジア最高峰のスターが語る人生哲学とは? 今年4月の来日時に実施したロングインタビューの完全版をお届けする。聞き手は音楽ライター・渡辺志保。

より深まったNumber_iとの絆

─いつから日本にいらっしゃるんですか?

Jackson:ちょうど1週間前に来ました。今回はどうしても日本に来たかったんです。ソロアーティストとして、ここで活動するのがずっと夢だったので。前回、日本で仕事をしたのは……もう10年以上前になりますね。まだボーイズグループに所属していた頃の話です。そこから5~6年くらい前にソロとしての活動をスタートして。それ以来、ずっと「日本でやりたい」という気持ちを抱き続けてきたんですよね。やっとまた来ることができました。

─日本ではどんなふうに過ごしていらっしゃいますか?

Jackson:ここにいるとすごく居心地がいいんです。
なんていうか……クリエイティブの面において健康的な場所なんですよね。音楽やファッションの分野でつながっている友人たちや、そのコミュニティの存在が刺激になっています。学ぶことも、インスピレーションを受けることもたくさんある。互いに刺激し合って、吸収して、影響し合って……そういうやり取りがすごく面白いんです。だからこそ、もっと長く滞在できたらと思っていますし、”ここにいる”っていう感覚を大事にしたいんです。

─日本で見つけた「ここ面白いな」と思ったスポットはありますか?

Jackson:日本のナイトライフって、個性的なバーがたくさんあって、それが魅力的だなって思いました。お店の規模はそんなに大きくないけど、ブティックスタイルで、ひとつひとつの世界観がしっかりしてるんですよね。内装も雰囲気も音楽も、ひとつのスタイルとして統一されている。

たとえば他の国だと、大きなクラブやバーが多くて、たしかに内装もすごいし、演出も豪華なんだけど。日本のバーにはそれとは違った、空間としての完成度があると思うんです。TVに映ってる映像のチョイス、家具のセレクト、そこで働いてる人たちの空気感……全部がちゃんと一体になってる。それがすごく印象的でした。


─今回の滞在中、Number_iのメンバーに会う機会も?

Jackson:ええ、もちろん。取材も一緒に受けましたし、パーティーにも行ったりしました。3人とも本当にリラックスしていて、すごくチルなんですよ。その雰囲気のおかげで、僕自身も自然体でいられましたし、波長が合うというか……そういう空気感があったことで、より深い絆が生まれたと思います。

─Number_iと初めて出会ったのはいつだったか覚えていらっしゃいますか?

Jackson:去年のコーチェラですね。それがきっかけで、一緒にコラボしたりするようになって。今回の滞在ではたくさんの時間を一緒に過ごしているので、人と人としての新しい関係性が生まれたように思います。

─どんな時に、彼らとの心地よさを感じるのでしょう?

Jackson:今回はもっとプライベートな話をする時間があったので。もちろん、音楽についてはすでに共有できているんですけど、それ以上のこと──たとえば日常の些細なことや、友達として過ごす時間。仕事のことは一切話さずに、ハイボールを飲みながらまったりしたり。そういう「ただの人間どうし」の時間が、すごく心地よかったです。

スポーツ一家からエンタメの道に

─ここからはバックグラウンドについてお聞きしたいです。
ご両親はプロのアスリートだと伺いました。どんな幼少期を過ごされたのでしょうか?

Jackson:いやあ……かなり厳しかったです(笑)。いわゆるアジア式の、ストイックな家庭でした。母は体操、父はフェンシングの選手で、どちらも中国代表チームにいたんです。年の離れた兄がいて、彼は1986年生まれなんですけど(※Jacksonは1994年生まれ)、その兄もラグビーをやっていて。家族全員がスポーツ一筋なんです。だから規律やしつけも厳しかったけど、僕は末っ子だったので、少し甘やかされていたところもあったかもしれません。

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31歳の誕生日(3月28日)を迎えた直後、4月1日にInstagramに投稿された写真

─そんな環境で暮らしながら、音楽やダンスの世界に興味を持ったきっかけは?

Jackson:子どもの頃はまず、7歳から10歳くらいまで体操をやっていて、10歳から16歳まではフェンシングに取り組んでいました。それも全部、両親に「やりなさい」と言われて始めたことです。それらに取り組みながら、どこかで「パフォーマンスしているみたいだな」って感じていたんですよね。競技というより”見せること”をしているような感覚があって。それで、自分は「表現するのが好きなんだ」「人を楽しませるのが好きなんだ」って気づいて。
そこから少しずつ、自然にそちらの方向に向かっていきました。

それである日、学校にいたとき、韓国のK-POP事務所にキャスティングされたんです。

─それまでにボーカルレッスンなども受けていた?

Jackson:いや、全然。

─本当ですか!? ダンスのレッスンも?

Jackson:そういうの一切やってなくて。家でシャワーを浴びながら踊ってたくらい(笑)。僕は生まれつき外向的な性格で、何かミスしても「恥ずかしい」とか思わないんですよね。最初にキャスティングされたときも、「ダンスできる? 歌える?」って聞かれて、できなかったけど……とにかくやってみたんです。今思うと、その性格がよかったのかもしれないです。「ワイルドで面白いな」って思ってもらえたんじゃないかなって。

2022年、「Head in the Clouds」出演時のライブ動画

─別のインタビューでは、当時ロンドン五輪を目指していたとお話されてましたよね。ご両親の反応はどうでしたか?

Jackson:「お前、正気か?」って思われてました(笑)。父はオリンピック出場経験があって、母は世界チャンピオンなんです。
だからこそ、なおさらそう感じたんでしょうね。

─それでもエンターテインメントの道に?

Jackson:はい。6~7カ月くらいかけて説得しました。「僕を信じて、一度だけチャンスをください」って。少しずつ理解してもらえるように頑張りました。たぶん、母はけっこう早い段階で、僕の気持ちに薄々気づいていたと思います。そういう話を母にはよくしてたんですけど、父にはあまり言わなかったんですよね。

それで、ロンドン五輪を目指して準備していた頃の話ですけど。その前に(代表候補を決める)アジア選手権というのがあって。両親には「芸能の道に行きたい」って何度か話していたんですけど、ずっと反対されてて。だから、あるとき冗談半分で「じゃあこの選手権で優勝できたら、行ってもいいでしょ?」って言ったんです。ほんとに軽いノリで。
そしたら、本当に優勝しちゃったんですよ(笑)。

─すごい話ですね(笑)。

Jackson:そしたら父がめちゃくちゃ喜んで、友達に「うちの息子がアジアNo.1だ!」って自慢して。でも……そのときの約束を、父はすっかり忘れてたんです(笑)。「そんなこと言ったっけ?」みたいな感じで。でも、あのとき勝ったことで、父のなかでも何かが動いたんでしょうね。最終的には「わかった、やってみなさい」と送り出してくれました。

アジアの大スターが取り組む「セルフケア」

─今ではソロアーティストとして世界中にファンがいて、SNSのフォロワーも何千万人といますし、まさに今世紀屈指のビッグスターだと思います。そんな中、自分を見失わないよう毎日のモットーにしていることはありますか?

Jackson:うーん……僕もただの人間ですからね。結局みんなそうだと思うんですけど、人生って成功と失敗の繰り返しじゃないですか。まるで波みたいに、上がったり下がったりしていくものだと思っていて。

僕自身、年齢を重ねるにつれて、いろんなことに対してどんどんニュートラルになっているような気がします。嬉しいことがあっても浮かれすぎないし、大変なことがあっても落ち込みすぎない。そういうふうに、良い時期も悪い時期も、フラットな目線で捉えるようになってきました。

キャリアのピークとか成功っていうのも、ひとつの瞬間に過ぎないと思っていて。もちろん、成功できたこと自体はありがたいです。でも、自分の頭のなかを、必要以上にそういったことでいっぱいにしたくないというか。

─日常生活の中で、プレッシャーを感じることは?

Jackson:めちゃくちゃありますね。できることなら、寝なくて済む体になりたい。本気でそう思います(笑)。

─ちゃんと眠れてます?

Jackson:寝てるには寝てるけど、そんなに睡眠時間はとれてないですね。それは仕事のせいというより、ライフスタイルの問題かもしれません(笑)。

─プレッシャーや葛藤、あるいはネガティブな感情とはどう向き合っていますか?

Jackson:僕はそのまま言いますね。思ったことは口に出すタイプなんです。もし、それがすごく重い内容だったら、まずはちょっと考えるけど……でも、結局はちゃんと話します。何かを心のなかに溜め込むってことを、基本的にしないんです。

─日々のルーティンについても教えていただけますか?

Jackson:まずは……目を覚ます(笑)。それから全身を剃って、シャワーで顔やからだを洗って。そのあと、氷をボウルに入れて水を加えて、そのなかに顔を浸けるんです。顔のむくみをとるために。それからメイクに取り掛かるという流れです。

2023年、コーチェラ出演前のリハーサル映像

─普段は、どちらを拠点に生活しているのでしょう?

Jackson:一番長くいるのは両親が住んでいる上海ですね。韓国ではひとり暮らしをしています。

─普段から世界中を飛び回っている印象がありますが。

Jackson:たぶん、年間の80%は旅しながらどこかの国にいますね。残りの20%が家にいる時間で、そのうち15%が上海の自宅、5%が韓国という感じです。

─メンタル面においてもヘルシーでいられる秘訣はありますか?

Jackson:今やっていることが、本当に好きなんですよ。それが一番の理由かもしれません。毎日こうして、自分の好きなことをしながら生きていける。それって、すごく幸運なことだと思っていますし、本当に感謝しています。

『MAGICMAN 2』で表現した、自分の内側にある感情

─最新アルバム『MAGICMAN 2』についても聞かせてください。とはいえ、現時点ではリリースまでにまだ数カ月あり、いくつかシングルを聴いているのみなのですが。まず、前作『MAGICMAN』の続編を作ろうと思ったのはなぜでしょう?

Jackson:『MAGICMAN 2』は、「MAGIC MANとは何なのか」ということや、なぜあのメイクをしているのか、このキャラクターに何が起きたのか──そういったことを描いています。

僕にとってMAGIC MANは、自分の内面の感情を表す存在なんです。たとえば、今日誰か新しい人と出会ったとして、その人の表面的なことは(情報として)知っていたとしても、心のなかまではわからないじゃないですか。その「心」っていうのは、言ってしまえばその人自身のMAGIC MANなんですよね。僕にも僕自身のMAGIC MANがいる。そういう内側のもうひとりの自分、エゴのような存在です。

Jackson Wangが語る人生哲学、Number_iとの絆、アジアを牽引する先駆者の信念


─今度のアルバムには、ご自身の変化も反映されているんでしょうか?

Jackson:はい。昨年、活動を一度ストップして1年間休みを取りました。13年くらいノンストップでこの業界にいて、毎日ずっとスケジュールに追われていて、ふと気づいたら全部が同じ日みたいに感じられて。18歳前後の若い頃にこの業界に入って、社会経験もなく、ただただ走り続けてきてしまったんです。何も考える間もなく。

それで「一度立ち止まりたい」と強く思うようになり、その1年のあいだに、自分自身や人生についてすごく考えました。「何が大事で、何がそうじゃないのか」「自分の軸は何なのか」「自分は自分として存在しているのか、みんなが願うジャクソン・ワンを演じているだけなのか」──そんなことをたくさん考えました。

─そうした気持ちの中で、音楽への向き合い方も変わってきましたか?

Jackson:そうですね。過去に出した曲を改めて振り返って、「これ、本当に自分が言いたいことなんだろうか?」って思ったんです。いままでの楽曲って、「僕は踊れる、歌える、こういうことができるよ」っていう、スキルを見せる内容が多かったんですよね。

でも、自分の人生や、自分の感じていること、この世界のこと、社会や業界について、ちゃんと自分の言葉で書いた曲が、実は一つもなかったなと気づいて。だからこの1年は、自分の日記のようなものを書いて、それを音楽に変えていったんです。

─具体的なプロセスについても教えてください。スタジオの中で集中して作った感じですか?

Jackson:曲によっても違うんですが、去年は僕とチームのみんなで、いろんな都市をまわりながら制作したんです。一緒に住んで、パーティーして、ご飯を食べて、音楽を作って……それがもはやライフスタイルになっていました。

─素敵ですね。

Jackson:毎日音楽を作ってたんですけど、「(作ったものを)絶対に採用しなきゃいけない」っていうプレッシャーがなかったので、すごくオーガニックで、純粋に楽しみながら作ることができました。その制作現場のひとつが東京だったんです。港区に滞在しながら曲作りをしていました。

─港区で?

Jackson:そう、Airbnbに滞在して。

─ホテルよりも快適そうですね。

Jackson:そうなんです。ホテルって、場所によっては音が気になることもあるんですよね。だから今回はAirbnbの地下とか、そういう静かな場所を借りて、そこに簡易スタジオをセットアップして使ってました。

─アルバムに先駆けて「High Alone」「GBAD」という2本のMVが公開されましたよね。「High Alone」では、ジョーカーのような衣装を纏っていましたが、ご自身の苦悩や孤独、ダークな側面が表現されている印象を受けました。

Jackson:「High Alone」は、僕が”社会”をどう見ているかを映した作品です。この曲はアルバムにおけるイントロダクションとしての役割を持っていて、まず最初に「僕が何をどう見ているか」を提示したかったんです。MVのなかには、ジャクソンとMAGIC MANの両方が登場します。これは自分自身を、ある種のゲームの中にいる存在として見つめているような構図なんです。もちろん比喩的な意味ですが──それが「High Alone」の世界観ですね。

─興味深いです。「GBAD」はいかがでしょう?

Jackson:あの曲はもっと明るくてエンタメ寄りですね。「人生は素晴らしいものだよ」というシンプルなメッセージを込めた曲です。ただ時には、自分の境界線を守るために、あえて悪者にならないといけないこともある─それは自分を守るために必要なこと。それもまた人生だと思うんですよね。

─「GBAD」では〈You only live once / Just gotta be a d*ck sometimes〉(人生は一度きりだから/時には嫌なヤツになることも必要なんだ)というラインも印象的でした。こういう歌詞は、どこから生まれたんですか?

Jackson:さっき話した、僕のパーソナル・ダイアリーから来ています。今回のアルバムは収録曲のすべてに、その元になった長文の日記があって、僕自身の実体験が反映されています。

─毎日のルーティンとして書いていたんですか?

Jackson:日課というよりは、ツアーや移動の合間にふと感じたことを、その場で書き留めていた感じですね。旅の途中で、過去の痛みやいろんな感情を思い出して、「これは自分が言葉にして伝えたいことだな」って思ったときに、自然と出てきたものです。そういった感情の結論のようなものとして、あのフレーズが生まれました。

─タイトルにもなっている「MAGIC」というワードは、ジャクソンさんにとってどういう意味をもつのでしょう?

Jackson:実をいうと、「MAGIC」って言葉そのものに深い意味があるわけじゃないんです。ただの名前でしかないんですよ。『Rabbit Man』や『Table Man』でもよかったくらい(笑)。

僕にとって『MAGIC MAN』っていうのは、内面の感情を表すための言葉なんです。人それぞれ、自分のなかに自分だけの魔法があると思っていて。どれだけ仲のいい友達でも、相手の内側まではわからない。それは、その人自身にしかわからないものなんですよね。だから『MAGIC MAN』というのは、そういった”自分の中にある唯一無二のもの”を表現するための、ひとつの名前なんです。

インディペンデントであることの意味

─『MAGICMAN 2』は、前作の音楽的な雰囲気を引き継いでいるんでしょうか?

Jackson:サウンドの面では、特に縛られてはいません。今作は、よりリズミカルな仕上がりになっていると思います。リズムやグルーヴがしっかりあって、前作とはまた違った感触がありますね。

前作のときは、曲によっては自分で書いたものもあれば、他の人から受け取ったものもあって、自分自身もまだ模索している時期だったんです。でも今回は、そういう迷いがなかった。もっと自由に、自分らしく作ることができました。

たとえば「GBAD」も、オリジナルのビートはYouTubeで見つけたんです(笑)。

─意外です!

Jackson:「ジャジーな感じで、90年代っぽくて、ヒップホップのリズムが感じられるビートがいいな」と思って、AORとかいろんなワードを入れて検索してたら、「これいいかも」って思えるビートに出会って。スタジオにいて、チームのみんなで飲んでたんですけど、「このビートでやってみよう」となって。そのまま曲を書いて、レコーディングして。

─すごいスピード感ですね。

Jackson:「GBAD」はめちゃくちゃ早かったです。自分が書いた日記を読み返して、「これを歌詞に使おう」と決めたら、リズムや言葉の流れを考えながら、YouTubeで見つけたビートに自分の声を乗せて。最初の数テイクで「これだ」と思えるものが録れたんですよね。それで一旦完成したんです。

でも、あとから問題が出てきて……著作権がクリアできなかったんです。そのビートをアップロードした人を最後まで見つけられなくて。仕方ないのでアカペラだけ抜き出して、新しいビートを組み直し、最終的に今の形に仕上がりました。

「High Alone」レコーディング/MV撮影の舞台裏映像

─今回のアルバムには、誰かゲスト・アーティストも参加しています?

Jackson:はい。かなりのレジェンドで、アジアのアーティストです……今はまだ、それ以上は言えないですね(笑)。

※取材後の5月9日、インド出身の大人気アーティスト、ディルジット・ドサンジ(Diljit Dosanjh)と共作した新曲「BUCK (feat. Diljit Dosanjh)」をリリースした

─『MAGICMAN 2』の制作にあたって、もっともインスピレーションを受けたものは何でしたか?

Jackson:正直、「何かからインスピレーションを受けた」という感覚はないですね。ただ、自分自身の「本当の気持ち」を音楽として語っているだけなんです。それこそ「High Alone」では、僕がこの業界で感じてきたこと、インディペンデント・アーティストとしての葛藤をそのまま表現していますし、「GBAD」にも自分の人生観が反映されています。

ほかにも、人は「嫌うために愛する」のではなく、「愛することが怖いから嫌う」という逆説的な感情を歌った曲や、年齢を重ねるなかで自分の中に芽生えた、親という存在への思いを綴った曲もあります。そして、アルバムの最後を締めくくるのが「Made Me a Man」という楽曲です。これは良いことも悪いこともひっくるめて、自分に起きた出来事のすべてが、今の自分を作ってくれたという思いを込めた曲です。

─ちなみに、インディペンデント・アーティストであることについてはどのように捉えていますか?

Jackson:もちろん良い面もあれば、大変な面もありますね。もし、ものすごく大きなコーポレート──大手のレーベルやマネジメントに所属していたら、いろんな専門の人たちが動いてくれて、アーティストは自分のことに集中すればいい、という体制が整っていると思います。ただ、そうなると会社の方針に沿って動く必要があるし、どうしても保守的になりがちです。安全で、守られていて、穏やかで……それはそれで悪いことではありません。

でも、そういう環境下では、アーティストとしての個性が失われてしまうと思うんですよね。やっぱりリスクって必要なんですよ。でも、多くの大手企業はそういったリスクを避けたがっている。

一方、インディペンデントだと、自分を自由に表現できます。本当の自分を見せられるし、自分のパーソナリティや想いを、正直にリスナーに届けることができる。でもその反面、やっぱり大変です。チームのみんなも必死に頑張っていて、毎日「もう死にたい!」と言ってるくらい……(チームのメンバーの顔を見ながら)もちろん冗談ですよ(笑)。冗談、冗談!

─(笑)実際、どこかのメジャー・レーベルと話をしたこともありました?

Jackson:いえ、実際にサインしたのはディストリビューション契約だけで、パートナーとしては88risingと組んでいます。88risingは家族のような存在で、自分自身もそのなかである種の役割を担っています。

ただ、内部的なマネジメントに関しては、完全に独立しています。「Team Wang」という僕たちのチームがあって、そこで全部やっています。人数もほんとに少なくて、たった3~4人だけ。それが僕のチームのすべてです。

アジアを牽引する先駆者の信念

─88risingについてもお聞きしたいです。アジアと世界の音楽シーンをつなぐハブのような存在かと思いますが。

Jackson:間違いなくそうですね。88risingはアジアと世界をつなぐ、数少ない「架け橋」のひとつだと思います。東側(アジア)のカルチャーや要素を西側に届ける一方で、西側のエッセンスや価値観を東側に紹介する。そうやってお互いの文化を行き来させるための扉を開いた存在。僕はそう見ています。

彼らは、才能ある人たちやクリエイターに「見られる場」や「表現する場を与えてくれる。その姿勢が、ずっと変わらず続いているのもすごいですよね。いつも支えてくれるし、一貫してオープンでフラット。長年そういう活動を続けている、信頼できる存在ですね。

─前作『MAGIC MAN』は大きな成功を収め、北米ツアーやコーチェラへの3年連続出演にもつながりました。そのなかで得た、いちばん大きな学びは何でしたか?

Jackson:前作のツアーを通じて自分の中で一番大きかった気づきは、結局、どこへ行っても「人は人なんだな」ということです。国が違っても、文化が違っても、来てくれる人たちはみんな同じように人間で、そこにある感情や空気感って、実はあまり変わらないんですよね。

たとえば「部屋」は、どの国に行っても「部屋」なんですよ。もちろん地域ごとの違いはありますけど、そこにベッドがあって椅子があって……その形やデザインが違うだけで、果たす役割はどこでも一緒なんですよね。

そういう意味で、ツアーを通じて、「ステレオタイプって、実はそんなに存在しないんじゃないか?」ということを感じました。メディアやニュースで語られる印象って、あくまで「聞いた話」なんですよね。でも、実際にその場に行って、自分の目で捉えて、空気を感じると、まったく違うものが見えてくる。その違いに気づくことができたのは、僕にとってすごく大きな学びでした。

─アジア人として、偏見やステレオタイプを感じたことはありますか?

Jackson:あると思います。でも、それって一方的なものではないとも思うんですよ。僕たちアジア側に対しての偏見もあるかもしれないけど、同時に、こちら側にも相手に対する思い込みがあるかもしれない。そういうのって、意外と自分では気づけないものなんですよね。

結局のところ、僕たちは「聞かされていること」に影響されてるだけで、本当に大切なのは、自分の目で見て、感じて判断することなんだと思います。

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─アジア人としてグローバル、特に北米の市場に挑戦するうえで、難しさを感じたことはありますか?

そういうふうに考えたことは一度もないです。先ほども話したように、僕はとにかく飛び込んでいくタイプなので(笑)。ミスしても気にしないし、何かに挑戦することへの抵抗もない。だから「アジア人としてどうか」っていう意識を、あまり持ったことがないんです。

─グローバル進出をめざすアジアの若いアーティストに向けて、メッセージをいただけないでしょうか。

Jackson:もちろん。メッセージというより、自分自身の経験から言えることをシェアさせてください。まず一つ目に、音楽やエンタメって、世界共通の言語だと思うんです。そこには国境も、人種も、民族も関係ない。どんな背景を持っていても、エンタメを通じて人と人は必ずつながれる。それがこの世界の素晴らしさだと思います。

そしてもうひとつ。もし、自分のなかの直感が何かを察知したら、若いうちに迷わず動いてほしいです。他人の意見で、その直感をかき消さないでほしい。だって、それは他人の人生じゃなくて、あなたの人生なんだから。たとえ失敗したとしても、それは自分で選んだ道。
「自分の手で、自分の人生を生きる」ことが一番大事だと思うんです。この二つが、僕自身がここまでやってきながら感じていることです。

「Number_iは天使です」アジア最強コラボへの手応え

─最後に、「GBAD (Number_i Remix)」について聞かせてください。今回のコラボは、どういうきっかけで実現したのでしょうか?

やはり去年のコーチェラでの共演ですね。そこから自然な流れで、「何か一緒にやろうよ」っていう空気になって。ちょうど僕が日本に来ることになっていたので「じゃあ、今やろうよ」って感じで。タイミングもぴったり合って、あのリミックスが生まれました。

─リミックスにはどんな手応えを感じていますか?

Jackson:Number_iのパートは本当にお気に入りです。フロウもバイブスもすごく面白いですよね。キャラもそれぞれ違って、重たい低音を響かせるタイプの方もいれば、軽快でリズミカルなタイプ、メロディアスに裏で支えるタイプもいる。三者三様のスタイルがひとつになっていて、すごくダイナミックに感じました。

─日本語も少し話せるとお聞きしたので、日本語で質問してもいいですか? Number_iのどんなところが好き?

Jackson:(日本語で)天使です。やさしい人です。(以下、英語で)プロフェッショナルですし、カメラが回っているときも、そうじゃないときも全然変わらないんです。すごく素敵な方たちだと思います。

ー多言語を操るスキルにも脱帽です。どうやって習得したのでしょう?

Jackson:間違えてもあまり気にしないタイプなので。間違えてもそのまま話し続けるんですけど、そうするとみんな笑ってくれたり、すぐ教えてくれたりするので、自然と覚えちゃうんです。

─ちなみに、全部でいくつの言語をマスターしている?

Jackson:中国語、広東語、それから上海語も話せます。あとは韓国語と英語もですね。

─日本語も加わりそうですね。

Jackson:はい。まだ勉強中なんですけど、ちょっとずつわかるようになってきました。まだまだこれからって感じですけど。もし音楽がうまくいかなくても、通訳としてやっていけるかもしれません(笑)。本気でそう思ってます。

─日本のファンにもメッセージをお願いします。

Jackson:日本でソロとして活動するのは今回が初めてなんですが、これからもっと日本に来る機会が増えると思いますし、日本語ももっと勉強していきたいです。どうか元気でいてくださいね。愛してます。ありがとうございます。

─今後また東京に戻ってくる予定はありますか?

Jackson:ぜひ、また東京に呼んでください!(笑)。日本でもライブがしたいです。

Jackson Wangが語る人生哲学、Number_iとの絆、アジアを牽引する先駆者の信念


Jackson Wangが語る人生哲学、Number_iとの絆、アジアを牽引する先駆者の信念

Jackson Wang
『MAGICMAN 2』
配信・購入:https://teamwang.lnk.to/MAGICMAN2

1. High Alone
2. Not For Me
3. Access
4. BUCK (feat. Diljit Dosanjh)
5. GBAD
6. Hate to Love
7. One Time
8. Everything
9. Dear:
10. Sophie Ricky
11. Made Me a Man
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