世界14カ国/地域のRolling Stone編集部が新進気鋭のアーティストを選出する「Future 25」2025年版にて、日本代表の1組として登場してもらった6人組バンド・Billyrrom。今年2~3月に行った過去最大規模の全国ツアー『Billyrrom Oneman Tour 2025 ”WiND”』は全公演ソールドアウトを記録し、来年2月からはソウル・香港・上海・北京・台北を含むアジアツアーの開催が決定している。


それほどまでに勢いに乗っているBillyrromのギタリストであり、多くの楽曲で作詞を手掛けているRinのソロプロジェクト、それがaint lindyだ。Billyrromと同時期にソロの楽曲を作り始め、ついに完成させた1stアルバム『KID IN ME』は、Rin自身のライフストーリーを赤裸々に昇華した作品になっている。また収録曲「Funny」は、TikTokで想定外のバズを巻き起こし、TikTok楽曲総再生数は2億回を突破した。

Billyrromも大事な時期を迎えている中で、なぜRinはソロプロジェクトを動かすのか? Billyrromとaint lindyにおいて、変わらないもの、変わるもの――Rinの目論みを深く聞いた。

なぜBillyrromのギタリスト・Rinはソロプロジェクト「aint lindy」を動かすのか?
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―Billyrromもある中で、「Rinさんにとってaint lindyとは何なのか」というところを今日は徹底的に聞かせていただきたいなと思っています。2022年6月に1stシングル『開口一番』をリリースしていますが、その頃はBillyrromとaint lindyに対してどんなモチベーションがありましたか?

aint lindy:そもそも曲を作り始めたのが2020年で、それはBillyrromを結成する前から、Mol(Billyrromのボーカル)と一緒にiPhoneのGarageBandで曲を作っていて。曲を作るということのすべてが初めての体験で、「これにこういう音を入れたらどうなるんだろう」みたいなことを実験的にやっていくうちに、バンドサウンドではないものもできたりして、それはひとりで出してみたいなと思って。aint lindyという名前がついたのはBillyrromを結成した1年後くらいなんですけど、ひとりで曲を作り始めたのは意外とBillyrromと同時期くらいなんですよね。何かきっかけがあったというより、音楽活動をしていく中で自然と始まったのかなと思います。

―バンドサウンドはBillyrrom、そうじゃないものはaint lindy、ということ以上の明確な違いが出てきているのかなと思うんですけど、今はどういった考えですか?

aint lindy:Billyrromではバンドの道のりを書いているんですよね。6人が見てきた景色、6人が感じたこと、6人の変化とか、そういうものを書いていて。aint lindyには自分がいち人間として見た景色や感じたことを投影したいなと思っていて、そこが根本的に違うかもしれないです。
逆にaint lindyで書いていることをBillyrromでやったら、それは「6分の1」の曲でしかなくなっちゃうから。

―たとえばフロントマンの思想やキャラクターが全面に出ているタイプのバンドもいますけど、Rinさんの中で、Billyrromは6人で1つのライフストーリーを表現したいという気持ちがあるということですよね。

aint lindy:そうですね。そもそもリーダーとかも決めてないし。ライブでも、一人ひとりの個性がちゃんと立つバンドを目指していますね。

―そもそもBillyrromを始めるときに「バンドやろうぜ」って声をかけたのはRinさんだと思うんですけど、そのときからそういうバンド像に憧れていたのか、それともBillyrromをやる中で徐々に見えてきたものなのかでいうと、どちらですか?

aint lindy:やる中で見えてきたような気がしますね。一人ひとりの個性が立っているバンドだけが好きだったわけでもなくて、フロントマンがフロントマンとして曲を書いているようなバンドも好きだったので。6人でいろんなものを経験していく中で自然と「この形だな」って思う瞬間があったんじゃないかなと思います。

―Billyrromにリーダーはいないと言えど、Rinさんが発起人でありトータルプロデュースを牽引している立場でもあると思うんですけど、Rinさんとしては今、Billyrromの6人でどんなものを作りたい、どういうふうに魅せたいと考えていますか?

aint lindy:『WiND』というアルバム(2024年9月リリース)とツアーが終わって、今の6人のテンション感的には――『WiND』は、「能動的にすべてを動かしていこう」というスタンスだったんですけど、最近は「流れに身を任せる」というか。『WiND』のときは「自分たちが風になる」っていうスタンスだったけど、今は逆に「風に身を任せる」というふうに変わったなと思っていて。だから今後出す曲は、より純粋なものになっていくような気がしてます。ツアーもいろんな場所でやるけど、自分たちはあまり変わらずにライブしていくんじゃないかな。


―そういうふうにモードが変わったのは、どういう理由からなんですか?

aint lindy:たくさん曲を作ったり模索してきた中で、もちろん上手くいくタイミングと上手くいかないタイミングがあって。ライブも、楽曲の制作面でも、「上手くいったな」「これハマったな」というときって、なんだかんだ自然体でやっていたなと思って。バンド内の空気感にあまり抗わず、自分たちに正直に、自分たちがやりたいことをやったときに上手くいくことが多いなということをみんなが少しずつ認識して、「結局それが一番いいかもね」みたいな。そういう流れかもしれないです。

―音楽活動における「上手くいく」の基準って、すごく曖昧で。数字も大事だけど、数字だけで測れるものではないし。しかも「6人で1つ」というバンド感を大事にしているからこそ、6人の喜びが大きいものができたときに「上手くいった」というフィーリングを全員が持てるのかなと。そうなると、やっぱり6人がやりたいことや自然体で楽しくできることをやるのが一番大事になってくるというか。

aint lindy:そうですね。結局、そうすることで6人全員が愛せる曲ができるんですよね。1人でも「いや、あの曲はちょっとな……」と思っていると、それってライブにも出るし。だからなんだかんだ自然体が一番いいなって思います。


なぜBillyrromのギタリスト・Rinはソロプロジェクト「aint lindy」を動かすのか?


9歳で笑えた、人生のターニングポイント

―Billyrromが「6人で1つ」を大事にしている一方で、aint lindyは、Rinさんのパーソナルなことを音楽に昇華していますよね。『KID IN ME』は、Rinさんの人生においてすごく大切なことや、普段人にはあまり言わないようなことまで書いた作品だというふうに受け取りました。

aint lindy:そうですね。コロナ真っ只中で音楽を始めたので、「人間」について書きたいという気持ちがすごくあって。人間っていうのは、自分自身だけじゃなくて、自分が見た人だったり。人間を書くことによって「人生って、別にそんなに悪いものじゃないんだな」っていうふうに、ちょっと思ってもらえたらいいなというのがこのプロジェクトのテーマですね。

―なるほど。でも「人生って悪いものじゃないんだなと感じてほしい」というのは、実はBillyrromとも通じる部分かもしれないですね。

aint lindy:そうですね。だから根本はあまり変わらない。でもやり方が違うんだと思います。

―まさにこのアルバムの中では「自分にとって音楽とは何か」ということも書いていますよね。


aint lindy:そうですね。今回のアルバムは『KID IN ME』というタイトルで、「自分の中にいる子ども」がテーマになっていて、自分自身のことを素直に書いているアルバムになったと思います。過去の自分のこともけっこう書いていて、総じて「今の自分」と「過去の自分」と「音楽」というものの関係性みたいなことを書いているのかな。2曲目の「You Mermaid I」が一番外に向けた曲で、3、4曲目は自分が見た祖母と祖父の関係性について書いていて、5曲目からだんだん自分の中に入っていってアルバム後半にいくにつれて内向的になる、という構成になっていますね。

―思考を深めていろんなことを考えた先で辿り着いたのが2曲目で描かれている「You Mermaid I」のポジティブさである、という感じがしていました。

aint lindy:それはすごくありますね。

―3曲目の「Funny」はTikTokで爆発的にバズってますけど、おじいちゃんの曲だったんですね。なぜあそこまでバズったのかは分析できていますか?

aint lindy:急に使われていて。あんなに使われると思ってなくて。今考えたら、サビのワードはキャッチーだったのかなと思います。もともとそんな感覚はなかったんですけど。たとえば「Interview」はちゃんと文章として成り立つように歌詞を書いたんですけど、「Funny」のサビの〈気まぐれでFunny〉は、そんなに自然な文章ではないというか。
だからいい意味で、違和感のある文になってるのかな。それがメロディに乗って、しかも繰り返していて、確かにキャッチーではあったのかな……「でもそんなに使われる?」という感覚です(笑)。

―”Funny”っていう全世界の人が知っているワードと、”気まぐれで”っていうあのグルーヴ感が、何度も繰り返されることで海外の人もキャッチーに感じたのかもしれないですね。7曲目「Time Blues」から8曲目「Interview」と流れていくパートは、Rinさん自身の幼少期や家族について赤裸々に書かれているのかなと思ったんですけど。

aint lindy:「Interview」は文字通り、自分の過去に対してインタビューするというテーマで、マジで赤裸々に書きましたね。たとえば笑い話って、その出来事を後々自分や周りの人が許せたから笑い話になるのと一緒で、自分について書くということは、自分を許容することだと思ったタイミングがあって。自分の過去や経験を総じて愛して許容してあげないと、自分についてのアルバムは書けないなって思ったんです。このアルバムを作る中では、そこが一番難しかったなと思います。だから今までの自分に対して、これまでの人生でないくらい向き合いました。そういう意味でも、アルバムを作る上ではBillyrromとまた違う力の使い方が必要でしたね。

―このアルバムを作り上げる中で自分の過去を許容してあげることができた、という感覚ですか?

aint lindy:なんというか……文字に起こして口に出したときに、自分がどう思うかが大事というか。言葉って、書いたり出したりするのは簡単で。
自分で書いた言葉を見たときに、また考えることが出てきて、それに対して自分がどう思うか、そこに自分が真摯に向き合えるかだと思うんです。

―たとえば”自分を認めて花束を贈ろう”という歌詞を書いたとき、本当に自分がそれを違和感なく、言葉と気持ちのズレがなく歌えるかどうかを、すごく大事にしていたということですよね。

aint lindy:そうですね。やっぱりそこがちゃんとリンクしないと作品としてよくならないよなと思ったので、それはすごく考えました。「Interview」のレコーディングは、目の前に自分がいると思って歌いましたね。

―以前「9 years old」という曲も出していて、「Interview」には”初めてほんとに笑えた9歳”という歌詞がありますけど、9歳というのは、Rinさんの人生においてどんな時期だったんですか?

aint lindy:自分が初めて純粋に心から笑えたなと思った瞬間が、9歳のときにあって。それをめちゃくちゃ覚えていて。「9 years old」は「あのときの純粋な感情を今も持っていたいな」っていう曲だったんですけど、「Interview」は、9歳よりも前のことについて書いている曲ですね。

―9歳までは、どういう日々を過ごしていたのかを聞いてもいいですか?

aint lindy:8歳のときに親が離婚して。当時はそういう認識がなかったけど、今考えたらすげえきつかったんだろうなっていう感覚があって。今だったら、きつかったら「今自分はきついんだな」って思えるし、逃げ場もあるけど、あのときはそういう感覚もないので。きついとも思ってなかったけど、心細さとかを感じている瞬間は多分多くて、それが表情とか何かしらには出ていて。実際、そこまで「楽しいな」って思った経験はあまりなかったような気がしていて。「Interview」はそれについて書いていますね。でも実は、もうそのときに音楽には出会っていて。音楽に対して興味を持ったりしていたわけではないけど、今考えたら、あのときから音楽が好きだったんだろうなと思って。歌ったりしているときは、多分何も考えずに楽しんでいたんだろうなという感覚があるし、今考えたらすごく大事なものだったんだろうなと思います。それを書いているのが、「Interview」の次の「Clover」ですね。”あの日のCloverの場所”=音楽なんですけど、すでに出会っていた音楽という場所で、過去の自分と現在の自分が待ち合わせているという関係性を書きました。

なぜBillyrromのギタリスト・Rinはソロプロジェクト「aint lindy」を動かすのか?


「本当の自分がわからなくなる時代」に届けたいこと

―「Clover」には〈HEROになりたくて〉という歌詞があって、「HERO」という曲も収録されていますけど、「ヒーロー」という言葉にはどういった想いがあると言えますか?

aint lindy:「HERO」は、マイナスな部分や自信のない部分がテーマになっていて。過去から見たら今の自分はヒーローかもしれないけど、今はヒーローじゃない、というところを書いていますね。表に立つようになって、周りから期待される理想像みたいなものを感じるけど、自分はいち人間でしかないから、そこに葛藤みたいなものがあって。「HERO」ではそこについて書いていますね。

―9歳の頃は、どういう音楽が耳に入っていたんですか?

aint lindy:今の音楽性のルーツにもなっているんですけど、Mr.Children、平井堅さん、槇原敬之さん、SMAPとか、そういうJ-POPが親の車でかかっていて、多分ずっと歌っていて。「Dummy」「Time Blues」以外は全部、ちゃんとサビがあったり、J-POPの構成になっているのは、そういうときに聴いていた音楽からきているんじゃないかなと思います。それはBillyrromの曲を作るときにも根底にあるものだなと思いますね。

―メロディアスで歌が立っている、というところも含めて、Billyrromもaint lindyも変わらない部分かもしれないですね。

aint lindy:そうですね。「Asobase」が入っているところ(4曲目)に、最初はBillyrromの「Torie」が入っていて。でも「Torie」はBillyrromにめっちゃ合いそうだなって思って、歌詞をBillyrrom用に全部書き直したんです。「Funky Lovely Girl」も最初のデモは、このアルバム(『KID IN ME』)に入れる用に作っていたんですけど、Billyrromが「ディスコっぽいやつやりたいよね」というヴァイブスだったからBillyrromの曲になりました。どちらも最初のデモから変わった部分はあるんですけど。

―1人で完成させるか、6人のエッセンスを入れて完成させるか、という違いはあれど、サウンド面において根本的なところはaint lindyとBillyrromでそこまで大差がないということですよね。そうなるとやっぱりもう一度聞きたくなるのは、aint lindyで曲を書くということを、なぜRinさんは必要としているのでしょう。

aint lindy:曲を書くのは生活の一部でしかないというか。曲を書くために何かを吸収して、アウトプットしてみたいなふうに、音楽が中心に回っている状態なので。

―でもわざわざ自分の過去や恥ずかしい部分をさらけだして、aint lindyとしての音楽にするということを、なぜやりたいと思えるんでしょうね。

aint lindy:作品を作りたいという欲がある中で、一番深く書ける題材は「自分」で。総じて人間を描きたいという気持ちがある中で、題材になるのはやっぱり「自分」なんだと思います。

―「人間を描きたい」ということを今日何度か言ってくれていますけど、なぜそういう気持ちが強くあるのだと思いますか?

aint lindy:生きていると、自分自身が何なのかわからなくなるタイミングがあって。6曲目の「Dummy」は「自分自身がわからなくなる」「どれが本当の自分かわからなくなる」とか、頭の中で錯綜していた負の状態を書いた曲だなっていう感じがするんですけど、「あれ、何のために生きているんだろう」みたいな感情になりやすい時代なんだろうなと思っていて。でも結局自分たちは人間なわけじゃないですか。自分自身のことを忘れやすい時代だけど、それは忘れちゃいけないことだと思っているので、aint lindyでは人間を書き続けたいなって思います。「Clover」は、2番までは過去の自分と今の自分について書いているんですけど、最後のサビは、過去の自分と今の自分から未来の自分に向けたものになっていて、最終的には未来の自分に対して幸運を祈っている。それを聴いた人が、最終的に「人生って悪いもんじゃないな」って思ってくれたらいいなと思ってます。

―このアルバムを聴いて、Rinさんは、ちゃんと芸術を作りたい人なのだということを感じたんですね。それも、受け取った人が世の中や人生の見方を変えられるような。

aint lindy:そうですね。根幹にあるのは人間を描きたいという想いで、音楽と他の芸術作品って、根本は同じで表現の仕方が違うだけだと思っているので、自分の中では、確かに音楽が大好きではあるんですけど、あくまで音楽は1個のフィルターというか。「表現」というものにフォーカスしていきたいなと思っています。

―aint lindyとしてこの先、どういう活動をしていきたいと思っていますか?

aint lindy:変わらず、自分が見たものや感じたことを楽曲に投影していくと思います。考え方も変わっていくだろうし、好きな音楽も変わっていくと思うので、それを変わらずに表現できたらいいなと思っていて。その中で聴いてくれた人が「いいな」と思って、ライブに来てくれたらなと思います。Billyrromと変わらず、デッカいところでライブをやりたいとは思っているので。曲を聴いて「人生っていいな」と思ってくれた人がライブに来ると考えたら、その数は多ければ多いほどいいと思うので、行けるところまではデッカくしていきたいなと思ってます。

―ライブの魅せ方、演出の作り方とかにおいて、Billyrromとaint lindyのあいだではどういった違いが生まれてきそうですか?

aint lindy:Billyrromは、6人のヴァイブスがどのポイントで合致するかが、その時々によって違うんですよね。今は自然体の部分でヴァイブスが合っているけど、『WiND』のときはまた違うラインで合っていたから。aint lindyの場合は、ライブの演出とかも含めて、より自分を濃く表現していくんじゃないかなと思います。Billyrromとは違う変化の仕方をしていくだろうし、そこを大事にしていきたいなと思います。

―ちなみに「他のバンドメンバーは、実はソロ活動を反対している」というケースも過去に見てきたからあえて聞きますけど、Billyrromのメンバーは、Rinさんのソロに対して何か言ってますか?

aint lindy:そうなんですね? 「You Mermaid I」のコーラスは、メンバー全員歌ってますよ。みんな楽しそうでした(笑)。

なぜBillyrromのギタリスト・Rinはソロプロジェクト「aint lindy」を動かすのか?


Photographer: Ayako Kichikawa
Styling: Hiroyo Aoki
Hair&Make-up: Takayuki Hazama
Writer&Editor: Yukako Yajima

<INFORMATION>

なぜBillyrromのギタリスト・Rinはソロプロジェクト「aint lindy」を動かすのか?

『KID IN ME』
2025年7月16日リリース
https://aintlindy.lnk.to/KIDINME

1.KID IN ME (Intro)
2.You Mermaid I
3.Funny
4.Asobase
5.HERO
6.Dummy
7.Time Blues
8.Interview
9.Clover

『aint lindy 1st One-Man Live ”KID IN ME”』
2025年11月27日(木)
会場:渋谷WWW
OPEN 18:30 / START 19:00
ALL STANDING(一般) ¥4,000
ALL STANDING(学割) ¥3,000
※ドリンク代別

チケット:https://eplus.jp/aintlindy/
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