躍動するグルーヴと愛くるしいメロディ、ずば抜けたミュージシャンシップと茶目っ気溢れるショーマンシップ、そしてオフビートなユーモアで世界中の音楽ファンを笑顔にしてきたヴルフペックが待望の初来日を果たした。2025年に彼らが行うライブは3本のみ。その貴重な1本に選ばれたのがフジロックだ。二日目のGREEN STAGEでトリを務め、苗場をハッピーバイブスで満たし、みんなを笑顔にしていた。
ヴルフペックはライブバンドの最高峰だと言っても過言ではない。生歌と生演奏、つまりライブの楽しさをこれほど体現しているバンドが他にいるだろうか。彼らの音楽に触れるたびに、しみじみ「音楽って良いよね。本当に良いよね」と思う。そして私たちはようやくそれをここ日本で直接体験できる機会を得た。ヴルフペックが発する音楽の楽しさを全身で受け止められるのだ。
彼らを待ち受ける苗場のオーディエンスも『Live at Madison Square Garden』『Live at Bonnaroo』『Live in France』といったライブ動画で予習はバッチリの様子だった。ヴルフペックは濃厚なファンダムによって支えられるバンドだ。
山下達郎の熱気が残るGREEN STAGEにメンバーが入場する。トレードマークの赤いサッカーシャツの上に「抹茶ヴァイブス」「最安無双」と書かれた法被を着て登場したのは、リーダーのジャック・ストラットン(Dr, Key, Gt)。ヴルフペックのヘッドコーチ的存在だ。彼とともに、”美声で仕留めるジェイソン・ステイサム”ことマルチプレイヤーのセオ・カッツマン(Vo, Dr, Gt, Key)、変わり者の大学教授風の出で立ちの鍵盤奏者、ウッディ・ゴス(Key)、バンドのエースプレイヤーで現代屈指のベースヒーローのジョー・ダート(Ba)が登場。この4人がオリジナルのメンバーだ。「ひょっとして初期メンの4人だけで来るのかな」という声も一部で上がっていたものの、サックスも吹ける笑顔のSSW、ジョーイ・ドーシック(Vo, Sax, Key)、日本でも大人気のカッティング・ギター・ヒーロー、コリー・ウォン(Gt)が登場したのを見てぶち上がったファンは多かったに違いない。


ステイサム似のお兄さんがドラムを叩きながらハイトーンで歌うキッズ・ソウル調のキュートなポップソング「Animal Spirits」でフジのオーディエンスにご挨拶。イントロでやや込み入った手拍子を求めるライブ仕様だ。
「Cory Wong」「Daddy, He Got a Tesla」と熱いインスト・ファンクが続く。それぞれメンバーの見せどころが用意されているから、盛り上がらないわけがない。後者ではジョーイとセオが顔を近づけてニヤニヤしながらタイトルをリピートする場面があった。ステージ上でもメンバー同士の仲が良さそうなのがヴルフペックの魅力。顔を合わせる機会が少ないから、ステージが再会の喜びを分かち合う場になっているそうだ。
名演名唱に寸劇、特別ゲストも登場
その後、ポール・マッカートニー調のポップソング「Lonely Town」、最新作のリードトラックでタイトル通りテンダーな味わいの「Tender Defender」とセオのボーカル曲が続く。しっとりとしたゾーンを経て、ヴルフペック随一のエンターテイナー、アントワン・スタンリーがフロントに飛び出し、彼らの知名度を上げた「1612」を披露する。汗を流し、客席後方の山まで届きそうな力強い歌声を放つアントワンに感動。
クール&ザ・ギャング「Hollywood Swinging」、シック「Good Times」、クイーン「Another One Bites The Dust」など、頭3拍でベースの4弦開放のEを鳴らすベースリフをモチーフにした「3 on E」。イントロでのアントワンとジョーの寸劇がかわいかった。
続いてアントワンがボーカルを務める初期の名曲「Wait For The Moment」でクールダウン。
ここで特別ゲストが登場。前日の夜にFIELD OF HEAVENに出演していた英SSW/ギタリストのマヤ・デライラだ。マヤは、ジャックのソロ・プロジェクト、ヴルフモン(Vulfmon)の「Tokyo Night」をジェイコブ・ジェフリーズとデュエットし、コリーのギターを借りてソロを披露。ここでマヤとともにフィーチャーされたジェイコブは、最新作『Clarity of Cal』のキーマン的存在のSSWだ。そのまま『Clarity of Cal』の歌ものコーナーに突入。セオ、アントワン、ジョーイ、ジェイコブによるコーラスがあまりにも華やかな「Big Dipper」、踊れるポップソング「Matter of Time」と「In Real Life」を立て続けに演奏。
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ジョーイの持ち曲「Running Away」で、彼は「歌って!」と日本語で煽り、オーディエンスは気合の入った合唱で反応する。ジョーイは両手で二の腕を擦り、「ウウ、たまんないね」と呟いて笑みをこぼしていた。
次に演奏されたのは、ジョーイが歌うマイケル・マクドナルド在籍時のドゥービー・ブラザーズ風ヴァースと、ジェイコブが歌うイマジン・ドラゴンズ風コーラスの対比がおもしろい「This Is Not the Song I Wrote」。両手を左右に揺らすというコンサートのクリシェを皆で楽しく演じた。
ベースラインで大合唱、最後にサプライズも
ライブの最終パートに突入。代表曲「Christmas in L.A.」が「Christmas in Fuji」の特別バージョンで演奏された。ドラムを叩きながら歌ったり、ドラムソロを演奏したり、ステージ前方にやってきて、客に3声コーラスやハイノートを求めたりと、セオが大忙しの曲だ。苗場の山にこだまする3声コーラスを聴きながら、なんて美しい瞬間なんだとしみじみした。間違いなくこの日のハイライト。
続く「New Beastly」では、ジョーのベースソロとウッディのカウベル焦らし芸が炸裂していた。ジョーがゾーンに入ったかのような研ぎ澄まされたソロを披露する横で、ウッディがたまにカウベルを叩くというパフォーマンスで大盛りあがり。ウッディがやりきったような顔で喝采を一身に浴びていたのがおかしかった。そして本編ラストは、代表曲のひとつでキッズ・ソウル調の甘酸っぱい「Back Pocket」だった。

アンコール一発目は「Dean Town」に違いないと確信していたファンたちが、ベースラインをチャントし始める。
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再度メンバーが捌けたのち、「Welcome to Vulf Records」をバックにステージの中央に皆で集まり、一人ひとりお辞儀をして、皆でジャンプしてアンコールを締めくくった。その後、まさかのダブルアンコールがあり「Funky Duck」を演奏した。嬉しいサプライズだ。あれだけのパフォーマンスをしたのだから、本人たちとしても、すんなりと終われるはずもなかろう。
下半身がモゾモゾするようなグルーヴ、心がウキウキワクワクするメロディや演奏、メンバーたちが心から音楽を楽しんでいる様子に全身で触れて心と体がポカポカになった。あのハッピーバイブスをもう一度味わいたい。絶対にまた日本でライブをしてほしい。
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Photo: Taio Konishi pic.twitter.com/heXM2nrwSv— FUJI ROCK FESTIVAL (@fujirock_jp) July 26, 2025
鳥居真道(とりい まさみち)
1987年生まれ。
FUJI ROCK FESTIVAL '25
公式サイト:https://fujirockfestival.com