「FUJI ROCK FESTIVAL25」が7月25日(金)、26日(土)、7日(日)の3日間、新潟県湯沢町・苗場スキー場で開催された。土曜1日券と3日通し券は完売し、前夜祭を含む4日間でのべ122,000人が来場。
コロナ禍以降では最多の動員数を記録した。日本/アジアをテーマにした新設ステージ「ORANGE ECHO」も注目を集めた。

2月に第1弾ラインナップが発表された時点から「近年最高」との声が絶えなかった今年のフジロック。ふたを開けてみれば、その評判に違わぬ盛況ぶりで、特に2日目・土曜は文字どおり人であふれ返っていた。なかでも山下達郎が登場した時間帯は、開催28回の歴史でもトップレベルの活況だったに違いない。あそこまで観客で埋め尽くされたGREEN STAGEは、個人的にも初めて目にした。

2025年の勢いを象徴するのは、初来日となるフレッド・アゲインとヴルフペックだろう。観客とのコミュニケーションを切望し、日本語と英語を併記したVJでメッセージを発しながら一体感を生み出した前者。心躍るパフォーマンスと熱心なファンダムが相乗効果をもたらし、アンコールでは曲が始まる前からベースラインの大合唱が巻き起こった後者。そして最終日を締めくくったのは、5度目の出演ですでに相思相愛の関係を築いているヴァンパイア・ウィークエンド。終わってみればヘッドライナーの布陣も完璧だった。

さらに、山下達郎&竹内まりや、ヴルフペック&マヤ・デライラ、フェイ・ウェブスター&mei ehara、サンボマスター&甲本ヒロト/真島昌利といった夢の共演も実現。
朝イチから深夜まで、会場の至るところでドラマが生まれた。春ねむりのライブで反差別・反レイシズムを訴えるフラッグがはためき、DYGLの秋山信樹が「あらゆる差別、区別、構造的差別、植民地主義に反対します。でも差別は普通の人もしちゃうから、俺も気をつけるし、みんなも気をつけよう」と語りかけていたのも、「音楽と政治」に向き合い続けてきたフジロックらしいハイライトだ。

「らしさ」を保ちつつ理想的なアップデートを遂げ、完全復活を超える成功を収めた今年のフジロック。GREEN STAGE、WHITE STAGE、RED MARQUEEを中心に、Rolling Stone Japan恒例の総括レポートをお届けする。(小熊俊哉)

※以下、当日の出演時間順に掲載

◎1日目・7月25日(金)

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kurayamisaka
11:30-12:10  RED MARQUEE

昨年のROOKIE A GO-GO出演者の中から投票で翌年のメインステージ出演者を決める企画で見事選出されたkurayamisaka。2022年発表の初作『kimi wo omotte iru』の曲順と同様に、イントロダクション的な「theme(kimi wo omotte iru)」に続いて2曲目で早くも名曲「cinema paradiso」を演奏して、ピークタイムを作り出した。以前ライブを見たときは、飛び跳ね、暴れ回るフロントの男性3人のインパクトが大きかったが、今回印象的だったのはボーカル・内藤さちの存在感。3日目に出演する羊文学やkanekoayanoの影響もあってか、近年ライブハウスには女性ボーカルのオルタナティブなバンドがかなり増えているが、kurayamisakaはその次を担うバンドであることを改めて印象付けていた。ラストは「jitensha」のアウトロで轟音をかき鳴らし、最新曲の「sekisei inko」で痛快な締め括り。やはり彼らは新たなオルタナシーンの顔役なのだ。(金子厚武)

FUJI ROCK FESTIVAL'25
最高にたのしかったー!

早い時間からたくさんの人が観に来てくれてうれしかったよ
みんなといつか苗場でまた会えるといいな#fujirock #フジロック

@tatsuhito_tkg pic.twitter.com/fj6zL6WyXR— kurayamisaka (@kurayami_saka) July 25, 2025

TOMOO
12:40-13:30  RED MARQUEE

バックバンドの柔らかなジャムセッションに導かれて登場したTOMOO、その表情には微温の期待が滲んでいた。
「Super Ball」に「オセロ」と芯のあるポップチューンで苗場の観客のバイブスを揺さぶると、スタンドマイクで歌い上げる「Grapefruit Moon」で精緻なソングライティングの旨みを強調する。人生初フジロックとなったTOMOOだが、早々にRED MARQUEEを制圧し、ソウルフルなJ-POPの極致とも言えるステージだった。彼女は豪華絢爛なディーヴァではないかもしれないが、街角で人間愛を切々と唱えるプリーチャーではあるのかもしれない。ラストの「Present」を軽やかに楽しんだあと、少し身体が軽くなった気がした。(風間一慶)

昨日は初めてのフジロック
@ RED MARQUEE

ありがとうございました!!

幸せでした!

〈MEMBER〉
Gt. 大月文太 @bunta_o_jp
Dr. 菅野知明
Ba. 勝矢匠 @KatsuyaTakumi
Key. 幡宮航太 @KotaHatamiya pic.twitter.com/ZZZQHdGSJW— TOMOO (@Tomoo_628) July 26, 2025

KIRINJI
13:20-14:20  FIELD OF HEAVEN

KIRINJI・堀込高樹がついにフジロック初出演を果たした。隣のORANGE ECHOでは、Summer Eyeこと夏目知幸が「次はKIRINJI! お兄ちゃんラジオで曲かけてくれてありがとう!」と去り際に紹介。そこからFIELD OF HEAVENへ移動すると、まだ昼過ぎなのにヘッドライナーかと見紛うほどの観客が集まっていた。小田朋美、シンリズム、千ヶ崎学、伊吹文裕、宮川純という近年の鉄板メンバーを従え(途中からMELRAWを含むホーン隊も参加)、「Runnner's High」で幕を開けると、高揚感のあるサウンドによって身体中の血が駆け巡っていく。さらに「非ゼロ和ゲーム」「時間がない」「killer tune kills me」など現在のKIRINJIを象徴する人気曲を続けたあと、白眉だったのは「Drifter」。鬱が夜更けに目覚めるキリンジ時代の名曲を、緑と青空が広がるロケーションで聴き入る日が来るとは! 堀込の力強い歌声もあって目頭が熱くなる。終盤はファンキーな「Pizza VS Hamburger」からの「イカロスの末裔」で喝采が上がり、晴れ渡る空の下で「Rainy Runaway」を響かせ大団円を迎えた。(小熊俊哉)

\Thank you!!! /

2025.07.25
FUJI ROCK FESTIVAL 25
at FIELD OF HEAVEN#フジロック

-- SETLIST --
Runner's High
非ゼロ和ゲーム
時間がない
killer tune kills me
だれかさんとだれかさんが
Drifter
「あの娘は誰?」とか言わせたい
Pizza VS Hamburger
イカロスの末裔
Rainy Runway… pic.twitter.com/s02KAhWOYZ— KIRINJI (@KIRINJIOFFICIAL) July 25, 2025

HYUKOH & SUNSET ROLLERCOASTER|AAA
17:00-18:00  GREEN STAGE

東京での偶然の出会いをきっかけにスタートした韓国と台湾のインディシーンを代表する2組のコラボレーションが、アジアを代表するロックフェスのメインステージを飾るという、そのストーリーだけでもグッとくるのだが、ライブは想像以上に素晴らしかった。
2組のメンバーが入り混じり、その真ん中でHYUKOHのOHHYUKとSunset RollercoasterのKuoが向き合うという立ち位置も面白いし、熱量高いブロウを聴かせるサックス奏者をはじめ、それぞれのキャラ立ちもいい感じ。サイケデリックなジャムもあれば、「Young Man」のようなポップナンバーもあるし、パンクもレゲエもR&Bも飲み込んで技量の高さとアレンジのセンスを示しつつ、あくまで「音楽好きのインディキッズ」なのが素敵すぎる。ラストがそれぞれの代表曲「TOMBOY」からの「My Jinji」だったのも素晴らしい。いずれはここに日本人が絡む未来も見てみたい。(金子厚武)

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Vaundy
19:00-20:10  GREEN STAGE

GREEN STAGEを埋め尽くす多くのオーディエンス。2026年には男性ソロアーティストとして史上最年少の4大ドームツアーを敢行するVaundyの2年ぶりのフジロック。まずは「不可幸力」を歌いながらハンドマイクでステージの端から端まで歩きながら伸びやかな美声を聞かせた。不敵なトーンで「踊れるかい?」と問いかけてからの「踊り子」。「トリに(力を)残してない?(笑)。Vaundyを品定めしている人たちがあの辺にいる。俺の見たらもう誰も見れないぞ。再会しよう!」からの「再会」。
貫禄すら感じるMCを挟みながら圧巻のライブを展開。ラストは「また会おうぜ‼」と叫んで「怪獣の花唄」へ。アリーナクラスでのワンマンと同じく派手な演出はないが、それでも数万人のオーディエンスを圧倒する楽曲、歌、演奏のクオリティとパワーを見せつけ、巨大なハンドクラップとシンガロングを何度も巻き起こした。(小松香里)

ありがとうフジロック

虫をいっぱい食べました

大自然#fujirock pic.twitter.com/MsRVvqiv1U— Vaundy (@vaundy_engawa) July 25, 2025

TYCHO
20:10-21:10  RED MARQUEE

2019年以来、6年ぶりにTYCHOことスコット・ハンセンがフジロックに帰還。前回はWHITE STAGEの出演で、サイケデリックな音風景を立ち上げるような雰囲気が野外とマッチしていたが、2024年の『Infinite Health』で電子音と生楽器を混ぜるスタイルに回帰し、ダンサブルな色合いを強めた現在のTYCHOにはクラブ的なRED MARQUEEがよく似合う。新作を象徴する一曲である「Phantom」からスタートしたステージは、スコットの弾くシンセを軸としつつ、エレキベースでバンド感強めの曲ではシューゲイザーやポストロック、シンセベースで打ち込み色強めの曲ではドリームポップやエレクトロニカと、曲ごとにジャンルを横断しながらも一貫した審美眼があるのが素晴らしい。雄大な景色を立ち上げる代表曲の「Awake」から、ツインギターと変拍子の爆裂ドラムで聴かせるポストハードコアな「Division」でラストを締め括ったのも痺れた。(金子厚武)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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FRED AGAIN..
21:10-22:40  GREEN STAGE

「今、東京から巨大な発電機が運ばれているんだ! もう1時間は遅れるよ!」とのアナウンスがフレッド・アゲインのInstagramで発表された時の、あのゾクゾクした気分は忘れられない。最終的な開演時刻は23時前、しかしGREEN STAGEの人波が止まることはない。思えば彼はいつだって、リスナーと真にピュアな会話を試みてきた。サンプラーでもシンセサイザーでも巨大な発電機でも、ツールはなんでもいい。苗場で彼とオーディエンスが深くコネクトするためには、こういうスペシャルが必要だったのだ。


バックステージからカメラを持ち、満面の笑みで登場したフレッド。ピアノをバッグにしたアンビエントから幕を開ける「Kyle(i found you)」で静かに夜を始める。VJで映し出された日本語のメッセージは真摯に響き、各々の『actual life』が、外皮を削がれた状態で時に寄り添い、時に激しく交差する。自らドラムセットに座った「Victory Lap」でボルテージを引き上げると、ステージを降りて中央のPAエリアに直立しているパッドをフレッドが操り、「Jungle」や「Rumble」といったクラブバンガーが矢継ぎ早に投下される。Joy (Anonymous)を迎えた「peace u need」で感傷的になったあと、リンダ・フィロメーヌ・ツオンギによる「leavemealone」の人力ドラムンベースで聴衆をジャックし、0時を回ってもなおハートフルなダンスタイムは続いた。最後はサプライズで来日公演をアナウンスした彼、何回私たちを喜ばせれば気が済むのだろうか。(風間一慶)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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Suchmos
22:00-23:30  WHITE STAGE

今年6月に横浜アリーナで復活ライブを開催したSuchmosがフジロックに帰ってきた。今のSuchmosは肩の力を抜いて、気の置けない友人たちと音で遊ぶことを心から楽しんでいるような雰囲気が抜群にいい。ここに至るまでには活動休止の時期があり、悲しい別れも経験しているが、新曲の「Whole of Flower」で〈Sadness is not gone in my head but 道は照らされている〉と歌っているように、彼らはその先にある現在を祝福しようとしていて、サポートベースの山本連が最後のピースとして参加しているのもとても重要だ。

そんな今のSuchmosの解放感を象徴するのがやはりフロントマンのYONCE。映像に映るとすぐに中指を立て、「STAY TUNE」をやった後に「カバーでした」と自嘲したかと思えば、ステージ上でタバコをふかしたりと、とにかくやりたい放題。そのテンションは楽曲にも表れていて、アシッドジャズやネオソウル由来のグルーヴィな曲の一方で、「お前生きているか!」と叫ぶ新曲や、ガレージロックのようなアレンジの「A.G.I.T.」あたりが現在のモードを示していたように思う。
2014年のROOKIE A GO-GO出演の思い出を語り、「Life Easy」の途中で「フジロックは音楽との距離を確認できる場所」と話し、「楽しい!」の絶叫で本編を終えると、アンコールでもアッパーチューンの「GAGA」を披露。最後に7年前の「ありがとう、木々たちよ」を受けて、YONCEが「ゆくゆくは木々に感謝される人間になりたいと思います」と話したのも最高でした。(金子厚武)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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◎2日目・7月26日(土)

jo0ji
11:30-12:10  RED MARQUEE

フジロック初出演のjo0jiはバイオリンやパーカッションも入れた編成で、さらにVJにクリエイティブユニット・Margtを迎えて登場。忌野清志郎をフェイバリットに挙げるjo0jiは、清志郎が常連として出演していたこのフェスのステージに、自分も立つことへ並々ならぬ想いを抱いていた。トヨタのTVCMに起用されている「条司」でも、清志郎から受け継いだ節回しを効かせる。独りで曲を書いているときは身近な人に対する想像を膨らましていると言うが、RED MARQUEEで歌えば、その歌はここに集まったすべての生活者を包み込むほどの巨大な懐が生まれる。日々の緊張感も、諦観も、絶望も表すその歌が、激しい分断を感じさせる2025年に響き渡ることの意味を噛み締める中、最後に演奏されたのは「onajimi」。jo0jiは、人間を信じることを諦めない。(矢島由佳子)

FUJI ROCK FESTIVAL'25

RED MARQUEE

どりかむってやつ
みんなのおかげだ
ほんとありがとね

photo by TAKAY pic.twitter.com/bmRo1DAp0L— jo0ji (@jo0ji3) July 27, 2025

離婚伝説
12:40-13:30  RED MARQUEE

初の楽曲「愛が一層メロウ」がバズって以降、名曲を連発し、自身初のTVドラマ主題歌となる「紫陽花」がロングヒット中の離婚伝説がフジロックに初登場。レトロな衣装に身を包んだ松田歩(Vo)と別府純(Gt)。大きめのサングラスに真っ赤なシャツ姿、往年のスターのような風格の松田の甘美な歌声が響いた。「あらわれないで」だ。ノスタルジックでロマンチックな離婚伝説の世界にRED MARQUEEのオーディエンスを一気に引き込む。「愛が一層メロウ」ではフロアで一斉に手が上がり、多幸感あふれるシンガロングでいっぱいに。松田は「みんな最高だった」と嬉しそうだ。超絶ギターソロで何度も陶酔を巻き起こした別府。最後は「メルヘンを捨てないで」でブラック・サバスの「Iron Man」のギターリフを入れ込んでオジー・オズボーンを追悼し、初のフジロックを締め括った。(小松香里)

2025.07.26(Sat)
FUJI ROCK FESTIVAL25

RED MARQUEE STAGE

初フジロック
会場・配信ともに
離婚伝説に出会ってくれて
ありがとうございました#離婚伝説 #愛が一層メロウ#フジロック #fujirock #fujirockfestrval

FUJI ROCK FESTIVAL25
RED MARQUEE STAGE

Our first time at Fuji Rock… pic.twitter.com/OJQx5JUQe7— 離婚伝説 (@rkndnsts) July 26, 2025

君島大空 合奏形態
13:00-14:00  GREEN STAGE

出演前日のInstagramのストーリーに、君島は「この身を焚きます」と記した。2019年のROOKIE A GO-GOから6年、あの4人が変わらないままの健気な才気を迸らせながら、GREEN STAGEに辿り着いた。森と共鳴するようなフォークトロニカ「除」から幕を開けると、「火傷に雨」に「笑止」と馴染みのナンバーで容赦なく畳み掛ける。君島と西田がニヤリと笑いながら互いのフレーズをおかしみ合い、中央の新井と石若が曲ごとに巧みなアンサンブルを用意する。いつもの合奏形態が、広大なスケールのまま山の中腹に突き刺さっていく。歌とクラシックギターのみで聞かせた「向こう髪」では涼やかな風が吹き抜ける。クライマックスの「遠視のコントラルト」と「都合」ではバンドマジックとしか形容のできない轟音を叩きつけ、盛大に締め括った。(風間一慶)

FUJI ROCK FESTIVAL '25
GREEN STAGE
君島大空 合奏形態

ルーキーからここへ来ました
また必ず会いましょう ありがとう
次は年末!!!!!

@tarumikana #FRF2025 #fujirockfestival2025 pic.twitter.com/e8buQvt7Hb— 君島大空 (@ohzr_kshm) July 26, 2025

YHWH NAILGUN
14:00-15:00  RED MARQUEE

パンデミック以降のNYに突如として現れた異形のエクスペリメンタル・ロック集団、ヤハウェ・ネイルガン。そのグルーヴは謎に謎を重ねた、あらゆる意味付けや価値判断との癒着を拒否する最先端のものであった。輪郭を欠いたギターと浮遊感のあるシンセサイザーがアブストラクトに空間を演出し、ハリのあるドラムとボーカルが天衣無縫に駆けていく。宙に浮いたアンサンブルを引き締めるように鉛のようなスネアとタムが投下される。観客の反応はただ二つ、あまりのショックに立ち尽くすか痙攣したように踊るのみだ。大いに話題を呼んだ最新作『45 Ponds』の単なる再現に留まるわけもなく、聴いたことのないサウンドがひたすらに前方から降り注いでくる。浮かぶのは「強烈」の二文字のみだ。(風間一慶)

FAYE WEBSTER
15:50-16:50  WHITE STAGE

Balming Tigerの終演するタイミングより降り始めた雨が幾分か和らぎ、ミニオンズのアニメーションが流れ始める。微笑を湛えた制服ルックのフェイ・コネル・ウェブスターが登場すると、ランドリーを模したVJと共に始まったのは「But Not Kiss」だ。バンド全体で巧みにボリュームのコントロールを行いながら、絶妙な火加減でショーを構築する手法には熟達の感すらある。「Right Side of My Neck」や「A Dream With A Baseball Player」のような、悲哀とシュールの混じったラブソングを切に届けるフェイのボーカルは唯一無二だ。降りしきる雨でクールダウンする身体に、まろやかでウォーミングなカントリー・サウンドが沁みる午後。共に北米ツアーを回った盟友・mei eharaのジョイントも実現するなど、ロケーションも相まって、メモラブルな初来日公演となった。(風間一慶)

JAMES BLAKE
17:00-18:00  GREEN STAGE

少し前に降り出した雨が苗場の熱気をクールダウンさせる中、GREEN STAGEでジェイムス・ブレイクのライブがスタート。「Fall Back」や「Loading」など、エレクトロニックミュージックへの原点回帰を示した『Playing Robots Into Heaven』以降のモードを踏まえつつ、それでもメランコリックなムードが通底しているのが彼のライブらしいところ。途中「Say What You Will」でオーディエンスの合唱を促すも、上手くいかずに苦笑いをする場面もあったが、ちょうどその頃に雨が止んで、日没寸前の太陽がちょっとだけ顔を出したのは印象的なシーンだった。イントロから歓声の起きた「Limit to Your Love」のような定番曲の一方、未発表の新曲「Trying Times」はギターのアルペジオを軸としたシンガーソングライター的な一曲。彼の関心が再び「歌」へと移りつつあることが感じられたという意味でも、貴重なステージだったように思う。(金子厚武)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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山下達郎
19:00-20:10  GREEN STAGE

突然の大雨もすっかり止んで、いよいよフジロックのステージに山下達郎が登場。新曲「MOVE ON」のセッションから始まり、実質的な1曲目である「SPARKLE」のイントロが鳴った瞬間の高揚感を、僕は今後も忘れることがないだろう。フジロックには20年以上通っているが、日本人アーティストの楽曲のイントロで、国籍・人種・世代を超えた全てのオーディエンスが一斉に狂喜する瞬間というのは、間違いなく初めての経験だった。そう、このステージはシティポップの世界的なブームを祝福するビッグパーティーなのだ。今年がデビュー50周年であることを話し、「50年やってるとどの曲をやるか迷いますが、懐かしい、オールドスクールなファンクミュージックを」と言って披露された「SILENT SCREAMER」や「BOMBER」はこの後にヘッドライナーとしてVulfpeckが出演することの必然性を示し、「プラスティック・ラブ」の2番から竹内まりやがサプライズで登場した瞬間の大歓声は今年一の大きさだったはずで、そのまま竹内がコーラスで参加しての「RIDE ON TIME」も格別。「また呼んでいただけたらやりたいと思います」と話し、最後が〈いつまでも忘れないよ 雨に濡れながら〉と歌う「さよなら夏の日」だったのも、完璧なエンディングだ。フジロック史の中で長く語り継がれるであろう、メモリアルな名演。(金子厚武)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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FOUR TET
22:00-23:30  WHITE STAGE

かつては繊細なエレクトロニカのイメージだったフォー・テットだが、気づけば初日のヘッドライナーを務めたフレッド・アゲインやスクリレックスとも共演するビッグなDJアクトとなり、堂々2日目のWHITE STAGEのトリを務めてみせた。実際この日のセットリストはフェスらしいテンション高めのものだったが、それでもドリーミーかつメランコリックな上ものや、オリエンタルな印象の声ネタ、サイケデリックなロングブレイクの多用など、やはりエレクトロニカの出身であることを随所に感じさせるのが好み。VJは用いずに、デザインされた照明のみの演出はストイックかつ知性を感じさせるもので、後半になるとポストではないダブステップも織り交ぜつつ、最後をレゲエ/ダブで締め括ったのも面白い。新進気鋭のダンスアクトの活躍も光った今年のフジの中にあって、ブレないスタンスで長いキャリアを築き上げてきたキエラン・ヘブデンの底力を感じる90分だった。(金子厚武)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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◎3日目・7月27日(日)

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DYGL
10:20-11:00  RED MARQUEE

紆余曲折のキャリアを積み重ねながら、「全編英詩のギターロックバンド」として前進を続けてきたDYGL。2012年結成の4人組は、ここに来て黄金期を迎えている。木曜のフジロック前夜祭にも登場し、ブラック・サバス「Paranoid」のカバー(R.I.P. オジー・オズボーン)も話題となった彼ら。3日目のRED MARQUEEトップバッターを務めたこの日は、鋭いギターリフとポストパンク的グルーヴが疾走感を生み出す「Big Dream」「Just Another Day」を皮切りにフルスロットルで駆け抜ける。その後も、8月13日発売のニューアルバム『Whos in the House?』から次々と披露。バンドが放つエネルギーは”鬼気迫る”という表現がふさわしく、未発表曲で大入りのフロアを沸かせるなど圧巻の40分だった。そして、秋山信樹の誠実なMC。行き帰りの越後湯沢駅で今秋開催される全国ツアーのポスターを見かけた方も多いはず。彼らの現在地をぜひ生で体感してほしい。(小熊俊哉)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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MEI SEMONES
12:40-13:30  RED MARQUEE

メイ・シモネスにとって史上最大規模でのショーとなった今回のフジロックは、日本では初披露となるバンドセットでの出演となった。リズムセクションの躍動感に2本のストリングスが色彩を加え、メイの呼吸に同期する。『Kabutomushi』収録のナンバーから、アウトロのオルタナ風味のセッションで圧倒する「Kemono」を経由し、最新作『Animaru』の楽曲を丁寧に聴かせる構成だ。虎模様のギターの指板を軽やかに滑る指、日本語と英語を自由に行き来しながら届けられる正直な言葉。音源よりもわずかにアップテンポな演奏は、彼女のほのかに高ぶる心情を反映しているかのようだった。ボサノヴァにインスパイアされた涼やかな「Dumb Feeling」や「Zarigani」にマスロックらしいキメを操る「I can do what I want」や「Animaru」まで、イマジネーションが際限なく広がり展開されていく。ラストまでクリーントーンのみで弾ききったメイ・シモネス、一切の虚飾がない50分間だった。(風間一慶)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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SILICA GEL
14:20-15:20  WHITE STAGE

韓国における新世代ロックバンドとしての地位を確立し、本国でも屈指の動員を誇るSilica Gel。真昼のWHITE STAGEは4人の熱演を間近で見届けようと多種多様なオーディエンスが集結した。彼らに応えるようにアンセム「No Pain」から派手に始めると、そこからマキシマムなインディーロックの現在形としてバンドのアイデンティティを決定づけた『Power Andre 99』のヘヴィな楽曲が次々に投げ込まれる。ハード・ロックからネオサイケ、さらにドリーム・ポップと味付けを変えながらも、ラウドでありながら緻密に計算されたバンドの核が揺らぐことはない。キム・ハンジュのステージングは以前にも増して軽やかになり、キム・チュンチュのギターは有無を言わさぬポップなフレーズを噴射する、まさに盤石の1時間。ジャパニーズ・ブレックファストを招いたことでも話題の新曲「NamgungFEFERE」に代表曲「Tik Tak Tok」も繰り出し、惜しげもなく出し切った。HYUKOH & SUNSET ROLLERCOASTERやBalming Tigerらと共に、アジアン・インディーの隆盛を声高に誇る圧巻のショーと言えるだろう。

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LITTLE SIMZ
17:00-18:00  GREEN STAGE

今のUKラップシーンの代表格、リトル・シムズ。初のフジロック、しかもGREEN STAGEでのライブはバンドセットだ。ドラムはブラック・ミディのモーガン・シンプソン。最新アルバム「Lotus」の冒頭を飾る「Thief」からライブをスタートさせるが、UKならではの歯切れの良いラップが痛快すぎる。初っ端からシンガロングを促し、低音のアフロビートと共にオーディエンスの歌が苗場の空に突き抜けていった。モッシュピットを誘発したり、「ありがとう。あなたたちが私の音楽を聞いてくれたことで人生が変わった」と感謝を伝えたり、笑顔でハートポーズを送ったり、終始フレンドリーなコミュニケーションを展開し、オーディエンスを巻き込んでいく。「Selfish」のイントロではすぐさまハンドクラップが起こり、雄大なオーケストレーションから始まる「Gorilla」のアウトロでリトル・シムズは再会を誓った。(小松香里)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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kanekoayano
18:00-19:00  RED MARQUEE

バンド名義になってからは初めてのフジロック。前回2023年の出演はWHITE STAGEだったが、パーカッションを含む5人編成になって、サイケデリックな爆音を鳴らす現在のモードにはライブハウス的なRED MARQUEEがよく似合う。新作の中でも随一の名曲「石と蝶」から始まり、2曲目でいきなりライブアンセムの「アーケード」を投下する攻めのセットリストで、とにかく熱狂的かつ圧巻の60分だった。バンドになったことでプレッシャーは分散されたものの、その中心であるカネコにはある種の責任感も芽生え、ミュージシャンシップの高まりが感じられる。それがよく表れているのが「ギターボーカル」としての成長で、以前から評価の高い歌唱はもちろん、バッキングだけではないギタープレイの割合が増え、林宏敏との掛け合いも見どころに。ラストの「難しい」ではカネコがノイズギターをかき鳴らして、場内はトランスのような全能感に包まれた。(金子厚武)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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ROYEL OTIS
18:20-19:20  WHITE STAGE

サンセットタイムのWHITE STAGEに爽やかでツイステッドなインディーポップが響く。オーストラリア出身のロイエル・マデルとオーティス・パヴロヴィッチによるデュオ、ロイエル・オーティスだ。サポートで参加したドラムとキーボードの二人がモダンロック然としたダイナミックな低音を響かせる上を、二人が軽妙な足取りで極上のハーモニーを振り撒いていく。「moody」や「car」といった来たる最新アルバムからのナンバーに『Sofa Kings』からの黄金のナンバー、ソフィー・エリス・ベクスター「Murder on the Dancefloor」にクランベリーズ「Linger」のカバー、そしてクライマックスにヒットシングル「Oyster In My Pocket」とセットリストにも隙がない。自己言及的なセンテンスが映し出されるVJには思わず観客も笑い声を上げる。そしてコーラスのかかったクランキーなギターと切ないメロディ、もうこれ以上何を望めば良いのだろう?(風間一慶)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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RADWIMPS
19:00-20:10  GREEN STAGE

今年11月にメジャーデビュー20周年を迎えるRADWIMPSが愛するフジロックに再登場。NHK連続テレビ小説「あんぱん」の主題歌として日本の朝を彩っている「賜物」、「ます。」「DARMA GRAND PRIX」と快調に熱気を上げ、フロントマン・野田洋次郎が「この夏を思い出すような曲を聞いてください」と言ってからの「セプテンバーさん」。GREEN STAGEにスマホライトの洪水が広がった「スパークル」、壮絶なセッションが行われた「おしゃかしゃま」と、ビルドアップされたアンサンブルと共にメモラブルな景色が更新されていく。オーディエンスの「いいんですか?」の大合唱を見て野田が嬉しそうに「愛してるよ!」と叫び、「トレモロ」を愛するフジロックへのリスペクトを込めて演奏。最後は2021年のフジロックのために作った「SUMMER DAZE」で瑞々しくも厚みのある音像で魅せた。(小松香里)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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羊文学
20:10-21:10  WHITE STAGE

GREEN STAGEに立った2023年のフジロック以降、羊文学は怒涛の時間を過ごしている。同年リリースの「more than words」が大ヒットを記録し、2024年には横浜アリーナでワンマンを開催。ドラムのフクダヒロアの休養が発表されるも、バンドは歩みを止めることなく、国内外でのツアーを続けてきた。元CHAIのユナをサポートに迎えたこの日のステージは、そんな中で身につけたライブバンドとしての地力を発揮するもので、基本的には同期を使わずに、3人の音のみで広いWHITE STAGEの空間を支配するのは流石の一言。ただMCは少なめで、塩塚モエカがラストの「OOPARTS」の前に「最後まで楽しんでね。フジロック大好き」と話したものの、無邪気に音と戯れるかのような2023年のステージと比べると、少しだけシリアスさが増したかもしれない。そんなムードとシンクロするような「祈り」が個人的には一番グッときた。(金子厚武)

「FUJI ROCK FESTIVAL'25」
at 苗場スキー場

▽ Digest Moviehttps://t.co/neLog5zjd5

:元(@tya__han)#羊文学 #fujirock pic.twitter.com/lDbUiWfcWU— 羊文学 (@hitsujibungaku) July 29, 2025
HAIM
22:20-23:50  WHITE STAGE

ハイムのフジロック出演は実に12年ぶり。元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムが作品に参加していることを考えると、GREEN STAGEとの被りが多くのオーディエンスを悩ませたはずだが、もちろん場内はぎっしりと埋まり、3姉妹を大歓声で迎え入れた。6月に発表した新作のタイトルは『I quit』で、これは「過去を生きるのはもうやめて、今を自由に生きる」という姿勢を表したもの。そんなムードは1曲目の「The Wire」から顕著で、バンドでロックすることを改めて楽しんでいることが伝わってくる。中盤ではダニエルがドラムボーカルを務め、「Blood on the street」ではブルージーなギターソロを弾き、隣でエスティとアラナがヘドバンをしてるのも楽しい。「Sexy Sax Solo」をフィーチャーした「Summer Girl」から、合唱に包まれた「Down to be wrong」まで、何をやってもスタイリッシュでおしゃれなハイムのステージで今年のWHITE STAGEが終了。やっぱりフジロックはいつまで経ってもやめられません。(金子厚武)

【フジロック’25総括】完全復活を超える大成功、音楽の奇跡に満ちた3日間を振り返る

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FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
https://fujirockfestival.com
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