彼は、ザック・スターキーの後任としてバンドに加入したが、その過程は公の場でドタバタ劇のように展開され、デヴァーズ自身にとっても非常にやりづらい状況だった。「プロとしてのキャリアで最も誇れる瞬間が、誰かの喪失によって影を落とすというのは、何とも複雑な感情です」と、デヴァーズは5月にファンへ宛てたメッセージで語っている。「言葉にするのは難しいですが、確かにその感覚はあります」。
さらにこう続けた。「自分の世界では、ピートとロジャーの背後に立つ以上に重い役割はありません。この責任の重さをひしひしと感じています。ファンの皆さんに伝えたいのは、ザ・フー、ザック、ケニー・ジョーンズ、サイモン・フィリップス、そして偉大なキース・ムーンの記憶に敬意を表しながら全力で演奏するということです」。
特に大きな責任を伴うのは、初代ドラマーであるキース・ムーンが作り上げたパートを演奏することだ。中でも「Wont Get Fooled Again」の後半にあるドラムソロは、ライブのハイライトとして知られている。以下に、ザ・フーの歴代主要ドラマー5人がこのソロをどう演奏してきたかを紹介する(正確にはこのパートはオルガン伴奏付きなので”純粋なドラムソロ”ではないが、それでも強烈な印象を与える)。なお、ロジャー・ダルトリーの咆哮についてのボーナスコメントも付けている。
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キース・ムーン(1978年5月25日/イングランド・サリー州シェパートン・スタジオ)
ムーンが亡くなる4カ月前、ザ・フーはジェフ・スタイン監督のドキュメンタリー映画『The Kids Are Alright』のために短いセットを撮影した。
この最終パフォーマンスだけで彼を評価するのは酷だが、それでも彼は渾身の力でソロを叩ききった。まさに”白鳥の歌”とも呼べる名演だ。
評価:B+
咆哮: ロジャー・ダルトリーが原始的な本能をむき出しにした、ほぼ完璧な叫び。
評価:A-
ケニー・ジョーンズ(1982年12月17日/カナダ・トロント、メープルリーフ・ガーデンズ)
ムーンの死後、ザ・フーはレッド・ツェッペリンのように解散する道もあったが、スモール・フェイセス/フェイセス出身のケニー・ジョーンズを迎え活動継続を選んだ。彼との編成で2枚のアルバム(1981年『Face Dances』、1982年『Its Hard』)を出した後、広範囲なフェアウェル・ツアーを行い、いったん解散した。
その最終公演がこの日で、全世界にペイパービューで放送された。「Wont Get Fooled Again」では、当時のザ・フーの映像が流れていてジョーンズの手元は映らないが、耳を澄ませば彼がムーンの原曲を忠実に再現しようとしているのがわかる。パワーや繊細さではやや劣るが、1971年のムーンと同等を求めるのは酷だ。
評価:B-
咆哮: やや迫力不足で、最後に少しよろける。
評価:B-
サイモン・フィリップス(1989年8月24日/アメリカ・ロサンゼルス、ユニバーサル・アンフィシアター)
ザ・フーはパワーポップ、アリーナロック、パンク、プログレといった多様なジャンルの原型を築いただけでなく、”解散ツアー後の再結成”という流れまで作ってしまった。1989年、「トミー」20周年を祝って再始動した彼らは、ケニー・ジョーンズを外し、ピートのソロでも活躍していたサイモン・フィリップスを加入させた。
このロサンゼルス公演では、スティーヴ・ウィンウッド、パティ・ラベル、ビリー・アイドル、フィル・コリンズ、エルトン・ジョンらが「トミー」の全曲演奏にゲスト出演。後半のセットで「Wont Get Fooled Again」を披露。フィリップスはテンポを上げて自分なりの装飾を加えており、オリジナルをなぞらず独自の解釈を見せている点は高評価。
評価:B
咆哮: 荒々しくて良いが、ホーンセクションが邪魔しているのが惜しい。4人編成だった時代の潔さが懐かしい。
評価:B-
ザック・スターキー(2001年10月20日/アメリカ・ニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデン)
1996年、「四重人格(Quadrophenia)」再現ツアーで再結成したザ・フーは、当時TOTOで多忙だったフィリップスの代わりに、リンゴ・スターの息子でありムーン直伝のザック・スターキーを起用した。ザックはザ・フーの音楽に精通しており、彼の加入でバンドは若返った。
2001年、9.11の救助隊員を讃えるチャリティイベントがMSGで行われ、デヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン、ミック・ジャガー&キース・リチャーズ、ポール・マッカートニーらも出演。その中でザ・フーは圧倒的な存在感を見せ、ザックのドラムソロは1970年代以降で最高の仕上がりだった。
評価:A-
咆哮: ダルトリーの喉がやや枯れており、さらに名フレーズ「Meet the new boss/Same as the old boss」を忘れた点は減点対象。
評価:B-
スコット・デヴァーズ(2025年7月20日/イタリア・ピアッツォラ・スル・ブレンタ、アンフィテアトロ・カメリーニ)
ビッグバンドが長年のドラマーと別れる際には、穏やかで尊厳ある方法もある。最近ではパール・ジャムやアイアン・メイデンが見事に実践したが、ザ・フーとザック・スターキーの別れ方は、それとは対極だった。まるで子どものバンドエイドを無理に剥がして、また貼り直してを繰り返すような混乱ぶりだった。何が起きたのか、詳細は明かされていない。
そんななか、ダルトリーのソロバンドで叩いていたデヴァーズが今回正式に加入。2013年の「Quadrophenia」ツアーでも一時的に代役を務めたことがある彼だが、本格的なお披露目はこの日が初。セトリには「The Song Is Over」が載っていたが、猛暑とダルトリーの脚の痙攣により、「Wont Get Fooled Again」で締めることになった。
大きなプレッシャーの中、デヴァーズはテンポを守りつつ力強いソロを披露。スターキーへの愛着は残るが、これは間違いなく見事な出来だった。
評価:B+
咆哮: 苦悶の表情を浮かべながらの叫びは、本当に辛そうにも見える。ダルトリーはこの曲を演奏するのが嫌いだと公言しており、特にこの咆哮が苦手だという。それでも本人が今なお歌い切っていることには敬意を表したい。
評価:B+
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