昨年2024年12月、アルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』をリリースしたクリープハイプ。今年に入ってから、彼らは、全23公演にわたる2つのツアーに繰り出した。
1つ目のツアーは、2月から始まった全国ツアー2025「君は一人だけど 俺も一人だよって」。そして、2つ目のツアーが、5月から幕を開けたアリーナツアー2025「真っ直ぐ行ったら愛に着く」 だ。こうしてアルバムのタイトルとツアーのタイトルを並べると、おのずと今のバンドのモード、さらに言えば、ファンに対する誠実で真っ直ぐな向き合い方や親密な距離感が浮かび上がってくるように思う。そして、実際にライブを観ると、その誠実さ、真っ直ぐさ、親密さが、ありありと伝わってくる。今回は、7月23日、日本武道館で行われたアリーナツアーのセミファイナル公演の模様をレポートしていく。

【画像】クリープハイプ、日本武道館公演(全10枚)

1曲目は、最新アルバムのラスト、および、1つ目のツアー「君は一人だけど 俺も一人だよって」のラストを飾った「天の声」。間奏のたびに、会場全体が明るく照らし出され、まるでクライマックスのような高揚が武道館を満たされていく。最後の歌詞〈こんなところに居たのかやっと見つけたよ〉を歌い上げた尾崎世界観(Vo・G)は、もう一度、深い確信と感慨に満ちたような優しい声色で「やっと見つけたよ」と告げた。そして、「武道館、いただきます」という一言を挟み、最新アルバム収録曲「生レバ」へ。猛烈な炎がステージを熱く彩り、4人は灼熱の空間の中でロックバンドとしての野性を容赦なく解放していく。曲の最後には、「ごちそうさまでした」と一言。そして、同じく最新アルバム収録曲「dmrks」では、とびっきりキャッチーなリフに合わせて、武道館が虹色のネオンライトで煌びやかに照らし出されていく。
冒頭から、アリーナツアーならではの、ダイナミックでゴージャスな演出の連続だ。「キケンナアソビ」では、尾崎が、原曲の〈もっと色々しようよ〉という部分を、「今日は武道館だからさすがにやめたほうがいいと思う」と替えて歌う一幕もあった。なお、詳しくは後述するが、これは後の展開の前振りであった。

クリープハイプ、日本武道館で示した一人ひとりの「お前」への誠実さ

尾崎世界観

「鬼」を披露した後、尾崎は、こう語った。「生きていると、毎日嫌なことが多い。こういう性格だから、自分から嫌なことを迎えに行ってしまう。でも、そういうポイントをためこんで、嫌な思いをしたぶん、どこかで大きな景品と引き換えられるんじゃないかと思って生きています。言えないくらいムカつくことを全部綺麗に保管して、とっておいて、今日ここに引き換えに来ました。必ず最高のライブをして、来てよかったと思わせます」。続けて尾崎は、「クリープハイプの曲が引っかかるってことは、」と前置きしつつ、「みなさんもいろんなことがあるでしょう」と問いかける。客席から「あります!」という大きな返答。尾崎は、その返答に対して「今日までとっておいたそれを、クリープハイプがとっておきのライブに引き換えます」と力強く宣誓。
そして、「陽」へと繋ぐ。〈今日はアタリ 今日はハズレ そんな毎日でも 明日も進んでいかなきゃいけないから〉という一節が、前のMCの言葉と相まっていつも以上に深く心に響く。続く、最新アルバム収録曲「もうおしまいだよさようなら」では、尾崎は、〈どんな悲しみもやるせなさも いつも気まぐれな〉の後の〈幸せも〉という歌詞を超ロングトーンで高らかに歌い上げてみせた。アタリ、ハズレ、悲しみ、幸せ、その繰り返しの毎日の先に、今日、この日のライブがあるということを、深い実感を通して再確認した人は多かったと思う。

クリープハイプ、日本武道館で示した一人ひとりの「お前」への誠実さ

長谷川カオナシ

「月の逆襲」「本当なんてぶっ飛ばしてよ」の後、長谷川カオナシ(B)によるMCパートへ。彼は、インターネットを通して友人になった「ミュータントタートルズ」好きの海外の人と、ライブの前日に会ったエピソードを語り始めた。それまでのやり取りを通してその人のことを既婚者だと認識していたが、通訳の同席者を介して会話をしていくうちに、どうやらその結婚相手は、「ミュータントタートルズ」のキャラクター、つまりイマジナリーな存在だった、ということが判明したという。長谷川は、もっと英語が堪能であれば、つっこんだり、冗談で返したりすることができたかもしれない、と悔しそうに告げ、ライブという場では、ベースという楽器を通して流暢にコミュニケーションしていきたい、と語った。次に披露された「ラブホテル」の曲中、尾崎は、長谷川に、「頭の中では何だってできるってことだろ? 自由だろ?」と問いかけ、長谷川は「そういうことです」と返答。尾崎は続けて観客に向けて、「だからさ、性別問わず、この瞬間は恋人ってことでいいだろ。頼むよ、盛り上げてくれ。彼氏が武道館のステージに立ってるっていう気持ちでいてくれ」と呼びかけた。
そして観客は、この日のピークを更新するような大歓声で、その想いに見事に応えてみせた。

その後も、この日のハイライトを飾るような展開が次々と続いていくが、その中でも極め付けは、「HE IS MINE」。尾崎は、6月にも2回武道館公演を行っているため、「リーチがかかってます」「今日で出禁になるかもしれない」と前置きした上で、「それでもいいやって思えるくらいのやつをください」と呼びかけた。そして観客は、その想いに応えるように、「神聖な場所で言わないほうがよさそうな言葉」である〈セックスしよう〉の超特大コールを轟かせてみせた。続く「愛の標識」のイントロでは銀テープが放出。尾崎は、最後の〈死ぬまで一生愛されてると〉の後の歌詞を「思っててもいいですか?」と替えて問いかけ、並々ならぬ大歓声が会場全体から巻き起こる。最新アルバム収録曲「人と人と人と人」「星にでも願ってろ」の後に披露した「さっきの話」のラストでは、尾崎は、〈あなたの全てが大事な物ばかりで困ってしまうわ〉と歌った後、アカペラでもう一度〈困ってしまうわ〉と歌い上げた。その歌声は、武道館の広さを全く感じさせないほどに親密で、とても温かい響きを放っていた。

尾崎は、こう語る。「こういう大きな会場で、みんながすごく楽しそうで、あたかもこれが正しいみたいな空気でライブが進んでいって、それを不安に感じたり、気に入らないと思ってしまう、そういうひねくれた人間がいると思います。自分がそうだから」「なんか違うと思っている"お前"がここにいると思います。ほっとけばいいと思う瞬間もあるけれど、それは嘘くさいと思ってしまう。
たった数人、もしかしたら一人かもしれないけど、"お前"にもちゃんと歌ってます」「それでもここに来てくれてありがとう。そして、当たり前のように、それ以外の皆さん、ありがとう」「どんなに満たされていても、自分も同じように感じてしまう人間です。だから、信じてください。もうちょっとやります」。

クリープハイプ、日本武道館で示した一人ひとりの「お前」への誠実さ

小泉拓

そして披露されたのは、少しひねくれた、クリープハイプ流のストレートなラブソング「寝癖」だった。ラストの〈ずっとここにいてね〉という渾身のメッセージが、強く胸を打つ。「ままごと」「凛と」がクライマックスへ向けた高揚をさらに高め、そして、「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」へ。2番サビ終わりの〈さよなら〉にかかる深いエコー。小泉拓(Dr)のエモーショナルなドラミングに、小川幸慈(G)の鮮烈なギターソロが重なり、そして尾崎がもう一度「さよなら」と告げる。ライブの終わりは、もう目の前まで迫っている。

クリープハイプ、日本武道館で示した一人ひとりの「お前」への誠実さ

小川幸慈

尾崎は、自分たちのバンドについて、メディアから唯一無二という形容詞を使って語られることが多いと前置きした上で、「クリープハイプに関しては、お客さんが唯一無二だなと思います」「今日もやりながら、誇れるなって。他のバンドに見せつけてやりたいと思いながら、ライブをしていました。
ありがとうございます」と感謝を伝えた。この日のライブを締め括ったのは、そんなファンへの底知れぬほどに深い想いを託した「幽霊失格」だった。ラスト、会場が明るく照らし出され、大量の紙吹雪が放出される。無音の中、宙を舞う紙吹雪を、感慨深そうな表情で見つめる尾崎。鳴り止まない温かな拍手。万感の終幕。最後の写真撮影の時、尾崎は、「見切れさせない、誰一人」と言っていて、その些細な一言にも、一人ひとりの"お前"への深い想いを感じてならなかった。

クリープハイプ、日本武道館で示した一人ひとりの「お前」への誠実さ


セットリスト 
1. 天の声
2. 生レバ
3. dmrks
4. キケンナアソビ
5. 鬼
6. 陽
7. もうおしまいだよさようなら
8. 月の逆襲
9. 本当なんてぶっ飛ばしてよ
10. ラブホテル
11. リバーシブルー
12. 百八円の恋
13. ナイトオンザプラネット
14. HE IS MINE
15. 愛の標識
16. 人と人と人と人
17. 星にでも願ってろ
18. さっきの話
19. 寝癖
20. ままごと
21. 凛と
22. おやすみ泣き声、さよなら歌姫
23. 幽霊失格

■クリープハイプ公式サイト:http://www.creephyp.com/
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