『THE LAST PIECE』のスローガンは「全ての10代と、かつての10代だった 全ての人へ」。オーディション参加者は全員10代。SKY-HIがちゃんみなを迎えて開催したガールズグループオーディション「No No Girls」は、身長・体重・年齢などで「No」と言われる社会に向けてステージ上から「Yes」を表現したが、今回『THE LAST PIECE』を通してSKY-HIが社会に投げかけるのは、「夢を見られる日本に変える」というメッセージだ。そこには、音楽やエンターテインメントの「人に夢を見させる力」を今一度取り戻したいという、業界やカルチャーに対する想いも強く込められている。
そもそも「夢」とは何なのか? この時代において、それは漠然とした幻想のような言葉になってしまってはいないだろうか。改めて「夢」の定義を語り合ったのが、このインタビューでもある。
最近のBMSGにまつわるトピックとしては、BE:FIRST・RYOKIの活動休止、HANAやちゃんみなに対するビーフなどもあった。所属アーティストの数が増えると同時に背負うべき責任も増えつつあるSKY-HIの言葉を預かってきた。
―『THE FIRST』『MISSIONx2』『No No Girls』に続くオーディション『THE LAST PIECE』が始まっています。スローガンは「全ての10代と、かつての10代だった 全ての人へ。」で、夢が見づらくなった今の日本の10代に、夢の見方を伝えていこうというテーマをプログラム全体として掲げています。そもそもBE:FIRST、MAZZELに続く3つ目のグループは、なぜ10代にフォーカスしたのでしょう。
SKY-HI:実際は10代でなくても応募がきたら見ていたんですけど。
―SNS全体において、ユーザーの滞在時間が長いものやコメント数が多いものが回るアルゴリズムになっていて、分断を招いて議論を起こすものほど世に出る時代になってしまっていますよね。
SKY-HI:迷惑系、暴露系、自虐系、冷笑系みたいな刺激物がインプレッションで上位を占める現象が加速しているところに対する絶望感が強くある。そういう世界を変えるには、無謀にも命を賭けて夢を見られる世代の力が必要だと思う。東南アジアに行くと、それをすごく感じるんですよ。
―日本は完全に少子化社会である一方で、ASEANはZ世代や若い人たちが人口を占める割合が高いという状況ですね。
SKY-HI:年齢が若いから自ずとそうなっている側面もあるけど、それだけではない気もして。この国自体の陰湿な空気を塗り替えたい。それは本来、エンターテインメントのやるべき役割だという意識もすごく強くあります。
―10代でボーイズグループを作るという判断において、経営的な考えはまったくなかったですか?
SKY-HI:ゼロですね。経済的なメリット、何かあるんですかね?
―顧客の世代を更新していくこととか、「若い頃に好きになってもらえれば長いあいだ顧客でいてくれる」といった考え方は、会社の経営戦略として大事ではありますよね。
SKY-HI:ビジネス的なことを言ったら、日本は少子高齢化で4、50代の支持を取らないと商売にならないから、むしろ10代のグループは今難しいと思いますよ。
―でも日髙さん(SKY-HI)はあえてそこに挑戦していくという。
SKY-HI:10代の夢見る力は美しいということを知っている身としては、それを伝えていきたい。何かになりたいという気持ちが及ぼす人間の成長って、すごいじゃないですか。日頃の意識、向学心、向上心とか、そういうものをトータルして一言で言うと「夢」なんだと思うんですけど、それの推進力って何事にも代えがたくて。1人の力だけでもすごいから、もし国自体が夢を見られる国になったらと想像すると――だから今、インドネシアはあれだけ活気があるんだろうなと思う。そういうものをすごく欲していますね。

正しい夢の見方を考える
―「14th Syndrome feat. RUI, TAIKI, edhiii boi」では〈If you dream it/You can do it〉と歌われていて、私自身も「夢を持って、それを叶えるために一生懸命行動していれば自分の現実を変えることができる」という考えを持っているタイプなんですけど、今の10代とか大学生と話していると、すでに出来上がっている堅実なレールが確実に見える方向にしか進めなくなっているんだろうなと感じるんですよね。
SKY-HI:そうなりますよね。
―「夢」という言葉が、幻想的なもののように捉えられすぎているというか。あくまで現実を歩む上で、ひとりの人間として幸せに生きるための道筋を見つける作業や、その過程で自分なりの考え方を育んでいくためのことでしかないと思うんですけどね。
SKY-HI:そうなんですよ。昔、松坂(大輔)選手が「夢」という言葉は嫌いで「目標だ」ということを言ってて、俺はそれがめっちゃ好きだったんですけど。そこから一周して、世の中がこんな空気になっちゃって、今一番必要なのは堂々と胸を張って「僕の夢はこれです」って言える人な気がする。まだグループは結成してないですけど、彼らは真っ直ぐな目でそれを言える人たちなので、俺の仕事はそれを汚さないこととか、そこに説得力を持たせることかなと思ってます。
―「夢を叶えようとしたり、好きなことやろうとすると、犠牲が伴う」みたいな空気も今の世の中では強い気がして。何かを犠牲にするわけではなく、自分らしく生きることこそが幸せにつながる、というのはBMSGがこの5年で証明してきたことで、だからこそBMSGがこのメッセージを投げることに意味と説得力があるんじゃないかなとも思います。
SKY-HI:おっしゃる通り、人生を楽しむという行為が遠くなりすぎている気がする。もともと「芸能人」っていうのは嘘を貫き通さなきゃいけないという言説に加担しているような感覚にずっと苦しめられていて、だからBMSGを作って、そこに居場所を求める人が集まって、今こうなっているというのもあるし。今はSNSで数字を集めるものが、ペシミスティックじゃないですか。気持ちはわかるんですけど。そもそも俺も、藤子・F・不二雄よりも藤子不二雄Aが好きな人間だし(笑)。だからヒップホップにハマったところもあるし。でも本質的には、いかなる環境からいかに正しく夢を見ていくかということをヒップホップから教わったから、それを伝えることに真剣に取り組んでいきたいかな。「正の感情はマラソンで、負の感情は短距離走だ」ってよく言うじゃないですか。負の感情の方が爆発力が強いし、世の中には負の感情に適するテキストが無数に存在するから嫌なことがあったときに「この嫌な気持ちって正しいんだ」と思わせて増幅する装置がいっぱいあるけど、エンターテインメントはそこに流れちゃいけないと思うんですよね。でも世の中、変わる気がするんだよな。最近Creepy Nutsが明るい歌を歌っているし、キタニ(タツヤ)くんの新曲も明るかったし。
―鬱っぽい曲が流行る時期が長くありましたけど、たしかに最近は「ここまできたなら、これ以上暗いことを言っても仕方ないじゃん、どうにか変えていかなきゃやばいじゃん」みたいな明るさを感じさせてくれる音楽が増えつつある気がしますね。
SKY-HI:ネガティブな歌詞の曲が世の中の象徴になるのは、いい悪いではなく、「不況だな」って感じたもんね。これは「鶏が先か、卵が先か」だと思っていて、不況で鬱屈とした世の中だからそういう曲が流行ったとも言えるけど、エンターテインメントがしばらくネガティブな方を向き続けたからこういう空気になっちゃったというのも、結果論としてはあると思っていて、それには責任も感じるし。それをなんとか打破したい。自分が頑張りたいという気持ちを絶やさずにいられるのは、RUI、TAIKI、KANONとか今の10代にとって10年後の日本のエンターテインメント業界がめちゃくちゃポジティブじゃないと、自分にとっては成功じゃないと思っているから。音楽とかエンターテインメントを志す人が夢を見られたり、携わる人全員が幸せを感じられたりする世の中にしたいっていうのが究極の目標としてある。なんで人生の大半をかけて、ろくに休まず、寝ず、こんなことをやっているのかって言ったら、「自分のためは人のためで、人のためは自分のため」じゃないけど、少しでも生きやすい世の中にしたいとずっと思っていて。言葉だけをとったら「人のため」っぽいけど、それをやらないと自分が救われないし報われないという気持ちからきているもので、これはもう壮大なるエゴなんですよね。「世の中を変えたい」っていうのは、下手したら「自分だけ得をしたい」というより強いエゴだもんね。今は人間に対する絶望感とか徒労感も強いけど、そういう気持ちが余計に出てきているかな。
―それはエゴでもないし、エゴだとしても良質なものだと思います。『THE LAST PIECE』のテーマソング「At The Last」は、『THE FIRST』に書いた「To The First」や『MISSIONx2』に書いた「MISSION」と筆致が違いますよね。
SKY-HI:めっちゃ感じるよね。
―「To The First」、「MISSION」はSKY-HIの曲でありながら、結成されたグループが歌うと彼らの曲になる、という体をとっていたと思うんですけど、「At The Last」は結成された10代のグループがこれを歌うとどうなるのかが想像つかないんですよね。
SKY-HI:今回は途中でそれを考えるのをやめたんですよね。途中から、とりあえず「できる発声を色々やろう」みたいな方向にシフトしました。NENEちゃんのアンサー(「0623FreeStyle」)で使ったトラックは、「At The Last」の没トラックだったんです。「『At The Last』はこれじゃないかもな」ってなって。トラックが手元にあったからすぐに(「0623FreeStyle」を)出せたという感じだったんだけど。
ビーフについて、BMSGの未来について
―その話も今日は聞こうと思っていました。まずあの件について、HANAのメンバーとはどんなことを話されました?
SKY-HI:当たり前だと思うんですけど、少なからずショックは受けていたし。彼女たち(HANA)って、4月デビューなので、ネット上に自分の写真とか名前が出ること自体がまだ非日常で。世の中に出ている人はみんな、よくも悪くもそれに慣れていくというか、ファンに対してもアンチズムに対してもどこか折り合いをつけていったりするけど、そういうのもまだできてないから。7人もいるので個人差はあって、気にしていない子もいるけど……シンプルにきついですよね。内容がどうとかじゃなくて、ショッキングな出来事に名前が出るということがすごく嫌だと思う。だから(ちゃん)みなと話して、どうしようかなと思ったんだけど。自分はNENEちゃんに対するリスペクトも、ヒップホップカルチャーに対するリスペクトもあるから、エデュテインメントの側面も含めて、ポップカルチャーで成立するヒップホップのビーフがあること自体はカルチャーの生成にいいなとも思ったし、同時にHANAとちゃんみなから絶対に視線をそらさせたいという気持ちがあったので、ちょっとやってみよう(アンサーを出してみよう)という感じでしたね。
―音楽をもっと聴き込んでほしいとか、音楽は数字じゃないとか、NENEさんと日髙さんで目指しているものの根本は一緒なんじゃないかと思ったんですね。
SKY-HI:そうなんですよね、ずっと言っていることだから。他の芸能事務所があまりやってくれなかった、そういうことをやる会社があるべきだって言って(BMSGを)作って。ぶっちゃけ、「OWARI」を聴いたときもそんなに腹は立たなかった。ただ、ちゃんみなが苦しむとかHANAが泣くとかは本当に嫌だから「なんかしなきゃな」っていう感じだった。デビュー3カ月の女の子たちで、しかも当然NENEのことも知っているような子たちじゃん。それで名指しであれが来たら、絶対に怖いじゃん。そこはアーティストだったら想像力を持ってほしかったなっていう気もするけど、NENEちゃんに関して気になることはそれくらい。だけどファンにしろアンチにしろ、人間に対する絶望感が膨らむというのはありますよね。ただ(『THE LAST PIECE』の)合宿中に(アンサーを)返していたから、その副次的な効果もあって。高校生男子ですよ。あんなの大好きなので、めちゃくちゃテンション上がってて。ラップを志向している子を中心に盛り上がってたから。RUIなんて今、あれ(「0623FreeStyle」のアートワークに使ったSKY-HIが幼少期の写真)が待ち受けですからね。それで「いいか」って思えるかというと、そんなこともないんですけど(笑)。
―BE:FIRSTも、大事な時期に差し掛かっていますよね。RYOKIさんの活動休止があり、7月6日からは6人体制になりました。ワールドツアーを終えたばかりでここで海外へのアプローチを止めるわけにもいかないし、3つ目のグループが誕生したときにBE:FIRSTの勢いが落ちているように見せるわけもいかない、という状況だと思います。
SKY-HI:そうですね。それで言うと、こんな毎日でも素敵な出来事が少なくはなくて。本人たちともずっと話しているのは、「1人足りないBE:FIRST」をやっていくわけにはいかないじゃないですか。「最高の6人のBE:FIRST」を作らないといけない。それって考え方も変わるし、ものによっては歌詞も変えなきゃいけないんですよ。RYOKIのためのRYOKIしか歌わないワードっていうのが存在するから、他の人が歌う以上、ちょこちょこ歌詞を変えたりしています。今段階で、6人組のグループとして、BE:FIRSTという名前通り1つの最高到達点をしっかり作ってくれている姿を見せてもらってて、彼らを通して人間という生き物の強さ、たくましさとか、それこそ諦めなかったら不可能はないっていうところを見せてもらっていたりもするし。象徴的なのが環境の変化が著しいBE:FIRSTだけど、それは最近全てのグループで連続的に見ているから、自分の立場としてはもっと気持ちよく前を向いていてもいいのかなと思う。BE:FIRST、MAZZEL、『THE LAST PIECE』、全グループに関して前途は明るいと思います。
―読者に誤解させないように言っておくと、RYOKIさんがいなくてもBE:FIRSTは成立するということを言いたいわけではなくて、どんな状況でもBE:FIRSTとしてベストを更新し続けなきゃいけないということですよね。
SKY-HI:そうそう。「7-1のBE:FIRST」をずっとやるんじゃなくて、本当にちゃんとベストを更新し続けなきゃいけない。そうじゃないと、それこそRYOKIに対しても一番失礼じゃないかな。
―MAZZELは、ソロインタビュー連載も含めずっと取材をさせてもらってきましたけど、今年に入ってどんどんポジティブなエネルギーが出ている感じがしますね。
SKY-HI:ですよね。ポジティブなエネルギーって、なんで絶対に数字もついてくるんだろうね。「世の中は全てが思い通りになるし、思い通りにならないと思っていたら思い通りにならないわけだから、結局思い通りになる」みたいな言葉が好きで。人間の言語とかエビデンスには限界があって、みんなが感じる「予感」みたいなものがヒットに結びついているとすごく思うんですよね。ポジティブなヴァイブスや「いけそうな気がする」っていう感覚が今のMAZZELはすごく強いし、それがパフォーマンスを後押ししていると思う。あと、今のMAZZELはフィジカルが恐ろしく強い。活動の合間にトレーニングを詰め込んでいたら、すごいことになってて。特に積極的にトレーニングしているメンバーがバテない。すごく当たり前のことだけど、フィジカルの強さってこんなにパフォーマンスに出るんだなって痛感した。だから今のMAZZELのパフォーマンスは本当にすごいですよ。
―『THE LAST PIECE』から結成されるグループは、『BMSG FES25』に出演する予定ですか?
SKY-HI:9月19日にメンバー発表なので、『BMSG FES25』には出てほしいなと思ってますけど、マジでわからなくて。何が正しいゴールかはまだ全然わかってない。絶対にすごいグループにしなきゃいけないんですけど、めっちゃ悩んでますね。どんなに突飛な陰謀論でも正当な主張であるかのように思わせるのが可能な時代で、そういう意味では人間に絶望する気持ちが膨らむんですけど、RUI、TAIKI、KANONとかの10年後を少しでもいいものにしたいので諦めきれないところがある。……こういう「10年後の日本を諦めたくない」という言葉も、排他的な言説のために切り取られる可能性があるというのも嫌な時代ですね。独善的に生きるとすごく楽なのは想像がつくし、変な話、もう会社をバイアウトして、そのお金で1、2年に1回くらい豪華なアルバムを作り続けて、のんびりと暮らせばストレスはないと思うんだけど……やっぱり10年後の日本を諦めたくないんですよね。

SKY-HI
Digital Single 「At The Last 」
配信中
・Streaming & Download:https://sky-hi.lnk.to/AtTheLast
・Music Video:https://youtu.be/bULsva1ctEo
・Website : https://atthelast.skyhi.tokyo
<SKY-HI>
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