「何度でも言うけど、日本は世界中で一番行きたかった場所だから。今回の来日は、本当に夢みたいなんだ」
今年6月、筆者がインタビューした際にパコはそう語っていた。その言葉がリップサービスではないことは、2人が以前から(非・日本語圏の)さまざまな媒体を通じて、日本にラブコールを送り続けてきたことからも明らかだ。そんな彼らも、初来日でこれほど多くのファンやオーディエンスから熱烈に迎えられる未来は、さすがに想像していなかったのではないだろうか。
昨年4月にリリースした1stアルバム『BAÑO MARÍA』は、アルゼンチンの権威ある音楽賞「Premios Gardel」で最多7冠を獲得。その半年後に公開されたTiny Desk Concertsで、世界的バズを巻き起こしたのは周知のとおりだ。とはいえ、日本で今年2月にフジロック出演がアナウンスされたとき、CA7RIEL & Paco Amorosoはまだ知る人ぞ知る存在だったはず。「読み方がわからない」「名前が覚えられない」という声もチラホラ見かけた(何歩も先をいくタイミングで初来日を実現させたスマッシュは改めて偉大すぎる)。
その状況を変えたのが、4月のコーチェラ生配信だ。Xで遡ってみると、今年3月までは一部のコアファンのみが用いていた「カトパコ」という愛称が、コーチェラでの快演のあと爆発的に普及していったことがよくわかる。主役の歌もバンドの演奏も凄まじいうえに、楽曲もヴィジュアルもずば抜けて個性的。好きにならないほうが無理というスターの貫禄に、たちまち中毒者が続出していった。
そこからフジロック開催までの3カ月で、メディア露出も一気に増え、カトパコ現象はさらに加速していく。来日直前の7月16日には、最新EP『PAPOTA』の日本盤がリリース。収録曲はラジオでパワープレイされ、カトパコをお気に入りに挙げる日本のミュージシャンも急増していった。その頃、本人たちはスタジオにも入りつつフェスやツアーを飛び回り、今秋にはケンドリック・ラマーの南米ツアーでサポートを務めることも発表。こうした国内外の動きも相まって、彼らの初来日が特別な意味をもつことはもはや疑いようがなく、「歴史的瞬間を見逃せない」という空気が醸成されていった。
そして、ついにカトパコが日本上陸。着くなり日本酒と寿司を堪能し、大盛りわさびを口に放り込んで悶絶する姿がインスタに上げられる。フジロック出演の前日にはタワーレコード渋谷店でファンイベントを開催し、ロングヘアのウィッグ姿で登場。『PAPOTA』=「強い男」にちなんでボディビルダー軍団も現れ、トーク、ミニライブ、撮影会と、超満員の会場は大いに沸いた。無邪気にはしゃぐカトパコの姿を目にして、「日本は世界中で一番行きたかった場所」という言葉が、嘘偽りのない本音だと確信させられる。気づけば本番が始まる前から、彼らとファンの絆は揺るぎないものとなっていた。

7月24日(木)タワーレコード渋谷店6F TOWER VINYLにて撮影
出だしから最高潮、日本文化へのリスペクトも
いよいよ迎えた当日。

Photo by Kazumichi Kokei
バンドメンバーが歓声を浴びながら登壇。3人のホーン隊は、BERSHKAとカトパコがコラボしたボクシーフィットシャツに身を包んでいる。パーカッション、ドラム、カウベルが織りなす軽快なリズムに乗せて洒脱なイントロが始まり、oiコールが巻き起こるなか、カトリエルとパコが姿を現す。ステージ中央に陣取り、マイケル・ジャクソンばりの仁王立ちをキメると、火柱がド派手に吹き上がり、二人が着用するANREALAGEの空調服がぶわっと膨らんでいく。まだ始まったばかりなのにクライマックスのような光景。何一つ歌わないうちに、会場のボルテージは最高潮に達した。
「日本はファッションが特別な場所だと思ってるから、僕たちも特別なルックで登場するつもり」とパコが語っていたのを思い出す。日本のアパレルブランドであるANREALAGEを選んだのは、彼らなりのリスペクトの表れだろう。

Photo by Kazumichi Kokei
およそ40秒のファイヤー仁王立ちのあと、Tiny Deskスタイルで腰を下ろした二人が最初に放ったのは、もちろんキラーチューン「DUMBAI」だ。湧き上がる歓声と両手を突き上げる観客の熱狂ぶりから、カトパコの楽曲がすでに深く浸透していることを実感。〈今日は夢中にさせてやる〉という締めの一節が、オーディエンスへの宣戦布告のように響き渡る。ラテンフィール溢れるバンドの演奏は、シームレスに「BABY GANGSTA」の生音ドラムンベースへと移行し、疾走感とともに会場のムードを掌握していった。
#フジロック '25 DAY 2#カトパコ @ GREEN STAGE
見事Xのトレンド入りも果たした
カトパコのライブ映像をお届け
ANREALAGEの衣装を纏い登場し
「DUMBAI」からスタート
Courtesy of FUJI ROCK FESTIVAL '25#fujirock @fujirock_jp pic.twitter.com/udWrGl1YJ9— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) July 26, 2025「DUMBAI」
ステージ両脇のビジョンに、歌詞の日本語字幕が映し出されていたのも嬉しい。コーチェラなどでも導入されていた試みだが、翻訳のクオリティは海外公演のときより格段に向上。自分たちの音楽を届けるための真心と試行錯誤が伝わってくる。スペイン語ゆえに汲み取りづらかった意味を、この場で初めて認識した人も多かったはずだ。
カトパコが歌うのはエッチなこと、成り上がり、ナイトライフ。パコは「DUMBAI」について「特別なメッセージなんてない。

Photo by Kazumichi Kokei
パコが泳ぐような仕草とともに「ジャパーン!」と叫んだ「MI DIOSA」、カトの扇情的かつ超人的なラップが冴えわたる「A MÍ NO」と続いたあと、雪崩れ込むように人気曲「IMPOSTOR」へ。ジャズ、ファンク、ラテンが融合した野外フェス映えするサウンドで観客を盛り立てる。ハビエル・ブリンの鍵盤、エドゥアルド・ジャルディーナのドラム、そしてカトによるスキャットを織り交ぜたギターソロが連なり、スリリングな演奏で圧倒した。続く「VIUDA NEGRA」でも、カトが弾くストラトキャスターのカッティングが炸裂。スタジオ・ミュージシャンとしての下積みも経験してきた彼の燻し銀なプレイが光る。そこからお互いのソロ曲を挟んだのち、「エーイ、オー」のコール&レスポンスも印象的だった「COSAS RICAS」でTiny Desk編を締めくくった。
怒涛のフィナーレ、涙の「ありがサンキュー!」
満を持して立ち上がった二人は、ブラジル音楽のエッセンスと多幸感にあふれる「RE FORRO」、ラップとラテンジャズの嵐が吹き荒れる「LA QUE PUEDE, PUEDE」を立て続けに投下。特に後者はカトパコ屈指のライブアンセムで、マクシ・サジェスのパーカッションとエドゥアルドのドラム、フェリペ・ブランディが生み出すグルーヴは強烈そのもの。この日一番の歓声が会場を揺るがした。
残り20分の終盤戦。再びソロ曲パートに突入すると、それぞれのアグレッシブなステージングでお祭り騒ぎに。またも火柱が燃え上がり、カトは空調服を脱いでセクシーな半裸姿を披露。初期のトラップナンバー「Ola mina XD」では、マシンガンのようなラップと仕草を宙にぶっ放す。カトは「ファンファンファーン」と口でレゲエホーンを再現。パコは「センキュー、センキュー、センキュー」と連呼し、「I'll be back!」と何度も叫ぶ。その勢い任せなコミュニケーションから、英語が第一言語でない者どうしが興奮を分かち合い、通じ合えている喜びがひしひしと伝わってくる。
鉄板のラスト3曲。マイクをダンベルに見立ててアームカールする「#TETAS」は、一風変わったバラードタイム。
カトパコ凄かったね。カッコ良すぎて笑いが止まらなかった。出だしからリアルにバンバン火を吹いて最後までやりたい放題。トップバッターでここまで大入りで盛り上がることがあるんだな。CA7RIEL & Paco Amoroso、次はヘッドライナーでよろしく。ありがとマザーファッカー!#フジロック pic.twitter.com/NQhsBkKq80— 小熊俊哉 (@kitikuma3) July 26, 2025「EL DÍA DEL AMIGO」筆者撮影
「アイラブユー」と言い残してステージを去る二人。イエスのリック・ウェイクマンを彷彿とさせる鍵盤ソロが鳴り響き、これで終演するようにも見えたが、ファンは最後にもう一曲あることを知っている。奔放な二人が「まさかの展開」に気づくパーティーアンセム「EL ÚNICO」だ。パコがカトの元に駆け寄り、いつも以上に気合を入れて〈Pará, pará, pará, pará, pará〉と歌う。モッシュピットはこの後のことを忘れて完全燃焼。6歳からの幼馴染は熱いキスを交わし、最強アイドルとしての側面を見せつけると、カトは「ありがサンキュー!」と叫びながら涙ぐんでいた。
あまりにも濃密で、破天荒で、美しかった60分。大旋風を巻き起こしたフジロックの初来日は、カトパコと日本の物語における最初のグランドフィナーレであり、二人がどんなに大物になろうと、この関係性が長く続いていくことを予感させるひとときでもあった。これから何度だって日本に来てほしい。そうでなくては困る。
THANK YOU FUJI ROCK
pic.twitter.com/pWXB024Qmw— CA7RIEL & Paco Amoroso (@ca7rielypaco) July 26, 2025
まさかのサプライズ、深夜に2度目の登場
ところで、カトは筆者によるインタビューで、「僕らはいつだって、ちょっとしたサプライズとかギフトを用意するのが好きなんだよね」と話していたが、有言実行の彼らは本当にサプライズを用意していた。25時30分のCRYSTAL PALACE TENTで、この日2本目のステージが実現したのだ。
GREEN STAGEが約4万人収容できるのに対し、CRYSTAL PALACEは数百人程度という世界的にも超貴重なプレミアライブ。筆者は1時間前に入って運良く観ることができたが、そのあと入場規制がかかり、深夜にもかかわらず長蛇の待機列ができたという。
深夜カトパコ、破裂しそうなパレスで目撃。45分予定のはずが1時間みっちり。朝イチの回よりラフゆえにキレッキレ。パーカッションのPAIもガンガン煽り、フロアはもちろん爆盛り上がり。楽しかったし暑かった笑。カトがポールに登ってた。#フジロック pic.twitter.com/PO2PsO0v6A— 小熊俊哉 (@kitikuma3) July 26, 2025CRYSTAL PALACE TENTにて、筆者撮影
沖野修也によるDJのあと、再び登場したカトパコとバンド一同。もともとは45分の予定だったはずだが、朝イチの回とほぼ同じ60分セットを披露してくれた。親密な距離感ゆえのラフな勢いと深夜のテンションで、パコが水を撒き、カトがポールによじ登るなど、それはもう熱狂的に盛り上がったことを最後に付け加えておく。
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@ca7rielypacoamoroso

CA7RIEL & Paco Amoroso
FUJI ROCK FESTIVAL 25セトリプレイリスト
https://ca7rielpaco.lnk.to/FRF25SETLIST

『PAPOTA』
カトリエル&パコ・アモロソ
国内盤CD:発売中
対訳/ライナー/ボーナストラック付き/(初回仕様限定)オリジナル・ステッカー封入
購入:https://ca7rielpaco.lnk.to/Papota_JPAW