日本と海外を行き来しながらキャリアを重ね、2012年の結成以来「全編英詩のギターロックバンド」として前進を続けてきた4人組は、ここに来て新たなアイデンティティを獲得したようにすら映る。原点回帰と革新が交差するバンドの新章──そこにたどり着くまでには、どのような背景があったのか。さる8月1日に開催された、Rolling Stone Japanとの共同企画による『Whos in the House?』リリース記念イベントでの公開インタビューを、再構成してお届けする。(MC・インタビュー:小熊俊哉、構成:高久大輝)
Rolling Stone Japanと共同開催したリリース記念イベントでのフルライブ動画(ニューアルバム全曲再現)を期間限定公開
原点よりさらに前への回帰
─新作はとんでもなく攻めた仕上がりになりましたね。「5枚目のアルバムながら、メンバーが口を揃えて1stアルバムと呼ぶ、新しいDYGLとしての第一章」と資料にもありましたが、まさに生まれ変わったというか。
秋山信樹(Vo、Gt):そうですね。感覚的には1stアルバム(2017年の『Say Goodbye to Memory Den』)を作ったときよりも前の、バンドを組んで1stアルバムを出すまでの期間の5年くらい......その頃の自分たちに戻って、もう一つの1stアルバムを作り始めたようなイメージです。
─原点回帰とも言える?
秋山:1stも一つの原点で、そのさらに前のもう一つの原点というか。原点の前の段階に戻っている感覚です。
─去年10月にEP『Cut the Collar』が出た際、FNMNLでインタビューしましたが、その時点で今作のレコーディングは始まっていて、実はデモも送ってもらってました。その中に「De Nada」という曲も入ってたんです。De NadaはDYGLの前身で、下中さん・嘉本さん・秋山さんの3人によって結成されたんですよね。
秋山:De Nadaは前にやっていたバンドというより、DYGLの原型という感じ。サークルの定期演奏会用に、最初はギター3人で結成したんです。自分の感覚では1、2回やるくらいのノリで誘われたつもりだったけど、カモちゃんと下中はもうちょいやるつもりだったらしいと後で聞きました。そのくらいのノリだったんで、曲作りもスタジオで勢いよくバーッとやって、セッションでできたものをそのままやっちゃうような感じで。だから、DYGLの初ライブはDe Nadaというバンド名で出たんです。その頃は超テキトーだったんで、曲名も「De Nada」にしてました(笑)。
─「De Nada」と名づけられたデモ曲は、ニューアルバムには収録されてないですよね?
秋山:されてないですね。でも準備はしています。当時のままの雰囲気でやろうかって。

秋山信樹(Photo by takachrome)

『Whos in the House?』リリース記念イベントはチケット完売。公開インタビューの様子(Photo by takachrome)
─「もう一つの1stアルバム」という話に繋げると、今回の制作中に過去を振り返るタイミングがあったということ?
下中洋介(Gt):そうですね。1stからいくつもアルバムを出してきて、しっかり曲をアレンジしながら作り込んできたけど、でも一方で、それで失うものもあるというか。
─新作は尖りまくった「角だらけ」のアルバムとも言えますが。角を取り戻そうとしたのはどういう背景があったのでしょう?
秋山:2020~2023年くらいまではコロナ禍の影響があって。ライブハウスに行けず、大きな声も出せない状況になると、そういう曲は書こうとしても書けないし、無理に書いても実感が湧かない。日々の生活で何を吸収しているかが創作活動には大事だと痛感しました。あの時期は自分もロックというより、電子音楽やアンビエントを聴くことが多かったですし、そういう音楽のほうが朝から夜までのっぺりした時間が続く日々に寄り添ってくれる感覚があった。だから3rd『A Daze In A Haze』(2021年)や4th『Thirst』(2022年)は、身体的に踊ったり大声を出すというより、音響的なアプローチを楽しむアルバムになったのかなって。
それに加えて、メンバーそれぞれ聴く音楽、やりたい音楽にはその時々で波があって、1stの頃からずっと、バンドとしてどこかハマり切っていない感覚もありました。もちろん毎作ベストを尽くしてきたし、好きな曲も多いですが、それらを経てバンドとして一旦落ち着き、自分たちを客観的に見られるようになった。さらにコロナも落ち着き、ロックミュージックが再びリアリティを取り戻し始めていくなかで、そのあたりがバッチリ合い始めた感覚があります。
あとは振り返ってみると、考え過ぎていたことが一番の問題だった気がします。だから複雑に考えるのはやめて、スタジオで音を出し、それが良ければ採用するというシンプルな制作に立ち戻れたのが良かったなと。

左から秋山、下中洋介、鈴木健人、加地洋太朗、嘉本康平(Photo by takachrome)
─「もっと自由になりたい、解放されたい」という話を昨年のインタビューでもしてましたよね。前作『Cut the Collar』はオルタナ/グランジ寄りで、あの作品も攻めてたように思いますが、今回の変化はよりラディカルに感じました。バンドとしてはどういう方向に進もうと思った?
秋山:シリアスにならないように、っていうのがあったかな。
下中:他人のライブを観ていても、暗かったり重い気持ちになることが結構あって。僕らはレディオヘッドも好きだし、暗い気持ちになるのも悪くはないけど、彼らのライブにしたって終わったあとは「楽しかったな」と思える明るさがあるはずで。DYGLも楽しい気持ちになれるバンドでありたいって意識が個人的にはあります。今回の新作も、やってる側としては笑ってほしいくらいの気持ちで作りました。ギターソロでの早弾きやツインギターなど、バカなことをいっぱいやっているので楽しんでもらいたいですね。
秋山:下中はよくそういうことを言ってたね。『Cut the Collar』がオルタナ寄りになったのは、そのとき皆がそういう音楽を好きで、一度そこを着地点としてやってみたから。
加地洋太朗(Ba):4th以降、「どんな曲を作ろうか?」という打ち合わせを以前よりするようになったんです。特に『Cut the Collar』が出る手前くらいから頻繁になって。その頃から、勢いのある曲やフィジカルでノれる曲を作ろうというのがテーマにありました。ただ、僕らは話し合いとかすると考え込むタイプなので、前作も今思えばややシリアス寄りになっていた気がします。そんななか、たまたまスタジオに入ったとき、一部のメンバーが忘れ物をしたことがあって……(嘉本の方を見ながら)。
嘉本康平(Gt):そういうのよくない(笑)。機材の積み下ろしはみんなでしてるんで、僕が忘れたわけじゃないです。
秋山:偶然カモちゃんの機材だっただけだよね(笑)。
加地:その忘れ物を回収しに行く車を僕が運転したんですが、(加地と嘉本以外の)残った3人が空いた時間でガーッとセッションを始めたみたいで。戻ったら「いい感じだからやろうよ!」という感じになってたんです。

嘉本康平(Photo by takachrome)
「ライブみたいなアルバム」が生まれた背景
─鈴木さんはDYGLのサポートドラマーを務めるようになって結構経ちますが、彼らの変化をどのように見ていますか?
鈴木健人(Dr):ずっと一緒にライブをしてきて、時にシリアスに考え込む姿を見てきた身としては、よくこの方向に進めたなと。僕がDYGLに参加させてもらうようになったのは2021年の終わりから2022年くらいで、3rdや4thの時期の制作やライブは、僕からすると既存の曲をカバーするような感覚でした。でも、今回はセッションから始まって、初めて一緒に音を出しながら曲を作った感覚があって。そういう意味では、僕にとっても1stアルバムという感じがします。
加地:セッションで作ったので、スズケンの色をめっちゃ感じるアルバムになっていて。
─ドラムがかなり効いてますよね。
加地:アホなドラム叩いてますよね(笑)。
鈴木:自分がアホに振り切れたっていうのもあるし。さっき下中が言ってたように、4人ともシリアスな音楽好きである一方、行こうと思えばバカになれる4人なので。そこが今回のアルバムや最近のライブでは前面に出てきていて。

鈴木健人(Photo by takachrome)
─今回はDTMどころかメトロノームも使わず、全楽器同時の一発録り。グリッドを揃えることからも解放され、ライブ感のある質感を追求したそうですね。
秋山:スタジオに入ってから考えすぎないよう、レコーディング直前までにアレンジをまとめておき、当日は音をチェックして「いいね」となれば、あとは演奏し続けるだけにしました。これまでのパート個別の録音だと、全体で合わせれば良くなったかもしれないフレーズも、一人で弾くとエラーに聴こえて直すことになり、結果として完璧すぎる演奏になってしまう。でも今回は同時録音なので、想定外の音もギターやベースが合わさることでうまくハマっていることに気づけたりした。制作も早く終わったし、このやり方が僕らに合っていたのかもしれません。
─そんなふうに勢いを追求するレコーディングだったのに、音像がローファイかといえばそうでもないのも素晴らしいなって。そこはエンジニアの手腕も大きかった?
秋山:たしかにそうかもしれない。今回は4th『Thirst』でミックスを手伝ってくれた、LA在住のステファニー(Stephanie ”Slozzaa” Loza)に録音の段階からお願いしました。
DYGLは2016~17年頃、数カ月単位でアメリカに滞在し、ライブやツアー、レコーディングを行っていて、最初のEP『Don't know where it is』(2016年)もその時期にLAで録ったんです。当時は毎日レコード店やヴェニューを回って、自分たちがフォローしている音楽の現場がどんなものか、実際に見て回っていました。その時期に通うようになったのが、The Smellだったんです。
─No Ageやベスト・コーストを輩出したことでも有名なライブハウスですよね。
秋山:そこは若者たちでもライブを体験できるよう、お酒を出さないかわりに21歳未満でもオールエイジで入ることができるんです。だから、14~17歳くらいの若者たちがたくさん遊んでいて。僕らがLAにいた頃、そこでエンジニアを始めたのが当時10代のステファニーだったんです。「The Smellで働きたい」という一心からキャリアが始まったそうで、コロナの前後にオーディオエンジニアの学校に入り、卒業後はケンドリック・ラマーと長く組んでいるエンジニアのスタジオに弟子入りして、少しずつ経験を積んでいったそうです。
その後も連絡を取り合い、「まだアシスタントだけど現場も重ねているし、個人でも仕事を受けられるよ」と言ってくれたので、『Thirst』で数曲ミックスしてもらったら、その仕上がりがすごく良かった。全然知らない有名エンジニアに頼むより、スキルもあって、人柄もわかっていて、お互いにリスペクトできる彼女に、今回は(レコーディングからミックスまで)フルでお願いしました。ステファニーが最近手掛けているのはベッドルーム系のR&Bとかで、全然パンクじゃないんですけど、僕らはどこからステファニーが来たのか知っているから信頼関係があったんです。
The Smellのドキュメンタリー映像(Noisey制作)
─最初に話したデモの段階では、ゴリゴリのハードコアっぽい曲もありましたよね。でも実際のニューアルバムは、そういうのとは違うというか。
秋山:ポストパンクとガレージロックが混ざった感じに落ち着いたのかなって思います。
─サウンド面のバランス感は、どういうものを意識したんですか?
加地:レコーディングは2回に分けて行い、最初はさっき話したセッションでできた曲を中心に録ったんです。その後にもう一度レコーディングすることになり、またセッションしていったら、みんな音楽の好みが幅広いので、とにかくいろんな曲が生まれるんですよ。だから、「この曲はどの箱に入る?」と相談して。そこから最初のレコーディングで録った「Just Another Day」や「Who's in My House?」が新作の中心になりそうだねという話になり、その2曲が基準になったことで、そういう路線の曲を1度目のセッションから拾って、2回目のレコーディングを経て今の形になっていきました。さらに激しい曲も録ってあるので、それは別の機会に出すかもしれません。
鈴木:そのハードコアっぽい曲も、ライブではずっとやってて。僕は今回のアルバムに入れたい派だったんですけど、箱の話になって却下されました(笑)。もちろんみんなが言ってることはすごくわかるので納得してます。
秋山:今回入らなかった曲たちも近々出したいですね。

フジロックのライブ写真(Photo by Yukitaka Amemiya)
─資料に「アルバム全体が一つのセットリストになっている」とありますが、曲間の繋ぎ方も気持ち良くて身体を揺さぶるというか、DJプレイのようにも感じました。
嘉本:曲間は僕もさっき聴きながら「速ぇー!」って思いました(笑)。
加地:思ったより速かったね(笑)。
嘉本:ライブみたいだなって。それこそDJみたいな繋ぎにも聴こえるし、元気な曲が多いので、パパっと進んでいくのがすごく良かったなと思います。あれは誰の案だったんでしたっけ?
─他人事みたいな言い方しますね(笑)。
秋山:犯人は私ですね(笑)。「これくらいがちょうどいいかな」と思って決めたんですけど、改めて聴くと「畳み掛けてんな」って(笑)。
新章をもたらしたメンバーの新機軸
─制作中はどういう音楽を聴いてましたか? 『A Daze In A Haze』の頃はJames Ivyやムラ・マサ、『Thirst』のときはアレックス・G、『Cut the Collar』のときはOvlovの話をしてましたが。
秋山:今回の曲はセッションから生まれたのですごく広がりがあって、いろんなタイプのものがありました。今回採用されたものとは別の括りの曲群もあって、感覚的にはもう少し牧歌的なものも。The CleanとかThe Chillsみたいな。ニュージーランド、オセアニアのインディーロックってそういう匂いがあるような曲たちも生まれたり。
─レーベルでいうとFlying Nunの感じ。
秋山:そうそう。あとはセッションしている最中もいろんな曲を聴きながら曲を作って、出てきたものを解釈するために、参考になりそうな曲を聴く、みたいな感じでした。最終的なアルバムの参照元でいうと、ポストパンク系のギャング・オブ・フォーやジェームス・チャンスとか、サイケ・ガレージ寄りのOseesやKing Gizzard & The Lizard Wizardの影響が混ざってます、たぶん。
加地:俺はパーケイ・コーツを聴いてた。
秋山:たしかに。テレヴィジョンもめっちゃ聴いたよね。シアトルのグランジやミッドウエスト・エモはその土地でしか生まれない音楽ですが、都会はいろんな情報が入ってくるぶん、自分たちの根っこがどこにあるのかわからなくなるアイデンティティクライシス的な部分があるような気がしていて。だからこそ都会のバンドは、それを逆手に取りメタ的に捉えないとアイデンティティが得られない。リアリティのなさを不安に思う反面、他の地域では起こり得ない混ざり方が生まれる、みたいな。自分たちも東京での生活を音楽に落とし込むうえで、参照元としてNYベースのバンドが多く挙がったのは、そういう理由なのかもしれないです。
─2曲目「Just Another Day」がアルバムの軸になったという話もありましたが、イントロを聴くとOseesの名前が挙がったのも納得というか。今回はシンセのような音色のエフェクティブなギターが多用されていて、嘉本さんがギタリストとして新たなアイデンティティを確立した作品でもあるのかなと。
嘉本:下中と秋山がオーソドックスなロックを弾くのに対し、僕はプレイというより音色が好きで。ジャック・ホワイトや最近で言うとMk.geeとか。DYGLの2人のギターに合わせるなら変な音、キーボードっぽい音を意識して、ある意味ぶち壊すくらいの勢いで弾いてやろうって。
─3曲目「Do I Really Want To?」から4曲目「Everyday Conversation」の流れでも、多彩なギターが大活躍。すごい存在感だなって。
嘉本:ありがとうございます。スズケンがドラムを叩くようになって、僕がギターに集中できるようになったおかげです(笑)。
下中:声を大にして言いたいんですけど、僕はカモちゃんのギター、もうちょい世の中に評価されるべきだと思います。あんなに変な音をちゃんとコントロールできるのは本当にすごい。カモちゃんは速弾きもできますし、結構ブルースも上手です。

Photo by Yukitaka Amemiya
─あとは加地さんが弾くベースの音が、かなり太くなった気がしました。
加地:これまではライン録りが多かったけど、今回は真空管アンプも入れたので、その感じが出ているかもしれないです。あとはエンジニアのステファニーと録るとき、スティーヴ・アルビニを参考に挙げたり、バンドの生っぽい音を録ろうという意識があったので、ライブ感のある音をいい感じに録ってくれたのかなと思います。
─秋山さんのポストパンク的なボーカルも印象的です。今回はセッション主体で作られたので歌詞もグルーヴも繰り返しのある曲が多く、そこに合わせた歌い方も意識したのかなと。
秋山:言葉自体がリズムを持っているので、喋っているだけで音楽に聴こえる人っていますよね。昔からそういう言葉のリズムを感じられる音楽を聴くのが好きで。ヒップホップもポストパンクもそう。ただ、そういうデモを作ったことはあっても、自分の表現として世に出せた曲は少なかったので、今回の方向性はチャンスだなと思ったんです。ようやくこのターンが来たなと。今回のアルバムは曲も演奏も身体で感じて、踊れて、低音が響くという方向に振っていたので、歌でも同じ方向をしっかり出したかったんです。


Photo by Yukitaka Amemiya
─ラストの「Who's in My House?」は実質的なアルバムタイトル曲で、これまた聴きどころが多いですね。まず、下中さんの弾くギターソロがヴァンパイア・ウィークエンドの「Cousins」っぽいと思ったんですが。
鈴木:俺も思った。
下中:何も意識せずに作ったんですけど、今言われてみるとたしかにそうっぽいなって(笑)
─ポストパンク的な曲調に、あの速弾きが入ってくるのがユニークですよね。さらに、この曲では加地さんがサックスを吹いています。何があったんですか?
加地:みんなに吹けって言われて(笑)。セッションで曲を作ると決まったときに「何でも試してみようよ」という雰囲気になって。「加地くんもサックスとか持ってきてみたら」って。それで吹いたら「いいんじゃない?」となり、そのままレコーディングしました。中学校のとき吹奏楽部で3年間やっていたので、そこで培われたサックス力が時を超えて。
秋山:ただ、その時を超えたサックス力があるがゆえに、最初に加地くんが持ってきてくれたフレーズは丁寧な感じで。
加地:ちょっとブラスバンドっぽい感じだったかもしれない。ある程度フレーズを考えていったんですけど、メンバーから「もっとできる!」みたいに煽られて。僕はサックスのレコーディング経験がないので、訳のわからない状態で思いついたフレーズを吹くっていうのを何回かやったら「いいじゃん!」って。
秋山:僕らは加地くんのなかに、もっと狂気があることを知ってるんですよ。その狂気と加地くんの趣味、ポストパンクだったりフリージャズっぽい演奏が聴きたくて野次を飛ばしていたら、加地くんがフリースタイルを始めてくれたんです。それがもう最高で。一番狂気じみたテイクが採用されてます(笑)。
フジロックで差別反対を訴えた真意、秋のツアーに向けて
─「Who's in My House?」では、「以前のように歌ったほうがいい」と干渉してくる他人の声に反発して、そんなの気にしなくていい、自分の好きなように生きよう、ロックスターになろうと歌われています。この歌詞はどこから?
秋山:日本は治安が良く、気遣いや常識が行き届いていて、清潔で暮らしやすい国だと思います。海外から来る人にとってもそうでしょう。でも最近は、すべてをルール化しないと安心できない空気が強まっている気がします。フジロックも海外のフェスでは考えられないほど綺麗ですよね。でも終わったあと、楽しかった余韻で「フジロック 振り返り」とYouTubeで検索したら1997年の映像が出てきて。今では信じられないほど会場にはゴミが散乱していたんですよね。「こういう時期もあったんだ」と思うと、同じ日本でも20年前より今のほうが目に見えない規範の力が強まっていると感じました。
そこはもちろん、良し悪しの両方があると思うんですけど。本当に全部ルール化しなければいけないのか。「ここでボール遊び禁止」「タバコを吸ってはいけない」「トイレに入ったら一歩前に」など、最近はあらゆる場所に注意書きがありますよね。海外から移住して日本生活も長い友人にある時そう言われて、たしかにと思ったんです。いろんなルールがあることで、ルールを破ることを恐れ、諍いを恐れて身動きが取れなくなる感じ。自分も無意識のうちにそうなっている気がしていたし、そうした”見えない声”をもう一度可視化するのが言葉の力だなと思って。その上で、本当にやりたいことは何かを問うている歌詞です。

Photo by Yukitaka Amemiya
─フジロックといえば、秋山さんのMCは胸打たれるものがありました。「人間が作ったものの中で最も美しいものが音楽で、最も醜いものが戦争と差別だと思う。あらゆる差別、区別、植民地支配に反対します。でも差別は普通の人もしちゃうから。俺も気をつけるし、みんなも気をつけよう」……この発言にはどんな思いが?
秋山:今は日本に限らず、排外主義が世界中で当たり前のようになってきていて。少し前までは当然ダメだったと思うんです。それがたとえ建前だとしても。でも、今はそれがアリになりつつあるのが怖い。ただ、そこで「差別は良くない」というメッセージだけだと、高みからの物言いみたいだし、自分も気づかないままやってる場合だってありうる。差別的なことが起きる現場って、やってる側が無自覚だったり、そもそもシステムがそうなっていることも多くて、ものすごく複雑な問題だから。それでどう伝えるか悩んだ結果、ああいう形になりました。バンドとしての発信なのでメンバーとも相談しながら。
ガザでは食料も止められる深刻な状況だし、日本国内でも政治のパワーバランスが変わってきて、保守というより排外主義のようなものが強くなってきている。ただ、自分も勉強不足で、具体的なことに踏み込むほど中途半端な知識では語れないと痛感するので、みんなで勉強しながら考えていきたいなと思っています。
─SNSでも共感の声が多く集まっていましたし、個人的にもこういう声が上がってほしいといつも思います。
秋山:フジロックには、グラストンベリーやさらに遡ればウッドストックに連なるフェスの精神が宿っているはずだし、そういう場所でこうしたメッセージを発信することに特別な意味を感じました。でも一方で、これが当たり前のことであってほしいとも思います。今回のアルバムに直接そういう歌詞があるわけではないけど、(音楽性や歌詞の)テーマがまったく違うバンドとも、こういう話が普通にできたらいいですよね。
あとは実際のところ、有名人や影響力のある人より、クラスの友達がこういう話をしている方が響くと思うんです。自分も単純にそう感じたから言っただけで、アーティストだからどうこうではない。本来は下から上がってくる声の方が大事だし、あくまで一個人、バンドという一団体として発した言葉に過ぎないです。

Photo by Yukitaka Amemiya
─素晴らしかったフジロックでのステージを経て、9月から10月にかけてのリリースツアーはどんなものにしていきたいですか?
加地:ライブで観てて楽しい曲が多いと思うので、アルバムを聴いて「よっしゃ行くぞ!」って感じで来てくれる人が多かったらいいな。
下中:F.A.D横浜は高校生の頃にライブしていた場所なので、ツアーファイナルで行くことができるのは嬉しいですね。
─新作のモードが前面に出そう?
加地:基本的には新作中心のセットリストになると思います。ただ、DYGLは新しい曲ができたらやりがちなバンドなので、その可能性もあるかもしれないです。
嘉本:せっかく来てもらえるなら、自由に観てほしいですね。もちろん静かでもいいけど、めちゃくちゃ叫んでも、野次を飛ばしてもいいし、ペットボトルくらいなら投げてもいい(笑)。床に寝そべっても、絵を描いててもいい。とにかくお客さんが好きなように楽しんでほしいです。
鈴木:カモちゃんが言ったように、自由に楽しんでもらって、もっと観たいなら終演後に「もっとやれー!」と声を上げてもらってもいい。そんなライブになったらいいですね。
嘉本:他の人の迷惑にならなければね。
秋山:でも”迷惑”の範囲って難しいよね。僕らはウワーっとなってるライブが好きだけど、日本の感覚だと海外フェスのあの感じは迷惑でしかない。横の人がうるさくて聴こえないとか、そのくらいは味かなと思ってる派なんですが、考え方はいろいろありますよね。これからライブカルチャーをどう作っていくか、ぜひ皆さんの意見も聞きたいですし、今後は「どこまでの迷惑を許せるか」ということにも挑戦していきたい。それがDYGLのテーマです。

DYGL
5thアルバム『Who's in the House?』
発売中
配信:https://dayglo.lnk.to/whosinthehouse
CD購入:https://lnk.to/with-CD

DYGL "Whos in the House?" TOUR
2025年9月15日(月・祝) 金沢 AZ
2025年9月17日(水) 名古屋 CLUB QUATTRO
2025年9月18日(木) 梅田 CLUB QUATTRO
2025年9月23日(火・祝) 新潟 CLUB RIVERST
2025年9月26日(金) 渋谷 Spotify O-EAST
2025年10月1日(水) 札幌 cube garden
2025年10月19日(日) 福岡 The Voodoo Lounge
2025年10月23日(木) 香川 高松 TOONICE
2025年10月24日(金) 京都 磔磔
2025年10月26日(日) F.A.D YOKOHAMA
チケット購入:https://dayglotheband.com/news/831/