UKを代表する4人組オルタナティブ・ロックバンド、ウルフ・アリス(Wolf Alice)が、通算4作目となるニューアルバム『The Clearing』をリリースした。名匠グレッグ・カースティンのプロデュースのもとLAで制作された本作は、Dirty Hitからコロンビア・レコーズへと移籍したバンドの新章突入を高らかに告げるタイムレスな力作だ。


イギリスのバンド、ウルフ・アリスはここ10年にわたり折衷的なポップ・ロックを奏でてきた。感情を大きく揺さぶるテクスチャー豊かな音楽を得意とし、異なるサウンドの文脈を自在に行き来しながら、”ポスト・ギターバンド時代”においてもギターバンドがどう存在感を保ち続けられるかを証明してきたのだ。だが、今回の4作目『The Clearing』ほどのスケールと深みを持って作品を完成させたことはなかった。70~80年代のクラシックな影響に深く浸りながらも、ただ懐メロ的なプレイリストを流しているような安易さは感じさせない。

シンガー/ギタリストのエリー・ロウゼルは、力強いロック曲で全力を出し切る一方、より内省的な穏やかな曲では個人的な想いを真摯に響かせる。本作における演奏はこれまで通り鋭く冴えている。「White Horses」では、アコースティックのストロークと細やかで断片的なフィンガーピッキングがクラウトロック風のビートに重ねられ、エリーの声がフローレンス・ウェルチやドロレス・オリオーダンを思わせるエクスタシーのうねりの中で舞い上がり、最終的に大きなカタルシスへと到達する。アルバムのハイライト「Bloom Baby Bloom」は、あたかも失われたケイト・ブッシュのポップ・メタル作品の一曲のように響く(エリーは、アクセル・ローズをフェミニスト的視点で捉え直したような表現を狙ったという)。そして「Bread Butter Tea Sugar」は、全盛期のELOへの夢のようなオマージュとなっている。

本作の核にあるのは、エリーが”大人としての本番”に差し掛かりながら、自分自身の方向性と意味を探し求める姿だ。「落ち着きたい/ああ、恋に落ちたい/でもときにはただセックスがしたいだけ」という彼女の歌声が響く「The Sofa」は、キャロル・キングの内省的なピアノ・ポップを思わせつつ、人生の重圧から離れた安全地帯としてソファを描き出す。「Passenger Seat」は音楽的にも感情的にも成熟した一曲で、関係性の曖昧さを丹念に描き出したフォーク・ロックの傑作だ。
「Just Two Girls」では、飲みに出かけることはパーティーではなく、気楽な友情の共有にすぎない。そして感動的なバラード「Play It Out」では、年を重ねるにつれて避けられない困難な選択を振り返る。「わくわくしながら年を重ねたい、世界が広がるのを感じたい」と彼女は歌うが、その意味するところに勇敢な不安をにじませている。

キャロル・キングの『Tapestry』やスティーヴィー・ニックスの『Bella Donna』の伝統に連なるように、このアルバムは「自分がどんな人間なのかを正直に見極める」という恐ろしい経験を描いた偉大な作品であり、同時に「すでに費やしてきた努力に対して、世界がどんな見返りを与えてくれるのか」という問いも投げかけている。

From Rolling Stone US.

Wolf Alice『The Clearing』考察 UKギターバンドの旗手が到達した「偉大なる成熟」

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