まとまったプロジェクトとしては久方ぶりとなるミックステープ『WAVY TAPE 3』をリリースしたJP THE WAVY。村上隆とのユニット活動や、PSYCHIC FEVER from EXILE TRIBEのプロデュース業など、近年さらに活発な動きを見せるWAVYだが、どんな胸中でラッパーとしての活動に挑んでいるのか。
デビューから8年を数える現在、JP THE WAVYの現在地についてどう捉えているのか、じっくり話を聞いた。

ー新作はこれまでのシリーズを踏襲している『WAVY TAPE 3』というタイトルなんですね。

コンセプトとかはなくて、その何にもない詰め合わせが「WAVY TAPE」っていう認識なんです。制作の本腰を入れたのは、今年の2月とか3月くらい。それより前から作っていたものも含めて、いろいろごちゃ混ぜにしています。

ーゲスト陣も豪華だし、ビートも骨太だし、みっちりと隙のない印象を受けました。

ビートメイカーの大半は海外なんですよ。今年の3月くらいにロサンゼルスやニューヨークに行って制作する機会があって。EPと並行してアルバムの制作もしているんですけど、より最近作っている曲はどちらかというと大人っぽいというか、静かめな曲が多いんです。だから、こっちのEP には(作った曲の中でも)ハードめな曲を選んで入れたという感じです。

ーBenjazzy、Awich、LEXら、ゲスト陣も豪華です。

周りの皆さんのおかげですね。
(ゲスト・ラッパーらと)一緒に作ったというよりは、自分で作った曲を後で聴きながら「これ、誰が合うかな?」と合いそうなアーティストを考えていった。家とか車とかスタジオで「あ、この人かな?」と閃いていく感じで。馴染みのアーティストもそうだけど、やっぱり若い子にも入ってもらいたいなと思って、Issei Uno FifthやKaneeeにも声を掛けていったんです。特にIsseiとは何曲も一緒にやってるんですけど、自分の作品に入ってもらったことはなかったんですよ。Kaneeeも、すごくいいなと思っていたけど、一緒に曲をやったことはなかったので今回改めて。

ー例えば「I'M FROM JAPAN」は、ストレートな表現で自分の出自をラップしている。前からファッション面でも”日本からきた”というポイントを強調していると思っていたのですが、今、改めてこうしたトピックについて歌った背景は?

海外に行くことも多いし、そういう時はなるべく日本のファッション・ブランドの服を着て「僕は日本人です」という感じで行ってるんです。この曲を作ったのは2年くらい前で、トラヴィス・スコットに会うタイミングがあった。それがインスピレーションになったんだと思います。

ーAwichとの「ROLE MODELS feat. Awich」では、タイトルの通り、自分がロールモデルになっているということをラップしている。

自分からグイグイ主張するわけじゃないですけど、こうやって7、8年間ラッパーとしてやってきて、「俺、ロールモデルじゃね?」と感じるようになった、ということもあって。

ー「I'M FROM JAPAN 」や「ROLE MODELS feat. Awich」を聴いて、JP THE WAVYの立ち位置や現在地を、本人としてはどんな風に捉えているんだろう、と思ったんです。


以前と比べたら、肩の力がちょっと抜けているかもしれないですね。若くてノリでやってた頃よりは、本当に自分がやりたいようなことだけを、割とストレスフリーに作らせてもらっていると思います。だから、『WAVY TAPE 3』の反省点としては、もっとみんなが好きそうな曲もひとつくらい入れておいた方が良かったのかなあ、と思うこともある。やっぱり、YZERRとかはそういうところが上手いなと思いますね。でも、それはそれで全体の雰囲気が変わってしまいそうだし。

ーDJ PMXさんの代表曲をリメイクした「Miss Luxury feat. LANA, JP THE WAVY, ¥ellow Bucks」は絶妙でしたよね。

日本のヒップホップの曲でバズったり売れたりするものって、結構明るい曲が多いと思うんです。俺の曲でも、明るめな曲の方がすごくウケる。でも、逆に今のアメリカの音楽チャートって、明るい曲はあんまりなくて、基本的にはダークな雰囲気の曲が多いんですよね。俺はずっとアメリカのヒップホップを聴いていたので、そうしたヴァイブスからブレずに、そしてタイムレスにやっていきたいという気持ちで曲を作っているんです。なので、「明るい感じで盛り上がろう」みたいな曲を入れるかどうか、っていうところはすごく葛藤があるところで。

ーアメリカだと、ダークでメロウな曲調で知られるRod Wave(ロッド・ウェーブ)みたいなアーティストが、チャートでもトップで全米ツアーもやる、みたいな感じですもんね。


逆に、2000年代前半くらいは底抜けに明るい曲が多いんですけどね、アメリカのヒップホップも。さっきも言ったように、俺が最近作っている曲はより大人っぽい曲調なんです。だから、次のアルバムはよりとっつきにくい曲調かもしれない。そこが心配です。

ー自分が追求しているサウンドと、日本のヒップホップ・シーンで受けるサウンドは顕著に異なってきている、と。

やっぱり、年を追うごとに日本とアメリカのヒップホップが離れていっているように思うから。それを誰かが止めないと、と思うし、提示する人が必要だとも思う。盛り上がっているのは超最高だけど、「離れていってるな?」と思うことも多くて。例えばKohjiyaとかはそこのギャップを埋めてくれそうというか、「やっとこういう子が来てくれたな」って思いましたね。

関わっている人数が多ければ多いほど、アートとしての厚みが増す

ー曲の制作に関しては、直感的にビートを選んで黙々と作っていくという感じですか? 今作からはフロウも挑戦的・実験的だなと感じました。

そういう曲もあるんですけど、自分の曲は共作が多いので。いろんな人からアイデアをもらったりフロウも考えたりもらったりして、できていく。
一曲丸々、トップラインも作ってもらうこともあるし、そこに俺が歌詞を書いてレコーディングする時もある。とにかくスタジオにはたくさん入っているし、自分一人で「何かに挑戦している」という感覚はそんなにないかもしれないです。

ー共作によって曲を完成させるようになったきっかけなどありますか?

ちゃんと共作するようになっていったのは、『LIFE IS WAVY』の時からですかね。

ー実質の1stアルバムですよね。その頃からコライトしていくスタイルだったんですね。

「Cho Wavy De Gommenne」の時からずっとそうなんですけど、自分一人で作るというよりは、周りにいるみんなの意見や(パートナーの)Ninaの意見を聞きながら作っていってたんです。それをちゃんと仕事にして、お金を分配できるようにしたのが『LIFE IS WAVY』の頃から。とりあえず、みんなの意見を聞くようにしています。そのほうがいいのかな、って。関わっている人数が多ければ多いほど、音楽というかアートとしての厚みが増すなって思うんです。一人でゲームを作るより100人でゲームを作るほうが厚みがあるし、深みが出る。舵を取るのは自分だけど、そうやってみんなで作るほうがいいんじゃないか、と思っています。


ー村上隆氏と一緒に、異色のヒップホップ・ユニット、MNNK Bro. (Takashi Murakami & JP THE WAVY)としても活動しています。氏との経験を重ねることによって、アートの見方や作品の作り方に対して、学びや変化はありましたか?

学びはめっちゃあります。例えば、絵をひとつ描くにも一体どれだけの人が関わっているのか。ものすごい人数が関わっているんですよ。「そりゃそれだけすごいものが作れるわ」って思いました。(村上氏は)画面で見ているような印象と変わらないし、ぶっ飛んでる。それに、いいことをめちゃくちゃ言ってくれるんですよ。作品に対する熱量もすごくて、音楽へのこだわりもすごいし。できた曲を何ヶ月か後に「こうしたい、ああしたい」と言って、また制作を始める。結局、そこからまた1ヶ月くらい作業を重ねることもある。あと、文脈ってすごく大切だなって思いますね。村上さんはいつも「アートは文脈」って言っているから。
音楽もファッションもそうだと思うんですよね。だから、そこに関しては「知らなーい」っていう態度を取るのはナシだな、とより思いました。俺も元からそういう部分は大事にしてきたし、文脈を重ねていくことは好きな方なんですけど、よりそこをしっかり考えるべきだなと。

ー『WAVY TAPE 3』のアートワークで使われているのはご自分の写真ですか?そこにも文脈がある?

文脈と言えるか分からないですけど、MasturdとかLil Durkがそうしていたみたいに、自分のちっちゃい頃の写真をジャケットにしたいなとずっと思っていたんです。実家に帰った時に、家にある写真を見ていて「これ、バックも海だしいいじゃん」と。2歳くらいの頃の写真だと思います。

ーWAVYさんはどんな子供だったんですか?

泣き虫でした。いつも泣きすぎて、目の周りが赤くなっちゃっていて。子供の頃は、父親の知り合いが米軍基地にいて、クリスマスとかよく遊びに行っていましたね。今も覚えているんですけど、3歳の時に基地にいたサンタさんからマイケル・ジョーダンの人形をもらったんです。でも、当時はそれが不服で(笑)、ギャン泣きして他のおもちゃと交換してもらったことを覚えています。今だったら絶対ジョーダンだろ、って思うんですけどね。

ー日本のヒップホップ・シーンも大きな盛り上がりを見せつつ、若手ラッパーも次々と台頭しているじゃないですか。リスナーも含めて、めちゃくちゃ新陳代謝が激しいなと感じます。WAVYさん的には、この波をどう乗りこなしていますか?

いや、どう乗りこなしてんだろう?「俺、まだ(ラップ)できてるな、ラッキー」くらいにしか思っていないんですけどね。最近、(リスナーから)話しかけられたら、俺の方からめっちゃインタビューするんですよ。「何が好きなの?」とか「俺が出すんだったら、どういう曲が聴きたいの?」とか。でも、みんな答えが違うんですよね。「アゲアゲがいい」とか「ラブソングがいい」とか。全然、統計が取れない(笑)。

ーそうなんですね。飄々としながら波を乗りこなしている、というイメージがあります。逆にそれが「俺は俺のスタンスでやってます」という主張になっているのでは、と感じる。ラッパーとして錆びないために、気をつけていることはありますか?

とにかく、新曲をいっぱいチェックすること。ファッションも同じくですね。30歳を超えてから、そういうことを意識するようになりました。今は32歳になるんですけど「もう若くないし、飄々としているだけじゃダメなんだ」って。戦い続けることも必要なんだと感じていますね。なので、トレーニングを始めたり、ハタチの時の自分を思い出したりしています。23歳の時に「Cho Wavy De Gommenne」を出した当時は「新進気鋭の若手ラッパー」と散々言われたんですけど、そこから30歳になるくらいまでは、自分が持っているポテンシャルに甘えていたようなところがあるなって思うんです。ダラダラしていたわけじゃないけど、身体を鍛えるようなこともしていなかったし。逆に、二十歳くらいの時の方が自分磨きを頑張るというか、「人からどう見られるか」ということを超意識していた。だから、今からそういう気持ちを取り戻そうと思っていますね。若い子がいっぱい出てきているから「やばい、もっとかっこよくならないと」と思っています。

ーWAVYさんはファッション・アイコンとしても常にトレンドセッターだし、どのように歳を重ねていくか、というところにおいては勝手に興味があります。

「もっと楽しもう」と思って生きているので、今も楽しいです。若い子を見て「頑張んなきゃ」ってより思うようになりましたね。

ー最近気になっているトレンドなどはありますか?

今年、ニューヨークに行った時にすごく感じたんですけど、現地のラッパーの未発表曲を聴かせてもらった時に「また新しいものを作ろうとしているんだな」って感じて、すごく刺激になりました。「何かを生み出そうとしている」というムードみたいなものを強く感じて。

JP THE WAVYが語る“文脈”の大切さ、変わらぬ審美眼で磨き上げるラップ


プロデュース業からの刺激

ー近年ではPSYCHIC FEVER from EXILE TRIBEをプロデュースして、見事シングル「Just Like That」1億回以上の再生を誇るグローバル・ヒット曲になりました。  

完全に、味を占めました(笑)。というのは冗談で、もし俺が歳を重ねていった時に、若い子から「WAVY、もう古くね?」って言われたとしても、「俺、全然やっていけるわ」と思ったんですよね。「俺の武器って、あるんだ」というか、裏方の立場にいてもこれ(=ヒット曲)を作れるんだ、とめっちゃ自信になりました。

ー実際に、どこまでディレクションしているのでしょうか?

PSYCHIC FEVERに関しては、衣装、MV、アートワークやレコーディングまで、細かいところも含めて割と全てをディレクションさせてもらっているんです。パッケージ全体を変えたいな、という気持ちもあったので、全面的に関わっていきました。ただ、俺がやりたい方向性で、好きにさせてもらった。メンバーのみんなもすごくポテンシャルが高くて、歌もラップもうまかったので「絶対もっといけるよ!」っていう気持ちで携わったんですけど、ここまでの結果を出せたことにはびっくりです。しかも、海外で評価されたということが本当に嬉しかった。

ーPSYCHIC FEVERのアメリカでのツアーも参加されましたか?

ロサンゼルスの公演だけ、参加させてもらいました。会場には、日本からわざわざ来たファンではなくて、アメリカにいる音楽ファンが集まっている、という印象で、「超最高!俺がやりたいことじゃん!」って思いながら。

ープロデュース業にウエイトが置かれると、逆に自分の作品にエネルギーを注ぎにくくなることはないですか?

PSYCHIC FEVERは、「こういう子がいたら絶対良くない?」という視点でやっているから、自分個人の音楽性とぶつかることはないんですよ。いい意味で、ノープレッシャーという感覚でプロデュースしています。だから、自分の制作には関係なさそう。

ーJP THE WAVYとしては久しぶりのクラブツアーも始まったばかりですね。

4年ぶりくらいですかね。フェスとは違う興奮というか、楽しいっすね。最近はクラブでのライブも全然してこなかったので、やっぱり距離の近さに圧倒されます。「前回のクラブツアーにいた子も来てくれてるのかな?」とか思いながら廻っています。

ー今後の予定は決まっていますか?

日本でもアメリカでもずっとアルバムの制作をしていたので、曲はいっぱいある状態なんです。今は、それを製品版に持っていく作業をしているところ。あくまで気持ち的には年内に出したいですね(笑)。とにかくみんなには楽しんでもらいたいし、あとはヒット曲を作りたいです。

JP THE WAVYが語る“文脈”の大切さ、変わらぬ審美眼で磨き上げるラップ

『WAVY TAPE 3』
JP THE WAVY
配信中
https://linkco.re/qR5xgpEm

1. EYES (Prod. Quadwoofer)  
2. GO GO GO (Prod. GENT!)
3. BIG BANDS feat. Benjazzy (Prod. ineedmorebux) 
4. GOOD LIFE feat. Issei Uno Fifth (Prod. Kaigoinkrazy & Byrd) 
5. ROLE MODELS feat. Awich (Prod. LilYukichi)
6. READY OR NOT feat. LEX (Prod. Ricky Ricky)
7. I'M FROM JAPAN (Prod. London Cyr) 
8. ROLLING DICE feat. Kaneee (Prod. Diego Ave)
9. I SWEAR feat. Sik-K (Prod. ineedmorebux) 
10. WON'T STOP (Prod. Bankroll Got It. & Roark Bailey)
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