ゴリラズ(Gorillaz)が最新アルバム『The Mountain』を2026年3月20日にリリースすると発表した。音楽業界の常識を塗り替えたバーチャルバンドの結成25周年、そんな彼らの現在地を示す新作『The Mountain』。
ゴリラズの歩みと未来を語る、デーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットの二本立てインタビュー。

※新作インタビューはこちら

1. ゴリラズが25年かけて塗り替えたもの

25周年という節目に臨むのは容易なことではない。「懐古的な世界にあまり長く浸りたくない」と語る、ゴリラズ共同創設者/ビジュアル・アーティストのジェイミー・ヒューレットのようなクリエイターにとってはなおさらだ。だが、過去を拒もうとする者でさえ、少しばかり目頭が熱くなるのを抑えられないようだ。

「自分の言葉を引用するのもなんだけど、『Modern Life is Rubbish(現代の生活はくだらない)』ということだね」とデーモン・アルバーンは語る。彼は、今日の新しいアーティストたちを取り巻く状況について、そして40年前には存在しなかったであろう課題について話している。小規模な会場の減少、コンテンツ制作を求められる現状、資源を吸い上げるばかりで還元しない業界の巨大企業たち──そうした問題が山積みとなっていることに。「今は僕自身が懐古的になってきている」と彼は認める。「80年代は本当に素晴らしい時代だった。若いミュージシャンでいることがね。演奏できる場所はたくさんあったし、アートスクールにもまだ通うことができた。アートスクール出身のちょっとしたアウトサイダーたちが生み出した音楽以上に、素晴らしい音楽が果たして存在しただろうか?」。
未来とは、これまでに存在したすべての要素の組み合わせに過ぎず、「少しずつ分解されていくものだ」と彼は結論づける。

未来──それはデーモンとジェイミー・ヒューレットが、2000年代初頭にゴリラズを始動させて以来、常に追い求めてきたものだ。結成25周年を祝うにあたって、彼らはロンドンで新たな展示「House of Kong」を開催し、さらに特別公演を発表した。そこでは初期3枚のアルバムを頭から最後まで通して演奏し、最後には”サプライズ”ショーを行う予定だ。

この祝祭の「回顧的」な性質は、2人がどれほど過去を振り返ることに心地よさを見出せるか、そのぎりぎりの線上にある。ゴリラズが常に新しさを追い求めてきたことを考えれば当然だろう。デーモンはZoom越しに登場し、迫るライブに向けたリハーサルで疲れた様子を見せつつ、いつも同時に3つのプロジェクトを抱えていると明かす。一方、フランスにいるジェイミーは、制作の合間を縫って短い受け答えに応じ、その合間に一服を挟んだ。

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
The cartoon members of Gorillaz pictured in front of a spray-painted logo of their name

初期のゴリラズ、2001年のアーティスト写真(Courtesy of Gorillaz)

あの壮大な80年代から生まれた2人は、その後の10年間を通じてそれぞれ成功を収めていった。デーモンはブラーで、ジェイミーはコミック『タンク・ガール』で。しかし90年代の終わりに差しかかる頃、彼らは移り変わるポップの風景にやや倦怠を感じていた。ラッド・カルチャーやブリットポップは疲弊をもたらし、実験の余地はほとんどなく、MTVは新世紀の幕開けにおけるボーイズバンド・ブームの絶頂期に、”作られた”アクトで溢れかえっていた。


ロンドン西部ノッティング・ヒルの、2人が共同生活していたフラットで、彼らはMTV常連のゴーストライター付きアクトと同じ原理を利用しつつ、それを越境的で意味あるものにしようと計画を練った。実体を持たないバンドを作り上げ、彼らが住むためのカラフルな世界全体を創造する。それはほぼウェブサイトの中にのみ存在し、インタビューまでも完全に作り込まれたものだった。「それはポップの動き、あるいはポップが進んでいた方向を風刺するための僕たちなりの方法だったし、それを本物らしく感じさせるための手段でもあった」とデーモンは振り返る。

”Within the DNA of Gorillaz, theres a lot of what popular culture is these days.”

ゴリラズのDNAの中には、今日のポップカルチャーを形作っている多くの要素が含まれていると思う。──デーモン・アルバーン

その実現のために、彼らは4人のアニメ化されたアウトサイダーを集め、初期インターネット時代の音楽界に革新的な存在を提示した──それがゴリラズだ。メンバーは、出っ歯のベーシストでバンドリーダーのマードック・ニカルス、物静かなフロントマン兼キーボーディストの2-D、10歳の日本人ギター神童ヌードル、そして「死んだラッパーの幽霊を呼び出す能力」を持つ屈強なドラマー、ラッセル・ホブス。この4人組は2001年3月26日にセルフタイトルのデビュー・アルバムをリリースした。同作では、デル・ザ・ファンキー・ホモサピエンをフィーチャーしたシングル「Clint Eastwood」が高く評価された。

「最初のアルバムを作ったときは、ちょっとした冗談みたいに思われていたし、子ども向けだとか、誰も本気で受け止めていないような空気があった」とジェイミーは振り返る。「音楽業界は音楽自体は気に入っていたけれど、アニメーションの部分はあまり受け入れられなかった。一方で子どもたちはアニメを心から楽しんでいて、そのアニメを通じて音楽に触れ、さらにその音楽を通じて、普通なら出会わなかったはずのアーティスト──たとえばボビー・ウーマックやイブライム・フェレール、ベックといった人たち──を発見していったんだ」。
コラボレーションは当初からゴリラズの中核であり続けてきた。「それこそが僕たちだ」とデーモンも同意する。

2005年に2作目のアルバム『Demon Days』をリリースする頃には、彼らはその後のポップ・ミュージックにおいて支配的となるフォーマット──すなわち「すべての楽曲にゲストを迎える」という形──を生み出していた。それが良いか悪いかはともかく。「きっと悪い方に働いたんじゃないかな」とデーモンは笑う。それ以前からマッシヴ・アタックや、エアロスミスがRun-D.M.C.とクロスオーバーしてきたような例を引き合いに出し、決して完全にユニークな試みではなかったとしつつも、『Demon Days』はそのコンセプトをより「堂々と、ひねりの効いたポップ」によって探求していた。

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
The cartoon members of Gorillaz next to real life people on a video shoot in the desert

『Demon Days』期、現実世界との融合(Courtesy of Gorillaz)

アルバムの成功によって、その手法は音楽業界にとって魅力的なフォーマットとなり、取り込まれていった。しかし今やメインストリームのポップにおけるコラボレーションは、主にSNSや話題性の演出、フェスのヘッドライナー公演、あるいは再生回数を倍増させるための手段に留まっているように見える。その一方でゴリラズは、文化交流を促進する「リアルなストーリー」を背後に持ち、共感的なやり方でコラボレーションを続けている。ゴリラズを通じてデーモンは、それまでほとんど知らなかったヒップホップの世界に触れることになる。そして以降、彼は故MFドゥームやデ・ラ・ソウル、スヌープ・ドッグといった名高いラッパーたちと次々に共演してきた。

「本当にすごいことだ」と彼は振り返る。
「僕は本当にたくさんのことを学んだ。音楽を一緒に作るときは、相手のパーソナルな歴史を掘り下げることになる。音楽はとても親密な体験であるべきだからね。お互いにとても無防備になるんだ。きちんとした音楽を、きちんと作ろうと思えば、お互いにとてもオープンでなければならないんだよ」

それは、ゴリラズを立ち上げた際に彼らが書いたオリジナルのマニフェストの中で早くも触れられていたことだった。1枚の紙に書かれたそれは、残念ながら今では跡形もなく失われてしまった。その中でラッセルの特別な力は、「誰とでも一緒にやれる」という非常にゆるやかなアイデアとして記されていた。それは「ある意味で前向きなものだった。ホログラムといったものが出てくる以前のことだから」とデーモンは語る。「ゴリラズのDNAの中には、今日のポップカルチャーを形作っている多くの要素が含まれていると思う。自画自賛するのはあまり好きじゃないけどね」と彼はいつものように謙虚に付け加える。「そういう評価は他の人がやってくれた方がいいに決まってる」──我々は喜んでそれを引き受けよう。

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
The cartoon members of Gorillaz sit on a red paradise island

驚きに満ちた『Plastic Beach』期(Courtesy of Gorillaz)

バーチャルゆえの世代を超えた影響力

業界からは「ギミック」だと一蹴されたにもかかわらず、このアニメーション・バンドはその後、8枚のスタジオ・アルバムを発表し、2本のドキュメンタリーを制作し、自らの音楽フェスを主催し、数多くの賞や称賛を獲得し、2冊の書籍を出版し、さらには「史上最も売れたバーチャル・バンド」としてギネス世界記録まで手にした。それに加えて、デジタルメディア、アニメーション、インターネットを先駆的に活用し、バーチャルな世界を構築することで、持続的で熱心なファンベースを獲得した。そして忘れてはならないのが、アニメーション、映画、テレビ、そして音楽の世界をまたぐ、世代を超えた驚異的なコラボレーションの数々だ。彼らは著名人を声優としても起用しており、故デニス・ホッパーが「Fire Coming Out of the Monkeys Head」でナレーションを担当するカメオ出演もあった。2018年の6作目『The Now Now』では、マードックが投獄され一時的に不在となった際、『パワーパフガールズ』に登場するギャングリーン・ギャングのリーダー、エースが代役を務めるというクロスオーバーも実現した。

音楽的な側面でもコミュニティはさらに広がり、グレース・ジョーンズ、エルトン・ジョン、メイヴィス・ステイプルズ、ザ・クラッシュ、テリー・ホールといった伝説的アーティストから、リトル・シムズ、Kano、JPEGMAFIAなど未来のスターまでを迎え入れてきた(「抱きしめたことのある人が本当にたくさんいるんだ」とデーモンは驚きを込めて笑う)。ジェイミーはその時々のデジタルやバーチャルの時代精神に合わせて自身のアートワークを適応させられる能力によって、常に魅力的で広がりのある物語をイラストレーションで構築し続けてきた。そしてデーモンは、音楽における創造・学び・コラボレーションをほとんど病的なまでに追い求める姿勢によって、無限の音楽的可能性を生み出している。だからこそゴリラズは、ミレニアムの始まりの頃と同じくらい、いまなお重要な存在なのだ。

”Politicians are liars. We dont believe them anymore, so we find strength and inspiration through other things.”

政治家は嘘つきだ。もう彼らを信じていない。だから僕たちは他のものに力を見出し、他のものからインスピレーションを得るんだ。
──ジェイミー・ヒューレット

25年が経ち、57歳となったデーモンは、自分がもはや「それほどポップな存在ではなくなった」という現実を受け入れるのに苦労していると認める。しかし一般的に言えば、アニメーションのキャラクターは不変で年を取らないからこそ、現実の人間のように複雑で過剰な期待を背負うことなく、この世界のややこしさを切り抜ける拠り所となってきた。まさにそれこそが、ジェイミーがゴリラズのキャラクターたちを通じて長年証明しようとしてきたことだった。

「僕は彼ら(キャラクター)が重要だと感じていたし、それに囲まれて育ってきたから、大人に向けたものでもあると理解していた」とジェイミーは自身のアニメーションへの愛を振り返る。彼は宮崎駿の作品や『AKIRA』といった映画を引き合いに出す。アニメーション作品が子どもっぽいという先入観を持たれがちであっても、そこには大人向けのテーマや力強いストーリーが存在していた。これはゴリラズが長年採用してきたアプローチでもあり、彼らの音楽はさりげなく社会的・政治的テーマに触れてきた。『Demon Days』は9.11以降の不安を反映し、それに続く2010年の『Plastic Beach』は環境意識を前面に押し出した。そして2017年の『Humanz』は、トランプ大統領の初就任前後に漂っていた不安定な政治情勢を見事にとらえている。

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
The four cartoon members of Gorillaz in a composite image

世界一有名なアニメーション・バンドのメンバーたち(Courtesy of Gorillaz)

「25年経った今、アニメーションのキャラクターやアバターは僕たちの生活の大きな一部になっている。特にコンピューターゲームを通じて育ち、スキンを身にまとい、コスプレを楽しむ若い世代にとってはね」とジェイミーは思索する。現実があまりに不快なものとなり、関わりたくないと感じる若者たちにとって、こうしたバーチャルな世界の魅力は非常に大きく、むしろそこにいる方が心地よいのだ。「それが良いことか健康的なことかは別として」と彼は冗談めかして言う。「ドラッグをやるよりはマシだよ」。キャラクターを通じて「若い心に働きかけられるなら、音楽やアニメーション、物語や僕たちが伝えたい政治的なメッセージを通じて、素晴らしいことを教えることができるんだ」。一方でジェイミーはソーシャルメディアの影響に懸念を抱いているが(デーモンに至っては携帯電話すら持っていない)、それもまた若い観客の中に優れた資質を見出すレンズとして捉えている。

「彼らは一度何かにハマると本気で取り組むし、徹底的に調べ尽くす。僕が何かを投稿すると、SNS上の会話で彼らは僕以上に僕のやったことを知っているんだ。『くそっ、全部知ってるじゃないか』って思うくらいにね。彼らは深くのめり込んでいて、それは素晴らしいことだと思う」と彼は語る。「子どもたちは、『サウスパーク』のカートマンが言うことの方を、キア・スターマー(イギリスの現首相)が言うことよりも聞きたがるだろう。わかるだろ? つまり、それが今の世界なんだ。政治家は嘘つきだ。もう彼らを信じていない。だから僕たちは他のものに力を見出し、他のものからインスピレーションを得るんだ」

”回顧”を経て、新たな創作へ

8月8日、ロンドン東部ストラトフォードにあるコッパー・ボックス・アリーナが「House of Kong」の扉を開いた。マードック・ニカルスの証言によれば「他に類を見ない展示」である。この会場はもともと2012年ロンドン五輪のために建設された複合スポーツ施設だが、その一部が没入型のウォークスルー体験として変貌し、バンドの25周年を祝うゴリラズの世界が展開されていた。混沌としたその世界に飛び込もうと向かう途中、私はアニメーション・キャラクターの持つ永続的な魅力を体現する父と息子の二人組に出会った。

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
The members of Gorillaz stand high above London's Piccadilly Circus

ゴリラズ、ピカデリー・サーカスで現実世界に出現(Courtesy of Gorillaz)

44歳のバルテク・シュヴァイコフスキー氏は2000年代にクラブで働いていたときにこのバンドと出会い、13歳の息子オリヴァー君は父親を通じて彼らを知ったという。「ゴリラズの素晴らしいところはすべてのグラフィックなんだ。音楽そのものだけでなく、彼らが生み出す体験全体にこそ魅力があるんだ」とバルテク氏は語る。25年が経った今もなお若い世代の心をつかんでいることは「驚くべきことだ」と彼は結論づける。このやりとりを後でジェイミーとデーモンそれぞれに伝えると、2人は目に見えて心を動かされ、(ほんのひとときだけ)満足げな様子を見せた。「そういう言葉を聞けると、すべてが報われるんだ。最高だね」とジェイミーは言う。バンドを結成した当時、彼らにはまだ小さな子どもがいて、自分たちの子どもが夢中になれるようなものを作りたいと考えていた。「ゴリラズの最大の魅力は、子世代にも親世代にもアピールすることだと思う。それは僕が何より誇りに思っていることだ」とデーモンも付け加える。

この展示は、バンクシーの「Dismaland」やグラストンベリーの「Block9」を手がけたSwearによって制作され、ロンドン東部の会場で4週間にわたって開催される。その閉幕に合わせて、バンドは初期の3枚のアルバムを当時のオリジナル・ステージ演出と共に完全再現する4つの特別なライブを行う予定だ。そして最後に、レジデンシーと25周年記念を締めくくる”ミステリー”ショーを開催する。その詳細はまだ明かされていないが、ファンの間では新作アルバムが披露されるのではないかと噂されている。

※編注:ゴリラズは9月11日、最新アルバム『The Mountain』を自身の新レーベルKONGより2026年3月20日にリリースすることを発表した。新作インタビューはこちら

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
The smoky entrance to Gorillaz' House of Kong exhibition

House of Kong (Photo: @shotbyphox)

ジェイミーとデーモンにとって、この企画は25周年を”やりすぎ感”なく祝えるちょうどの落としどころだった。いつものことながら、25周年の祝祭について語っていても、彼らの関心は過去よりも未来に向けられているのだ。

「3枚のアルバムを、それぞれの時代に限定して、ほぼ当時の曲順そのままで演奏することは、懐古的な感じはしない」とデーモンは語る。「それは”回顧的(retrospective)”であって、”懐古的(nostalgic)”とは違う。単なる娯楽のための道具として使うのではなく、ひとつの作品として提示しているからね」──そう考えることで、デーモンはこの試みを自分自身に許せたのだという。彼は、一度完成した自分の音楽を聴き返すことはないと認める。その理由のひとつは、マスタリングの日まで執拗に聴き込み続ける過程で、その音楽に対する幻想が打ち砕かれてしまうからだ。「不可能なんだ。どんな仕組みでそれが作られたか、細部まで全部知っているからね」と彼は言う。それでも今回の一度きりのライブを前に3枚のアルバムを聴き返す中で、今の自分がデビュー作の演奏に影響を及ぼしていることに気づいたという。

”I think thats the greatest thing about Gorillaz – that it appeals to children and their parents.”

ゴリラズの最大の魅力は、子世代にも親世代にもアピールすることだと思う。それは僕が何より誇りに思っていることだ。──デーモン・アルバーン

ゴリラズは、彼が世界を旅し、とりわけアフリカで長く音楽に取り組む以前に生まれたプロジェクトだった。数多くの「素晴らしく、驚異的な」音楽家たちとの出会いは彼を変貌させた。「最初のレコードでは手探りで試していたことも、今では自分ひとりでこなせるようになった。そういうリズムも自分で演奏できるし、録音やサンプリングの小細工で作り出す必要はない」と彼は説明する。「面白いよ。劇的に変わったわけじゃないけど、まあ……いいんだ。どう転んでも。起きたことは悪いことじゃないから!」

もっとも、あまり変わっていないこともある。本人にとっても驚きなのだが──「あの頃のファルセットをまだ出せるなんて信じられない」と彼はデビュー・アルバムを振り返って冗談を言う。「最初のレコードには、狂ったように大量のファルセットがあるんだ」。それは間違いなく「当時やっていたドラッグと関係があった」と彼は明かす。「あの頃の僕はずっと無責任な人間だった。今振り返ると、もう二度と出せないと思うような声を出していた」。だが年齢とともに責任も増し、1年半前に禁煙したことで、今回は声に「少し余裕ができた」という。

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
The interior of Gorillaz' House of Kong exhibition

House of Kong (Photo: @shotbyphox)

ジェイミーにとっても、展示やライブは25年間に起きたすべてを思い起こさせるものであり、それ以上の意味はないという。「僕はノスタルジーには興味がない。ある人たちにとっては強力なドラッグかもしれないけれど、25年前に何をしたかなんてどうでもいい」と彼は言う。彼が”師”と仰ぐのはデイヴィッド・ホックニー。85歳にしてなおスタイルやアイデアを刷新し続け、新作を発表するたび常に先を行く存在だ。それでも、自身の展示を歩きながら、ジェイミーはどうしても誇らしさを覚え、すぐに自分を引き戻さざるを得なかったという。「何かに取り組むとき、頭の中には描こうとしているイメージがある。でも実際に紙に落とし込んだものは、そのイメージには及ばないんだ」と彼は語る。

アーティストは常に頭の中の完璧なイメージを追いかけている。それは決して完全に到達できないものだと彼は説明するが、それでも毎回少しずつ近づいていく。「だからこそ前に進むのが好きなんだと思う。まだ満足していないし、納得していない。もっと良くできるはずだ──自分を痛めつけずにね」と彼は言う。デーモンとジェイミーは、新しさや完成を追求する姿勢において、ほとんど共生的だ。「アルバム作りって、いつだってやることが山ほどある。だからどこかで区切りをつけて終わらせなきゃいけない。実際のところ、選択肢なんてなくて、次へ進まざるを得ないんだ」とデーモンは語る。

「完成したものは楽しんでほしい──でも、そのあとは新しいことに戻るだけだ」と、25周年記念をファンに向けてジェイミーは締めくくる。では新しいものとは何か?「僕とデーモンにとって、それはただ……楽しいことなんだ。僕たちはやりたいことを何でもできる。デーモンは作りたい音楽を何でも作れる。彼はもうバンドに縛られていないから、自由に実験できる」とジェイミーは言い、最後にゴリラズの革命的マニフェストを一行でまとめる──「アイデアがあるなら、前に進み続けろ(If you have the ideas, then keep moving forward)」

From Rolling Stone UK

2. 新作『The Mountain』に込めた想い

ゴリラズが9作目のスタジオ・アルバム『The Mountain』の詳細を明かすにあたり、共同創設者のデーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットは、この作品に通底する「生と死、そして移行」のテーマ、そしてインドでの制作から得たインスピレーションについて語った。

先週ロンドンのコッパー・ボックス・アリーナで行われた”ミステリー・ショー”で全編披露された最新アルバムは、2023年の『Cracker Island』に続く作品であり、彼ら自身の新レーベル〈KONG〉からリリースされる初のアルバムとなる。リリースは2026年3月20日で、スパークスとのコラボ曲「The Happy Dictator」が先行公開された。またバンドは、2026年春にUKとアイルランドのアリーナ・ツアー、さらにロンドンのトッテナム・ホットスパー・スタジアムでの単独ヘッドライン公演の詳細も発表している。

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性
Gorillaz

最新アーティスト写真(Courtesy of Gorillaz)

デーモンは、悲嘆と悲しみの蓄積された感情は「必ず表に出るものだ」と説明する。彼とジェイミー・ヒューレットは、ヒンドゥー教、仏教、シク教における死への態度に救いを見出したという。自らを「基本的にアングロ・キリスト教社会」で育った人間と振り返りながら、デーモンはこう続ける。「自分たちの悲しみを抱えたままでも、その周縁で少しでもそうした感覚に触れられるのは、とてもありがたいことだった」。最終的に、彼らがこの新作で掲げたひとつのアイデアは「死をクールなものにする」ことだった。

バンド25周年を記念したインタビューで、ジェイミーはアニメーションのキャラクターやアバターが持つ持続的な魅力について語っている。それは、過酷な現実世界からの逃避手段であり続けてきた。『The Mountain』という文脈において、このアニメーション・バンドはまさにその旅に出るのにふさわしい存在であり、生と死の移行を恐怖ではなく、むしろ希望的なものとして描き出すのにうってつけなのだ。

「彼らはカートゥーンのキャラクターだからね」と彼は言う。「死んだって次の日にまた生き返る。それでいいんだ。彼らが先に行って、これから何が起きるかを僕たちに示してくれるみたいなものさ」。このアルバムには、ジェイミー・ヒューレットによる独特の手描きイラストをまとめた書籍も付随し、マードック・ニカルス、ヌードル、ラッセル・ホブス、2Dがインドで新作に取り組む旅を描き出す。

「このアルバムは最初から最後まで通して聴いてほしい」とジェイミーは新作について説明する。「僕らとしては、イヤフォンをつけてアルバムの長さ分しっかりと時間をとり、アートワークを眺めながら物語に没入してほしいんだ。曲をつまみ食いせず、全部聴いてほしい。スクロールする文化の代わりに、ひとつの作品に時間を投資するという体験を取り戻そうとしているんだ」

アルバムの別の側面では、ゴリラズの多世代的な性質についても触れられている。「これまでに出会い、亡くなった人たち全員を作品に含めることが重要だった」とデーモンは説明する。そうした意図から、過去のセッションで関わった故人たち──ボビー・ウーマック、デヴィッド・ジョリクール(デ・ラ・ソウル)、デニス・ホッパー、マーク・E・スミス(ザ・フォール)、プルーフ(D12)、トニー・アレン──の声が物語に織り込まれている。「彼らを会話に招き入れたかった。そうすることで、この作品が全員を抱え込み、バンドの歴史すべてを背負うものになるから」と彼は続ける。ジェイミーも「まるで彼らが”あの世から語りかけている”みたいなんだ」と付け加える。

「正直に言って……悪くないよ」と、アルバム全体についてデーモンは語る。彼は決して自分を誇張して語るタイプではない。一方ジェイミーは、この作品がこれまでで最高のアルバムになるかもしれないと確信している。「僕ら二人とも、ある種の啓示を受けたんだ」と彼は語る。「今回は本当に良い繋がりを見つけることができて、すべてが不思議なくらい自然に収まっていった」

「本当に、本当に力強い作品だと思う」とジェイミーは結論づける。「まったく新しく、まったく別物の作品になった。いま必要とされているのは、まさにそういうものだと思う。ゴリラズから生まれた、まったく新しいものなんだ」

From Rolling Stone UK

ゴリラズ
「The Happy Dictator (feat. Sparks)」
再生・購入:https://gorillaz.ffm.to/thehappydictator

ゴリラズとは何だったのか? デーモン・アルバーンらが語る結成25年の歩み、バーチャルバンドの先進性

ゴリラズ
『The Mountain』
2026年3月20日リリース
再生・購入:https://gorillaz.ffm.to/themountain

=収録曲=
1. The Mountain (feat. Dennis Hopper, Ajay Prasanna, Anoushka Shankar, Amaan Ali Bangash and Ayaan Ali Bangash)
2. The Moon Cave (feat. Asha Puthli, Bobby Womack, Dave Jolicoeur, Jalen Ngonda and Black Thought)
3. The Happy Dictator (feat. Sparks)
4. The Hardest Thing (feat. Tony Allen)
5․ Orange County (feat. Bizarrap, Kara Jackson and Anoushka Shankar)
6. The God of Lying (feat. IDLES)
7. The Empty Dream Machine (feat. Black Thought, Johnny Marr and Anoushka Shankar)
8. The Manifesto (feat. Trueno and Proof)
9. The Plastic Guru (feat. Johnny Marr and Anoushka Shankar)
10. Delirium (feat. Mark E. Smith)
11. Damascus (feat. Omar Souleyman and Yasiin Bey)
12. The Shadowy Light (feat. Asha Bhosle, Gruff Rhys, Ajay Prasanna, Amaan Ali Bangash and Ayaan Ali Bangash)
13. Casablanca (feat. Paul Simonon and Johnny Marr)
14. The Sweet Prince (feat. Ajay Prasanna, Johnny Marr and Anoushka Shankar)
15. The Sad God (feat. Black Thought, Ajay Prasanna and Anoushka Shankar)
編集部おすすめ