【画像】Hedigans、東名阪ツアーファイナルLIQUIDROOM公演(全18枚)
開演時間の19時になるとBGMのボリュームが上がり、電子音楽のパイオニアと呼ばれるデリア・ダービーシャーの「Moogies Bloogies」が聴こえてくる。その後、これもUKの電子音楽家であるLuke Vibertの「Dirty Fucker」が続く。この時点でHedigansは「ロックバンド」にとどまらず、その時々で5人が愛聴するさまざまな音楽性を取り入れ、変貌し続ける集合体であるという表明を感じさせた。実際、Hedigansのライブバンドとしての表現は、ちょうど2年前の2023年10月にお披露目ライブを行ってから今に至るまで、毎回変化し続けている。開幕の瞬間から、2nd EP『doyes』をリリースし2度目のワンマンツアーを回ってきたHedigansは今、どんな形態になっているのだろうかと期待が膨らんだ。
河西”YONCE”洋介(Photo by Kippei)
「Dirty Fucker」が鳴り続ける中、5人がステージに上がると、ビートに合わせて熱量の高いクラップが沸き起こる。YONCEが手を挙げたのを合図にBGMがフェードアウトすると、ステージは海の底のような青さに染まった。静けさに包まれる中、5人が各々そっと1音ずつ重ね始める。YONCEが手に持っているのは鉄鋼作家・飯田誠二による「Sei」というオリジナル楽器だ。”船”で出航し、まるで別の場所へと連れていかれるような音に包まれる。レイドバック気味のリズムに、YONCEの深い器を感じさせる歌で〈早くあの場所に 辿り着かなくちゃ〉と繰り返す。それは現実からの逃避のようにも響くが、その一方で「私たち人間という生き物は日々必死で前へ進もうとしているが、実は辿り着かなきゃいけない場所などないのかもしれない」とも感じさせた。
栗田将治(Photo by Kippei)
ワイシャツとジーンズにハンドマイクで「再生」を歌うYONCEは、音楽史に名を刻んできたレジェンドシンガーたちの佇まいと重なった。「再生」は音楽愛をストレートに表現した曲であり、この曲の主人公と同じように音楽を愛する人たちが集まった空間は、この時点ですでに多幸感に満ちている。次の「マンション」も、少しばかり絶望や諦念が滲む歌詞ではあるが、軽快なメロディも相まって、会場中の多幸感が続く。そのまま大内がスネアとフロアタムを勢いよく叩き、本村がトランペットを持って、祐輔がエレキを担いで同じコードを弾き続ける中で始まったのは、「説教くさいおっさんのルンバ」。これは初ライブから演奏されてきた曲であるが、何度もトランスフォームを重ねて、今や音源とはまったく別の生き物がステージ上で蠢いている。
栗田祐輔(Photo by Kippei)
「いっぱい曲をやりにきたので、いっぱい曲を聴いてください」というMCのあとは、Hedigansの持ち曲をほぼ全曲放出するくらいのセットリスト。オーディエンスが各々左右に身体を揺らし、うしろから見るとフロアが波のようだった「カーテンコール」、1小節目のベースのフレーズから歓声が上がった「グレー」。そしてここでYONCEが「もしかして、ひとつになってますか? バラバラになってください。各自で楽しむ方法を見つけてください」と、それぞれの動き方や踊り方を促す。ジャングルを彷彿とさせる緑色のステージで野生的な雄叫びが交じり、将治のギターヒーローとしての暴れっぷりも痛快な「その後...」、YONCEがタンバリンを電話のように持って「もしもーし! ロックンロールしない?」「いいじゃん、しようぜ!」と本村との会話から始まった「But It Goes On」。床や壁が振動するほどの低音から始まった「DAO」では、真っ赤に染まったステージで、タイトなビートに身体の芯からじわじわと熱くさせられる。そして「Hatch Meets June」で、その緊張を一気に緩和させる。
本村拓磨(Photo by Kippei)
「ありがとう」という言葉を挟んで突入したのは、歌のないゾーン。EP『doyes』に9分尺で収録されている「Eki」をインプロビゼーションも交えて演奏。そして「Love(XL)」の前にやるのがお馴染みになっている「夏テリー」。「船」から始まった旅が、この2曲でまた景色が異なる場所を駆け巡ったあと、「Love(XL)」で争いが止まない現実世界へと戻ってくるようだった。途中、YONCEは《今日はなんだか茅ヶ崎の夕陽が美しくて》と歌詞を変えていた。前日、台風接近の影響もあり、茅ヶ崎の空には街が真っ赤に染まるほどの夕陽が浮かんでいたことを思い出した。
大内岳(Photo by Kippei)
ライブも終盤に差し掛かる頃、いよいよEPのタイトル曲である「doyes」が演奏された。この日のHedigansは、YONCEの歌がこれまで以上に深く、存在感を放っていることをここまでで感じていた。そして「doyes」で、この日もっとも深い部分に触れさせてもらった。ツアーごとにトランスフォームするHedigansであるが、今回の彼らは、歌が際立っている。といっても、やはりHedigansは5人それぞれの音に存在感があるバンドであり、「歌が主役」というような言い方はあまり似合わない。
Hedigan's(Photo by Kippei)
「敗北の作法」のライブアレンジは音源よりもストイックに仕立てられているのだが、この日は今までよりも肩の力が抜けているように聴こえてきた。曲終わりで祐輔がドスの効いたスクリームを響かせ、そのままシャウトを続ける「BtbB」を経て、最後に演奏されたのは「Oshare」。今のHedigansは、シリアスに問題提起を行うでも、強烈なアンチテーゼを掲げるでもない。これまで以上に肩の力が抜けたようなスタンスで、やはり「我々は辿り着かなきゃいけないところを探しているけれど、本当はそんなところはないんだよ」というふうに肩に乗った荷物を軽くしてくれる。人ひとりは無限大の自由を備えているし、「でも大したことないちっぽけな生き物さ」と、その両面を感じさせてくれる音楽だ。そんなHedigansがアンコールで再びステージに上がり、最後に届けた「論理はロンリー」は、清らかな光がうしろから射す中、優しく、壮大に、さまざまな感情が蓄積する心全体を包み込んでくれるように鳴り響いた。
テキスト:矢島由佳子
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