4人組バンド・goetheが、EP『Town e.p』をリリースした。11月には、全国5か所を回るワンマンツアー『goethe 2nd Live Tour』を開催する。


2020年、札幌にて結成。2021年より本格的に活動を開始し、これまで小西遼、Shin Sakiura、Shingo Suzuki(Ovall)、knoakなどと制作を重ねてきた。これらの名前の並びを見ただけでも、彼らが日本由来のメロディやそっと琴線に触れる日本語の歌を大事にしながら、R&Bやソウルなどのブラックミュージックを基調とした豊潤なポップスを作り上げている姿勢を汲み取れるのではないかと思う。実際goetheの音楽には、時代を超えて人々の心に染み込んでいくような深い味わいがある。最新EP『Town e.p』を完成させたタイミングで、彼らが追求する「理想のポップス」についてディープに訊いた。

―goetheを一言で表すなら、「良質なポップスを生み出しているバンド」だと思っていて。最初に、それぞれにとっての「理想の1曲とは?」という質問をさせてもらってもいいですか? そこから、それぞれのルーツやどういう音楽を目指しているのか、ということを探りたいなと思います。

樋口(Vo, Gt):時期によって好きな曲が違うんですけど、最近はマリーナ・ショウが好きです。マリーナ・ショウのアルバム『Who Is This Bitch, Anyway?』に入っている「Feel Like Making Love」が、完璧だと思っているんです。人間の出す音の不完全さみたいなものがマッチしているという意味で「完璧」。チグハグなんだけど、チグハグがうまく重なり合って、グルーヴがめっちゃ出ているというのが自分的には理想です。自分たちの曲でもソウルを感じるグルーヴをもっと出したいし、そのグルーヴでポップスを鳴らしたいなと思っています。


加藤(Ba):僕はダニー・ハサウェイの「Voices Inside」。マリーナ・ショウもそうだと思うんですけど、ダニー・ハサウェイのライブ音源を聴いて、個別に録音するのではなく、バンド全体で録ることで生まれるライブ感やグルーヴ、お客さんが音楽を聴いているだけでワーって盛り上がれる感じがあるなと思って。なおかつ、すごくシンプルな構成なのに、なんでこんなに盛り上がれるんだろうっていう。こういうライブや音楽をやりたいなって思います。

永江(Key):サカナクションの「目が明く藍色」。7分くらいある曲ですけど、こういうバンドにとってのひとつのマスターピースになり得るような、長い曲を作りたいなって最近は思っています。毎回「自分たちが納得できるようなマスターピースを作りたい」という気持ちで制作はしているんですけど。もともとクラシック出身で、クラシックの音楽には長い尺の中で展開や物語のある曲が多くて。作品として、1つの曲の中で起承転結を作れたらなと思っています。

相蘇(Dr):僕は、The 1975の「Sincerity is Scary」。1日1回と言わず、永遠リピートするくらい聴いています。自分のSpotifyの年間視聴数ランキングでは、毎年これが1位になるくらいです。
これを聴くと、落ち着くというか、自分の原点に戻れる感覚になります。自分のメンタルをキープしてくれる曲ですね。

―goetheの音楽を構成するいくつもの重要な要素を、それぞれが言葉にしてくれたように思います。そもそも結成当初は、yonawoへの憧れがあったそうですね。

永江:それは私から……。

樋口:yonawoの「矜羯羅がる」のミュージックビデオが送られてきて、「こういうバンド、やんない?」みたいな。

―永江さんはyonawoのどういった要素に憧れを抱いたんですか?

永江:顔とかもかっこいいし……。

―そこ!?(笑)

加藤:去年、荒谷(翔大)さんにライブに出てもらったとき(『goethe Live 2024』)、「あ、そこまで好きだったんだ!?」ということが発覚した。「めちゃめちゃ好きじゃん!」と思って。

永江:すごく自分の中では特別な存在で……恋かもしれない(笑)。声もすごく独特じゃないですか。音源を聴いて誰が歌っているのかがわかる声って、すごく魅力的だなと思って。
(樋口)太一の声も特徴的で、その声を活かしてバンドをやりたいなって思っていました。そもそも「バンド」って言ったら、自分の中ではロックとかしか想像できなかったのが、ああいうメロウなサウンドのバンドもいるということ衝撃を受けて、やってみたいなと思ったのがyonawoに惹かれた一番大きな理由です。

goetheが語る、良質なポップスの秘訣 映画を音楽に落とし込む感覚

左から:加藤(Ba)、永江(Key)、荒谷翔大、樋口(Vo, Gt)、相蘇(Dr)

「振り幅」と「ポップス要素」を意識している

―「yonawoみたいなバンドがやりたい」で始まったところから、goetheとして制作やライブを重ねる中で、「自分たちはどういう音楽をやりたいのか」という考えは変化していると思うんです。今は、どういう音楽を作りたいという意識がありますか?

樋口:いろんな人に聴いてもらえるようになって、しかもありがたいことに「元気づけられています」みたいな声も増えてきたりして、自分たちのことしか考えてなかったところから聴いてくれる人のことを意識するようになりました。それが自分的にはポジティブなことだと思っていて。自分がいるのは聴いてくれる人たちのおかげだし、逆に「自分が頑張れているのはgoetheのおかげ」と思ってくれている人がいるという、持ちつ持たれつの関係がいいなって。そういうことを自覚するようになってから、「これを聴いてくれた人がどう思うか」「これを聴いて元気になってくれるか」ということを考えるようになりました。だから最近は、外向きな感覚になっているかもしれないです。

―その意識が、最新EP『Town』の中でもっとも表れているのは「Q」だと言えますか?

樋口:「Q」は本当に、聴いてくれている人を引っ張ってあげるというか。強気じゃないと「引っ張ってあげる」みたいな考えにはならないと思うんです。そのときは強気で、「何かを与える」という感じになれたので、今言ったような色が結構出ているかもしれないです。

加藤:〈救ってあげるよ〉という歌詞とか、新鮮でしたね。
この曲から自分たちの考えも変わりました。自分たちも曲に引っ張ってもらったというか。そういう面でも新しかったし、すごくいい曲になったと思います。

―この曲を作ったのはいつ頃ですか?

樋口:去年の年末から今年の1月にかけてとかですかね。

―じゃあ、ちょうど年末年始がターニングポイントになって、今年がgoetheにとってより外へ意識が向いた時期だったということですよね。今回のEPを聴いて、今まで以上に歌が音源の中で主役を担っているなという印象があったんです。それは、リスナーを力強く引っ張っていきたいという意識から出たものだったりしますか?

樋口:引っ張ってあげるという意識が全曲の歌に出ている自覚はなかったですけど、でも今言っていただいて「確かにな」って思いましたね。基本的には「ポップスを作っていきたい」という気持ちがあって、やっぱり歌のメロディが大事だなと再認識しました。みんなが聴いて心地いいと思うのって、ポップスに関しては歌の部分かなと思うので。

加藤:今回、歌のメロディの振り幅がすごくあるなと思っていて。リード曲の「Town」、「夢から覚めても」とかは低い音域にいったり、「Town」は心地いいポップなメロディだけど、「夢から覚めても」はちょっと懐かしい感じのメロディだったりして、振り幅がすごいな、それがEP全部を聴いたときにいいな、って思いますよね。逆に「moon」はそこまで歌を押し出してなくて、それこそ楽器やリズムのよさを出して作ってくれたので、EPとしては、歌の幅の広さもありつつ、楽器の演奏の心地よさもある、という綺麗な感じにまとまったのかなと思います。


相蘇:「moon」、「hibi」とか、個人的にはgoetheの初期の空気感も入っているなと思っていて。ポップすぎない、ちょっと落ち着いた雰囲気とかを、この2曲で表現できているのかなって思います。

永江:今回、サウンドの幅がすごく広いなと思っていて。たとえば「Q」は、リズムのリファレンスにK-POPも入っていたんです。「夢から覚めても」は昔の歌謡っぽい要素を感じられると思うし、リード曲の「Town」は正当なポップスとして仕上がっていて、(相蘇)勇作も言ったように「moon」と「hibi」はインディーっぽさも取り入れられているんじゃないかなと思う。いい意味で、振り幅が広くできたんじゃないかなって思います。普段は一人ずつ録音しているんですけど、「moon」だけ4人でせーので録ることに挑戦しました。そういう意味では、「moon」は4人のグルーヴが一番出ている曲だと思います。

―最初に樋口さん、加藤さんが話してくれたグルーヴへの意識変化があったから、そういう選択肢を取ったということですよね。話を聞いていると、EP『Town e.p』制作のタームで意識的に目指したことは、歌が立っているポップスをいろんな方向性で作ってみる、ということ?

樋口:そうです。

加藤:毎回EPを作るときに「振り幅」と「ポップス要素」は意識しているんですけど、毎回それが更新されていると思います。「その方向性もあったんだ」「まだそれがあったか」みたいなことが毎回あって、今回また新しい振り幅の広さがあるEPになった感じがしますね。


goetheが語る、良質なポップスの秘訣 映画を音楽に落とし込む感覚


寂しさの中にある前向きさに心が動く

―EP全体としては、「喪失」がテーマになっているのかなと思いました。そう言われると、いかがですか?

樋口:確かにそうですね。「前向きな喪失」「変化」みたいなことがテーマになっているかもしれないです。それは『Town』というタイトルにも繋がっているのかなって、今思いました。街はただそこにあるだけなんですけど、そこにどんどん人が入ったりどこかへ行ったりして、そのたび街の表情も、そこに住んでいる人の感情も変わる。そういうことに、自分が勝手に思いを馳せていたような気がします。特にこの1年、ツアーとかでいろんなところに行きましたし、東京でもいろんな街をお散歩したり、出会いと別れを経ていくうちに、寂しさの中にある前向きさみたいなものに心が動く瞬間があって。そういうことがテーマになっているかもしれないです。

―今回、初めて女性コーラスが参加していますよね。樋口さんの声と重ねるという手法がいくつもの楽曲で取り入れられていて。それは、どういう発想からだったんですか?

樋口:ずっと僕が自分でコーラスを入れていたんですけど、自分の声だと広がりとか、周波数的な問題点とか、限界があるなと思って。新しい風をgoetheに入れたいなと思って、音源に限らずライブでもコーラスに入ってもらうこともありました。

goetheが語る、良質なポップスの秘訣 映画を音楽に落とし込む感覚


―goetheの音楽は、映画のようだなって思うんです。それこそ1曲目の「Town」から、1行目で〈鈍色の絨毯に 枯れた葉が彩る〉と歌っていて、その時点で主人公がいる場所の情景を想像させてストーリーに入り込ませてくれる。だからこそ女性の声も入ってくると、より曲のストーリーに幅が出るなと思いました。そういった曲の作り方は意識的にやっていることですか?

樋口:個人的に映画がめっちゃ好きでよく見るんですけど、曲を作るときは、情景から作り始めている気がします。今言ってもらったように、俯瞰したところから歌い始めるというのは無意識に考えている気がしますね。

加藤:日頃から、映画を見ている量は段違いだなと思います。本当に何でも見ているよね。俺はそんなに映画を見ないんですけど、たまに「この映画見てみたいんだよね」って言ったら、大体すでに見ているか、少なくとも情報は知っている。

―映画とgoetheの音楽の関係性は、すごく重要なポイントなのでもう少し掘り下げさせてもらいたいなと思うんですけど、樋口さんは、映画のどういった魅力に惹かれていて、それほどの本数を鑑賞しているんですか?

樋口:……なんでなんだろう? 理由は考えたことなかったですけど、映画の質感が好きというか。非現実的じゃないですか。生々しいものもありますけど、映画としてのフィルターを通して撮っていて。ドキュメンタリーじゃなくて、演出されているもののかっこよさとか、そういう雰囲気が好きなんですよね。

―自分が作る音楽において、「フィクション」と「ノンフィクション」のバランスについては、どういうふうに考えているんですか?

樋口:自分の実体験ではなくて、完全にフィクションですね。頭の中で世界を作っちゃって、その中に自分が面白いなって思っていることとか、「こういう状況の人間ってどう考えるんだろう」とかをどんどん入れていく感じです。

―それで言うと、そういうものを作りたいと思ったとき、なぜ映画監督や映像ディレクターになるのではなく音楽を選んだのだと思いますか?

樋口:結婚式の映像とかを撮る仕事もちょっとやっていたんですけど、でも映像は見るほうが好きだなってなっちゃって。音楽は聴くほうも作るほうも長続きしていますね。音楽って、即効性があるじゃないですか。映画は最後まで見て「よかった」「幸せになった」みたいになると思うんですけど、音楽って、聴いた瞬間から「あ、いいな」みたいな感覚が強い気がして。そこが理由なんですかね。

―今、重要なこと言ってくれたなと思って。goetheの曲は最初から情景が見えてストーリーに入り込める、という話をさせてもらいましたけど、たとえば3、4分聴いたあとに「よかった」ってなるというよりも、本当に1小節目から気持ちいいと感じられるくらいの即効性がある作品を作りたい、ということですよね。

樋口:確かに、そうですね。聴いたときに「いいな」と思う感覚ってめっちゃ大事だなと思っていて、自分の曲でもそういうふうに思ってもらいたいです。

―11月に行われる全国ツアー『goethe 2nd Live Tour』では、どんなライブをやりたいですか?

加藤:ライブの中でもいろんなジャンルを見せられることが、お客さんを楽しませられる要素のひとつになるかなと思います。さっき太一が言ってくれたように、お客さんに何かを与えられるような存在になりたいという思いが最近すごく強いので、最終的にはお客さんに「今日来てよかったな」「明日から頑張れそうだな」と思ってもらえるライブにしたいなと思います。

樋口:第一は、来てくれた人が「幸せだな」みたいな感覚になって帰ってくれるようなライブをしたいです。あとは最初に言ったような、自分たちが演奏しているというライブ感の価値をもっと高いレベルで提示できたらなって思います。ソウルな部分を出していきたいです。

永江:普遍的な音楽のよさを感じてもらえたらいいなと思っていて。今回のEPは「ジャンルが幅広い」という話をしたんですけど、自分もジャンルを気にして音楽を聴くということをあまりしないほうで。とにかくその場にいる人全員に音楽のよさが平等に降って、年齢とか性別とか何も関係なく楽しんでもらえたらなって思います。

相蘇:毎回ライブをするときに「1本の映画を見ているような感覚になればいいよね」ということを意識してセトリを作っていますね。前回のファーストツアーをやったあとに2枚のEP(『内なる惑星』、『Town e.p』)を出しているので、次のツアーが、2つのEPのツアーになると思っていて。新しい曲がいっぱい加わった状態でツアーを回れるので、前回とは違った流れや雰囲気が出せるかなと思っています。楽しみにしていてもらえたらなって思います。

goetheが語る、良質なポップスの秘訣 映画を音楽に落とし込む感覚

goethe
『Town e.p』
配信中
http://goethe.lnk.to/townepTP

goethe 2nd Live Tour
11月1日(土) 福岡・OP's
11月3日(月/祝) 愛知・ell.SIZE
11月9日(日) 北海道・cube garden
11月15日(土) 大阪・Music Club JANUS
11月29日(土) 東京・渋谷CLUB QUATTRO
https://eplus.jp/sf/word/0000154825
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