しかし、私はパリス・テキサスの音楽は「ヒップホップとロックの融合」で片付けられるものではないと感じていた。確かにギターの導入に積極的ではあるが、それ以上にシンセも鳴らすし、いわゆるラップ・ロックに分類されるような音楽とは明らかに異なる。パリス・テキサスがシーンに登場した時期に盛り上がったエモ・ラップも「ヒップホップとロックの融合」的な音楽だったが、それともかなり方向性の違うスタイルだ。
例えば2021年にリリースしたデビュー作『Boy Anonymous』を聴いてみよう。その名も「HEAVY METAL」と題した曲もあるが、オープニングを飾る「CASINO」はロックの要素よりも透明感のあるシンセを用いたビートだ。「BETTER DAYS」はザ・ネプチューンズあたりの作風を思わせる路線で、不穏なベースが主導するスカスカの「SITUATIONS」のような曲もある。「ヒップホップ×ロック」のヒップホップの部分が独特で、ほかのラッパーたちとは一味違うように私は感じていた。
今年の2月に二週続けてリリースした二枚のEP、『They Left Me with the Sword』と『They Left Me with a Gun』にしてもユニークな作品だった。そもそも8曲入りと6曲入り、足して14曲のアルバムとしてちょうどいいボリュームの作品を分けてリリースすること自体が特殊な試みだ。ロック文脈の匂いがする曲が多いものの、『Sword』には重厚なトラップの「Dogma 25」、ニューオーリンズ・バウンス風の「Holy Spinal Fluid」などヒップホップ文脈を濃く感じさせる曲も収録していた。しかし、その形もどこか歪だ。
そんな中、9月に行われたタイラー・ザ・クリエイターの来日公演にてオープニング・アクトとして二人も来日。ライブ前にインタビューする機会を得た。パリス・テキサスのヒップホップの部分について聞く貴重な機会だ。彼らがインスパイアされたラッパー、ヒップホップカルチャー、そして不思議な二枚のEPなどについて語ってもらった。
来日公演でも披露された「HEAVY METAL」
―ラップそのものの面で影響を受けたラッパーは誰かいますか?
ルイ:陳腐に聞こえるかもしれないけど……長い間、タイラー(・ザ・クリエイター)だったね。僕のラッパーとしてのアイデンティティというか、「自分に何ができるか」という可能性を形作ってくれたのは彼だったと思う。でも時間が経つにつれて、もっとたくさんのラッパーを知って、影響も変わっていった。それにタイラーとはそこまで年齢が離れているわけじゃないから、「彼を真似しよう」と思うことはない。今は自分自身がヒーローだと思っている。でも確かに、僕のラッパーとしてのアイデンティティは長い間、彼から直接受け継いだものだった。
フェリックス:僕はどうだろうな……。
―地元LAのラッパーではいかがでしょう? タイラー以外にはいらっしゃいますか?
ルイ:ケンドリック(・ラマー)。
フェリックス:だよな。地元だったらケンドリック。間違いない。
―ケンドリックもそうですが、お二人も発声やフロウにかなりの幅があるように思っています。このカラフルなスタイルは何からインスパイアされたのでしょうか?
ルイ:正直に言うと、あれは僕たちのスタイルそのものなんだよ。普段からずっとそういう感じでやってる。僕たちと一日一緒に過ごしたら分かるよ。変な声でふざけ合ったり、変なことを言い合ったりしてる。
フェリックス:僕に関して言えば、自分の声に常に満足しているわけじゃないから、むしろ声を変えたり叫んだりする方が楽なんだ。自分の声にまだしっくりきていないからこそ、奇妙な声を出したり、わざと違うトーンを試したりするのが心地いい。だからまだ「これが僕の声だ」っていう確固たるものは見つかってないんだと思う。だからこそ曲の中で思い切り叫んだり、高音域で歌ったりするのが楽しい。結局、自分の声の本質が分からないもどかしさがあって、それをぶつけるようにして楽しんでいるところがある。
来日公演でも披露された「Lana Del Rey」
―パリス・テキサスは「ヒップホップとロックのクロスオーバー」というイメージを持っているリスナーも多いと思うのですが、シンセの響きなどにヒップホップでもロックでもない要素があるように感じています。ヒップホップとロック以外に好んで聴き、研究した音楽は何かありますか?
ルイ:時間が経つにつれて思うのは、僕たちは結局「人間の音楽」を作ってるってこと。ただすごく人間的な音楽。
―素敵な考えですね。フェリックスさんも同じ意見ですか?
フェリックス:ああ、そうだね。
最新EPについて「好きにやればいいんだ」
―今年は2枚のEPを二週続けてリリースしていました。曲数的には二つ合わせてアルバムサイズくらいですが、アルバムではなくこの形でのリリースになった意図を教えてください。
ルイ:多くの人が「何か違うことをやりたい」って言うけど、結局は誰もが納得できる無難なことしかしていない。僕たちは逆に、全然意味をなさないものを意味ある形にした。二つの別々のものを出すことで、あからさまじゃない形で多様性を示した、っていうのがひとつ。もうひとつは、僕たちは特定のルールやプログラムに従っていないってことを示したかったんだ。多くの人は「従わない」って言いながら、結局は従っている。でも僕たちは、普通のミュージックビデオじゃない映像を作ったし、普通のリリースじゃない形で出したし、普通の名前じゃないタイトルを付けた。音楽だって普通の音楽じゃない。
フェリックス:それがヒップホップなんだよ。
ルイ:本物のカウンターカルチャーってやつだ。多くの人はカルチャーに従う……それって結局、金のためだと思う。
フェリックス:そう。安心感とか安定のためでもある。
ルイ:要は「普通でいること」に対するインセンティブがあるんだ。
フェリックス:そう。みんな「自分は違う」って言いながら、普通のことばかりやりたがる。でも「違う」って言うなら、それをちゃんと見せてくれよって思う。何年も言葉だけで言い続けてるけど、そろそろ形にして見せるべきなんだ。何かを示さないと。
ルイ:そう。誰も行動に移していないんだよ。
Photo by Zhamak Fullad
―二枚のEPは制作時期が重なっているかと思うのですが、どのような基準で曲を分けたのでしょうか?また、その基準と『Sword』『Gun』の関係を教えてください。
ルイ:録音の時期は重なっていて、2枚のEPに入れる曲を決めるときに、僕たちの中の二面性みたいなものがすごく出ていたと思う。ルイとフェリックスっていう分け方じゃなくて、もっと細かく「自分たちの半分」みたいな感じ。どっちも僕たちの中にあるもうひとつの人格を表している。だから「分裂的」な作品なんだよね。この一面にアクセスできる、あの一面にもアクセスできる、みたいな。だから『Gun』を聴いてもらうと、よりインディ的な要素が強い。どっちも、まあまあ落ち着いてはいるけど、例えば「Twin Geeker」はかなり突発的な曲だし、「Superstar」もそういう感じで全体的にもっと散漫で多方面に行ってる。逆に先行の『Sword』EPは、すでにパリス・テキサスを知ってるファンが「こういうのを期待しているだろうな」という感じの仕上がり。要は入門編みたいな位置づけなんだ。だからタイトルも『Sword(剣)』が伝統的な武器、『Gun(銃)』がもっと進化した武器、というイメージに繋がっている。
―確かに『Gun』の方がよりインディ寄りな印象がありました。
ルイ:そうだね。『Gun』の方が歌が多いし、変な声やギターももっと入ってる。ラップするときも、ただ楽しむだけじゃなくて、明確な意図を持ってやってる。曲のテーマもあるし、何かに向けて狙いを定めている感覚があるんだ。一方で、『Sword』は「楽しくやろうぜ」みたいな感じだった。最後の曲くらいかな、ちょっとメッセージ性というか、明確な意志の過程があるのは。だから『Sword』はフリーフォームなパリス・テキサスで、『Gun』は僕がもっと歌に挑戦してる作品なんだ。
―逆に『Sword』はトラップやニューオーリンズ・バウンスなどの要素があり、ヒップホップの部分がキーになっている作品のように感じました。この作品の曲を作るにあたって、影響を受けたヒップホップアーティストは誰かいますか?
フェリックス:当時は誰を聴いてたっけなあ?
ルイ:うーんどうだろう?おそらく僕たち自身だね。だってあの頃はとにかくめちゃくちゃ曲を作っていたから。
フェリックス:マジでたくさん作ってた。
ルイ:あれは本当にすごかった。
フェリックス:「Holy Spinal Fluid」に関しては、マスター・Pだよ。だからニューオーリンズの要素が出てるんだ。そこはまさに指摘どおり。マスター・Pの影響は間違いなくあるね。
インタールードで作る過去の作品との繋がり
―二枚のEPはどちらもSEからスタートしますよね。『Sword』のオープニングは剣の音というよりは銃声のように聞こえたのですが、これは何を表しているのでしょうか?
ルイ:『Sword』に入ってるのは雷の音なんだ。
フェリックス:雷と稲妻。聴き直したら「ああ、確かに」って分かると思う。だから雨の音も入ってるんだ。
ルイ:そう、雨が降ってる。もっと言うと『Sword』の冒頭は「呪文にかけられてる」感じなんだよ。
―なるほど。『Sword』は『Gun』と違ってインタールードが入っていますよね。
ルイ:あれは別のEPでやっていた物語を完結させるためのものなんだ。
フェリックス: そう、あの声ね。『Red Hand Akimbo』(2021年)に出てきた声がまた戻ってくるんだ。
ルイ:そう、それをここに入れたんだよ、へへへ。「ああ、これ入れたら面白いじゃん」って感じでね。
フェリックス:あのインタールードのタイトル(「Boyz II Men」)も大好きなんだ。話してる内容も面白いし、それにリンクしてるのが最高で。唯一後悔してるのは……(あのインタールードを入れたことで)曲数が増えてApple Musicで配信するときに、EPとして扱われなくなって、アルバム扱いになっちゃったことかな。でもあのインタールードは本当に気に入ってる。
ルイ:なんてタイトルだっけ?
フェリックス:「Boyz II Men」。
ルイ:「Boyz II Men」、めっちゃいいよな。
フェリックス:そう、めっちゃ面白い。だから結局「唯一のインタールード」ってことになるけど、実は各曲にはそれぞれちょっとしたインタールードがついてる感じなんだよ。あれは特別に分けた。確か「Tantrum」だったかな?あの曲にくっつけたくなかったんだ。だってそうしたら8分とか9分になっちゃうから(笑)。
ルイ:それに、スキット(寸劇)に否定的な人って結構いるからね。入れると混乱するんだよ。
フェリックス:それもあるね。
ルイ:そう。僕たちはときどきスキットを入れたり、話し声を曲に挟んだりする。でもDJセットでそういうのは流せないから、人は「これどうやって扱えばいいんだ?」って戸惑うんだよ。プレイリストに入れるときも変に思われる。だから「Tantrum」と「Holy Spinal Fluid」というかなり出来の良かった二曲の間に、独立したインタールードを入れたんだ。マジで最高な判断だったよな。
フェリックス:めちゃくちゃ面白い。
ルイ:僕たちがやった中で一番好きなことのひとつだよ。めっちゃウケるし。バックの音も「ウウーーープ」みたいな感じで(笑)
フェリックス:ちょっとテクノっぽくて面白いんだよな。
―タイトルも最高です。
フェリックス:だよな(笑)
Photo by Zhamak Fullad
制作方法と二人の絆
―制作のプロセスはこれまでどのように行ってきたのでしょうか?お二人で一緒にスタジオに入っているんですよね。
ルイ:うん、一緒にスタジオに入ってるよ。けっこうランダムなんだけどね。
フェリックス:そうだね、だいぶ変わってきてる。
ルイ:毎日のように変わるんだ。ある時はこう、別の時はこう、みたいな感じで。僕たちはルールに縛られるタイプじゃないし、正直あまり規律を守れるタイプでもない(笑)。だから常に変わっていく。
フェリックス:時間をかけてどんどん変化してきたね。ただ一貫してることのひとつは、ルイがずっとプロデュースをやってきたから、僕のプロダクションへの関わりはそこまで多くないってことかな。僕はいつもタイミングを待っていて、「ここからどう展開していくか」「どうやって全体をまとめていくか」を考えてる感じ。初期の頃はコラボレーターが誰もいなくて、全部ルイがエンジニアをやって、ビートを作って、僕と一緒にラップしてくれてた。だから彼がずっとコントロールしていたんだ。最近はもっと人とコラボするようになって、僕たちのプロセスを他の人にも紹介するようになった。別に独占したいわけじゃなくて、むしろ僕ら以外の人とどうやってコラボするかを学ぶ時間が必要だったんだと思う。二人だけでずっとやってきたからさ。前はそこまで自由度もなかったんだよ。今みたいに、ループをかけて、マイクを回して、誰かがブースに入って…みたいな自由さはなかった。大体のエンジニアリングはルイがやってて、僕が少しやることもあったけど、80~90%は彼がやってたんだ。ボーカル処理も、できる範囲で彼がベストを尽くして形にしてた。でも今はもっと変化がある。僕がスタジオに入る前に曲の大部分ができてることもあれば、一緒にいるときにゼロから作り始めることもある。とにかく常に変わり続けてるんだ。今はある程度うまく回る制作フローを見つけられたと思うけど、次に会うときにはまた変わってるかもしれないね。
―ヒップホップではデュオやグループでも並行してソロ活動を行うケースがたびたびありますが、パリス・テキサスは一貫してデュオとしての活動のみを続けている印象があります。それはこだわりなのでしょうか?
ルイ:うーん、今のところはね……僕はフェリックスなしで何かをやりたいなんて思ったことは一度もない。彼は本当にすごいし、僕たちの間には完璧なダイナミクスがあると思うし、フェリックスは信頼できる存在なんだ。僕たちの音楽は、振り返って聴いても「これはいい」って思えるものなんだけど、それはフェリックスと一緒にやってるからなんだ。自分ひとりでやることに関しては、もう全然興味がない。注目を全部自分に集めたいなんて欲もなくなったし、求めてもいない。ただこうして「兄弟」みたいに一緒にやってるのが最高なんだよ。もう12年の付き合いになるけど、ずっと「やろうぜ」って言い合って続いてきて、しかも上手くいってる。逆に別々で活動していた時期は全然うまくいかなかった(笑)。まあ、もしかしたらいつかフェリックスが「ソロ活動する」って言ったら、僕は「はあ?なんだよそれ!?」とは言わないと思う。むしろ「ああ、いいじゃん」ってなるだろうね。そしたら僕は普通の仕事を探すかもしれないし、A&Rをやるかもしれない。自分ひとりで音楽をやろうとは思わない。ひとりでステージに立つとか、ひとりでMVに出るとか、全然やりたいと思えないんだ。僕にとっては、ただこの「兄弟」と一緒にやってるのが楽しいんだ。
フェリックス:うん。そうだね(始終頷いている)。
―お二人の強い絆を感じます。振り返ってみると、キャリアのターニングポイントはいつだったと考えていますか?
ルイ:以前は違う答えをしていたんだけど、今は……まだターニングポイントを待っている感じがする。キャリアを積み重ねれば積み重ねるほど、「まだその瞬間には届いていないんだな」と思うようになった。だから、まだその時を待っているんだ。
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―今後の活動予定について、答えられる範囲で教えてください。
ルイ:正直に言うと……僕たち自身もまだ分かってないんだ。
フェリックス:僕たち、8か月ずっとツアーに出てたからね。
ルイ:ああ、でも「Camp Flog Gnaw」(※タイラー・ザ・クリエイター主催のフェス、11月中旬開催)があるな。
フェリックス:そう、ロサンゼルスでやる「Camp Flog Gnaw」に出るんだ。タイラー主催のフェスだよ。LAでやる。僕たちはもう1年くらい家に帰ってないんだよ。正直言うとさ、「未来予想」みたいなことをバットマンみたいにかっこよく言えたらいいんだけど、実際は長い間ツアーで出っぱなしだった。だからレコーディングもあんまりできてない。やってはいるけど、そんなに多くはないんだ。
ルイ:でも、またスタジオに戻ってやるよ。僕は楽しみだね。
フェリックス:とにかく次に控えてるのは今日のショウ(タイラー・ザ・クリエイター来日公演のオープニング・アクト)だよ。このツアーを終えて、「Camp Flog Gnaw」に出て、そしたら家に帰る。僕は住む家を探さなきゃいけないし、たぶん僕たち二人ともそれぞれ住む場所を見つけないといけない。だからそういうことを考えてるんだ。それが今後の予定だね。
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Photo by Zhamak Fullad
Paris Texas
『They Left Me With The Sword』
配信:http://orcd.co/tlmwts
『They Left Me With A Gun』
配信:https://orcd.co/tlmwag


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