2025年10月5日(日)、大阪発の3ピースピアノロックバンド・606号室が東京・Spotify O-Crestにて「祝祭宣言」を開催した。この先に待ち臨む未来を明るいものにするのだと、これから更なるパーティーを始めていくのだという誓いを掲げた本公演。
対バンに迎えたYUTORI-SEDAIの金原遼希と昇栄が対談で「多くの人に広がる音楽やポップスっていうジャンルが一番格好良いってことを知らしめたい」という旨を語り合ってくれた通り、ポップスの熱を見せつけた日曜の真っ昼間、ここではYUTORI-SEDAIからバトンを受け取った606号室のステージをレポートする。

開幕から数秒、空気をたっぷりと含んだ甘美な昇栄の歌声が会場を満たした。このお祭りの始まりを告げるのは「ごめんね、愛してしまって」だ。インタビューにて3人が「初心を思い出す曲」と話してくれた同ナンバーは、ゆうあ(Ba,Cho)が加速させるアッパーなビートに乗せて、彩度の高いシンセサイザーが駆け巡っていく一曲。絶対を誓い合い、薬指を予約していた存在の喪失を経て、<どうせ忘れるなら 最初から恋なんてしないで>という終の一句へ収束していくこの歌をオープニングに据えたのは、数十分を通じてこの一行をひっくり返すためだったのではないか。もう恋なんてしないと思うほどに深く傷つけられても、「今度こそは」なんて懲りずに恋に落ち、運命を信じ直してしまう。606号室はそうした論理も成立していない不格好な営みに人間の愛おしさを見出し、甘くかすれた唱法や華やかなアンサンブルへと翻訳しているのだ。

606号室、YUTORI-SEDAIと共に示したポップを鳴らすバンドの誇りと覚悟

昇栄

そのスタイルが克明に表出した作品が公演の4日前にドロップされた2nd EP『-依依恋恋-』だったわけだが、彼らの紡ぐラブソングの矢印は、昇栄が「今日はあなたにラブソングを歌う。ラブソングは大衆に向けて歌うんじゃなくて、あなた1人のために歌う歌」と放った通り、ひたすら君を指している。流星が降り注ぐ星空をイメージさせる円花(Pf,Cho)のフレーズから「今日という日を、あなたと作るこの時間を、愛す気でいるよ」と雪崩れ込んだ「君のことは」だって、愛は呪いに似ていると知りながらも薄れない思い出を張り上げる「君は悪魔」だって、その宛先は全てを知り切ることはできなくとも、全部を抱きしめたいと願ってしまうあなたにほかならない。

606号室、YUTORI-SEDAIと共に示したポップを鳴らすバンドの誇りと覚悟

円花

YUTORI-SEDAIとの出会いを語ったのち、「金ちゃん(金原)と対談をした時、彼はポップスで世界を変えるって話していて。ライブハウスにはライブバンドがいるけれど、ポップスというジャンルにはライブバンドがいないと思われているのが悔しいんですよね。
だから今日は、ポップスをやっているバンドとして、楽しい時間を作れたら良いなと思います」と走り始めた中盤戦では、一挙手一投足がくすぐったい幸福のてっぺんから音を断って崩れ去った暮らしまでが一本の線で結ばれていく。兵隊の足音を喚起するアコースティックギターとマーチングビートでくたびれない1日先へ進もうとする「靴下と生活」や、「今日はあなたの恥ずかしいところも、だらしないところも見せてってほしい!」と転がり込んだ「だらしない 2 人」、はまらなくなっていったピースとビリビリになったアルバムを綴った「未恋」。クラップもシンガロングもどんと受け止める器の大きさを備えた楽曲群を終え、「完璧じゃなくたっていい。完璧じゃない君だから、俺はあなたにラブソングを歌うんだよ。君はそのままで十分美しいから」と「色取り」が届けられる。<カラフルじゃなくたって 汚れたって 忘れ去っても 大丈夫 君はとっくに僕の光だよ>と泥まみれになったあなたを包み込むこの歌は、ラブソングであってラブソングじゃない。なかなかさらけ出せないドロドロな気持ちも邪な思いも全てを受容し、肯定するファイトソングでもあるのではないか。

606号室、YUTORI-SEDAIと共に示したポップを鳴らすバンドの誇りと覚悟

ゆうあ

何であろうとも輝きは損なわれないのだと真っ直ぐに伝えたからこそ、「完璧じゃなくて、少し欠けたところもある君だから、俺はそこに自分の不器用な歌を届けたいし、あなたの寂しさを埋めたいと思う。そのままでもここから見えている君は美しいから。だから、どうかそのままの君でいてほしいです」とラストを飾った「アンリッシュ」も一層強固に打ち鳴らされる。旗を振るようにオーディエンスが腕を左右に振る中、<もっともっと先の未来を進もうよ><そうさ、前向いて歩こうよ>といくつものトーチが灯されていく。<君がくれたあの大きな夢は>の1ラインに合わせ、バックドロップを指差した昇栄の姿は、「共に行こう」と力強く語っていた。


アンコールでは、イベント名に似つかわしく東名阪を巡る2マンツアーと東京での初ワンマンを発表し、「スーパーヒーロー」と「抱きしめてやる」をプレイ。汗と涙でグチャグチャになった顔を見せ合える関係でいることを、そして泣いている君の手を取り続けることを約束し、栞を最終ページに挟んだ。ポップを大切にした1日を、音符で埋め尽くした五線譜でロックバンド然とした態度を示す「ごめんね、愛してしまって」でスタートさせ、「アンリッシュ」と「スーパーヒーロー」、「抱きしめてやる」で締め括った意味。それは間違いなく、606号室はロックバンドであり続けるという覚悟の表象だったと思う。しかし、「靴下と生活」から「色取り」までの数十分をはじめ、結ばれた手から次第に日々がこぼれ落ちていく様子を描き出す筆致は、一貫して華やかであり、強固なポップネスに満ちていた。つまり、現在の606号室はロックバンドであることと、お茶の間へと到達するレンジを備えることの双方に挑戦している最中なのだろう。であるならば、自らの名前とロックを掛け合わせた表題を掲げた次なる挑戦の舞台『ロクマルロックツアー2026』は、606号室にとってのロックとポップを問い直す旅路になるはず。さらに多くの人の隙間を埋めるミュージックを彼らは鳴らしてくれるだろう。もちろん、1対1で対峙することは忘れずに。

606号室、YUTORI-SEDAIと共に示したポップを鳴らすバンドの誇りと覚悟


セットリスト
1. ごめんね、愛してしまって
2. 君のことは
3. 君は悪魔
4. 靴下と生活
5. だらしない 2人
6. 未恋
7. 色取り
8. アンリッシュ
En1.スーパーヒーロー
En2.抱きしめてやる

<ライブ情報>

2026年東名阪2マンツアー&東京初ワンマンライブ開催決定!
606号室「ロクマルロックツアー 2026」
2026年
1月17日(土)名古屋 RAD SEVEN
1月24日(土)大阪 LIVE SQUARE 2nd LINE
2月1日(日)東京 MOSAiC
※各箇所2マンライブ・ゲスト後日解禁

ツアーファイナル(東京初のワンマンライブ)
3月27日(金)東京 Spotify O-Crest

チケット申し込み受付中 https://eplus.jp/room606/
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