リリースから2年半後に日本のリスナーがYouTubeに投稿した和訳動画をきっかけにSpotify JapanのViralチャート13位にランクインするという異例のヒットを記録した「LALALALALALALALALALA」で知られるチェコ出身のアーティスト、ミコラス(MIKOLAS)。ラジオでの共演がきっかけで、SKY-HIとのコラボ曲「LALALALALALALALALALA(Tokyo Version)」を昨年リリースしたことも記憶に新しいミコラスが、1年半ぶりの2ndアルバム『Ⅱ』をリリースした。
ポップスが多く収められていた1stアルバム『ONE』から一転、力強いビートが特徴的なラップ曲が大半を占める。ダークでアダルトなムードに包まれ、リリックで描かれるのは権力や富を手にしたことで起こる変化に対する痛みや皮肉だ。待望の日本初のショウケースの前日、ミコラスにインタビューした。

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―2ndアルバム『Ⅱ』は「オルター・エゴ(もう一人の自分)」というテーマを深く掘り下げています。そのような方向性になったのはどうしてだったのでしょう?

ミコラス:2018年に母国であるチェコの代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場した頃の曲がそのような方向性でした。なので新しいテーマを見つけたというよりは、その頃に戻ったという感じです。僕は何年かの周期でフェーズが変わるんです。前作の1stアルバムはシンガーソングライターのポップス的な要素が強かったけど、今回はその前のフェーズに戻ったんだと思ってください。そうやって行き来しているんです。

―今作のサウンドはポップというよりは、ダークでアダルトなヒップホップ色が強い曲が多いですよね。

ミコラス:そうですね。キャリア初期に2曲くらいラップでストーリーを紡ぐような曲を出したのでその頃の質感に近いのかもしれません。
ポップスは曲の構成や歌詞がとても厳密で、押韻も含めて歌詞がちゃんとメロディにフィットしなければいけません。それと比べてラップはとても自由です。今回のアルバムはとてもパーソナルな歌詞が多くなりそうだったので、ラップの方が合うと思ったんですよね。

―先行公開されたリード曲「MAZZALEEN」は力強いビートが印象的なキャッチーなラップ曲ですが、どんなイメージがあったのでしょう?

ミコラス:東ヨーロッパ的なテイストとUKのビートの組み合わせが良いなと思ったのもリード曲にした理由のひとつです。特にラップにコーラスが重なるパートは今回のアルバムを象徴しているなと思いました。あっという間にできた曲で、そういう曲は結果的に良い曲になることが多いんです。

―東京と京都への移動も含めて、成功を手にしたことによるライフスタイルが描かれています。どんな想いを込めた歌詞なのでしょう?

ミコラス:しっかり聴いてくれて、ありがとう。日本には何度も行ってるので自然と出てきたんでしょうね。例えば「LALALALALALALALALALA」をリリースしたキャリア初期の頃は、軽やかで自由な曲が多かったけど、ストレスや何か問題を抱えているとそういう方向の曲が生まれることが多いんです。でも今回は逆で、もう一人の自分を深く掘り下げる方に行きました。何か問題にぶつかって突き進むというよりはもう一人の自分に委ねてみる。
僕の曲を聴いてくれる皆さんも、悩むのではなく今聴いてる音楽を楽しんでほしいですね。

―痛みが描かれた曲もありますが、そういった曲も痛みに引っ張られずに音楽として楽しんでほしいという想いがあるということでしょうか?

ミコラス:今年の頭に出したファンマガジンで自分のクリエイティブが生み出される流れを掲載しました。さまざまな問題を解決する方法はいくつもあって、まずは徹底的に痛みを味わって乗り越える。あと、痛みを抱えながら、気持ちを正反対の方向に持って行く。今回のアルバムはまさに後者です。仕事のことや大事な人とのいろんな問題を抱えていても、このクラブでのパーティーに映える曲を聴いて痛みから解放されてほしい。それが今作の一番の目的であり、達成できるんじゃないかと思っています。

―「MAZZALEEN」のAメロの「Cobain, I lost my head again」という歌詞の「Cobain」はカート・コバーンのことですか?

ミコラス:カート・コバーンからインスピレーションを受けたわけじゃなくて、単に響きが良かったからなんです(笑)。「I lost my head again」はクイーンの「Dont Lose Your Head」に掛けたところもあります。ラップはそうやって唐突に変な言葉を入れることもできるし遊び心が発揮できますよね。

ミコラスが語る、セラピーとしての創作とアルバム『Ⅱ』──痛みを音楽へと変えて


痛みを音楽に変える──”セラピーとしての創作”

―2年前に話を伺った時、「曲作りは自分にとってセラピーとしての意味合いがある」とおっしゃっていました。それについて何か変化はありますか?

ミコラス:変わってないですね。
「Right Here」という曲は普段のインタビューではあまり話さないような家族との問題を書いた曲ですし、「Diamonds」はメジャーレーベルとサインしているアーティストの多くが抱えるであろう葛藤を描いてますが、触れ辛い問題を真正面から描いた曲が多いということもあり、これまでで最も”セラピー”として曲作りができた気がします。

―歌われていることは生々しいことが多いですが、サウンドはとても快楽性が高いですよね。

ミコラス:まさにその通りだと思います。

―「FROM THE BLOCK」はジェニファー・ロペスの「Jenny from the Block」が引用されていますが、どういう経緯があったんでしょう?

ミコラス:「Jenny from the Block」は幼い頃から馴染みのある曲です。最初ビートに「Jenny from the Block」のハマっていて、そこから別のフックに変えようとしたんですが、なかなかうまくいかず、「Jenny from the Block」のフックにバリエーションをつけることにしました。この曲も今回のアルバムの中で好きな曲のひとつです。僕の子どもの頃の思い出と現在をうまく融合させられた曲です。

―新旧問わず幅広い楽曲を聴くと以前話していましたが、今気に入ってる曲やアーティストは?

ミコラス:僕はまず2年間はずっとギターと歌での路上ライブをやっていましたが、そこからラップをやったりロックを探求しました。やっていることは変わってるけど、ずっと幅広くいろんな楽曲を聴いていますね。最近はこれまであまり知らなかったチェコのクラシック作曲家の作品も聴いています。あとエリカ・バドゥや、日本のファンの方がSNSでいいねをしていたことがきっかけでXGの曲も聴いています。今、僕がよく聴く曲のトップ5を挙げてみたら全然違うジャンルの曲が混在していると思いますね。


ミコラスが語る、セラピーとしての創作とアルバム『Ⅱ』──痛みを音楽へと変えて


―まもなく初の日本でのショウケースが行われますが、どんな時間にしたいですか?

ミコラス:いつもはバンドがいますが、ショウケースということもあって通常のセットは組めません。でもワクワクしていますし、長く待ってくれていた方もいるのでもっと早いタイミングでできたら良かったなと思います。今回のアルバムの曲もやりますし、Q&Aコーナーもあるし、20名のファンの方とのミート&グリートもやります。規模は小さいですが、今後のライブの予告編になるような、僕を深掘りするショウケースにしたいですね。

ミコラスが語る、セラピーとしての創作とアルバム『Ⅱ』──痛みを音楽へと変えて

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