フジロック '24のライブ写真(Photo by Kazma Kobayashi)
1. 『Lives Outgrown』が掛け値なしの大傑作だから
どんな過去の栄光を誇るアーティストであっても、いま現在の姿が魅力的でなければ、そのライブの価値は大きく削がれてしまう。その点、ベス・ギボンズは「いま」観ることに意義がある。なぜなら、彼女が約10年の歳月を要して完成させた初のソロアルバム『Lives Outgrown』(2024年)は掛け値なしの傑作だからだ。
リリース時にThe Guardianで5つ星満点、Pitchforkで8.0という高得点を獲得。その年の年間ベストではTimeで1位、MojoとUncutで3位の栄冠に輝いている。欧米の有力メディアの評価はすこぶる高い。
だが、それも当然のことだろう。このアルバムで彼女が探究したのは「ウッディな=生楽器の質感にこだわった暖かみのある」サウンド。「ブレイクビーツやスネア」も使いたくなかったという。これはつまり、エレクトロニックなサウンドで、ブレイクビーツやスネアの使い方に特徴があるポーティスヘッドとは全く異なる、彼女独自の音楽的アイデンティティをソロでは確立したかったということだ。
また、このアルバムは還暦を目前にしたギボンズが自身の老いに向き合った作品でもある。約30年前、彼女はポーティスヘッドの「Glory Box」で、恋愛や女性性の在り方についての苦悩を痛切に歌っていた。だが、本作では更年期の精神的苦しみを吐露し(「Oceans」)、徐々に実感を帯びて迫りくる人生の最期に想いを馳せている(「Floating On A Moment」)。この『Lives Outgrown』にはリリース当時59歳の彼女だからこそ歌える歌が詰まっている。それは間違いなく、作品に深い説得力と重厚さを与えている。
2. ポーティスヘッド再評価/神格化の追い風が吹いているから
音楽家として充実期にあるだけでなく、時代を味方につけ、追い風を受ける──それはアーティストにとって一番幸福なことだが、いまのギボンズはまさにその状態にある。周知の通り、近年はポーティスヘッドの再評価と神格化が大きく進んでいる。
古くはザ・ウィークエンドにサンプリングされ、近年はケンドリック・ラマーの『Mr. Morale & the Big Steppers』(2022)にギボンズがフィーチャリングされるなど、ヒップホップ/R&B文脈ではポーティスヘッド再評価が活発。その文脈については、こちらの天井潤之介氏の原稿に詳しい。
ここでは、ポーティスヘッドはいわゆるサッドガールの文脈でも尊敬の念を集めていることを付け加えておく。ラナ・デル・レイやロードがポーティスヘッドの影響下にあるのはよく言われてきたこと。
Billie via her Instagram Story! pic.twitter.com/SWHJmooZt5— Billie Eilish Tours (@billieeilishtrs) February 11, 2024ビリー・アイリッシュがポーティスヘッドを聴いている動画
今年9月にロンドンで開催されたパレスチナ支援チャリティ・コンサートTogether For Palestineにて、ポーティスヘッドが再び集結したのを知る人も多いだろう。バンドとして演奏したのは3年ぶりなので、そこまで長いブランクが空いたわけではない。しかも今回、彼らは会場に姿を見せず、事前収録された「Roads」のライブ映像が流される形だった。それでもこの「復活」が大きな話題を呼んだのは、現在の再評価の機運があってこそだ。
Together For Palestineでのライブ映像
3. 生で体験すべき「あの声」と変幻自在のバンドサウンドが待っているから
昨年のフジロックでギボンズのライブを観た人ならば知るように、彼女はライブパフォーマンスも絶品だ。筆者も現場で観ていたが、何より印象的だったのは30年のキャリアを経ても変わらぬ「あの歌声」の美しさ。それは冷たい夜の空気のように清廉としていながらも、どろりとした情念がその奥から滲み出し、まるで絶望の淵から響き渡ってくる泣き声のようでもある――無論、年相応の深みが増しているが、基本的には驚くほどすべてが変わっていない。
フジロック '24のライブ映像
そして彼女が引き連れている7人の大所帯バンドも圧巻だ。「Floating on a moment」では溜息の音やギターの弦を擦る音などを効果的に使い、繊細で緊張感のあるサウンドを構築。
Photo by Kazma Kobayashi
『Lives Outgrown』ではウッディなサウンドを目指したというだけあり、ベース以外はアコースティック/セミアコースティック楽器が主体。だが、7人編成で、しかもハワード・ジェイコブスが一曲の中で何度も楽器を持ち変える八面六臂の活躍を見せることもあり、ライブでは音の彩りが豊かで、必要なときはしっかりとした音圧が感じられる。ただしエレクトロニックの楽器が最小限のため、耳当たりは優しい。そうした音響/音色への考え方ひとつ取っても、現行のポップともラップともロックとも明らかに違う、ギボンズの独創的な美意識が通底したライブだと言える。
その素晴らしさを存分に味わうには生で観てもらうしかない。だが先日アップされたシドニーオペラハウスでのフルライブ映像で、その一端を垣間見ることは出来る。
シドニーオペラハウスでのフルライブ映像
4. ポーティスヘッドの大名曲が2曲も聴けるかもしれないから
ギボンズのライブのセットリストは、もちろん『Lives Outgrown』の曲が中心。それだけでも十分過ぎるほど充実した体験になるが、やはりポーティスヘッドの曲も生で聴きたいというのが多くのファンの本音だろう。
それに応えるように、彼女のライブではポーティスヘッドの「Roads」がほぼ毎回披露されている。
これだけでも大サービスなのだが、なんと最近のライブでは「Roads」に加え、「Glory Box」も頻繁に演奏されているのだ。フジで聴けたのは「Roads」だけだったが、今回の来日では「Glory Box」も聴ける可能性はかなり高い。この貴重な機会を逃す手はないだろう。
5. ライブを堪能するのに最高の環境が用意されているから
今回の来日公演は、東京会場のすみだトリフォニーホールだけでなく、通常はスタンディングの大阪会場Zepp Nambaも全席指定の着席公演。彼女のライブが持つ深遠な音世界にじっくりと浸るには、最高のシチュエーションが用意されている。
そして、すみだトリフォニーホールと言えば、都内でもトップクラスの音響と名高い会場。一流のオーケストラも公演を行うなど、特にアコースティックな音楽を聴くのに最適なホールだとされている。ここがギボンズのウッディなサウンドと相性抜群なのは言うまでもない。
フジロックのグリーンステージで、徐々に夜が深まっていく時間帯に観る彼女のライブも絶品だった。だが今回の単独公演では、それとはまた違った感動が私たちを待っているに違いない。
すみだトリフォニーホール公式サイトより引用
Beth Gibbons Japan Tour
【東京公演】
2025年12月1日(月)・12月2日(火)すみだトリフォニーホール
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:全席指定
SS席:前売 ¥16,000
S席:前売 ¥13,000
A席:前売 ¥11,000
【大阪公演】
2025年12月3日(水)Zepp Namba(OSAKA)
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:全席指定
SS席:前売 ¥16,000
S席:前売 ¥13,000
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4429
ベス・ギボンズ
『Lives Outgrown』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13902
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