2025年は日本のオルタナティブなバンド・シーンに地殻変動が起こった一年となった。2010年代後半からライブハウスでジワジワと盛り上がりつつあったエモ・リバイバルの火が、パンデミックの影響で一旦鎮火したかと思いきや、SNSの力によってむしろ燃え上がり、そこに羊文学の国内外でのブレイク、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』による下北沢ギターロックの再評価、the cabsの再結成による残響レコードへの注目の高まりといったトピックも加わることで、シーンがさらに活性化。
パンデミックの前後に結成されたyubiori、ひとひら、雪国などがそれぞれ印象深いアルバムをリリースしたが、その最前線を走ってきたのが9月に1stアルバム『kurayamisaka yori ai wo komete』を発表したkurayamisakaだったことは間違いない。全国6ヶ所を回ったワンマンツアー『kurayamisaka tte, doko? #6「くらやみざかより愛を込めてツアー」』のファイナル、11月9日に川崎クラブチッタで開催された公演は、それを証明するような素晴らしいライブだった。

kurayamisakaがツアー完走、圧巻の演奏とアジカンのカバーで示した「過去と未来を繋ぐ」意思


開演時刻を過ぎ、メンバー全員がラフなTシャツ姿で登場すると、ステージ後方で手を合わせて、掛け声をかけ、清水 正太郎が「全国各地を回ってきましたが、今日がファイナルです」と挨拶。たっぷりのフィードバックノイズからアルバム同様に静と動のコントラストが鮮やかな「kurayamisaka yori ai wo komete」でライブがスタートした。序盤はアルバム同様の曲順で、「metro」から一気にギアを上げると、「今日は日曜日ということで」と言って披露された「sunday driver」ではメンバー全員で飛び跳ねて、高い熱量が伝わってくる。

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僕がkurayamisakaのライブを初めて見たとき、ギターやベースを頭上に掲げたり、腕を振り回し、飛び跳ねるステージングが「2000年代の残響レコードのバンドみたいだな」と思ったことを記憶している。ただ、当時の9mm Parabellum Bulletや、kurayamisakaと同じトリプルギターのmudy on the 昨晩のライブが破綻寸前の激しさだった(ときには本当に破綻して、怪我をすることも少なくなかった)のに比べて、kurayamisakaのライブは激しいけれども破綻はない。特に、ギターの清水とフクダリュウジ、ベースの阿左美倫平がテンションの高い演奏を見せる中で、ドラムの堀田庸輔がタイトなプレイでアンサンブルを引き締めつつ、出るところではしっかりパワフルなのがとてもいい。堀田がミューズをフェイバリットに挙げているのも納得だ。

また、トリプルギターというのは比較的珍しい編成ではあるが、ちゃんと音が棲み分けられていて、バンド全体の出音もよく、結成から3年で1stアルバムを出したばかりとは思えない完成度を感じた。2000年代のバンドがキャリアの同時期にこのクオリティを出せていたかといえば、決してそうではなかったように思う。そこはやはりインターネットによる情報の集積や、デジタルによるツールの進化が影響しているはずで、kurayamisakaが1990年代や2000年代のバンドの焼き直しではなく、あくまで2020年代のバンドであることを強く印象付けていた。


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「俺のダチ(清水が「せだい」でともに活動する佐久間ゲンソウ)が作った歌」と紹介された「modify Youth」では清水も歌い、途中で合唱が起こる場面も。最初の4曲は新作からの曲が順番に披露されてきたが、ここで2022年発表のEP『kimi wo omotte iru』の収録曲である「curtain call」と「seasons」が続けて披露されると、バンドを長く見続けてきたであろうオーディエンスからは一際大きな歓声が上がる。また、MCで清水がアルバムについて、「せっかく音源として残るなら、10年後、20年後、もしくは僕たちが死んでからも、誰かがどこかでいつか見つけてくれて、僕たちがCDを通して受けた衝撃と同じようなものを与えられたらなという気持ちで作りました」と話し、場内からは温かな拍手が贈られていた。 

ライブ中盤はミドルテンポの「nameless」から、内藤さちがアコギを持って歌う「evergreen」へ。やはり彼女の歌声が歪んだギターサウンドと並んでバンドの軸であり、個人的には元ハイスイノナサで、現在はösterreichにも参加する鎌野愛を連想したりもするのだが、「kurayamisaka tte, doko?」の元ネタである乃木坂46の曲にも通じる清涼感と、確かなエモーションを併せ持ち、バンドの世界観を見事に体現している。もう一曲EPからの「farewell」を挟み、NUMBER GIRLの「YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING」を連想させるイントロからしてニヤリとさせられる「sekisei inko」では清水とフクダのギターをフィーチャーしたりと、メンバーそれぞれに見せ場がある構成もよく練られている。

kurayamisakaがツアー完走、圧巻の演奏とアジカンのカバーで示した「過去と未来を繋ぐ」意思


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MCで清水が「kurayamisakaというバンドは狭い界隈では知ってる人が多いかもしれないけど、きっと街に出たら、一人も知らない、そんなバンドだと思うんです。学校とか職場とか、クラスに一人いたら、いい方なんじゃないかと思ってて。でもそんな、クラスに一人、職場に一人、そういう一人ずつが今日ここに集まってくれた、この尊い事象を大切に思ってます」と感謝を伝え、「まあゆくゆくはね、クラスに3人くらい知ってる人がいたら嬉しいな」と笑顔で話したのもとても印象的。僕はこのMCを聞きながら、先日両国国技館で行われたtoeの25周年記念のライブにつけられたタイトル「この世界のどこかに居る、僕に似た君に贈る。」を思い出した。toeはもちろん日本のポストロックの、インディロックの代表格なわけだが、同日にはオアシスの来日公演が東京ドームで行われていて、世間的な注目度は間違いなくオアシスの方が上だった。しかし、だからこそ、あの日に国技館に集まったオーディエンスの精神的な一体感は特別なものがあり、この日のクラブチッタにもどこか近しい雰囲気があったように思う。


「weather lore」からのライブ後半戦では「ハイウェイ」で内藤が再びアコギを持つと、弾き語りの「theme (kurayamisaka yori ai wo komete)」を経て、バンドの世界観が凝縮された「jitensha」へ。スケールの大きなイントロから、延々と轟音がかき鳴らされる長尺のアウトロに至るまで、この曲でこの日のクライマックスを記録。内藤が「こうしてたくさんの人が見にきてくれること、バンドができること、本当に奇跡だと思っています。私たちを見つけてくれたみなさんに愛を込めて、最後の曲をやります」と話して、本編ラストでは「あなたが生まれた日に」が披露された。轟音の中のモノローグから、最後にフッと音が消え、「kurayamisaka yori ai wo komete」という一言で終わる流れが実に映像的であり、途中にEPからの曲を挟みつつ、ライブ全体がアルバムの曲順通りに構成されていたのは、アルバムで描いたストーリーをライブでも再現するというバンドの強い美学が感じられるものだった。

アンコールでアジカンのカバーを披露

アンコールでは清水が「せっかくファイナルということで、何か特別なことができたらと思って」と話し、「今の僕がここに立っているのは、14歳の頃にとあるバンドに出会って、そこから人生の道を踏み間違えてしまい、なぜかこの歳になってもずっとバンドを続けてるわけなんですけど、その元凶となったバンドのカバーを」と言って、ASIAN KUNG-FU GENERATIIONの「十二進法の夕景」を披露した。この曲はもともと『NANO-MUGEN COMPILATION 2006』に収録され、その後に『フィードバックファイル2』に収録された、いわゆるレア曲だが、『ぼっち・ざ・ろっく!』のタイトルに使われたことで、改めて注目を浴びた曲でもある。清水は今年の6月、2017年にリリースされたアジカンのトリビュートアルバム『AKG TRIBUTE』のサブスク配信がスタートした際、自分が参加するなら「十二進法の夕景」をカバーするとして、実際にアレンジを作成したことを自身のnoteに記していた。あの日から約半年を経て、遂に初披露というシチュエーションだったわけだ。

2025年はアジカンも参加したART-SCHOOLのトリビュートや、順番に発表される参加者に大いに盛り上がったRADWIMPSのトリビュートなどが話題となり、トリビュートを通じてバンドの過去と未来を繋ぐ文脈を知ることができる、その楽しさが改めて感じられた一年になった。清水が途中で話した「せっかく音源として残るなら、10年後、20年後、もしくは僕たちが死んでからも、誰かがどこかでいつか見つけてくれて、僕たちがCDを通して受けた衝撃と同じようなものを与えられたらなという気持ちで作りました」という言葉は、まさにこうやって音楽を継承していくこと、繋いでいくことへの意志を示している。アジカンの後藤は「ゴッチの日記」で様々なバンドを紹介してきたし、自身のレーベル「only in dreams」では若手バンドの音源も手がけ、阿左美が所属するyubioriは今年同レーベルからアルバムを発表した。
そして、清水がnoteで楽曲のリファレンスについて具体的なバンド名を挙げながら細かく説明をしているのも、まさにこういった「繋ぐ」意志の表れであり、それが活動からも楽曲からもステージからも伝わるからこそ、音楽ファンの中でkurayamisakaの支持が拡大しているのだと思う。

kurayamisakaがツアー完走、圧巻の演奏とアジカンのカバーで示した「過去と未来を繋ぐ」意思


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ラストは「往年の名曲を2曲やって終わりたいと思います」と言って、EP冒頭の曲順通りに「theme (kimi wo omotte iru)」から「cinema paradiso」を演奏。ステージ後方からの照明が神々しさを演出した「theme (kimi wo omotte iru)」も、現時点でのkurayamisakaの代表曲であり、文字通りの名曲である「cinema paradiso」もとても素晴らしかった。

なお、途中で触れたオアシスの来日公演ではアジカンがオープニングアクトを務め、彼らが長年のオアシスファンだったことを知るファンから祝福を受けたことも記憶に新しいが、後藤はtoeが25周年を記念して制作した本の中で美濃隆章と対談をしてもいる。つまり、世界的なロックスターであるオアシスと、インディペンデントで活動を続けるtoeの両方にシンパシーを表明し、ミラクルな繋ぎ方をしていたのだ。そんなアジカンの姿を追ってきたkurayamisakaなら、ロックバンドとしての夢を叶え、大きなステージに立つことと、自分たちが聴いてきた音楽を愛し続け、自らの足で立ち続けること、その両方の尊さをきっと体現できるはず。そうすればクラスにも職場にも、「この世界のどこかに居る、僕に似た君」が、一人、また一人と、少しずつ増えていくに違いない。

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Photo by タカギタツヒト

〈セットリスト〉
1. kurayamisaka yori ai wo komete
2. metro
3. sunday driver
4. modify Youth
5. curtain call
6. seasons
7. nameless
8. evergreen
9. farewell
10. sekisei inko
11. weather lore
12. ハイウェイ
13. theme (kurayamisaka yori ai wo komete)
14. jitensha
15. あなたが生まれた日に
(アンコール)
1. 十二進法の夕景(ASIAN KUNG-FU GENERATION カヴァー)
2. theme (kimi wo omotte iru)
3. cinema paradiso
セトリプレイリスト:https://pcim.lnk.to/kurayamisakattedoko_6_setlist

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kurayamisaka tte, doko? #7
『くらやみざかより愛を込めてツアー2』
2026年5月9日(土)北海道 札幌近松 w/NOT WONK
2026年5月30日(土)福岡LIVE HOUSE CB w/toddle
2026年6月13日(土)愛知 NAGOYA JAMMIN w/ART-SCHOOL
2026年6月14日(日)大阪 Yogibo META VALLEY w/The Novembers
2026年6月25日(木)東京 LIQUIDROOM ※ゲスト後日発表
2026年7月11日(土)宮城 仙台MACANA w/長瀬有花
料金:5,000円(税込)
イープラス受付URL:https://eplus.jp/kurayamisaka7/
三次プレオーダー受付期間:2025年11月9日(日)19:30~11月30日(日)23:59

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