最新アルバム『The Human Fear』を携え、フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)が約3年ぶりにジャパンツアーを開催する。ゼロ年代半ばに英国産ポストパンク・リバイバルの旗手として登場したフランツも、既にデビューから20年余り。
だが、フロントマンのアレックス・カプラノスが敬愛するデヴィッド・ボウイよろしく、彼らは常に変化/進化し続けることをやめていない。その作品名を借りれば、フランツはいまもなお「Audacious=大胆」であり、「Always Ascending=いつだって上昇あるのみ」なのだ。

そんな彼らの軌跡を改めて振り返りつつ、今回の来日を存分に楽しみ尽くすために、本稿では最新ライブのセットリストを基に「フランツの究極の10曲」を選定。これを読んで、12月9日(火)の大阪・なんばHatch公演(*ソールドアウト)、11日(木)の東京ガーデンシアター公演(*スタンディング完売、残すは東京指定席のみ)への期待をさらに高めてもらいたい。

フランツ・フェルディナンド「究極の名曲10選」上昇し続けるバンドのアンセムを徹底解説

現在のフランツ。左から、ディーノ・バルドー(Gt)、オードリー・テイト(Dr)、ジュリアン・コリー(Key, Gt)、アレックス・カプラノス(Gt, Vo)、ボブ・ハーディ(Ba)

「Audacious」(『The Human Fear』収録:2025年)

『The Human Fear』ではオリジナルドラマーのポール・トムソンが脱退し、新ドラマーのオードリー・テイトが加入。前作に続き、二度目のメンバーチェンジとなった。現体制はベストアルバム『Hits To The Head』(2022年)のツアーにてお披露目されており、その実力は既に証明済み。だがそれでも、度重なるメンバー交代劇に一抹の不安を抱かなかったファンはいないだろう──果たしてフランツは今後も私たちが愛したフランツのままなのか?と。

「Audacious」はそうした懸念を力強く払拭する、理想的なアルバムのオープナー。フランツがデビュー当初から一貫した音楽的アイデンティティを守り続けていると同時に、いまなお変化を恐れず前進し続けていることを証明する楽曲だ。

一曲の中で何度も転調し、ヴァースからコーラスへと移行する瞬間にハーフテンポに落とすというダイナミックな構成は、初期から変わらぬフランツのシグネチャー。
その一方で、コーラスでチェンバーポップ的なオーケストラを大胆に差し込むのは、これまでにない挑戦だろう(ストリングス自体は以前も使っていた)。ここでは、フランツらしさと新しさが見事なバランスで拮抗している。

「大胆であれ、誰も僕らを救ってくれやしない、だから前に進むんだ」というコーラスの歌詞は、様々な社会問題が山積みの現代において人々を鼓舞する言葉として機能する。そしてまたこれは、デビューから20年以上が経ち、数々の困難に直面してもまだ音楽的挑戦をやめる気はないという、アレックス・カプラノスの頼もしい宣言としても受け取ることができるのだ。

「The Dark Of Matinée」(『Franz Ferdinand』収録:2004年)

2000年代前半を振り返ったとき、リバティーンズがストロークスやホワイト・ストライプスに対するイギリスからの回答だったとすれば、フランツ・フェルディナンドはインターポールなどのポストパンク、あるいはDFAが先導したディスコパンクに対するイギリスからの回答だった。ただしフランツが先行したアメリカ勢と決定的に違ったのは、複雑な曲構成や大胆なテンポチェンジが生み出すシアトリカルなドラマ性を有していたこと。それはクイーンやスパークスなどに通じる、英国性の発露でもあった。

「The Dark Of Matinée」は、そんな初期フランツを代表する名曲のひとつである。ザクザクと鋭角的に切り込んでいくギターリフと直線的なドラム、そして当時まだ楽器初心者だったボブ・ハーディの素朴なベースが生み出すギクシャクとしたグルーヴはまさにポストパンク的。スウェディッシュ・ポップの名匠トーレ・ヨハンソンがプロデュースしたサウンドは高音域が強調されており、呆気に取られるくらいペラペラだ。だがその音の線の細さがむしろ、インディ的なセンシビリティを強調している。

2回目のコーラスが終わってブリッジに入ると、曲は一気にテンポダウンし、4拍子から3拍子のワルツ調に移行。
ねっとりと絡みつくような妖艶さを創出したかと思えば、再びテンポアップし、4拍子へと戻ってラストまで駆け抜ける。こうした奇抜な構成は、彼らのデビューアルバムに何度も登場する。そしてそれこそが、フランツが発明した英国的ポストパンク・リバイバルのひとつの在り方だったのだ。

「Glimpse Of Love」(『Always Ascending』収録:2018年)

最近のライブのセットリストを見ると、5作目『Always Ascending』の曲はほとんど披露されていない。だが「Glimpse Of Love」だけは時折セットリストに入る日がある。来日公演でこれが聴けたらラッキーだと思っていいだろう。

『Always Ascending』は、オリジナルギタリストのニック・マッカーシーが脱退した代わりに、新ギタリストとして元1990sのディーノ・バルドー、キーボード奏者としてジュリアン・コリーが加入したアルバム。ディーノはアルバム録音後の加入だが、ジュリアンはアルバムに参加。「Glimpse of love」は、そのジュリアンの活躍が早速楽しめる曲である。

アルバム収録のオリジナル版は、どこか80年代ポップを彷彿とさせる、煌めくようなシンセリフが特徴。だがその後、MVで使われた別バージョンではシンセリフが後景へと追いやられ、代わりに跳ねるようなピアノのリフが主軸となっている。そしてベストアルバムではMV版を基に、イントロを省いたよりストレートな構成に。
最近のライブで聴けるのも、このベストアルバムのバージョンだ。

現在のアレンジはオリジナルと較べるとかなり躍動感が強く、間違いなくライブ向き。おそらくライブ現場での反応を通じて曲が成長していったのだろう。何にせよ、鍵盤が主役であるこの曲は、ジュリアンの加入でフランツの音楽的可能性がさらに広がったことを明確に示している。

「Do You Want To」(『You Could Have It So Much Better』収録:2005年)

デビュー作の世界的な大ヒットで超過密スケジュールになり、バンドが空中分解する危機もあったというギリギリの状況を切り抜けて作られたセカンドアルバム『You Could Have It So Much Better』は、当時の熱狂と興奮と混乱をそのまま詰め込んだような作品。とにかく全体的にBPMが速くて躁状態。リッチ・コスティのプロデュースによるパワフルなアメリカンロックサウンドも派手派手しい。だがバンドは脂が乗りきっているので、とにかく楽曲は粒揃い、という不思議なアルバムだ。

セカンドからのリードトラックであった「Do You Want To」は、まさに狂乱のパーティダンスアンセム。ヴァースが終わるとテンポダウンし、まったく雰囲気が異なるコーラスへと突入するという構成は、前作の「Take Me Out」と同じ。だが「Take Me Out」がそのまま最初のヴァースに戻って来ないのに対し、「Do You Wan To」は最後にまたヴァースへと戻ってくる。しかもヴァースに戻る前に、それまで一度も出てこなかったギターリフが唐突に挿入されるので、曲構成はひどく複雑だ。
そのうえ、どのパートもひたすら賑やかでテンションが高い。間違いなく最高のポップソングだが、とにかく混沌としている。

アレックスは曲に予想外の瞬間が訪れることを「WTF(what the fuck)モーメント」と呼んでいるらしいが、「Do You Want To」はフランツのディスコグラフィでも屈指のWTFモーメントが連発される名曲だろう。そしてこれは、バンドとその周囲が異様なテンションに包まれていた時期だったからこそ生まれた、特別な曲だとも言える。

「Stand On The Horizon」(『Right Thoughts, Right Words, Right Actions』収録:2013年)

バンド随一の濃密さと実験性を誇る三作目『Tonight』を経て、軽やかなポップサウンドへと回帰したのが四作目『Right Thoughts, Right Words, Right Actions』。曲ごとに異なる共同プロデューサーを迎えており、「Stand On The Horizon」は当時「Inspector Norse」がクラブヒットとなっていた北欧ニューディスコの雄、トッド・テリエと一緒に作り上げている。

全体的なムードとしては、どこか夏の終わりを思わせる切なさを湛えている。バンドの演奏は『Tonight』期のように異様な緊迫感に支配されているわけでもなく、かといってルーズ過ぎるわけでもない、適度に肩の力が抜けたグルーヴが印象的だ。曲が持つ雰囲気とも相性が良い。

前半は軽快なダンスポップといった趣だが、2回目のコーラスとブリッジが終わり、間奏に入る辺りからこの曲は本領を発揮する。オーウェン・パレットがアレンジを手掛けたロマンティックなストリングスと、テリエによるエレクトロニックなプロダクションが加わることで、ほとんどニューディスコのようなサウンドへと展開。さらには、そこに美しいボーカルハーモニーが重なり、得も言われぬ高揚感を生み出していく。
曲の始まりの時点では想像もつかなかった終わり方をするという意味では極めてフランツらしい楽曲。熱心なファンの間で非常に支持が高い、隠れた名曲である。

「Ulysses」(『Tonight』収録:2009年)

サードアルバム『Tonight』にはBPM100前後のねっとりとした、艶めかしいダンスチューンが満載。録音テープを回しながら何時間も同じ曲を繰り返し演奏し、その中から最高の瞬間だけを切り取って繋ぎ合わせるという、ジェームス・ブラウン「Sex Machine」にヒントを得た手法を採用しただけあって、その演奏は凄まじい熱気と緊張感に満ちている。プロデュースを手掛けたのは、いまではサウスロンドンのキーマンとして知られるダン・キャリー。欧米メディアではなぜか低評価だったが、冒険心に溢れ、過去二作とはまったく異なるグルーヴを確立した『Tonight』はフランツの最高傑作のひとつだ。

『Tonight』の実験主義と、フランツならではのポップなメロディが高次融合したという点で、「Ulysses」は名曲揃いのサードの中でも屈指の出来映えだろう。演奏のグルーヴを牽引するのは、デッドな響きのドラムと、異様に音量が大きく、ほとんどダブに肉薄しているベース。最初はリズム隊だけの伴奏にアレックスの押し殺したような歌声が乗り、そこからシンセサイザー、ギターと徐々に音が重なっていくアレンジはクラブミュージック的でもある。

前二作を特徴づけていた派手なテンポチェンジなどはない。だがそのぶん、ミニマルな演奏には吹き出す直前のマグマの如く緊迫したエネルギーが感じられる。そして、禁欲的に曲が進行するからこそ、コーラスでアンセミックなメロディが広がる瞬間、あるいはラストに激しいドラムブレイクが叩き込まれる瞬間に爆発的なカタルシスが生まれるのだ。
アレックスが「僕は新しい方法を見つけたんだ」と高らかに歌うように、まさにこれはフランツによるエウレカの叫びであった。

「Hooked」(『The Human Fear』収録:2025年)

『The Human Fear』には、これまでのフランツが挑戦してきた様々なスタイルを凝縮した集大成的な側面がある。その中でも「Hooked」は、『Tonight』以降のシンセサイザー/エレクトロニクス重視の路線をさらに探究し、発展させた楽曲だと言えるだろう。

音の感触としては、フレンチ・エレクトロのフランツ的な展開。ただ実際は、ブラック・サバスを意識したというギターリフを、わざわざシンセサイザーを通して鳴らすことで実現したサウンドだという。これまでフランツにおけるエレクトロニックなサウンドは、ダンス音楽のプロデューサーたちがポストプロダクションで付け加えたものが多かった。だが「Hooked」ではその経験からの学びをもとに、エレクトロニクス主体のサウンドも完全に自分たちのものとして血肉化したのが伝わってくる。

無論この曲の完成には、エレクトロニックミュージックのプロデューサーとしても活動していたジュリアンの存在が不可欠だったのは想像に難しくない。豪快でパワフルなオードリーのドラミングも、曲調に上手くフィットしている。その意味でこれは、現体制のフランツだからこそ生み出せた曲だと位置づけることも出来るだろう。

「This Fire」(『Franz Ferdinand』収録:2004年)

名曲揃いのファーストの中でもトップクラスの人気を誇る、フランツの代表曲のひとつ。アルバムの中では比較的シンプルな構造の曲に分類できるだろう。しかしだからこそ、この曲には真っ直ぐに聴き手の胸へと飛び込んでくるような、力強く、直接的なエネルギーが宿っている。

イントロからヴァースまでは、2つのコードをひたすら繰り返すミニマルな展開。感情を押し殺すようにして、抑制的に進んでいく。だが、コーラス直前にコード進行が展開すると、それまで抑えつけられていたものが一気にすべて解放される。〈この炎は制御不能、俺はこの街を焼き尽くすんだ〉とアレックスは歌うが、まさに激しい炎がどこまでも燃え広がっていくような無尽蔵の勢いが感じられるだろう。もちろんライブでは大定番の曲で、アンコールで披露されることが多い。生で聴くと、歌詞はライブの熱気そのものを表現しているようにも思えてくる。

アルバムに収録されたオリジナル版は、この曲本来のエネルギーを捉えていないとバンドが判断したのだろう。シングルカットのとき、プロデューサーにリッチ・コスティを起用して再録が行われている。この再録版──その名も「This fffire」は、BPMがオリジナルの130台後半から140台後半にまで上げられており、かなり性急さを増している。サウンドもコスティらしく線が太くてパワフル。セカンドでの変化の予兆が、既にこの時点で顔を覗かせている。

「Outsiders」(『You Could Have It So Much Better』収録:2005年)

フランツの音楽には常にアウトサイダー性が宿っている。デビュー作収録の「The Dark Of Matinée」は、学校生活に馴染めなかったアレックスとボブが日常を避けてマチネ(映画や演劇の昼公演)の暗闇に逃げ込もうとする逃避主義の歌だった。ギリシャ音楽を初めて取り入れた最新作の「Black Eyelashes」には、ギリシャとイギリスのミックスであるアレックスがどっちつかずの見た目や文化的立ち位置にいる自分のアウトサイダー性に向き合う意図があった。そしてタイトルからしてずばり「Outsiders」であるこの曲も、そんなフランツのはぐれ者の美学が光る名曲だ。

賑やかで性急なセカンドアルバムにおいては少しばかり異色な、BPM110台のゆったりとしたディスコ/ポストパンク。何より耳を引くのは、前作よりも格段に動きが多く、ファンキーになったベースだろう。これがグルーヴの背骨を担いつつ、哀愁漂うシンセサイザーが曲のほろ苦い空気を決定づけている。歌詞は基本的に恋愛の力学について。だが、「少しは変わったかもしれないけど、僕たちはアウトサイダーのままだよ」という歌い出しは、どれだけ成功を手にしても学生時代に感じていた孤独は癒えない、という意味にも受け取れる。これはフランツのメンバー同士が、あるいはバンドとファンが、そのアウトサイダー性を通じて深い絆で結ばれていることを祝福する曲だとも言えるだろう。

シングルカットはされていないものの、ファンの間で人気が高く、昔からライブでは本編ラストに演奏されることが多い。切なくも踊れる、フランツの真骨頂と言えるナンバーだ。

「Take Me Out」(『Franz Ferdinand』収録:2004年)

フランツ・フェルディナンドの究極のアンセムと言えば、この曲を置いてほかにない。Spotifyでの再生回数は10億回以上。彼らの名前を聞けば誰もが真っ先に思い浮かべるであろう、一度聴いたら決して忘れることができない、どこまでも歪でパワフル、そしてとことんキャッチーな永遠の名曲である。

改めて言うまでもなく、この曲の絶大なインパクトの源泉は、まったく異なる2つのパートをBPMを合わせないまま、力技で強引に合体させたことにある。慧眼なのは、曲の繋ぎ目をあえて強調することで、聴き手に強烈なダイナミズムをもたらしている点だ。

最初のパートでは、2本のギターとベースがそれぞれ単音弾きで、和音の一音ずつを担っている。アレックス曰く、それはジョルジオ・モロダーやD.A.F.が多用していたモノフォリック・シンセサイザーのアルペジオ演奏を模したものだったという。そしてテンポダウン後のパートでは、ハウリン・ウルフの官能的な歌とギターの絡み合いに触発され、ボーカルとギターが会話のような掛け合いを見せる。

そして、完全にかけ離れた2つの発想から生まれたパートを縫合する際に使われたのが、BPMを140から105くらいまで一気に落としたところで挿入される、ド派手なキメだ。バンドとしては、「スポーツロック=スポーツスタジアムで流れるようなロック」をイメージしたらしい。この笑ってしまうくらいダイナミックなパートがあることで、この曲の特異性は際立ち、歪さがフックへと反転しているのだ。

これはディスコ・パンクやポストパンク・リバイバルに対するイギリスからの最良の回答であり、当時アンダーグラウンドで隆盛を誇っていたマッシュアップ文化とも共鳴していた。時代の最先端にして、その特異点でもあるという、文句のつけようがない完璧な特大アンセム。

【関連記事】
フランツ・フェルディナンドが語る『The Human Fear』 新たな黄金期に導いた「らしさ」と「新しさ」の両立
フランツ・フェルディナンドが世界を制した本当の理由 メンバーが結成20年を総括

2025年のフルライブ映像

フランツ・フェルディナンド「究極の名曲10選」上昇し続けるバンドのアンセムを徹底解説

FRANZ FERDINAND -Japan Tour 2025-
2025年12月9日(火)大阪・Namba Hatch *SOLD OUT
2025年12月11日(木)東京ガーデンシアター
OPEN 18:00 / START 19:00
アリーナ・スタンディング:¥13,000
スタンド・指定席:¥13,000
詳細:https://smash-jpn.com/franzferdinand2025/

フランツ・フェルディナンド「究極の名曲10選」上昇し続けるバンドのアンセムを徹底解説

フランツ・フェルディナンド
『The Human Fear』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14393

>>>記事の本文に戻る
編集部おすすめ