ニューヨーク、ロンドン、ロサンゼルスで展開した「City Takeover」公演は軒並み即完。Tomorrowlandのメインステージでオープニングとクロージングを務めた初のアーティストという快挙や、雑誌『ELLE』ベルギー版の表紙、2026年のFlanders Expo 2DAYS公演決定など、その歩みは勢いを増し続けている。今回Rolling Stone Japanでは、彼女の創作観と最新作の核心に迫るべくメールインタビューを行った。
―音楽制作を始めるとき、最初の着想はどこから生まれますか?
トラックを作り始めるときは、具体的な音よりもまず”感覚”から入ることが多いです。クラブでその曲がどう響くのか、どんな感情をフロアにもたらしたいのかを想像するところから始まります。それがピークタイム向きの爆発的なものなのか、もっと内省的でエモーショナルで、催眠的なものなのか――まずはそこをイメージします。
インスピレーションは、自分が愛しているテクノのトラックから受けることが多いです。強い感情的な反応を呼び起こしてくれるような曲ですね。その感覚を自分自身の言語に翻訳していくこと、人がそこに共鳴できるような”ムード”を形にしていくことが重要なんだと思います。
もっとシンプルな始まり方をすることもあります。インスピレーションになりそうなサンプルをあらかじめ集めていて、あるボーカルサンプルやひとつの音が、いきなり何かをひらめかせてくれることもある。
―音を”削ぎ落とす”ミニマルな美学はどこから生まれたのでしょうか?
”削ぎ落とす”アプローチは、もともと自分がミニマリスト的な感覚を持っていることから来ています。シンプルさが持っている力がすごく好きなんです。
音楽にはちゃんと呼吸してほしいし、余計なものに埋もれずに、はっきりと届いてほしい。だから、不要な要素が周りにまとわりついていると感じたら、それはどんどん削っていく。最終的に残っているのは、本当に必要な要素だけでいいと思っています。
―アルバム『Charlotte de Witte』を”自分のための作品”と語っていました。その真意は?
何よりも正直でありたかったからです。周りからの期待やプレッシャーにとらわれず、本当の自分を映す作品を作りたかった。DJとして、そしてアーティストとして15年やってきて、改めて気づいたんです。自分が本当に望んでいたのは、クラブカルチャーやクラブミュージック、そして自分がDJやテクノを愛するようになった”原点”そのものを祝福するレコードを作ることなんだ、と。
そういう意味で、今回のアルバムはいい意味で”自分本位”な作品です。
―制作の過程で参照したサウンドや影響源はありますか?
音楽を作るとき、スタート地点は大きく分けて二つあります。ひとつは、そのトラックを通して伝えたい特定の感情やムードから始めるパターン。その感情の”色”みたいなものが、制作のプロセス全体を導いてくれます。
もうひとつは、もっと具体的なところから始まる場合です。集めておいたサンプルや、専用に送ってもらったボーカルなど、ひとつの素材から曲が立ち上がることも多いですね。そのたったひとつの要素が、曲の方向性に火をつけて、最初から全体の形を決めてしまうこともあります。
インスピレーションは、気分、空間、身体の動き、あるいは”静けさ”からもやってきます。どこかのクラブで過ごした一夜の記憶がアイデアを呼び起こすこともあれば、機材から偶然鳴ったひとつの音が、まったく新しい方向へ自分を引っ張っていくこともある。そういう偶然性も含めて、すべてが創作の源になっています。
―サウンドデザイン面で、現在こだわっている機材はありますか?
RolandのTB-303への愛は、もう隠しようがないですね。
今使っている303は、オーディオだけでなくMIDI信号でも扱えるように改造してあって、ワークフローがかなりスムーズになっています。
アナログの温かさとデジタルの精密さを組み合わせる感覚がすごく好きなんです。ノブを触ったときの有機的な手応えや、ヴィンテージならではのわずかなノイズや揺らぎ――ああいう”完璧ではなさ”がたまらない。そこにはどこか予測不能で、生き物のような何かがあって、その機材の”人格”みたいなものが、使うたびに自分を刺激してくれます。
―テクノの枠組みの中で新しさを追求するうえで、どんな姿勢を大切にしていますか?
テクノの中には、伝統と実験のあいだにとても美しい緊張感があります。催眠的なドライヴ感や反復するビートといったアンダーグラウンドの精神は大事にしながらも、新しい構造や感情、音の組み合わせを常に探しています。
私は”テクノ純粋主義者”ではありません。ある種のルールの箱の中に押し込められて、その中だけでやりなさいと言われるのは好きじゃない。テクノの本質は守りたいけれど、”こうあるべき”というルールに縛られるのはナンセンスだと思っています。
クラブが与えてくれた自由とアイデンティティ
―あなたにとって、クラブとはどんな場所ですか?
クラブは、私に自由や成熟、責任感、つながり、そして何よりアイデンティティを与えてくれた場所です。クラブという場が存在しなければ、今の私はここにはいなかったと思います。
地元のヘントでクラバーとして過ごした初期の夜は、ものすごく形成的な経験でした。あの時間は今でも私にとって大切で、かけがえのないものです。
―セットを組む際に最も重視していることは?
自分のDJセットにどうアプローチするかは、そのときのシチュエーションによって大きく変わります。クラブなのかフェスなのか、夜の時間帯なのかデイタイムなのか、日の出前なのか、夕暮れなのか……。そして何より、そこにいるオーディエンスが大きな意味を持ちます。
Tomorrowlandのメインステージでクロージングをやるのと、ニューヨークのキャパ2000人のウェアハウスでプレイするのとでは、まったく別物です。その都度、アプローチも変わっていきます。
共通して大事にしているのは、セット全体を通じて”旅”や”物語”をつくること。人の注意と感情をつかんで、夜を通してどこかへ連れていくこと。
私の役割は、自分なりに考える”ベストな選曲”を、”ベストなテクニック”で提示して、その旅路に伴走すること。常にフロアのエネルギーに耳を澄ませて、目の前の人たちとの間で起きている”見えない会話”を感じながらプレイしています。
―観客と”一体になる瞬間”はいつ訪れますか?
観客と”ひとつになる”瞬間は、本当に特別です。フロア全体が同じ方向に揺れていて、みんなが同じ周波数にチューニングされているように感じられるとき、その瞬間が訪れます。
そうしたつながりが生まれると、もちろん自分の選曲や判断にも影響します。ただ、どのタイミングでエネルギーが変化するのか――セットのどの場面で、どのトラックで転換が起きるかは、だいたいかなり正確に予測できるほうだと思います。
―「City Takeover」など、都市とクラブをつなぐ企画に込めている思いは?
City Takeoverのようなプロジェクトでは、都市とそのクラブカルチャーとの関係性を可視化したいと思っています。同時に、私たちが企画しているフリーストリートパーティーでもそうですが、”みんなで一緒に楽しむこと”の大切さを強調したいという意図もあります。
DJとしても大きなチャレンジです。異なる環境で、まったく違うタイプのセットを連日プレイすることになるので、要求されるものも大きい。でも、そのぶん得られるものもものすごく大きいんです。
ひとつの街に数日間滞在して、同じ人たちが違う会場のショーに何度も来てくれる――そういう状況が生まれると、強いコミュニティ感覚が育っていく。それは私にとって、とても意味のあることです。
―今後、ライブ演出で挑戦したい方向性はありますか?
もちろんあります。ショーの新しい方向性については、ずっと考えています。たとえば、もっとビジュアルにフォーカスしたり、自分の音楽の雰囲気をそのまま反映できるような、より没入型の環境を作れたらいいなと思っています。
その続きについては……これからのお楽しみですね。
”女性DJ”というラベルを超えて──本質を見るための視点
―「女性DJ」というラベルへの違和感について教えてください。
”女性DJ”という言葉は、いつもどこか窮屈に感じてきました。私たちの仕事を、音楽や技術ではなく”性別”というラベルに還元してしまうからです。
本来フォーカスされるべきなのは、音楽そのもの、パフォーマンス、アーティストとしての表現だと思います。それを乗り越えるためには、多様性を”特別なもの”ではなく当たり前の前提として捉え、誰もがラベルやカテゴリーではなく、”ひとりのアーティスト”として扱われることが必要です。
―あなたにとって”本物(authenticity)”とは?
私にとってのオーセンティシティ、本物らしさとは、”正直でいること”です。トレンドがどう変わろうと、自分自身の声や価値観から離れないこと。
エレクトロニック・ミュージックの世界で”リアル”だと感じるのは、その作品の背後にある意図です。心から必要だと感じて作っているのか、それとも周りから期待されているから何となくやっているだけなのか――そこが、本物かどうかを分けるんだと思います。
―レーベル、KNTXTを運営するうえでの理念とは?
KNTXTは、まず第一に自分自身のクリエイティブ・プラットフォームです。妥協なく、完全な創作の自由を持って自己表現できる場所。
同時に、私がDJを始めたころを振り返ると、”本当の意味でのメンター”や”自分の居場所”と呼べるような場所はありませんでした。Turbo RecordingsのTigaのようにサポートしてくれた人たちはいて、その支えには本当に感謝していますが、それでも「ここが自分のホームだ」と心から思える場所はなかった。
だからこそ、KNTXTではその感覚をほかのアーティストに提供したいんです。安心して成長できて、妥協なく自分を表現できる環境。きちんと自分の音を届けることのできるプラットフォーム。
幸い、レーベルとして強いSNSの土台もあるので、そこを通じて彼らの音楽に光を当て、より多くのリスナーに届ける手助けができると思っています。
―多忙な日々の中で、心身のバランスをどう保っていますか?
正直に言うと、この人生は巨大なジェットコースターみたいなもので、私は光の速さで駆け抜けている感じです。いまだにバランスの取り方を学んでいる途中だと思います。簡単なことではないですね。
それでも助けになっているのは、家に帰って”地に足をつける”時間を持つこと。自分のスペースで、猫や犬と一緒に過ごしたり、友人や家族と過ごしたりすることです。
表の世界では、すべてがとても高いテンションで進んでいきます。でも、そうした時間があることで、「ああ、自分はちゃんと”普通の人間”なんだ」と感じることができる。それが、心身のバランスを保つうえでとても大切になっています。
―名声や評価が注目される時代に、自分らしさをどう保っていますか?
自分自身に正直でいること。自分の道に忠実でいること。それを何より意識しています。ランキングや名声のようなものに、できるだけ気を取られないようにしています。
名声というものは、私にとってずっと扱いの難しい存在でした。そこには、どうしても奇妙な感覚がつきまとうんです。多くの人にとって私は”DJのシャーロット”ですが、自分にとっては”ひとりの人間としてのシャーロット”でもあり、”妻としてのシャーロット”であり、”友人としてのシャーロット”でもある。そのギャップに悩むこともあります。
でも、自分の核、本質とちゃんとつながっていられれば、そのほかの要素は必要に応じて脇に置くことができるはずです。それらは”優先されるべきもの”ではなく、「そういうもの」として距離をとって見られるようになる。私はそういうふうに捉えています。
―あなたにとって”自由”とは何ですか?
今、自分にとっての自由とは、「自分が望む形で、ありのままに表現できている」という感覚です。クラバーとしての自分がフロアで聴きたいと思う音楽を作り、それが世界中の人たちと強く共鳴しているのを感じられる――それは本当に幸運なことだと思います。そのつながりを目の当たりにできることが、いちばん美しい瞬間であり、最大の”自由”の感覚でもあります。
妥協することなく、自分の本能や直感に従って進めている――その実感こそが、今の私にとっての自由です。
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ベルギーの文化が育んだ音の根──ニュー・ビートとレイヴの記憶
―ベルギーのヘントという街で育ったことは、あなたの音楽観にどう影響しましたか?
ベルギーで育ったことは、アーティストとしての自分にとても大きな影響を与えています。小さな国ですが、音楽の歴史は非常に豊かです。ニュー・ビートやレイヴ・カルチャー、R&SやBonzai、Cherry Moonのようなレーベル、そして今のTomorrowlandが象徴しているものまで含めて、ベルギーはエレクトロニック・ミュージックのコミュニティにおいて重要な役割を担ってきました。そういう環境で育ったことは、アーティストとしてだけでなく、人間としての自分も深く形作っていると思います。
最近、親友のひとりが結婚したんですが、彼女は特にクラバーというわけでもなく、クラブに行くわけでもテクノを聴くわけでもない。それでも、結婚式で流れていたのは、きちんとした”ベルギーのオールドスクール・レイヴクラシック”だったんです。それくらい、この音楽は私たちの文化や育ちの中にしっかり根付いていて、もはや無視することなんてできない存在になっているんだと思います。
―人生を変えたクラブ体験を挙げるとしたら?
ひとつだけ選ぶとしたら、きっとキャリアの初期に経験した何夜かになると思います。そこで私は、音楽が持つ力の大きさを初めて本当に実感しました。音に完全に飲み込まれて、「自分はここにいるべきなんだ」と強く感じた夜です。
ひとつの転機というより、音をミックスする行為やDJというスキルに対する強い魅了が高まっていった夜の積み重ねだったと思います。
―日本のクラブシーンにはどんな印象を持っていますか?
日本のクラブシーンは本当に素晴らしいと思います。オーディエンスはとても礼儀正しく、集中していて、そのうえエネルギーがいつも独特です。強度と開放感が美しく混ざり合っている、そんな印象があります。音楽や細部への深いリスペクトも感じられて、日本でプレイするときはいつもそれにインスパイアされています。
文化的な側面から見ても、日本は本当に美しい国だと思います。どの街を訪れても、行くたびに新しいインスピレーションをもらっています。
―未来のダンスフロアは、どんな場であってほしいですか?
これから先も、ダンスフロアが”自由””つながり””平等”の場であり続けてほしいと願っています。そこにいる人たちが自分を表現し、悩みを忘れて、自分より大きな何かの一部であることを感じられる場所であってほしい。姿かたちを変えながら進化していってもいいけれど、クラブカルチャーを特別なものにしている”核となる精神”だけは失われてほしくないですね。
『Charlotte de Witte』
配信中
配信リンク:https://cdw.lnk.to/Album
Tracklist
1. The Realm
2. No Division feat. XSALT
3. Vidmahe
4. Memento Mori
5. Become
6. The Heads That Know feat. Comma Dee
7. Higher
8. Domine
9. After The Fall feat. Lisa Gerrard
10. Hymn
11. Matière Noire feat. Alice Evermore


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