2024年に日本での活動を再開したアンジェラ・アキが、11月26日にニューシングル 「Floating Planets」を配信リリースした。今年5月には「Pledge」を配信し、シンガー・ソングライターとしての活動を本格的にリスタートし、11年ぶりとなる全国ツアーを開催した。
昨年はミュージカル作品『この世界の片隅に』の音楽を担当するなど、ミュージカル音楽作家としても活躍を続ける彼女。2014年に日本での活動を停止し、渡米して以降はミュージカル音楽作家を目指し、音楽を学んできた彼女だが、今、再び自身の音楽を届けるべく動き出した。13年ぶりにニューアルバムを制作中だというアンジェラ・アキに、新境地となった新曲と来年の2月にリリース予定のアルバムへのプロセスをインタビュー。「自分が自分のために作らなければいけない作品」だという新作に到るまでの彼女の葛藤と現在地を探る。

―アンジェラさんが日本での活動を再開したのは2024年、ミュージカル『この世界の片隅に』の音楽を担当されたことでした。

アンジェラ:日本での活動を停止して10年。それまでミュージカルの音楽作家を目指してアメリカで一から音楽を学んできたのですが、やはりそこに到達するまでに10年かかりましたね。『この世界の片隅に』も制作に丸4年かかったんですが、原作が素晴らしかったのでとてもやり甲斐がありました。

―昨年は12年ぶりとなるアルバム『アンジェラ・アキ sings『この世界の片隅に』』をリリース。

アンジェラ:近年はブロードウェイのミュージカルでシンガー・ソングライターが参入する例は多く、サラ・バレリスが「ウェイトレス」の音楽を手掛け、その楽曲を自ら歌ったアルバムをリリースするなどの流れもあって、私の場合はそれが日本での活動再開ということになりました。

―シンガー・ソングライターとしての新曲は、今年の5月に配信リリースされた「Pledge」。作家ではなく、アンジェラ・アキとしてまた歌いたいと思うようになったきっかけはあったのですか?

アンジェラ:表に出る活動をお休みしている間にミュージカルや鈴木雅之さんや由紀さおりさんに楽曲提供をしたり、自分が主人公ではない楽曲をつくってきましたが、今から5年くらい前、自分の心の状態があまりよくなくて心理カウンセリングに通い始めたんです。
そこで自分自身と向き合うことになり、幼少期からのトラウマや心の闇を紐解いていったのですが、その過程を音楽というアートフォームとして表現してみたいという気持ちが自然と湧き上がってきた。気がついたらピアノに向かって、誰かのためではなく私自身が歌うべき曲を歌いだしていたんです。

―「Pledge」の歌詞では〈好きなものを忘れて 嫌なことを誤魔化して〉と、心の葛藤を率直に吐露していますね。

アンジェラ:そうですね。かつての自分だったら、もっとキレイな分かりやすいパッケージにするために歌詞を書き直していたと思います。でも、「Pledge」はその時の心の状態を包み隠さず表現したかった。以前は自分のなかに完璧主義の編集者がいて、「こうしたらキレイにまとまる」と厳しいチェックが入ったんですが、今は綺麗事を書くと「これは嘘だろ?」とセンサーが働くんですよ。カウンセリングの過程で、私はそれまで生き残るために自分のネガティブな感情を切り離して生きてきたことに気づいたんです。でも苦しみや哀しみを感じないようにしていると喜びの感情も麻痺していく悪循環に陥ってしまう。アルバムは自分の奥底にある心の闇や影と向き合い、これまで体験してきた様々な感情の揺らぎやプロセスを描いた作品になると思います。

―新曲「Floating Planets」は、何かが起きそうな危うい空気が漂うラブソング。こういう生々しい感情の描写は今までのアンジェラさんのイメージにはなかったのでは?

アンジェラ:4年前に17年間一緒に過ごしてきた人と離婚した後、40代で一人になってから一つの恋愛を経験しました。
でも40代の恋愛は、20代とは違う不安があって、その体験をリアルに描いてみたかったんです。若い頃は恋の終わりに気がついても怖くはない、というか恋愛の気持ちの方が勝っているものだと思う。でも今の自分の年齢になると切実でシビア。恋愛の幸せと同時にその終わりをどうしても感じてしまう。その40代の揺らぎを表したつもりです。「Floating Planets」のMVも、私が自らプレゼンテーションして、絵コンテもカット割りも自分で作って、私自身が出演したんです。スタッフは若手の女優さんでいくものだと思っていたみたいなんですが、「これは40代の私の歌なので私が出演します」と言って。今の私自身をMVでも見てもらいたい気持ちが強かったんです。

―2014年に⽇本での無期限活動停⽌に入り、アメリカでミュージカルの音楽作家を目指し、音楽大学に入学。順調にキャリアを築いていた最中の思いきった決断には驚きました。

アンジェラ:日本で活動を続けながら、日本の音大に通う選択肢もあったんですが、自分の身分が知られているところで他の学生さんのヴァイブスを乱すのはイヤだったし、それより自分のことを誰も知らない場所に身を置いて、作曲の勉強や音楽の理論を一から学びたかった。南カリフォルニア大学の作曲科に2年通い、オンラインでバークリー音楽大学、ニューヨーク大学、コロムビア大学などの受講を3年、ビッグバンドからオーケストレーションのアレンジなど幅広いカテゴリーの勉強を重ねてきました。
私はクラシック・ピアノは習っていましたが、それまでは直感で音楽をつくってきたので、そこに行き詰まりを感じていたんです。例えて言うなら、パレットの絵の具の組み合わせを出し尽くした感じ。これからの音楽人生を考えたら、ここでパレットの絵の具を増やさなければならないと思ってアメリカに行ったんです。

―アメリカでの学生生活は充実していましたか?

アンジェラ:20歳も歳の離れた学生達に交じって学ぶことは刺激的で楽しかったし、成長していく自分を確認することもできました。ミュージカル『この世界の片隅に』の音楽も勉強する前の自分にはできなかったと思うし、その充実感はそれまで味わったことのないものでした。でも、やっぱり仕事と人間の心は別なんですね。

―ご自身のInstagramでも、「元を辿るとこのアルバムは2020年、世界にコロナと言う急ブレーキがかかった年、真剣に自分と向き合う決心をした瞬間からスタートしていたのかもしれません」と語っていますね。

アンジェラ:5年前から私が受けているシャドーワークというインテンシブな心理カウンセリングは、シャドー=無意識に押し込めた部分と向き合い、受け入れていく心の作業なんですが、過去のトラウマを理解し、紐解いていくうちに色んな気づきがありました。それまでの自分はある意味VR(ヴァーチャル・リアリティー)を被って見た世界をリアルだと思っていた感じで、それは先ほど言ったようなトラウマを抱えた自分がなんとかサヴァイヴするために必要なものだったのですが、VRを外すとまったく違う世界=本来の自分の世界が見えてきた。「Pledge」の歌詞にある〈二度と手放さない 私であることを〉は自分の誓いの言葉でもあって、どんなに苦しくてもリアルな世界を感じ、気づき、心を開いていくことをやめてはいけないと。

―自分の中にある負の感情と向き合うことは音楽をつくる、歌うことに必要だった?

アンジェラ:そうだと思います。私のトラウマというのは幼少期に受けたハーフであることの強烈な疎外感や孤独感なのですが、自分にはいつも欠落感が付きまとっていて自己肯定感がものすごく低くて。
これまでは成功しないと自分には全く価値がないと思い込んでいたんです。メジャー・デビューする、武道館でライブをする、チャートの1位を獲る、そんな自分の外の価値ばかりに重きを置いていたんですね。自分の欠落感を埋めるために必死になって。でも、それを成し遂げた後は空っぽになってしまう。ただの自己肯定感の低い私に戻ってしまう。でもシャドーワークを続けて、何かを成し遂げなくても自分には価値があると認められるようになって、ようやく自分自身の音楽に向き合うことができるようになった。

―ヒットにも恵まれ、目標としていたステージにも立ったのに、満たされないものがあったと?

アンジェラ:そう。まさかこんなに自分がエンプティになってしまうとは思わなかったし、自分がエンプティだと気がつかないまま必死に次から次へと目標に向かっていたから、随分無駄なエネルギーを使っていた気がします。もちろんそれによって今の私がいるし、これまで作ってきた楽曲はどれも愛おしいものではあるけれど、次のアルバムにはシャドーワークの過程をつぶさに描いたつもりです。何も分からずに闇雲に頑張っていた自分を赦すところまできたんです。

―新曲の2曲だけでもアンジェラさんの新境地が明確に感じられますが、ご自身の体験を元にメロディーと言葉を紡ぐという作業は、これまでのソングライティングとは違いましたか?

アンジェラ:違いましたね。基本は音から入って、そこに呼ばれた言葉をのせるスタイルなんですが、今回は自分の闇と向き合いながら日記のように言葉を書き出して、そこから曲にしていきました。
歌詞は基本的にすべて日本語です。今は英語もネイティブのレベルになりましたが、今回のアルバムはどうしても日本語で伝えたかった。マインドフルネスやスピリチュアリティのことは日本語で表現するのが難しくて、この複雑な感情をどう言葉にしたらいいのかハードルは高かったけど、楽しくもあったんです。ライターとして20代のときのようなラブソングを作ろうと思えば作れるんだけど、今は自分が自分のために音楽を作りたいモードなんです。そういう意味で、ザ・シンガー・ソングライターのアルバムになると思います。

―「Floating Planets」のふくよかな女性コーラスや感情の揺らぎのようなギターなど、シンプルなアレンジながらドラマチックでゴスペルのような趣もあり、歌詞の世界観も含め、大人の女性が歌うからこその説得力がありますね。

アンジェラ:最近は隙間のない音楽が主流ですが、私は感情を入れるスペースがある余白を大事にしたサウンドにしたかったんです。アルバム収録曲はアメリカのプロデューサーと日本のプロデューサー約半分ぐらいのバランスになると思うのですが、アメリカではアリソン・ラッセルをプロデュースしているアメリカーナ系の多様でモダンなサウンドを得意としている人達としっかり音作りをして、「Floating Planets」の独特の深みのある音は彼らと作りました。現在、私が拠点としているナッシュヴィルはアメリカでも屈指のミュージック・シティで、息子の通う学校のパパ友がグラミーを受賞したり、様々なミュージシャンやプロデューサーと触れ合える環境なんです。もしかしたら今回は必ずしも万人に受けるアルバムではないかもしれないけれど、届くところに届けばいいかなと。

―アメリカの大学で学んだことが曲作りで活かされたところはありますか?

アンジェラ:大学はミュージカルの音楽のための勉強だったので、自分の音楽をもっと向上させるという感覚ではなかったんですが、結果的には反映しましたね。パレットの絵の具が増えて、曲に変化や陰影をつけることができるようになって、曲作りがすごく楽しくなってきたし、プロデューサーやアレンジャーとも歌の世界観を共有できたと自負しています。


アンジェラ・アキが語る、自分を取り戻すまでの10年、完成間近のアルバムでの変化


―メジャー・デビュー20周年となる今年は11年ぶりとなる全国ツアー「アンジェラ・アキ Tour 2025 -Eleven-」を開催。オリジナルに加え、ミュージカルの劇中歌や楽曲提供曲、藤井 風「ガーデン」、ちゃんみな「美人」、などのカバーを披露しました。

アンジェラ:本当は今年の春にアルバムをリリースしてツアーをしたかったんですが、「みんな久しぶり!」のライブをやってもいいかなと、色々な曲を歌わせてもらいました。風くんは岡山にいる頃から私のライブによく来てくれていて、今はLINEで連絡を取り合ったり、深い話ができる同士みたいな感覚があるんです。あと、私はヒップホップも大好きなんです。ティーンの頃はスヌープ・ドッグやドクター・ドレー、今は息子とケンドリック・ラマーばかり聴いているので、ラップにも挑戦してみたかった。日本のAwichやちゃんみなも大好きで、自分の少女時代に彼女たちのようなロール・モデルが欲しかった。田舎で劣等感を抱えながら生きていたから、ちゃんみなさんのような人が現れたらパワーをもらえただろうなって。

―息子さんは初めてアンジェラさんのステージを観て、驚いたそうですね。

アンジェラ:息子は私がシンガー・ソングライターだったことを知らないで育ったので、10歳のある日、どこかで私の存在を知ったらしく、「ママ、アンジェラ・アキって何?」って(笑)。そんな息子も思春期真っ最中の中2になりました。

アンジェラ・アキが語る、自分を取り戻すまでの10年、完成間近のアルバムでの変化

撮影:上飯坂一

―シンガー・ソングライターとして成功を収めたにも関わらず、そこに安住せずに新たな夢に向かうアンジェラさんに強く、凛々しい女性像を描いている人も多いかと思いますが?

アンジェラ:そう。私はアーティストとしても人としても強くありたい、強くならなければいけないと思い込んでいたんです。それが本来の感情を切り離していたことにも繋がっていたんです。セクシュアルな部分を封印していたところもあったし、我慢が美徳という昭和の価値観で育った最後の世代なので、自分の弱さを認めたくなかったんですね。弱い部分を認めて自分に優しくしてもいいんだと分かってからは、違う強さが出てきたかもしれない。

―アルバムの完成が近づいている現在の心境は以前とは違うものですか?

アンジェラ:ここまで自分と向き合えて自分を誇りに思えるのは初めてだし、自分の歌を聴いて自分の声が好きかもしれないと初めて思えたんです。今はアルバムを作らせていただけたという喜びと感謝を噛みしめています。先ばかり見ていた頃と違って、今、この瞬間をちゃんと意識したいんです。ここに11年前の完璧主義編集者の私がいたら、「アナタ、誰?」ですよ、きっと(笑)。

―そんな極めてパーソナルな内容になったアルバムは、アンジェラ・アキ像を一新しそうな予感がしますね。

アンジェラ:そうですね。もしかしたら、「アンジー、大丈夫?」と思う部分もあるかもしれないけど、嘘のない本音でいきたかったし、そうする必然性があったんです。いくつになっても自分に可能性はある。人生のすべてに意味はある。苦しみ、もがきながらそこに辿り着いて、アルバムをつくることができたのは私にとって最大のギフトだと思っています。

<リリース情報>

アンジェラ・アキが語る、自分を取り戻すまでの10年、完成間近のアルバムでの変化


アンジェラ・アキ
ニューシングル「Floating Planets」
11月26日(水)リリース
ST/DL:https://LGP.lnk.to/FloatingPlanets

アンジェラ・アキ
ニューアルバム『Shadow Work』(デジタル/CD)
2026年2月11日(水/祝)リリース
MHCL3150 価格3850円(税込み)
収録曲:
配信シングル「Pledge」(2025年5月21日リリース)「Floating Planets」(2025年11月26日リリース)含む全13曲収録予定
編集部おすすめ