12月25日発売の音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan vol.33」では年末恒例企画で、川谷絵音がこの一年の音楽シーンを総括(今年で6回目!)。ここではインタビュー記事のリードテキストと、川谷が選んだ「2025年のベスト10曲」を本人の楽曲解説とSpotifyプレイリスト付きでお届けする。


Spotifyの年間ランキングを分析しながら、川谷絵音とともに国内外の音楽シーンを振り返る年末の恒例企画も今回で6年目。海外では2026年のスーパーボウル・ハーフタイムショーへの出演が内定しているバッド・バニーが〈世界で最も再生されたアーティスト〉の1位に返り咲き、テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュ、ケンドリック・ラマーらが様々な話題を振りまいて、K-POPもNetflixのアニメ映画から大ヒット作が誕生。

グラミー賞を運営するレコーディング・アカデミーが「ブームになる」と予想したJ-POPも、Creepy Nuts、藤井 風、米津玄師と話題作が続き、国際音楽賞のMUSIC AWARDS JAPANがスタートするなど、また新たな段階に入ったことを強く印象付けた。indigo la Endが結成15周年を迎え、礼賛が武道館公演を成功させた一方で、ゲスの極み乙女がインディーズレーベルを立ち上げ、ジェニーハイは「フリーズドライ」に突入と、自身の活動にも変化の兆候が見られた川谷は、この一年をどのように感じていたのか。2020年代後半の音楽シーンの流れが、きっとここから見えてくるはず。(文・金子厚武)

川谷絵音が選ぶ、2025年のベスト10曲

「HIGHER!」Dijon
「Caviar」JayDon
「I Love You」Tobias Jesso Jr.
「Islands of Men」Geese
「Reliquia」Rosalía
「Where to Look」Nilüfer Yanya
「Breakdown」Saba & No ID
「Playground」Max Baby
「Tears」Sabrina Carpenter
「Mind loaded (feat. Caroline Polachek, Lorde & Mustafa)」Blood Orange

※次点

「Cross Your Heart」Momma
「TOURMALINE」Earl Sweatshirt
「This Is Real」feeble little horse
「Cheap Hotel」FKA Twigs
「Baby Chop (feat. No Rome & Keshi) 」boylife
「Bloom」Maribou State
「bombay (keep it alive)」WHATMORE

ベスト10曲をみずから解説

―まずはサブリナ・カーペンター。Spotifyの年間ランキング〈世界で最も再生されたアルバム〉で昨年リリースの前作『Short n' Sweet』が5位。今年は最新アルバム『Man's Best Friend』もリリースされました。

川谷:『Man's Best Friend』はめちゃくちゃ聴きました。「Tears」を2025年の10曲に選んだんですけど、最近の洋楽だとメロディが2種類とかあって、それが交互に出てくる曲が好きなんですよ。そういうメロディが何種類かある曲ってコードがループのことが多いんですけど、「Tears」はループじゃなくて、はっきりコード進行が2パターンで分かれていて。そこがすごく好きですね。
日本でもループ系の曲が増えていて、なとりくんの「プロポーズ」もサビがなくて、わかりやすく盛り上がったりしないのにヒットしている。日本も「Aメロ・Bメロ・サビ」みたいな感じだけではなくなってきている気がします。

―川谷さんが選ぶ2025年の10曲にはディジョン、ギース、ロザリアといった名前が並んでいて、ローリングストーンUS版の年間ベストをはじめ、この辺りは軒並み今年のベストに入ってますね。

川谷:ロザリアを最初に聴いたのはだいぶ前で、2018年に最初にヒットした曲をラジオ(「川谷絵音の約30分我慢してくれませんか」)で聴いたんです。放送作家の人が世界のヒット曲をプレゼンするという形式で、その頃はスぺイン語の曲を聴くことなんてあんまりなかったから、すごく新鮮だなと思って。そんなロザリアが新作(『LUX』)では日本語だったり、いろんな言語を使っていて。それなのに意外と聴きやすく、音楽的挑戦の背景も底知れないものがあって、ここに来て重要な作品を出したなって。

以前ライブのMCでも喋ったんですけど、ロザリアがアルバム制作に集中していたからSNSをあんまり見てなくて、詳しく把握してなかったパレスチナ紛争について言及しなかったら、ファッションデザイナーにキャンセルされた、という話を読んで。行き過ぎたキャンセルカルチャーについて考えなくてはいけない時が来ているなと思いました。今はミュージシャンは政治的な態度を取らないといけない立場にあって、「制作に没頭していたから」っていう言い訳も通用しないんだなって。そのインタビューを読んだら悲しくなりましたね。もうちょっと寛容であってもいいんじゃないかなって。


―最近は日本でも、中国との関係のことをミュージシャンが言わないと、みたいな論調もあったりするし、でもその一方では「ミュージシャンが政治に口を出すな」という声も未だにあるし、どちらにしろ何かを言われるような状況はありますよね。

川谷:今は立ち回り方がすごく難しい時代になってきてますよね。ロザリアは今回いろんな言語を取り入れて、ワールドワイドなアルバムを作って、そのうえでキャンセルカルチャーの話があったから、それも含めて2025年を象徴する作品だったなって。デジタルデトックスしないと作れなかったんだろうなとも思うんですよ。見たくないものもいろいろあるじゃないですか。デジタルデトックスは一般の人にとっても大事ですけど、表に出ている人たちはやっぱり色々言われがちなので、制作中はそれを見ない選択をすることも一つの方法ではあると思うので。

川谷絵音が選ぶ、2025年のベスト10曲

Photo by Kana Tarumi

ギースは「Islands of Men」を挙げていますね。

川谷:ギースのアルバム(『Getting Killed』)は、単純に声が素晴らしいなって。前の作品のときより歌い方が明らかに変わっていて、今の歌い方がすごく好きだなと思ったのが特にこの曲でした。ギースってストロークスやレディオヘッド感もちょっとあるじゃないですか。僕はどちらのバンドも大好きなんですけど、それにギース流のオリジナリティがしっかり乗ってる。今年ライブを観に行ったフォンテインズD.C.とかも好きなんですけど、彼らよりも自分の生活の中に根差せるアルバムな感じがする。
ギースは僕が個人的に欲しいものだったというか、すごく聴きましたね。

―年明けの来日公演はすでに代官山SPACE ODDが2日間ソールドアウトです。

川谷:ウィスプ(Wisp)も渋谷WWWが即完してましたもんね。

モンマ(Momma)も2日間とも売り切れてました。

川谷:今はやっぱりオルタナとかシューゲイザーもすごく人気ありますよね。そういうバンドが初来日なのにすぐ売り切れる。ちょっと前だったら簡単に売り切れなかった気がするんですよ。日本でもシューゲイザーとかオルタナ的要素を含む若いバンドがかなり増えたじゃないですか。kurayamisakaとか雪国とかもそうですけど、ああいう人たちが前に出てくる時代になったのはいいことだと思いますけどね。

―今年の10曲の中でベストを挙げるとしたらどうですか?

川谷:ブラッド・オレンジですね。最初のアルペジオがエモーショナルの極致みたいな感じで、あれが今年一番好きなフレーズ。なんなら一番聴いたかもなっていうぐらい好きでしたね。
僕だったらバッド・バニーの「DtMF」じゃなくて、この曲を使って、過去の写真を回想するTikTokを撮りますね(笑)。ミュージックビデオもすごく良くて、今までのブラッド・オレンジの映像の中でもトップクラスに好きでした。あと、ニルファー・ヤンヤも僕の中のエモの塊だったので、このEP(『Dancing Shoes』)自体すごく好きです。

―毎年、川谷さんが選ぶ10曲はギターがかっこいい曲も多いですよね。

川谷:JayDonの「Caviar」も最初のギターリフがかっこよかった。最近のR&Bでああいう印象的なギターフレーズはそこまでなかったんじゃないかなと。トバイアス・ジェッソ・Jr.は藤井 風の「Hachikō」にも参加してましたけど、自分のアルバムを出すのは2015年以来だったんですよね。「I Love You」は途中でいきなり、爆発したようなドラムが入ってくるのにびっくりして。すごいアレンジだなと思いました。メロディもすごく良いし、 あんまり修正してない感じもあって、生々しくていいなって。今を象徴する人ではありますもんね。

―ソングライターとして引く手数多ですからね。


川谷:マックス・ベイビーもプロデューサーとして今すごく忙しいみたいですけど、「Playground」もとにかくギターがかっこいいんですよ。最近これを長田(カーティス)くんに聴かせて、「この感じのアルペジオやってくれない?」って言いました。

ディジョンについてはどうですか?

川谷:みんなディジョンのことしか話してないんじゃないかなってぐらい、僕のXのタイムラインにはたくさん流れてきましたね。本当に素晴らしいアルバムだったと思います。数年前にディジョンとMk.geeが一緒に部屋で演奏しているライブ映像がすごく好きで、2025年の初めぐらいに礼賛のメンバーに見せて、「こういう感じのギターの音にしたい」っていう話をしたりしてましたね。

―ディジョンとトバイアスはどちらもジャスティン・ビーバー絡みで、彼は今年2作アルバムを出してますけど(『SWAG』『SWAG II』)、Spotifyのランキングには入ってないですね。

川谷:確かにそうですね。ランキングとは全然関係ないけど今年初めぐらいに、コーラスのえつこから古着のジャスティン・ビーバーのTシャツをもらったんですよ。それを今年ずっと着てて。別にジャスティン・ビーバーのことはそこまで詳しくないけど、僕がよく着ているものだから、たぶん今年会った人たちにはめちゃくちゃ好きなんだろうなって思われているはず(笑)。すごくいい質感のTシャツで、シンプルに着やすいから着てたんですけど、レストランに行って店員さんに「好きなんですか?」って言われるくらい着てたから、なぜか曲を聴くのが恥ずかしかったまであります(笑)。自分の中では今年一年、ある意味ジャスティン・ビーバーをかなり意識してました(笑)。


―来日公演で印象に残っているものはありますか?

川谷:フレッド・アゲインは衝撃を受けましたね。僕は立川で観たんですけど、あんなダンスミュージックがあるんだって。人力で、パワフルで、客席にも降りてくるし、すごいエネルギーで2時間走り切って。完全に今年一番良かったライブでしたね。MCのとき自分で喋らずに、日本語の字幕を映すのもすごく良くて。母国語じゃない国でライブするときにものすごく有効な手段だなって。「やあ、フレッド・アゲインだよ」みたいな口調で、チャーミングな人柄もなんとなく伝わってくるし。

―インディゴの今年のライブで字幕を使ってたのはフレッド・アゲインの影響?

川谷:そうですね。韓国公演が中止になっちゃって、まだ海外では試せてないけど、国内で試してみた感じかなり使えるなって。思ったことをそのまま齟齬なく伝えられるのがいいですよね。あと、ファイベル・イズ・グローク(Fievel Is Glauque)にも行きました。ケイトラナダと被っててどちらもチケット持ってたんですけど、それは友人に譲って、久しぶりに(会場の)ブルーノートにも行きたいなと思ってファイベルの方に行きました。そうしたら、日本人がステージの端にいて、なんか見たことあるなと思ったら、10年以上前に下北沢ERAとかで対バンしたことある人で。she might be swimmerっていうバンドのギター(スズキヨウスケ)で、なんでここに?っていう。あとで調べたら本人だったからびっくりしました。ライブもすごくプログレッシブでかっこよかったですね。それとハイエイタス・カイヨーテも、10月のSpotify O-EASTに行きました。2時間20分くらいのライブで、洋楽のアーティストであの長さは珍しいですけど、本人たちも楽しそうだったし、すごく良かったです。

※インタビュー全文は12月25日発売「Rolling Stone Japan vol.33」に掲載

indigo la Endと礼賛は、ともに「Vポイント presents ツタロックフェス2026」2日目となる3月21日に出演する。また同日には、indigo la Endのニューアルバム『MOLTING AND DANCING』収録曲「夜凪 feat. にしな」でコラボした、にしなも出演が決定している。

川谷絵音が選ぶ、2025年のベスト10曲

ツタロックフェス2026
2026年3月20日(金祝)、21日(土)、22日(日)
幕張メッセ国際展示場4・5・6・7ホール
公式HP:https://cemusiccreative.com/tsutarock2026

川谷絵音が選ぶ、2025年のベスト10曲

Photo by Tayo Kuku Jr.

「Rolling Stone Japan vol.33」
2025年12月25日(木)発売
・定価:1,500円(税込)
・発行元:CEミュージッククリエイティブ株式会社
・発売元:株式会社CEメディアハウス
Amazonはこちら

川谷絵音が選ぶ、2025年のベスト10曲

indigo la End 15th Anniversary Special Series #Final
「雨の藍」2026年1月30日(金)日本武道館
「夜の藍」2026年1月31日(土)日本武道館
チケット購入:https://indigolaend.lnk.to/tVzCOl

川谷絵音が選ぶ、2025年のベスト10曲
画像

礼賛 ONEMAN TOUR 2026
『超超超BUSYツアー』
チケット購入:https://eplus.jp/raisan/

【東京】2026年2月21日(土)東京国際フォーラム ホールA
【福岡】2026年2月28日(土)Zepp Fukuoka
【新潟】2026年3月3日(火)新潟LOTS
【大阪】2026年3月6日(金)Zepp Bayside Osaka
【大阪】2026年3月7日(土)Zepp Bayside Osaka
【石川】2026年3月9日(月)金沢REDSUN
【愛知】2026年3月12日(木)Zepp Nagoya
【愛知】2026年3月13日(金)Zepp Nagoya
【広島】2026年3月15日(日)広島CLUB QUATTRO
【東京】2026年3月19日(木)Zepp Haneda(TOKYO)
【東京】2026年3月20日(金)Zepp Haneda(TOKYO)
【仙台】2026年3月22日(日)SENDAI GIGS
【北海道】2026年3月28日(土)Zepp Sapporo
【北海道】2026年3月29日(日)帯広MEGA STONE
【香川】2026年4月5日(日)高松festhalle
【鹿児島】2026年4月8日(水)鹿児島CAPARVO HALL
【沖縄】2026年4月11日(土)ミュージックタウン音市場
編集部おすすめ