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長年にわたるサンプル許諾(クリアランス)をめぐる問題、そして旧レーベルのトミー・ボーイとの長期に及ぶ係争を経て、トリオの最初の6枚のアルバム──1989年のゲームチェンジャー的傑作『3 Feet High and Rising』を含む──が、同年3月3日にようやくストリーミング配信へと到達した。
トゥルゴイの姉シンディの後押しもあり、残されたメンバーのケルヴィン ”ポスドゥーヌス” マーサー(Kelvin ”Posdnuos” Mercer/56歳)とヴィンセント ”メイシオ” メイソン(Vincent ”Maseo” Mason/55歳)は、倒れた友を讃え、そのレガシーを生かし続けるため、デ・ラ・ソウルとして歩みを止めないことを決断する。
その想いが結実したのが、9作目となる『Cabin in the Sky』だ。2016年のグラミー賞ノミネート作『And the Anonymous Nobody…』以来となる最新アルバムであり、レーベルのマス・アピールが手がける『Legend Has It…』シリーズの最新作でもある。同シリーズではこれまで、スリック・リック、モブ・ディープ、ゴーストフェイス・キラーといったベテラン勢の新作がリリースされてきた。
『Cabin in the Sky』というタイトルは、ポスドゥーヌスがテレビを観ているときに偶然出会った、1943年のミュージカル映画『キャビン・イン・ザ・スカイ』にちなんだものだという。本作には、トゥルゴイが亡くなる前に録音していた複数の楽曲も収録されている。彼は肉体的にはもうここにいない。それでもポスドゥーヌスは、同じMCであり、創作上の相棒でもあった彼の存在が、制作の全工程で決定的な力として働き続けたと語る。
「彼はずっと僕らと一緒にいたんだ。彼のエネルギー、彼のスピリット、僕がリリックについて考えるときの影響──そういうものがね」と、ニューヨークのホテルからポスドゥーヌスは話す。
「使った曲のいくつかは、彼が実際に作った曲そのものだった。たとえばラストの『Dont Push Me』は、デイヴ(Dave)がプロデュースして、自分でもラップしている。アルバムの冒頭『YUHDONTSTOP』もそう。あれはデイヴが作った音楽の断片で、それを僕が拡張して曲にしていった。つまり、彼は実際に制作に参加している。だからこそ、アルバム全体を通して彼のエネルギーがはっきり感じられるんだ。それが僕は大好きなんだよ」
さらにポスドゥーヌスは、トゥルゴイが”向こう側”から物事を好転させてくれているように感じるという。旧譜(バックカタログ)がようやく整い、音楽が受け入れられていったことも、そこに連なる出来事のひとつだ。
「よく言うだろ? 誰かが別の世界へ旅立つと、向こう側から航路を導いてくれる、天使になって見守ってくれる、って。彼が僕らのもとを去ってから、まさにそんな感じなんだ。
「タイトルや、アルバムが概念的に流れていく感じからすると、彼が天国からこのアルバムを作っているみたいに聴こえる」とメイシオも続ける。「彼がこのアルバムを作ったんだよ」
ただ、2人組としてデ・ラ・ソウルを続けることは、簡単なことではない。ステージに立つ瞬間、欠けたピースが意識の奥から浮かび上がるという。
「デイヴが亡くなってからも、僕らはずっとライブをやっていた。だからそれだけでも巨大な調整だった」とポスドゥーヌスは言う。
「デイヴが見えない。いつものようにステージに上がってくる気配もない。
だからアルバム制作に入ったときには、彼がいないという状況に、ある程度はすでに順応していた部分もあった。で、僕は彼がそこにいる姿を思い描いたんだ。アドバイスをくれて、いつも通りトラックに魔法をかけてくれるような。
それに”仕上がりの目配り”だよ。デイヴは本当に、本当に、本当にこだわる人だった。音楽、ビート、言葉の言い方、響き方──あらゆる面でね。だから僕も、そのエネルギーを維持しようとした。『デイヴがここにいたら、もっとこのライムを良くしろって言うだろうな』『デイヴがここにいたら、そのサンプルの処理をこう整理しろって言うだろうな』って。
「デ・ラ・ソウルである以上、僕らは朝起きて、彼ならどう考えるかを考えずにはいられない」とメイシオは言う。
「それが自動的に存在してしまうんだよね。彼が大事にすることを、僕らも大事にする。それを分かったうえで前に進むしかない。確かに大きな調整ではあるけど、僕らにはその責任があるし、やるべき仕事でもある。そして僕らは、それを引き受ける覚悟ができている」
トゥルゴイに加え、ヒップホップ界の重鎮ピート・ロック、DJプレミア、そして過去にも共作してきたジェイク・ワンやスーパ・デイヴ・ウェストらがプロダクションに名を連ねる『Cabin in the Sky』は、デ・ラ・ソウルの輝かしい過去と、新たな道筋を編み上げていく。その空気感は、歓喜に満ちた祝祭であると同時に、胸を打つ追悼でもある。
「僕にとって最大の成功っていうのは、頭の中で思い描いていた音楽や試してみたかったことを、最終的にスタジオで形にできることなんだ」とポスドゥーヌスは言う。
「それが実現するのを見るのが一番の成功だよ。思いついたアイデアが息をし始める瞬間。ある曲に入れたら最高の”楽器”になるって思うアーティストがいて、実際にその人が参加してくれる。あるいは、頼んだアーティストが忙しくて無理だったとしても、代わりにその役割をほぼ完璧に埋めてくれる人を見つけられる。
「ポスが言っていることには僕も同意するし、それと同時に、これは僕らの喪失に対してすごくセラピー的でもあった」とメイシオも付け加える。「そして”僕ら”の喪失っていうのは、ファンも含めてのことだよ」
イントロを含めて全19曲を収録した『Cabin in the Sky』は、デ・ラ・ソウルの作品の中でも2番目に長いランタイムとなる71分超の大作だ(最長は1991年の『De La Soul Is Dead』で73分超え)。それでも本作は、ひとつのまとまりとして自然に流れていく──その一体感を実現するため、デュオは相当な労力を注いだという。
「スタジオである曲を聴いていると、『この曲、ここに置けそうだな』ってなる。でもそこで終わりじゃなくて、『じゃあこの曲を核にして、まったく別の曲も丸ごと作ってしまおう』ってなるんだ」とポスドゥーヌスは語る。
「たとえば(バナナラマとロイ・エアーズをサンプリングした)『Cruel Summers Bring FIRE LIFE!!』のアイデアは、もともと『Day in the Sun』という曲がすでに存在していて、そこに向かって緊張や葛藤を積み上げていく展開があったら面白いと思ったことから生まれた。男女の間、あるいは愛し合う2人の間にある問題や摩擦が高まっていって、最後に『Day in the Sun』へ至る、みたいなね」
メイシオは主にグループのDJとして知られてきたが、これまでも断続的にデ・ラ・ソウルの曲でラップしており、本作でも祝祭感に満ちたハイライト曲「Will Be」でマイクに帰ってくる。
「これから先は、たぶんもっと僕のラップが聴けると思う。でもそれはデイヴがいないからってわけじゃない。どのみちそうなる予定だったんだよね」とメイシオは言う。
「そろそろマイクに戻る時期だった。何年もコメント欄を見てると、みんなずっと『マイクに戻ってくれ』って言ってるから、僕も試してきた。
一方でポスドゥーヌスとメイシオは、2013年に制作されながらお蔵入りになっているアルバム『Youre Welcome』が世に出る可能性は低いとも話す。ただし、長らく待たれている『Art Official Intelligence』三部作の第3章、つまりDJへのオマージュとして構想され、2001年のアルバム『AOI: Bionix』の時点で約束されていた作品については、今も期待できるという。
「『Cabin in the Sky』は、もともと(以前告知していたEP『Premium Soul on the Rocks』として)やるはずだったピート(ロック)とDJプレミアのプロジェクトが、もっと大きなものに変化した結果なんだ」とメイシオは語る。
「時間が許すなら、願わくば、僕らが約束していた『AOI 3』の制作にも取りかかりたい。結局それは、自分たちとファンに対するクリエイティブな”約束”を果たすことなんだよ。三部作を完成させたいという気持ちはずっとあった。でも最初の2作がストリーミングで聴けない状態だと、進めるのが難しかったんだ」
メイシオのラップ復帰だけが、『Cabin in the Sky』のサプライズではない。アルバムにはナズ、ブラック・ソート、スリック・リック、コモン、キラー・マイクといったトップ級のMCがずらりと並ぶ。だが最大の驚きは、ネイティヴ・タンギューズの盟友でありア・トライブ・コールド・クエスト創設メンバーでもあるQティップのカメオだろう。彼がデ・ラ・ソウルの曲でヴァースを披露するのは、1991年の『A Roller Skating Jam Named Saturdays』以来となる。
「あいつは俺たちの兄弟だよ」とポスドゥーヌスは愛情を込めて言う。
「僕は彼のことを”ちっちゃい大兄貴”って呼んでる。年下なのに存在がデカいし、いろんなことに関して彼の意見を尊敬してるからね。ティップには話してて、『俺ニューヨークにいるからさ、スタジオに来てよ。あのエネルギーが必要なんだ』って言ったら、『行くよ』って返してくれた。で、ある日ふらっと来て、音楽を聴いてくれてたんだ。ティップは僕らのことを本当に好きだからね。彼は正直で、『そのライム、もっと良くできるだろ』って言うし、『プレミアがこれやったの? だったら、こういうの入れすぎないように言ったほうがいい』とかも言う。アイデアもすごく助けになった。僕がやりたくないことでも、正直でいてくれたことがありがたかったよ。
それで彼が参加した曲(『Day in the Sun (Gettin Wit U)』)を聴いてたんだけど、そもそも彼は参加する予定じゃなかったんだ。ただ聴いてるだけなのに、横目で見たらめっちゃテンション上がっててさ。そしたら『おいおい、なんで俺に声かけなかったんだよ!?』って言って、全員大爆笑(笑)。俺も『マジ? 乗りたい?』って聞いたら、『もちろん!』って。あれは最高に面白かったね」
アルバムの中でお気に入りの曲は何かと聞くと、ポスドゥーヌスもメイシオも、ひとつに絞りきれない様子だ。
「ある時は『Cabin in the Sky』だし、ある時は『Different World』だし、『Run It Back』もある。多すぎるんだよね」とポスドゥーヌスは言う。
「その時々によるけど、今ならたぶん『Run It Back』かな(ザ・ポリスの『Every Little Thing She Does Is Magic』をサンプリングしている曲)。僕はザ・ポリスが大好きなんだ。スーパ・デイヴ・ウェストが、ザ・ポリスのレコードを逆回転(リバース)させてネタにして、あそこまで見事に成立させたのも最高。しかもナズが聴いて、僕と同じ感覚を持ってくれた。で、スピリットに手を委ねるみたいに一気にライムを仕上げた。あの曲の周りにあるエネルギーが、とにかくすごいんだよ」
「正直、僕も迷ってる」とメイシオは言う。
「いくつか”刺さってる”曲があるんだよね。ブラック・ソートが入ってる(DJプレミア制作の)『EN EFF』『Run It Back』『The Package』、タイトル曲……。悩むよ。クールな曲が多すぎる」
『Cabin in the Sky』の序盤でメイシオが口にする数語は、このアルバムを端的に言い表している。
「その感覚を取り戻す準備をしろ──楽しかった頃の記憶を。そして悪い記憶からも逃げるな。全部、人生の一部だから」
悲しみが、ポスドゥーヌスとメイシオを今ここへ導いたのは間違いない。だが同時に、約40年近く続く実り豊かな創作上のパートナーシップ、そして友情もまた、彼らを支え続けてきた。
「デイヴを失ったことは、デイヴを失ったことなんだ。つまり肉体としての彼を失った。でも僕らは、彼が僕らにとって何だったのか、これからもずっと何であり続けるのかを理解しようとしてきた。それ自体が祝福なんだ」とポスドゥーヌスは言う。
「彼の人生を見て、彼がやってきたこと、成し遂げたことを知ると、あいつは五つの人生を生きたみたいなもんだよ。
世の中には、彼が体験したようなことを経験できない人のほうが多いし、僕らがデ・ラ・ソウルとして関われてきた数々の出来事に参加できない人のほうが多い。誰かがこの世界を去るとき、望まれていたほどのことを成し遂げられなかったように見える場合だってある。それなら、悲しみだけが残るかもしれない。でもデイヴに関しては、僕らの中にあったのはただただ素晴らしい記憶と偉大さだけだった。
だからこそ、彼が去ったことだけに意識を集中するんじゃなくて、デイヴを振り返ったときに浮かぶ”光”が音楽を通して伝わることが大事だったんだ」
トゥルゴイが『Cabin in the Sky』を聴いたらどう思うだろうか──そう問われると、ポスドゥーヌスは即座に、力強く答えた。
「デイヴはこのアルバムを愛すると思う」
De La Soul(デ・ラ・ソウル)
ニュー・アルバム『Cabin In The Sky』
配信中
配信リンク:https://de-la-soul.sng.to/cabin-in-the-sky
レーベル:Mass Appeal
Tracklist:
1 Cabin Talk (album intro) / De La Soul & Giancarlo Esposito
2 YUHDONTSTOP
3 Sunny Storms
4 Good Health
5 Will Be / De La Soul & Yummy Bingham
6 The Package
7 A Quick 16 for Mama / De La Soul & Killer Mike
8 Just How It Is (Sometimes) / De La Soul & Jay Pharoah & Gareth Donkin
9 Cruel Summers Bring FIRE LIFE!! / De La Soul & Yukimi
10 Day In The Sun (Gettin' wit U) / De La Soul & Q-Tip & Yummy Bingham
11 Run It Back!! / De La Soul & Nas
12 Different World / De La Soul & Gina Loring
13 Patty Cake
14 The Silent Life Of A Truth
15 EN EFF / De La Soul & Black Thought
16 Believe (In Him) / De La Soul & STOUT & K. Butler & The Collective
17 Yours / De La Soul & Common & Slick Rick
18 Palm Of His Hands / De La Soul & Bilal
19 Cabin In The Sky
20 Don't Push Me
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