比喩ではなく、渋谷WWW Xが本当に揺れていた。あまりにもぎゅうぎゅうの観客が皆スマホを掲げ、飛び跳ね、会場中に振動を起こす。
様々なアーティストが日々フロアを揺らしているこの会場だが、さすがにここまでの盛り上がりと熱気は、近年で一番かもしれない――。2025年11月25日、その熱狂を生んでいたのは、和歌山県和歌山市築港出身のラッパー・MIKADOだ。ビートメイカー/プロデューサーのHomunculu$ら地元の仲間とともにストリートでのヒットを飛ばしプロップスをぐんぐん高めてきた、いま最も注目の若きスターである。

※この記事は現在発売中の雑誌「Rolling Stone Japan vol.33」に掲載されたものです。

【写真ギャラリー】WWW presents MIKADO ONE MAN LIVE『HELLO GUNSO』

シーンを揺るがす新星の正体

7やTOFU、HARKA、ENELら実力派ラッパーとともに、いわゆる”和歌山勢”として全国に名をはせる彼らを取り巻く状況は、劇的に変化してきている。この日、初となるワンマンライブも抽選先行には会場のキャパシティを遥かに上回る応募があったという。チケットは即完売、会場は超満員。いま、最も熱いユースカルチャーのひとつは、間違いなくここにある。

ワンマンライブのタイトルは「HELLO GUNSO」。数カ月前に発表された際、まさか”GUNSO”が今年の国内ヒップホップ最大のバズワードになるとは誰も思っていなかっただろう。そう、元ネタは、MIKADO、HARKA、ENELが10月15日にリリースした『GUNSO LYFE STYLE』だ。その中の「GUNSO WALK」が瞬く間にSNSで特大バイラル。
MIKADOは昨年も「言った!!」がヒップホップ・ミーム化したが、続いて2025年は”GUNSO”が流行語となりつつある。もちろん、そういった華やかな話題だけではない。MIKADOは今年6月に全21曲収録の大作アルバム『HOMUNCULUS』をリリースし、「MIKADO HOMUNCULUS CLUB TOUR 2025」を全国23カ所にて敢行したばかり。インターネットでの話題化と、ストリートでの地道な活動という両輪が、彼の支持を急速に高めている。

さて、ライブは「HOW MUCH」でスタート。続いて「ICOCA」「HOW 2 RiCH」と、いずれも今年リリースした曲で初っ端から一気に盛り上げる。あまりの観客の興奮に、MIKADOは「怪我してないか? 一歩だけ下がりや。怪我だけはせんと帰ってな」と優しい言葉を投げかける。「俺らどこから来たか知ってるか?」と煽ると、「築港」を歌い、そのままBenjazzyが乱入し「石コロからダイヤ」へ。大物客演に、皆が大喜びだ。

MIKADOワンマンが示した、数字を超えるリアルの熱量──和歌山勢が描く新しいシーンの地図

Photo by Masato Yokoyama

途中、MIKADOがステージから一時去ると、映像が流れる。「誰もやってない新しいことをやりたい。
でもけっこう誰かがやってる。だから、誰かがやってたことに俺が付け足すことで新しいものになるし、完全にゼロから新しいこともやれるはずだと思う」という発言に、観客が「言った!」と合いの手を入れる。

MIKADOワンマンが示した、数字を超えるリアルの熱量──和歌山勢が描く新しいシーンの地図

Photo by Masato Yokoyama

映像が終わると同時に流れたのは、「GUNSO WALK」だ。HARKAとENELが登場し、会場のテンションは最高潮に。生まれたてほやほやのストリートのヒットソングを、これだけの数の人たちが集いシンガロングするという光景が気持ち良い。その後も「ロデオ」「RN」と3人は共演し、圧倒的な存在感と華を見せつけた。

MIKADOワンマンが示した、数字を超えるリアルの熱量──和歌山勢が描く新しいシーンの地図

Photo by Masato Yokoyama

終盤は新曲も織り交ぜながら、最後に名曲「Drugbaby2(PURE)」を披露しフィニッシュ。〈色々見たこの目 我慢した今まで〉〈みんな騙されるな数字〉というリリックが力いっぱい歌われる。2020年代、ヒップホップシーンは、地域の分散やスタイルの多様化、マイクロジャンルの細分化が進み、もはや数字では計れないものになった。その中で、次の時代を作る熱はどこにあるのか。MIKADOのステージは、その答えを全力で証明しているように見えた――「数字に騙されるな、リアルはここにあるからな」と。

アンコールでljが現れ「Diamonds in my heart」を歌い、「HELLO HATER」を聴かせライブは終わった。
途中機材トラブルによるライブ中断があったにも関わらず、すべての観客が「あの日、すごいライブを見た」と何年か後に振り返って語りたくなるような、そんな偉大な通過点になるであろう一夜だった。

MIKADOワンマンが示した、数字を超えるリアルの熱量──和歌山勢が描く新しいシーンの地図

Photo by Masato Yokoyama

MIKADOが束ねるチームの結束

さて、この日はバックステージにて取材も敢行。全国から熱視線を浴びている、和歌山勢のワークスを作り出す面々の声をお届けしよう。

まず、主役のMIKADOだ。そもそも「GUNSO」とはどういう意味なのか? と尋ねると、次のような答えが。「軍曹っすね。俺が皆を束ねるぞ、みたいな。ずっとそういう曲を作りたいと思ってたので、ビートメイカー5人くらいに電話かけてGUNSOっぽいビートくださいって。GUNSO WALKのビートチェンジはHomunculu$のこだわりでできた」

MIKADOは、「HARKAはラップで肩の力を抜いて楽に自分でいられるのがすごいっすね。ENELは天才。もう任せたって感じ」と仲間について語る。ただ、彼が見ているのはその世代まで。
「さらに下の世代は、HARKAとENELが見つけてほしい。その連鎖が和歌山やから」とのことだ。

MIKADOワンマンが示した、数字を超えるリアルの熱量──和歌山勢が描く新しいシーンの地図

左から右:Shun.K(FILOUS Designer)、Lion Melo(Producer)、Shojin Kamata(Director/Photographer)、HARKA(Artist)、MIKADO(Artist)、ENEL(Artist)、Jay Corpse(DJ)、KUGA(Creative Director)、GINGA(DJ)(Photo by Masato Yokoyama)

ENELは、わくわくする答えを返す。「ISAKITOKIAやYJ EIGHTなど、まだまだ次に出てくる下の世代、いっぱいいますよ。でも、自分もまだMIKADOにタメ語で話せてないくらいの距離感なんです。最近も、MIKADOがどんどん大きくなりすぎて(笑)。和歌山の人らは、みんな彼の背中を見て育ってます。それに、HARKAもすごいんですよね。自由で、スポンジみたいに飲み込みが早いし」

そのHARKAは「MIKADOもENELも自分のスタイルを持ってる。自由に遊んでる感じがするし、そこが好きです」と語る。

和歌山勢の中では、好きなラッパーや作品を教え合い、車で移動する際に皆で聴いたりするそうだ。「俺はメンフィスがずっと好きで、キー・グロックの今年のアルバムとかめっちゃ聴いた」(HARKA)

「俺は最近ハマってるのはジム・レガシー。
UKなのにそれしてくるんだ!? って意外性がカッコいい」(ENEL)

バックステージでも皆がずっと語り合っていて、会話が尽きない。

Jay Corpse/DJ「俺はMIKADOと高校が一緒で。MIKADOのほぼ一発目のライブからDJしてます。一緒に家でローリング・ラウドの映像を観たりして遊んでますね。和歌山勢はスーサイド・ボーイズとか好きっす。でもやっぱり、俺の一番好きなラッパーはMIKADOですね。彼が凄いのは、言ったことをやるところ。しかも、多くを語らずにやる。渋い」

GINGA/DJ「俺はDJとサイドMC、オートチューンをやってます。もともとljと仲良くて、3、4年前にMIKADOとも知り合った。ENELと同じ神戸出身です。MIKADOはストイックなところがカッコいい。
和歌山は、全員それぞれが自分のやるべきことをやってる」

KUGA/Creative Director「俺は今年のツアーからクリエイティブ面で参加してます。自分は東京なんですけど、ずっとMIKADOのことは見てて、すげーなって思ってた。今日のライブのVJは自分がやってます」

Shun.K/FILOUS Designer 「MIKADOが10代の頃にFuji Trillの紹介で出会って、服への深い知識を感じたことから洋服面のサポートを始めてます。和歌山は、MIKADOの統率力が際立ってる。ヒップホップに限らず、音楽と服、映画、アートといった原点を若い世代が辿れるような、ジャンルを横断した表現を彼らと生み出していきたい」

Shojin Kamata/Director/Photographer「自分は石川出身なんですけど、同じ地元のRICHMANが MIKADOの『No Tesla』の制作に参加した時に和歌山まで同行しました。ちょうどその時にビデオ撮らないかと声をかけてもらって、『tears』 と『Syachi』のMVを作った。彼らは、制作スピードが早いし自分のスタイルを持ってる」

MIKADOの周囲に集まった、若き才能たち。彼らの眼差しに宿るのは、今日の成功だけではなく、ここからさらに前進していくという未来への意志だ。このムーブメントは、ひとつの新たな文化現象になりつつある。和歌山勢は、今後もますます、日本のヒップホップ史を書き換えていくのだろう。

Edit by Takuro Ueno
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