「チーム友達」やミーガン・ザ・スタリオンとの「Mamushi」などのヒットで、世界的に注目されることとなった千葉雄喜。2025年7月には、ワーナーミュージックとの包括契約を締結。
あわせて、アメリカの音楽レーベル300 Entertainmentの日本支部となる300 Entertainment Japanの所属アーティストとなることが発表された。

今や世界に通用するアイコニックなアーティストとなった千葉雄喜を迎えて、ワーナーミュージック・ジャパンはどのような青写真を描いているのか。今年6月にも本誌でインタビューを掲載したワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長兼CEOの岡田武士氏、千葉が所属する300 Entertainment Japanのレーベルヘッドでもある葛山かい氏に、契約に至るまでの裏側や、今後の構想などを語ってもらった。

千葉雄喜のメジャー契約は何を変えるのか? ワーナーミュージックに聞く、日本のヒップホップを世界に届けるための挑戦

千葉雄喜

「千葉雄喜ありき」のスピード展開

ー岡田社長との前回の取材から約半年が経ちました。2025年を振り返って、どのような手応えをお感じでしょうか?

岡田:昨年12月に代表に就任してからちょうど1年ということで、まずは会社や所属アーティストの理解を深める”基礎固め”の年だったなと思っています。その中で掲げてきた「日本のアーティストを世界へ」というテーマが、千葉さんとの契約によって大きく動き出した手応えがありますね。自分が社長として初めて契約したアーティストという点でも象徴的ですし、彼の存在によって海外との距離が一気に縮まったという実感もある。海外とのリレーションも着実に築けてきているので、アメリカのレーベルはもちろん、さまざまな海外レーベルとの連携も以前よりスムーズになってきていると思います。

自分としても、コミュニケーションに意識的に取り組んでいます。海外レーベルのトップに日本の音楽を紹介すると「そんなアーティストがいるの?」と驚かれることが本当に多い。ただ、潜在的には日本に興味を持っている人が多いのに、情報が十分に行き届いていない。日本のヒットチャートを熱心にチェックしている人も多いとは言えません。
音楽に限らず、日本のカルチャー全体への興味や関心が高まっているなかで、そこをうまく橋渡しすることができれば、千葉さんだけでなく他のアーティストに関しても、まだまだ大きな可能性があるように感じています。

─グローバルで求められる”日本のアーティスト像”については、どうお考えですか?

岡田:今はジャンルも細分化していて、リスナーもさまざまな国や地域に点在しています。J-POPK-POPのように一括りにはしづらく、ロックやアニメ、ヒップホップなど、様々な要素やジャンルを内包している。でも共通して言えるのは、”日本っぽさ”がきちんとあるということ。例えば、歌詞が全編英語だと「どこの国の音楽なのか」分かりづらかったりもしますよね。一方で、すべて日本語だと距離が遠すぎる。だから、「日本語7:英語3」くらいが理想だと、海外の人たちからはよく言われます。

ただ、千葉さんの場合は、その法則を軽く飛び越えているんですよね(笑)。むしろ日本語の面白さで攻めている。むしろ日本語と英語の割合が10:0でもいけるんじゃないか、とも思っています。実際、日本語100%であっても海外のクリエイターからは「むしろそこがいい」と支持されているわけですし、本当に唯一無二の存在ですよね。

千葉雄喜のメジャー契約は何を変えるのか? ワーナーミュージックに聞く、日本のヒップホップを世界に届けるための挑戦

岡田武士・ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長兼CEO(Photo by Mitsuru Nishimura)

─今日は葛山さんにもお話を伺えるということで、まずはご経歴をお聞かせください。


葛山:現在は主に神戸出身のバンド、Fear, and Loathing in Las Vegasのマネジメントや制作をしています。バンド結成当初からおよそ17年にわたって携わり、彼らとともに神戸市の後援を受け、行政と協働しながら毎年フェスを主催するなどの取り組みも行っています。そんなふうにアーティストのバリューをマネタイズしていく、いわゆるマネジメント・ビジネスをずっとメインにしてきたので、レーベルとしてのカルチャーが強いワーナーの中では、少し毛色の違う仕事を担ってきたのかなと思っています。

ーずっと音楽ビジネスに携わってこられたのでしょうか?

葛山:ワーナーに入る前は日本コロムビアという会社にいて、その頃からFear, and Loathing in Las Vegasと一緒に活動し、彼らと一緒にワーナーへ移籍してきました。さらにその前は自分でもバンドをやっていて、マネジメントも担当していました。過去に日本コロムビアではA&Rもしていましたが、所謂レーベルだけの業務は自分の中ではあまりしっくりこなかったです。

千葉雄喜のメジャー契約は何を変えるのか? ワーナーミュージックに聞く、日本のヒップホップを世界に届けるための挑戦

葛山かい・300 Entertainment Japanレーベルヘッド(Photo by Mitsuru Nishimura)

ーそして、現在は新たに設立された300 Entertainment Japan(以下、300 EJ)のレーベルヘッドを務められている。そもそも、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

葛山:まず今回千葉くんと契約するにあたって、「新たにレーベルを作るべき」というビジョンがありました。そこで彼自身のレーベルを立ち上げるという選択肢もありましたが、千葉くんには「日本から海外へ発信していく」という明確なスタンスがある。そう考えたときに、ワーナーが既に持つレーベルの日本版という形で立ち上げたほうが、世界に向けて発信していくうえでもプラスになるのではないかと考えました。

ー300 Entertainmentはもともと、Def Jamの発展にも寄与したリオ・コーエンらが立ち上げたレーベルで、これまでフェッティ・ワップ、ミーゴス、ヤング・サグ、ミーガン・ザ・スタリオンら錚々たるラッパーを輩出してきました。


葛山:千葉くん自身、所属アーティストのことをちゃんと認識していたり、レーベル自体にアーティスト・ファーストの姿勢が根付いている。その点が、ワーナーミュージック・ジャパンとも共鳴できる、同じベクトルでやっていけるのではないかと感じた理由のひとつです。

─海外レーベルの日本支社を立ち上げるとなると、多くの時間と労力が必要になりそうな印象がありますが、千葉さんとの契約から300 EJの立ち上げまでは、どのようなスピード感で進んでいったのでしょうか。

葛山:まず元々知り合いだった千葉くんのマネージャーに連絡したのは、2025年の年明け頃でした。その前に、岡田さんと「千葉雄喜は、今のワーナーの体制ならハマる」とビジョンを共有して。たしか、岡田さんが社長に就任されて最初の定例ミーティングで話したんじゃないかな。

岡田:一番最初に、千葉さんの話になりましたよね。「どう思いますか?」って。

葛山:そのあと4月頃に千葉くんと会ったんですが、ちょうどその時期に、彼自身も「グラミー賞を視野に入れている」と話していて。同時に300 EJの構想も具体的に動き始めたので、全体としてはかなりのスピード感で進んでいったと思います。

ミーガン・ザ・スタリオンと「Mamushi」で共演する千葉雄喜(2024年)

ー千葉さんが7月に行った日本武道館でのライブ中に、メジャーデビューすることが発表されました。わずか数カ月でディールがまとまったわけですね。


岡田:本格的に話を詰めた期間は、実質1カ月くらいでしたね。300 EntertainmentはAtlantic Records傘下のレーベルなので、Atlanticの社長にも「こういうアーティストとサインしたい」と話をしてきました。言うまでもなく、千葉さんはすでに「Mamushi」のヒットもありましたし、向こうの社長も彼の存在を認識していたので、かなりスムーズに話が進みました。通常、こうした海外とのやりとりやレーベル間の協業は、(話がまとまるまでに)半年ほどかかることが多いんですが。

葛山:そこはまさに、千葉くんならではですよね。この話は千葉くんでなければ実現しなかったと思います。なおかつ今回は、レーベルという”箱”ありきで話を進めたわけではなく、まずは千葉くんありきで、その受け皿として日本でもレーベルを展開していく、という順序だったのも大きかった。

グラミーを見据えた「前例のない」新体制

ーそもそも葛山さんは、千葉雄喜のどんなところにポテンシャルや魅力を感じてオファーしたのでしょうか。

葛山:先ほどもお話した通り、自分はこれまでマネジメント・ビジネスを軸に仕事をしてきて、音源ビジネスだけではなく、アーティストの価値をどう最大化し、どのようにマネタイズしていくか、という部分に重きを置いてきました。そういった視点から見ても、千葉くんはその価値を広げていける可能性が非常に大きいと感じていました。日本だけでなく、世界に向けて発信していけるポテンシャルがある、という点も大きかったですね。

ー初めてお会いしたときにも、今後の計画やディレクションについて具体的なお話をされたんですか?

葛山:初めて会ったとき、何気ない雑談をしているうちに、「グラミーを目指したい」という話が出てきて。
じゃあそのために何をすべきか、というところまで踏み込んで話をしていきました。その中で、LAなどアメリカに拠点を移し、現地のプロデューサーやミュージシャンと積極的にコラボレーションしていくのがいいんじゃないかというアイデアが出てきたりしていました。

岡田:これはメジャーレーベルのいいところでもあり、悪いところでもあると思うんですが、基本的には「フルサポートします」という姿勢で、そのやり方自体がすでにフォーマット化されているんですよね。ただ、我々としても千葉さんには既存の枠組みを超えた活躍をしてもらいたいと思っていますし、むしろ千葉さんに合わせて、どう仕組みを作っていくかが重要だと考えています。

そもそも、今回のような契約の形自体があまり前例のないものですし、千葉さんは現在LAを拠点に活動しているわけで、日本から海外在住のアーティストをマネジメントするというのも珍しい。さらに、アメリカのレーベルにサポートしてもらうというのも、我々にとっては初めての試みです。いろんな意味で初めて尽くしではありますが、環境が整いつつある。これはやはり、千葉さんだからこそ実現できていることだと思います。

ー本国の300 Entertainmentチームとも密に連携を取り合っている?

葛山:はい。オンラインでミーティングを重ねながら、どういうふうに進めていくか話し合っています。そこに千葉くん自身が参加することもありますし、LAにもワーナーの日本人スタッフが常駐していて。たとえば「300 Entertainmentのアーティストが千葉くんとのセッションを希望している」とか、「彼らが日本に来るタイミングでセッションするのはどうか」といった形で、間に入って話を持ちかけています。


岡田:これまでは、どうしてもアメリカのチームとの距離が遠かった部分もあったのですが、本社の責任者に相談して許諾を得たうえで、いまはアメリカのA&Rやマーケティングのスタッフと同じ場所に机を並べさせてもらっています。現地で情報交換やネットワークの構築を進めながら、日本のアーティストがアメリカに行ったときに”点”で終わるのではなく、継続的に活躍できる場を作れたらと思っています。

葛山:ワーナーミュージック・ジャパンとして、彼の活動をしっかりサポートしていこうという姿勢は、本国のチームにもきちんと伝わっていると思います。向こうも、千葉くんや我々に対してとても配慮してくれるというか、リスペクトしてくれているのが伝わってくる。やりとりもスムーズですし、そこは素直に嬉しいですね。

─300 EJとしては今後、所属アーティストを増やしていく計画もあるのでしょうか。

葛山:当面は千葉くんに専念するつもりです。やるべきことをやり切って、目標のハードルは高いですが、そこを達成した先に何が見えてくるのかをまずは確かめたいです。

千葉雄喜のメジャー契約は何を変えるのか? ワーナーミュージックに聞く、日本のヒップホップを世界に届けるための挑戦

Photo by Mitsuru Nishimura

─千葉雄喜の音楽やアーティスト性は、北米のマーケットでどのように受容されていると感じていますか。

葛山:まず実感しているのは、千葉くん自身がアーティストやクリエイターから、非常に強い支持を得ていること。例えばニューヨークでフォトグラファーがスタジオ・セッションをするときに、何気なく流れている音楽が千葉くんの曲だったりすると聞いています。また、千葉くんにも「セッションしよう」というDMがどんどん届いているそうです。

それに加えて、今は例えばシンプルな日本語や、カタカナのフォント、日本のカルチャーそのものがすごくウケてますよね。ヴェトモンやグッチ、ルーダンなどにも、カタカナで大きくロゴが入ったアイテムがありますし、日本のカルチャーが「かっこいい」「面白い」と受け止められている。千葉くんは、そうした文脈がもつエネルギーを自然に味方につけられる人だと思っています。

千葉くんの音楽が海外で歓迎されている理由のひとつは、ものすごくシンプルな日本語と、脱力したような声のトーンが、USのビートとうまく噛み合っているからだと思います。先ほど岡田さんから日本語と英語の話も出ましたが、千葉くんの日本語は”言語”というより、もっと感覚的なレベルで受け取られているというか。これが英語だったらまた違ったのかなとも思いますし、今のスタイルだからこそ強く刺さっているような気がしますね。

昨年10月リリース、ビッグ・ショーンとのコラボ曲「Ski Ga Ski(隙が好き)」

─10月にリリースされたシングル「幸せってなに?」や、高岩遼さんとのプロジェクトであるニジーズなど、最近の千葉さんのリリース作品には、いわゆるラップという形式から離れた作風のものも多いですよね。そうした音楽性の振れ幅や楽曲スタイルについて、葛山さんからアドバイスや提案をすることもあるのでしょうか。

葛山:大前提として千葉くんの創り出すものを尊重したいので、作品に関して何かのアドバイスや提案をするということはないのですが、自分の意見や感想は伝えています。また、千葉くん本人や彼のマネージャーと「アルバムの方向性をどうするか?」ということなども話し合っています。例えば我々が契約の話を進めていた時期に発表されたアルバム『永遠』は歌に寄ったスタイルでしたが、それも千葉くんのクリエイティブのひとつなんですよね。その時の彼は、そういうアルバムを作りたかったんだなと理解しています。武道館でのライブも二部構成になっていて、前半はこれまでのラップ・スタイルを踏襲し、後半はアンビエントな雰囲気のライブを展開していて、千葉くんの様々な可能性が感じられる素晴らしいライブだったと思います。一方で海外のプロモーターチームからは「ヒップホップに絞った方が良いのでは」という意見もあって、グラミーを目指す上で、何が最適解なのか議論しています。

昨年3月の武道館公演では、Murda Beatzとの共演も実現

ワーナーは「本気の目標」に伴走する

ー岡田さんの立場から、2026年の千葉さんの活動に関して期待することは?

岡田:これまでお話ししてきたように、アメリカのチームと本気で組んで、日本のアーティストがどこまで世界のメインストリームで勝負できるか挑戦することに、自分自身もすごくワクワクしています。そのプロセスを一緒に歩めること自体が楽しいですし、それが最終的には会社の未来にもつながっていくと感じています。プレッシャーというよりも、純粋に大きな期待を抱いていますし、この挑戦をやり遂げなければならないという使命感もある。千葉さんと一緒に、さまざまな壁を一つずつ突破していけたら嬉しいです。

─ちなみに、アジアのコンテンツがグローバルに広がっていった成功例として、ロールモデルにしているケースはありますか。

岡田:やはりK-POPですね。2026年のグラミー賞で、ワーナーミュージックのアーティストであるROSÉが主要部門にノミネートされたことは、本当に大きな出来事だと思っています。K-POPはこれまでも高い人気を誇っていましたが、主要部門を含む”グラミーの中核”には、なかなか入り込めていなかった。ビルボードで1位を獲得しても、アメリカのエンタメ界やグラミー賞の本流までは届かない、という状況が続いていましたよね。そこにROSÉが入ったという事実は、まさにエポックメイキングだと感じています。

ーROSÉは「APT.」のグローバルな成功が認められ、グラミー賞の最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞にノミネートされました。

岡田:そうなんです。彼女はAtlantic Recordsと直接契約し、ブルーノ・マーズとの「APT.」で主要部門に食い込んだ。まさにパイオニアであり、新しい扉を開いた存在だと思います。さらにK-POPでいうと、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』から生まれたヒット曲「Golden」も、主要部門で複数ノミネートされていますよね。この一連の動きは、日本の音楽シーンにとっても非常にポジティブなものだと捉えています。

韓国のアーティストが、本国だけでなくアメリカのレーベルと本気で協働し、アメリカの音楽産業の中心に入り込んでいく。そうした成功モデルが、ひとつの道筋を示してくれた。それによって、300 Entertainment Japanを立ち上げ、千葉さんがアメリカを拠点に活動し、その延長線上でグラミーを狙うという挑戦にも現実味が出てきたように思うんです。

だからこそ、まずはぜひROSÉにグラミー賞のトロフィーを掴んでほしい。アメリカでは長らく「自国のカルチャーではないものを、自国のアワードでどう扱うのか」ということへの議論が続いてますが、それが2026年のグラミー賞を境に、大きく変わり始めるような気がします。

千葉雄喜のメジャー契約は何を変えるのか? ワーナーミュージックに聞く、日本のヒップホップを世界に届けるための挑戦

Photo by Mitsuru Nishimura

─2025年は、日本でもヒップホップ・カルチャーがしっかり根付き始めたことを強く感じさせる一年でした。トラヴィス・スコットやタイラー・ザ・クリエイターの来日公演が軒並みソールドアウトし、POP YOURSをはじめとしたフェスも存在感を高めている。日本の音楽市場において、ヒップホップがその中心に近づいている実感がありますよね。

岡田:そうですね。

─その一方で、「日本のヒップホップが世界へ出ていくために何が必要なのか」というテーマについて、今日のお話が大きなヒントになるように思いました。そこでお聞きすると、トップ級のヒップホップ・アーティストがワーナーミュージック・ジャパンに所属するとした場合、どのようなものを提供できるとお考えですか?

岡田:今であれば、ワーナーとして「海外に一緒に挑戦できますよ」と胸を張って言える体制が整ってきたように感じています。300 Entertainmentとも直接、密にやり取りできる関係性があるのは、国内では弊社だけですし、その強みは非常に大きいと思うんですよね。

もちろん、すべてのアーティストが海外を目指しているわけではありませんし、「メジャー=海外」という単純な話でもないと思います。ただ、ワーナーの大きな武器は、海外展開を実際にサポートできるネットワークと仕組みがあること。海外といっても、アメリカに限らず、ヨーロッパでもいいし、東南アジアでもいい。どこで活動したいかはアーティスト次第ですが、その挑戦を一緒に支えられる体制が整ってきた。だからこそ、本気で海外に挑戦したいというアーティストがいれば、「ぜひ一緒にやりましょう」と言える段階に来たと思っています。

葛山:もっとも最終的には、アーティスト本人がどうなりたいのか、という点に尽きると思います。千葉くんの場合は、「グラミーを目指したい」という明確な意志があって、その目標があるからこそ、国内だけで完結しない戦い方が必要になってくるんですよね。

例えば、日本のヒップホップシーンで売れているとされるアーティストでも、Spotifyの月間リスナー数を見ると60~70万人、多くても100万人前後というケースが多い。千葉くんは現在約250万人いますが、それでも世界規模で見れば、まだ大きな差がある。トラヴィス・スコットのような世界的アーティストになると、月間リスナー数は6000万人規模で、文字どおり桁が違います。そのレベルに近づいていくためには、もちろんクリエイティブが第一ですが、グローバルネットワークを活用し、世界の市場に対して本格的にアプローチしていく必要がある。そうした、国内では届かないスケールへの挑戦を一緒にできるという点こそが、ワーナーと組む最大のメリットであり、強みなのかなと思っています。

─これは個人的な見解ですが、今の日本のヒップホップ・マーケットに足りていないのは、メジャーレーベルとのシナジーではないかと思うんです。アーティストはディストリビューション・サービスを効果的に活用することで、ある程度のところまでは自分たちの力だけで稼ぐことができる。でも、中長期的なビジョンを持ちながら、これまで以上にアーティストとしての価値を高めつつスケールさせていけるのか、となると難しいのかなと。いわゆるA&R的な立場の人も多くないですし、アーティストと伴走してくれる「大人」が圧倒的に不足しているように思うんですよね。ラッパーたちと同じ視点に立ち、一緒に未来を描ける、メジャーでの知見をもったスタッフの存在が必要なのではと感じています。

岡田:当社では、千葉さんとは異なる方向性を持つラッパーとも新たに契約し、近く詳細を発表する予定です。久しぶりに私自身も、アーティスト本人や事務所に向けたプレゼンに関わらせてもらいました。こうして様々なケースが生まれたり、千葉さんの活躍が続いたりすることで、「こういう形なら、メジャーでやってみたい」と思うアーティストが増えていくのではないかと思っています。

ただ一方で、先ほど葛山が話していたように、「グラミーを獲りたい」「日本でここまで大きくなりたい」といった明確な意志がなければ、いくらこちらが大きなビジョンを掲げても意味がない。だからこそ、そうした強い意志を持ったアーティストであれば、ぜひ一緒にやりたいと思っていますし、間口を広げて向き合っていけたらと考えています。
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