CLAN QUEENのマイによる連載「MAILOG」、第2回のテーマは”誰かがいた気配”に心を動かされる理由。子どもの頃から惹かれていたあの感覚に名前がついたとき、すべてがつながった——映像作家としての美学の源泉が、静けさと違和感に満ちた空間で紐解かれていく。


※この記事は雑誌「Rolling Stone Japan vol.32」に掲載されたものです。

「影があるもの」が好きなんだと思います

ー今回のテーマは「リミナルスペース」です。

マイ 「PSIREN」のMVを考えていたときに、偶然リミナルスペースという概念を知ったんです。もともと、誰かがいた痕跡がある空間が好きだったんですよ。誰もいないのに「ここに誰かいたな」って感じる場所。そういう場所の写真をよく見ていたんですが、それが「リミナルスペース」と呼ばれるものだったと知って、すごく腑に落ちました。今ではPinterestとかで「liminal space」で検索して、ひたすら見てるくらい好きです。

ーその”誰かの痕跡”って、具体的にはどんな風景ですか?

マイ 地下にある寂れたプールとか、蛍光灯がずっと続く無機質な廊下とか、誰もいないショッピングモールの一角とか……。3DCGのクリエイターが作るリミナルな風景もあって、例えば「子どものころに遊んだような場所」が誰もいない状態で出てきたり。それがなんとも言えない感覚を呼び起こすんですよね。怖いわけじゃないのに、不安になる。その「ズレた感覚」がすごく好きで。


ーマイさん自身の映像には、そうした”現実と非現実のはざま”のような感覚が通底していますね。

マイ はい。私の映像って、目に見えないものを形にしたいっていう想いから始まってるんです。たとえばリアルな恋愛ドラマみたいなMVは撮らないですし、現実をそのまま写すんじゃなくて、”ありそうでないもの”を映像で表現したい。そういう意味でも、リミナルスペース的な空間はすごく私の美学とつながってる気がします。

ーそういうものに惹かれるようになったのは、子どもの頃から?

マイ そうだったんだと思います。はっきり気づいたのは映像を始めてからなんですけど、子どものころから日常の中にある非日常、SF要素のあるアニメやファンタジーがすごく好きで。『輪るピングドラム』とか『魔法少女まどか☆マギカ』とか、リアルと幻想が混ざる作品ばかり見てました。あと、そこに”運命”とか”孤独”みたいなテーマがあるとグッときます。特に『輪るピングドラム』は本当に好きな作品で。ペンギンが出てくるんですけど、その可愛らしさもあるし、ちょっとシュールな空気感もあるし、ギャグも挟まれていて。でもその一方で、「運命」という言葉にとらわれた人間たちの物語でもあって……。
なんでこんなに好きなのかって聞かれると、正直すごく言葉にしづらいんですけど、でも確実に、私の心が動いたアニメだったんですよね。あと、今思えばですけど、あの作品ってけっこうリミナルスペースが出てくるんですよ。誰もいない大きな図書館とか、水族館とか。日常の風景のはずなのに、どこかに違和感があるような空間。それをすごく印象的に、丁寧に描いていて……そういう空気感を強く残してくれる作品だったと思います。

ーリミナルスペース的な感覚って、マイさんの最近のMV制作にも活かされていますか?

マイ そうですね。「チェックメイト」と「PSIREN」にリミナルスペース的な感覚は散りばめています。

ーマイさんが好きなものの特徴って他に何があると思いますか?

マイ すごく感覚的なんですが、「影があるもの」が好きなんだと思います。ビジュアルでも彩度が高いものより、ちょっとくすんだトーンや青みがかった色が好きだったり、リアルよりも少しズレた空気感があるものに惹かれます。多分、ダークファンタジーとか、絵本の中に迷い込んだような世界がずっと好きだったのがルーツです。

ー映像と音楽の関係性についてもお聞きします。どちらが先に来ることが多いですか?

マイ 圧倒的に音楽が先ですね。
曲を聴いて、その空気感からビジュアルを思い描きます。MV以外の映像でもどんな音楽を鳴らしたいのか空気感を考えてから肉付けしていきますね。それを、自分が好きな世界観のニュアンスに近づけながら構成を作っていく感じです。

ーリミナルスペース的なロケーションって、東京だとどういう場所が思い浮かびますか?

マイ サンシャインシティの地下、都庁周辺、使われていないショッピングモールの廊下、あとは都心にしては人が少ない時間帯の池袋の青い光。そういう場所がすごく好きで、心が動くんですよね。都庁の広くて無機質な空間でバンドのグッズ撮影をしたこともありますし、「PSIREN」や「チェックメイト」では無人の廊下や使われていないプールで撮影して、空虚さを演出しました。

ー特に印象に残っているロケ場所は?

マイ 福島にある「ヘレナ国際ホテル」ですね。建設途中でとん挫した廃墟で今は撮影用に使われているスペースなんですけど、夢に出てきそうな空間ばかり。いつかCLAN QUEENでMVを撮りたいと思っています。実はこの前、他の撮影で初めて訪れて、もう感動しました。櫻坂46のMV「摩擦係数」もそこで撮られたらしいんですが、全然そう見えなくて。空間の切り取り方次第で印象が変わるのも面白いですよね。


ーCLAN QUEENのMV制作と、他アーティストのMV制作では、アプローチも変わってきますか?

マイ 全然違いますね。CLAN QUEENの場合は、自分の哲学や美意識を100%入れられる場所。かつCLAN QUEENのイメージをどう見せていきたいのか、MVは耳と目が両方働く場所なのでそれはすごく意識しています。逆に他のアーティストさんのお仕事は、アーティストさんのブランディングの軸の中で、どう私らしさを組み合わせて持っていくのかが第一。例えば、水曜日のカンパネラの「バッキンガム」はシュールでかわいい方向に寄せてみたり、アイドルグループ月刊PAMの「happy end」では、現実に潜む違和感と儚さを表現しました。他のアーティストさんの映像をやるときは、やっぱり”その人のために”を第一に考えます。その人の伝えたいことをちゃんと受け取って、それをいかに自分の映像の中で成立させるかが大事ですね。

ーバランスを取るわけですね。

マイ はい。

ー逆にアーティストの個性とマイさんのやりたいことが両立した作品って何かありますか?

マイ 月刊PAMの「happy end」ですね。自分の「好き」を貫けたというか。CLAN QUEENではできない、あくまでシンプルに私自身の感覚で作った作品だったと思います。
特に「現実の中にある違和感」を映像に落とし込めたのが自分の中では大きくて。淡い色調とか、レイヤーを重ねたトーンカーブの出し方とか、自分が本当に好きなビジュアルを詰め込めたMVですね。だから「作らせてくれてありがとう」っていう気持ちがすごくあります。池袋で撮影したんですけど、池袋の”青”がすごく好きで。この作品を通して、改めて自分の中のその感覚に気づかされました。サンシャインシティとか、西武デパートとか、池袋にある商業施設のサイネージって、ちょっと独特な青があるじゃないですか。あれが好きなんです。なんていうか、現代的なわけでもないし、かといって昭和感があるわけでもないし……平成かもしれない。そういう曖昧な時代感も含めて、あの池袋の青って、心がすごく動くんですよね。だからその印象をちゃんと映像にも残したかった、というのもあります。

”かわいい”の奥に潜む、毒と違和感を抱きしめて

ー映像監督としてのマイさんのプロフィールには”少しダークで毒を含んだアンリアルな世界観を得意とする”とありますが、たしかにその通りですね。

マイ 幼少期の記憶にあるのは、夢と現実の境目みたいな空間に惹かれてたことですね。
たとえば、家の廊下に差し込む夕方の光とか、使われてない商業ビルの一角とか、そういうちょっと空っぽで、でも何かが起こりそうな”間”にワクワクしてました。言葉にすると恥ずかしいんですけど、「違和感が愛おしい」っていう感覚があるんだと思います。

ーまさに今回のテーマでもあるリミナルスペースの感覚ですね。

マイ そうなんです。リミナルスペースって言葉を知ったときに、子どもの頃から好きだった感覚が名前を持ってたんだ!って、ちょっと感動しました。誰もいない夜のファミレスとか、空港の無人のロビーとか、そういう場所がずっと好きで……。映像の中でも、そういう”空虚だけど豊か”みたいなシチュエーションをよく使いたくなります。

CLAN QUEENマイが見つめる「影があるもの」──リミナルスペースから紐解く映像美学

Photo by Kentaro Kambe, Hair and Make-up by madoka
Logo design by HAMUTAKO (MAINICHI UNIQUE)

ーそういう意味でも影響を受けた映画とかって何かありますか?

マイ めちゃくちゃあります。特にウォン・カーウァイの『堕落天使(邦題:天使の涙)』は、撮影方法も色彩も映画なのにMVっぽいというか、流れている空気も良すぎて、何回見ても発見がある。あと、ウェス・アンダーソンの作品にある”対称性フェチ”みたいな美意識もすごく好きです。あれって現実には存在しないような美しさを作り上げることじゃないですか。リミナルスペースとも通じる感覚だと思ってます。

ーなるほど。マイさん自身の”かわいい”の基準って、明らかに一般的な「ガーリー」なものとは違う気がします。

マイ そうかもしれないです。ふわふわでピンクで……みたいな可愛さって、ちょっと居心地悪いんですよね。私にとっての”かわいい”って、どこか壊れそうで、でも芯が強いものだったり、毒や寂しさやシュールさが透けて見えるようなものだったりします。

ー映像でも、ただキレイとか、ただオシャレってだけじゃなくて、必ず裏に何かがあるように見えます。

マイ それは意識してますね。特にMVって、映像と音が一体になるから、その”プラスアルファ”を映像で提示することで、音楽に奥行きを出せるんじゃないかと思ってるんです。楽曲によってベストな合わせ方は本当にそれぞれなんですけど、たとえば明るい曲にちょっと不穏な映像を重ねるとか。そうやって複層的にすることで、見る人がいろんな読み取り方をできる余白が生まれるんじゃないかなって。

ー中学生のときに建築家になりたかったと前回話してくれましたが、空間設計への関心は、今の映像づくりにもつながってますか?

マイ めっちゃつながってます! 映像って、音も人も空間も全部巻き込んで、ひとつの「場」を作ることだから、建築的で空間的な視点がすごく役立ってると思います。

ーそれって、音楽と映像を「分けない」感覚ともつながってますよね。

マイ そうなんです。私にとっては、音楽も映像も、どっちかが主従関係にあるものじゃなくて、両方やって初めて「私の作品」になる。CLAN QUEENもそういうプロジェクトだと思っていて、ビジュアルからライブ演出まで全部がつながってる。だからどれかひとつに偏らないように、常に意識してます。

ーいわゆる”色々やってます”じゃなくて、全部が”本業”でありたいってことですよね。

マイ そうです。どこか片手間でやってるように見えたら、どっちの現場にも失礼だと思うから。映像の現場でも「この人、音楽の片手間でやってるんでしょ?」って思われたくないし、音楽の現場でも同じです。どっちにも本気で向き合って、ちゃんと成果物として胸を張れるものを出したい。だから、めちゃくちゃ時間かかるし大変ですけど(笑)、やめたくはならないですね。

CLAN QUEEN
メンバーはAOi(Gt)、yowa(Vo)、マイ(Ba)。音楽、ビジュアルクリエイティブ、活動の全てがコンセプチュアルであること= ”アートロック ”を標榜する新世代ユニット。代表曲「踊楽園」がSpotifyのバイラルチャートTOP10にチャートインするなど、楽曲性/クリエイティブが多方面から注目を浴びる。コンスタントな配信リリースによって実績を積み重ねる中、並行して積極的にライブ活動を行い、ワンマンLIVEのチケットは各所完売。大型フェスへの出演も続々果たすなど話題が拡がっている。

CLAN QUEENマイが見つめる「影があるもの」──リミナルスペースから紐解く映像美学

「Dancing in my bad life(feat.CLAN QUEEN)」
muque
配信中
https://asab.lnk.to/muque_dimbl

CLAN QUEEN ONEMAN TOUR 2026
4月11日 (土) 北海道・PENNY LANE 24
4月19日 (日) 福岡・BEAT STATION
5月8日 (金) 愛知・Zepp Nagoya
5月10日 (日) 大阪・Zepp Osaka Bayside
5月15日 (金) 東京・Zepp DiverCity
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