4月のようには感じられない晩春の午後、プロスペクト・ハイツにある「Leland Eating and Drinking House」の店内は閑散としている。高級感のあるこのカフェでは、4人の客がテーブルに座り、アシャンティといったアーティストによる2000年代初頭のヒット曲のプレイリストが流れるなか、お喋りに興じている。
やがて、黒いジャケットと黒いシャツ、ジーンズを身にまとったビリー・ウッズが到着した。欧州での数公演を終えたばかりで、少し体調を崩しているという。ブルックリンを拠点とし、ラップ界屈指のリリシストと目されるウッズにとって、大陸横断ツアーは今や日常茶飯事だ。2000年代から活動している彼だが、2010年代初頭の『History Will Absolve Me』で勢いに乗り、アンダーグラウンド・ラップ界の寵児となった。その後、Messiah Musikとの『Church』、ケニー・シーガルとの『Maps』、Preservationが全編プロデュースした『Aethiopes』といった近作、さらには相棒ELUCIDとのユニット「アーマンド・ハマー(Armand Hammer)」名義での活動を通じて、その筆致を絶えず進化させている。二人は2021年にThe Alchemistと共作した『Haram』、2023年には『We Buy Diabetic Test Strips』をリリースしている。
そして、彼は2019年の『Terror Management』以来、5年ぶりとなるソロプロジェクト『GOLLIWOG』を世に送り出した。サンドイッチとチップスを前に、ウッズはこの数年かけて丹念に作り上げた新作について語ってくれた。当初の計画ではアーマンド・ハマーの新プロジェクトに着手する予定だったが、ELUCIDが自身のアルバム『Revelator』を制作中だったため、ウッズはソロ活動に専念できる時間ができたという。
『GOLLIWOG』の制作陣には、他にもアルケミスト、ケニー・シーガル、EL-P、Preservation、Messiah Musik、Sadhugold、AtmosphereのAnt、そしてSteel Tipped Doveらが名を連ねる。「久しぶりに複数のプロデューサーを起用した作品になることは分かっていた」と彼は言う。「かつてないほどコネクションが増えていたから、網を広く張ってみようと思ったんだ」
彼は、全18曲のアルバムのために22曲を制作。いつもの「脇目も振らずに書き上げる」プロセスをあえて避け、時間をかけて月に平均1~2曲というペースで作曲していった。「どれほどの速さで進めるかを自分自身で決められた、久しぶりのレコードだった」と彼は振り返る。本作には、レーベル「Backwoodz」の仲間であるELUCIDやCavalierをはじめ、Mascara、Despot、al.divino、Yolanda Watsonといったアーティストたちが客演として参加している。
Photo by Griffin Lotz for Rolling Stone
『GOLLIWOG』は、ウッズが子供の頃に書いた「邪悪なゴリウォグ(黒人を模した人形)」についての物語を再構築したものだ。ウッズは昔からホラー短編集に魅了されてきたと言い、マリアナ・エンリケスの『わたしたちが火の中で失くしたもの』や、スティーヴン・キングの『キャッツ・アイ』を例に挙げる。後者は、一匹の猫が各エピソードに登場することで短編同士を繋ぎ合わせる作品だ。新作においてウッズは、「ゴリウォグ」として知られる人種差別的なラグドールの風刺画を、プロジェクト全体を監視し、繋ぎ止める役割として配している。
アルバム全体を暗く、焼き付くようなプロダクションが貫いているが、彼によれば包括的なテーマやテーゼがあるわけではなく、各曲がそれぞれ独自の恐怖を展開させているのだという。プロジェクトの先行シングル「Misery」では、既婚女性への毒性の強い心酔が描かれ、終盤では吸血鬼的な展開へと転じる。「喉には無惨な穴が開いているが、血で輝くその唇を見るのがたまらない」とウッズはライムする。「BLK ZMBY」は、奴隷船から資本主義の道具に至るまでのアフリカ系の人々を悲観的に描写しているかのようだ。「Born Alone」では、悲しげなピアノに乗せて、いつ災難が降りかかってもいいように清潔な靴下を履くという、ストリートにおける生の危うさを描き出す。自分のファッションの選択が「差し迫った死」への批評になるとは、普段なかなか考えないものだ。「Cold Sweat」で彼は、聞き手を悪夢へと突き落とす。「廊下はかろうじて明かりが灯り、空気は恐怖で澱んでいる。その突き当たりの部屋にはレコード会社の幹部たちが詰めかけ、お前はデスクの上で踊っている」
『GOLLIWOG』を通じて、恐怖は見る者の主観に委ねられている。吸血鬼を恐ろしいと思う者もいれば、白人のレコード会社幹部たちが揃う役員室で、若い黒人アーティストが踊らされている状況に強い不安を覚える者もいる。「All These Worlds Are Yours」のような楽曲では、ピッチを下げた声が不気味な効果を上げている。だが、それ以上に「今日、自宅の快適な場所から、男が穴の中で死ぬのを見届けた。
ウッズは、こうした瞬間こそがソングライターとしての自身の率直さを証明しているのだと語る。それは、彼が「抽象的」なリリシストであるという世間の通説を裏切るものだ。「それは時として、安易な解釈になりがちだと思う」と彼は言う。「みんながそこに固執するのは、おかしな話だよ。だって、中には極めてストレートな表現もあるんだから。それに僕は、曲の中でストーリーテリングを多用している。僕の好きなラッパーたちでさえ、ここ5年、10年とストレートな物語を書いていない連中が多い中でね」
彼は、Bruiser Wolfをフィーチャーした楽曲「BLK XMAS」で語った物語を引き合いに出す。そこでは、近隣住民が立ち退きを命じられ、残された持ち物を住人たちが物色する様子が描かれている。そこに重層的なダブル・ミーニングはなく、ただひとつの物語と、次のような嘆きがあるだけだ。「クリスマスの1週間前に、子供がいる連中を追い出すなんてどういうつもりだ? あいつらは頭がイカれてる、胸クソが悪い」。彼はガラクタの山の中にある頭のない人形についてライムする。
「ホラーの多くは、人々が何を恐れているかについての社会批評だと思う」とウッズは言う。彼は『ローズマリーの赤ちゃん』を例に挙げる。それは「邪悪なカルト集団が、自分たちの子供を産ませるために一人の女性を操る」物語だが、同時に、女性蔑視的な社会において一人の女性が人間性を剥奪される物語でもある。また、トニ・モリスンの『ビラヴド 愛されし者』にも言及する。端的に言えば幽霊屋敷の物語だが、より適切に表現するなら、それは奴隷制の肖像だ。「十分に優れた筆致であったり、社会批評の急所を突いていたりすると、人々はその作品を(ホラーという)枠組みから外して『スリラー』などと呼びたがる。それはそれで構わない」とウッズは断じる。「だが、これらの芸術作品が究極的に描こうとしているのは、どれも同じ種類のものなんだ」
『GOLLIWOG』の音響世界は空想的な冥界のようだが、ウッズは時折、現実世界からカメオ出演するようにいくつかの問題に言及する。「Make No Mistake」で、彼は皮肉たっぷりにこうラップする。
ウッズが満足しているのは、彼や「Backwoodz Studioz」の仲間たちが長年作り上げてきた音楽を、多くの人々が楽しんでいるという事実だ。彼は、このレーベルが到達した現在の姿を「とても嬉しく、誇りに思う」と語る。「時々そのことを考えると、『いいじゃないか』と思うんだ。今やうちは、『ああ、あそこは面白いことをやってるよな』と言ってもらえるようなインディー・ラップ・レーベルの一つになった。
Photo by Griffin Lotz for Rolling Stone
アーティストでありレーベルの代表でもあるウッズは今、自叙伝の執筆にも取り組んでおり、それは彼にとって「挑戦的」な作業だという。その本には、彼の両親のことや、子供時代から青年期に至るまでの波乱に満ちた道のりが記される予定だ。「両親がどこで生まれ、どのようなルーツを持っていたか」と彼は説明する。「そして、革命直後のジンバブエに移住し、独立から最初の10年間をそこで過ごしたこと。80年代にはニューヨークやジャマイカを行き来し、その後ここ(アメリカ)に戻ってきて、90年代のワシントンD.C.エリアでの生活に容赦なく放り込まれたこと。そのすべてが十分に興味深いものだが、正直、ラップに関することよりもずっと面白いんだ」。彼は、その本の刊行が「かなり近づいている」と語った。
それまでの間に、彼は『GOLLIWOG』を世に放つ。ホラーの手法を用いて社会に「歪んだ鏡(funhouse mirror)」を突きつけるプロジェクトだ。アルバムには社会批評がふんだんに盛り込まれているが、ウッズはその影響力を過大評価してはいない。アメリカに比喩的な意味での「第四帝国の始まり」を感じ取っていると述べつつも、世界の現状に対して「芸術的なレベルで自分に何ができるかを語るような傲慢は持ち合わせていない」と言う。それでも彼が芸術を重んじるのは、それが「時間や空間、経験を超えて、人間として結びつく」ためのものだからだ。
彼はこう付け加える。「ドストエフスキーを読むとき、私は彼が想像もできなかったような世界に生き、彼は私が一度も見たことのない世界に生きていた。だが、私は彼の思想に触れ、それを自分の経験と結びつけることができる。そして、人間であることの条件や自分自身、そして世界に対する理解を深めることができるんだ」。それはまさに、多くのファンがビリー・ウッズの作品に対して抱いている感想そのものだろう。
From Rolling Stone US.
Dos Monos presents「Theater D vol.5」
2026年1月31日(土)東京都 LIQUIDROOM / LIQUID LOFT
OPEN 23:30 / CLOSE 5:00
出演:Dos Monos(Band Set)/ billy woods / By Storm / BBBBBBB / bringlife / Karavi Roushi / Killer Bong / ~離
チケット詳細:https://eplus.jp/sf/detail/4437260001-P0030001
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